ジャズとボサノヴァの日々

Days of Jazz and Bossa Nova

ハービー・ハンコック ウォーターメロン・マン

2015-05-13 22:00:00 | 和レコードの魅力
Watermelon Man performed by Herbie Hancock




以前のエントリで書いた通り、1960年代、LP盤は若者のお小遣いで簡単に買えるものではなかった。経済先進国アメリカでも事情は同じで、当地のレコード会社は対応策として"音楽消費が楽しくなるスパイラル"を考えた(と筆者は勝手に考えている)。

まず良い曲を書けるライターと、親しみやすい容姿の歌手を揃える。ここは当たり前。ラジオやテレビでヒット曲をかけてもらい需要を喚起する、番組でリスナーにリクエストを募り需要を計測する(あるいはヒット曲を操作する)、音楽雑誌やテレビ・ラジオ曲とタイアップしてヒットチャートという形式で大衆を盛り上げ、バー等でもヒット曲を聴けるようにジュークボックス用のシングル盤を配布し需要を高めた。そしてリスナー個人が家で聴けるようシングル盤をリリースする、そしてシングル盤だけで飽き足らない音楽愛好家がお金を貯めて特定のアーティストのLPを購入する、というスパイラルだ。

今思うと、これこそがウインーウインのビジネスモデルではなかろうか。損をした人間はほとんどおらず、この流れにいた人はほぼ全員が利益を享受し、幸福感を味わったのだ。

話は戻るが、日本もこのサイクルを踏襲し、シングル盤でのヒットを優先させた。大衆はヒットチャートの動向に酔いしれた。このビジネスモデルは1980年代まで売れるフォーマットとして使い回された。

あまり知られていないことだが、ポップスのみならずジャズのシングル盤も広く流通していた。日本でのジャズの大衆化にジャズ喫茶という日本独自のシステムが機能したことは別途機会を見つけて考察したいと思うが、シングル盤もブームに拍車をかけたと思われる。

60年代中盤以降、ブルーノートは全世界のジャズファンの憧れのレーベルだった(今も熱狂的なファンを有するが、それは当時アルバムが高価で買えなかったフラストレーションをいまだに引きずっているのも要因の一つかも知れない)。日本国内におけるブルーノートの配給契約は東芝音工が交わしたが、当初は直輸入品に帯と日本語のライナーを付属したものを販売していた。国内でのプレスは1967年にってからであり、やはりLPは贅沢品だったに違いなく、東芝音工はブルーノート・レーベルのシングル盤を多数切っていた。

ちなみに東芝音工とは1960年に東京芝浦電気(東芝)の音楽ソフトウェア部門が独立し設立された東芝音楽工業の通称で、東芝の赤盤と言えば音楽小僧の憧れだった。筆者の記憶に残っているのはロック(ポップス)でビートルズ、ジャズでブルーノートという図式だ。60年代後期から70年代にかけてピンク・フロイドなどのビッグアーティストの作品も配給したが、ビートルズとブルーノート・レーベルの印象は強烈で、年齢を超えてファンを獲得し続け、1973年に英・EMIが資本参加し東芝EMIと改称されるまで邦楽・洋楽のヒット作を輩出した屈指のレーベルと言えよう。

また、東芝音工の歴史は日本の高度成長期と言われている1954年(昭和29年)から1973年(昭和48年)にすっぽり重なっており、日本国民が生き生きしていた時代の音楽レーベルというのが筆者の持論だ。偶然だが、日本におけるブルーノート・レーベルの配給は1977年にキングレコードに移っており、成長から安定へバトンタッチされたかのようだ。

さて、本日紹介する国内プレスのシングル盤はハービー・ハンコック/ Herbie Hancockの"ウォーターメロン・マン/ Watermelon Man"だ。1962年に発表されたハービーのデビュー盤"Takin' Off" (ブルーノート4109番)収録の有名曲だ。この作品でハンコックはブルーノートの不動のスターアーティストにのし上がった。この国内シングル盤のリリースだが、正確な年月は記載されておらずライナーに記載された記述からSpeak Like A Child直後、すなわち1968年から69年と思われる。

映像はハービーが某英国有名歌手にこの曲の成り立ちを説明しているシーンから始まる。実際"Watermelon Man"を最初に録音したのはハービーではなくモンゴ・サンタマリア/ Mongo Santamariaであり、ラテンとアフリカンリズムを取り入れた曲として聴かれていたという。シングル盤のライナーにも”そのゴスペル・ファンキー・ムードとラテン調を加えた魅力的で覚えやすいメロディーは大いに流行り、とくにモンゴ・サンタマリア楽団の演奏で大ヒットし、ラテン・ロックのヒットナンバーとなっただけでなく、ブーガルーのはしりともいうべき演奏になった”と記載されている。



コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ノッサ・アルマ・カンタ  ア... | トップ | ナラ・レオンの顔の表情だけ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

和レコードの魅力」カテゴリの最新記事