「最悪」を読んだばかりだったが、WOWOW が奥田英朗原作の「向田理髪店」を放送したので原作を読む前に映画を先に観た。最悪はクライムノベルだったのに向田理髪店は過疎地で暮らす人々の悲喜交々を描いたドラマだったので、先ずは奥田英朗に抱いていたイメージが変わってちょっと驚いたのだが、映画はとても良かった。
福岡の元炭鉱町の親子を軸に、過疎化、少子高齢化の進む地域で起きる出来事を通じて、家族の絆や地域社会でのつながりの大切さなどが心に沁みてくる。高橋克実、白洲迅、板尾創路ら実力派俳優が実にうまいのだが、取りわけ富田靖子がとても素敵で美しくて理知的で優しくてしっかりした考えを持っているまさに理想の女性、妻、母なのだ。この人はテレビドラマで何度も見ているが映画で観た記憶はなかったのだがこの作品は絶対に忘れられないわ。
それで映画に感動した翌日、図書館で向田理髪店を借りてきた。短編集で第1話をさっそく読んだ。舞台が福岡でなく北海道の元炭鉱町だったので、へえとちょっと驚いたが、描かれている街も人々も映画と変わらないイメージが伝わってきた。ただ主人公向田は高橋克実でぴったりくるのだが、妻恭子はあまり濃く書かれてないので、富田靖子のあの生き生きとした姿が浮かんでこないのだ。
グッとくるいい小説なんだが、冨田靖子がいないのはちょっと悲しい。もっともまだ1話しか読んではいないので残りの5話を読んだら、あの冨田靖子のイメージが湧き上がってくるかもしれないか。それを期待してみよう。