My Painting Life

絵付けに係る日々の出来事を徒然なるままに、、、。

秋の出来事、そして北陸冬の旅

2012-12-23 09:54:58 | 日記
読者の皆様、お久しぶりです。前回ブログを更新したのが確か8月のIPAT大会の直後でした。あれから早、4カ月、言い訳をすれば様々な出来事に忙殺されてブログを更新する気持ちの余裕が無かったというところでしょうか。しかし昨日、私にとっての今年度の最終イベントが終了し、ようやくゆっくりパソコンに向かう気持になりました。まるで活動報告のようですが今年の秋から冬にかけての出来事と来年の抱負について、したためてみようと思います。

10月末、先輩であり友人でもあるAHさんとともに東京の表参道で二人展を開催致しました。AHさんはヨーロピアンスタイルと大倉風の上品でエレガントなテーブルウェアを中心に描いている方です。2年前のIPAT大会でご一緒させて頂いて以来、気さくでスマートななお人柄にふれ、お親しくさせて頂くようになりました。そして、全く異なる作風の私達二人が一緒に展覧会をしたら意外と面白いかもしれないとの考えが一致し、ごいっしょに展示会をさせていただくことになりました。AHさんにいろいろ教えて頂きながら2年越しで計画を進めました。ギャラリーを決め、AHさんは部屋の中央、私は壁面中心ということで場所取りもすんなり決まりました。私は今までの個人的な展示会では会場内の装飾は排除し、葉書もパソコンで作成すると言ったある意味インテリアや小物に気を使わない作品展が多かったのですが、今回は作品に合ったお花の依頼やレンタル家具やクロスの手配など、かつて経験したことの無い展示会手法を一から教えて頂き、とても勉強になりました。展示会当日には、いらして下さったお客さまも、全く異なる作風の二人のポーセリンペインティングをご覧になり、それぞれの作風を楽しんで下さったようで、頂いたそれぞれの感想をお聞きするのも楽しい経験でした。遠路足をお運び下さった皆様どうもありがとうございました。

11月中旬、ベネズエラ出身で米国在住のポートレートペインターMariela Kaminski先生を軽井沢のスタジオに御招待し、セミナーを開催致しました。Mariela先生に初めてお会いしたのは数年前、米国の絵付スクールに参加した時でした。その時、彼女のクラスを取った友人から、その卓越したポートレート手法についていろいろ話を聞いて、私もいずれ機会があればそのノウハウを習ってみたいと考えておりました。しかしその後、彼女のクラスは爆発的な人気が出て、簡単にレッスンクラスを取ることができなくなってしまいました。そんな時、Mariela先生が今年の香港の絵付大会に参加するとお聞きしたので、そのついでに日本に寄ってセミナーをしてもらえるかどうか打診してみると快く引き受けて下さることになり話がまとまりました。
Mariela先生は4歳の時にお母さんからハローキティーのプレゼントをもらって以来、日本のキャラクターやキャンディキャンディなどの漫画に夢中になり日本が大好きになったそうです。日本に来ることは人生の夢の一つであったとのことで大変喜んで、来日を楽しみにしておられました。
3日間のセミナーでは、Mariela先生の情熱的なご指導の元、限られた基本色から非常に論理的に様々な肌の色を調合する手法を教わり、参加者全員、目から鱗の経験をさせて頂きました。中日の2日目は、夜の10時まで夕食抜きで熱心に指導して下さったことは忘れ難く本当にありがといことでした。先生は今回の日本滞在を心から楽しんで下さったご様子で、終了後ご自分のFacebookにセミナーと日本滞在時の写真を大々的に掲載していらっしゃいました。オーガナイザーとしては確かに、準備段階から先生を成田へ送り届けるまでいろいろありますが、それを補って余りあるほどの楽しみが有るのがセミナーをやめられない理由の一つです。一流のアーティストの思想や人柄に触れ、自分自身もいつも大きな刺激を受けて単に手法を習う以上の大きな経験をさせてもらっているような気がします。来年も新世代のアメリカンの薔薇の女王、C.M.先生の招待セミナーを計画しております。今からわくわくしています。

11月末は2014年に講師として招待されている米国のスクール『GA Seminars by the Sea』で教える課題3作品の提出期限でした。スクールの主催者Suzannneはそうして事前に各講師の課題を集め、パンフレットにまとめ2013年2月のスクールで発表し、2014年度の生徒集めをするわけです。スクール直前数か月前までに最低一クラス5人の生徒が集まらなければクラスはキャンセルになるので、講師として招待されたからと言って浮かれているわけにはいきません。魅力的な課題を出せずにクラスがキャンセルになればおいしい話も全てが夢幻となって消えるわけです。こうして一流と言われる講師陣でさえも米国の競争社会の厳しい洗礼をを毎年受ける訳です。私もその輪に加わる挑戦の機会を頂き、今回試行錯誤しながら何とか3課題を期限までに提出致しました。結果がどうなるか『神のみぞ知る』というところでしょうか。

12月、石川県の九谷上絵協同組合から西洋絵付の講師として招待して頂き、小松市の近くの能美市の寺井という地区へ2度訪問させて頂きました。
今年の9月、最初にそのお話を頂いた時には、あまりの名誉に神仏に感謝せずにいられないような真摯な思いにとらわれました。300年の伝統に培われた日本の代表的な窯の一つである九谷焼のプロの絵付師の方々に、西洋絵付技法と特殊技法を教えるということが私への依頼の趣旨でした。明治の一時期、九谷焼でも油溶きの西洋絵付の手法が行われていたそうなのですが、その後その技法は廃れてしまい、現在の水溶き盛り絵具を使う手法が中核として残ったそうです。九谷焼にはその他にも赤絵や青粒と言われる盛り技法や金箔を使った釉裏金彩などの独特な特殊技法がたくさんあるのですが、今回の企画は、一度は廃れた西洋絵付の技術や西洋の特殊技法を習得し、新しい九谷焼を生み出していこうというプロジェクトの一環ということでした。
最初に寺井を訪れた際には、おりしも最初の12月寒波が北陸上信越を襲った直後でした。大宮から越後湯沢まで『新幹線ときMAX』そこで乗り換えた『特急はくたか』が大雪のため大幅に遅れ、予定より2時間近く遅れての到着となりました。その日は近くの『さらい』という宿泊研修施設で1泊させて頂き、翌日が講習の本番でした。
この講習会の企画は事前に地元新聞でも記事になったとのことで、生徒さんの殆どが職人さんか、その卵の研修生でした。20代から70代まで幅広い年齢層の方々が20人の定員いっぱい集まって私を迎えて下さいました。九谷の伝統技法では目をつぶってでも描けるけれど、平筆を使ってオイル溶きの絵具をぼかし描きする手法は正真正銘、生まれて初めてという方々がほとんどであることに、私は驚き慌てました。それでもできる限り生徒の方々を補助しながらその日の課題をこなすことで精いっぱいになり、第1回目は、あっという間に終了の時間がきてしまいました。
一旦、春日部の自宅に帰り、どのようにしたら2回の講習で生徒の方々に効果的に技法のポイントをつかんで頂くか、毎夜のように考えて過ごしました。
そして先週末、再び寺井を訪れ2度目の講習に臨みました。1回目の講習との間に少し時間をおいたせいか今回は生徒の方々もご自分の問題点や、どうしても確認したいポイントなどをそれぞれ整理して来られたようで、質疑応答やデモを見つめる目にもより一層真剣さが加わり、講習も前回よりも白熱してスムースに進めることができました。
実際には丸4日かかる課題を2日間ではしょって行ったため、初回はラスター彩部分をデモした後、宿題でやって来てもらうことになっていましたが、殆どの方が見事に宿題をこなしてていたことには嬉しい手ごたえを感じました。2回目のメタリックカラーをスクラッチする段階では、フリーハンドで自由な和柄を掻き落としで描いてもらったのですが、そこで驚いたのは、ほぼ全員の方が、何の迷いも無く、あっという間にそれぞれ個性的な見事な和柄を描き上げたことでした。それまで普通のおじさんおばさんに見えた生徒の方々に突然後光が差して目がくらむような感動を覚えました。教室の外は北陸の冬特有のどんよりとした天気でしたが、この教室だけは光が満ち溢れると言うか、これぞ九谷の職人魂を見せつけられ、私にとっては褒め言葉さえもむなしく上ずるような感動の瞬間でした。過去において私が自宅教室でこの課題を教えた時には生徒さんが一番手こずって手をこまねるフリーハンドの和柄描きをいともたやすくこなしてしまう九谷の職人の方々を見て、この方々が子供のころから親しみなじんだ和の伝統美とそれを白磁に描き込んできた職人としての年月の重みをしみじみ実感させられる体験でした。
講習では西洋絵付を1回焼成(プロの技)で仕上げるための濃淡の入れ方、盛り、スクラッチ、ラスターなど生徒の皆さんに実践して頂き、その他の特殊技法は実例をご覧になって頂いての説明と質疑応答で盛り上がり大変熱い時間が過ぎてゆき、無事に講習を終えました。講習中には地元新聞と中日新聞の記者の方がいらして講習会を取材して行かれました。
寺井では宿泊をさせて頂いたことで、講習以外の時間も取ってもらうことができました。今回の計画の元締めである上絵組合のMさんには本当にお世話になりました。田畑のかなたに白山山脈を望む、のどかな寺井地区や九谷焼団地、九谷焼技術研修所などを案内して頂きました。寺井地区は九谷焼でも特に上絵関係の職人さんが居を構え、上絵関連事業所が数多く存在する地区とのことでした。北陸独特の黒瓦の住宅の庭先には雪つりが施された植木が並んでいました。そんな情緒あふれる静かな住宅街の一角に九谷の赤絵で有名なFB先生のお宅がありました。Mさんの計らいで、突然のお宅訪問をさせて頂くことになり、身に余る光栄な経験をさせて頂きました。展覧会や講習会で日本全国を飛び回り、大変ご多忙なFB先生ですが、たまたまお宅にいらして、二人のお弟子さんと一緒にアトリエで作品制作中でした。東京で2回FB先生の講習会に出席している私のこともちゃんと覚えていて下さり、近く行われる展覧会の話や今回の私の講習会の話など大変気さくに相手をして下さいました。あの素晴らしい細密赤絵が目の前で描かれている現場に招き入れて下さったことは本当に感謝に堪えない思いでした。先生自ら『あんぽ柿』とお茶を出Fして下さり感動で喉も通らないくらいでしたがおいしく頂いて参りました。
FB先生のお宅を辞した後、九谷焼団地でも素晴らしい九谷焼作品の数々を見せて頂きました。食器、装飾絵皿、花瓶、人形などありとあらゆる九谷焼を扱う店が一か所にまとまっているので最後は圧倒されて言葉も出ない心地になりました。その団地に隣接する若手作家の工房も見学させて頂くことができました。工房に入ると「あれ、先生ではありませんか。」との声、その工房の主である若手女流作家は私の講習会の生徒さんの一人だったのです。彼女の作品を見せて頂き、その細密な卓越した技術力とデザインに驚愕しました。こんなに素晴らしい作家に教えている自分とはいったい何様なのかと思わず自問自答したくなる瞬間でした。
帰り道、金沢から越後湯沢へ向かう『特急はくたか』では車窓から暗闇の日本海を眺めながら、ずっと今回の出来事に思いをはせていました。この講習で私がお伝えした技法が九谷の方々の作品に今後どう生かされるか、私自身も九谷の方々から受けた大いなる刺激をどのように生かしていくのか、来るべき2013年を迎えるのがとても楽しみになってくるのでした。私にとって、まさに今年の締めくくりにふさわしい大きな大きな出来事でした。
今回の仲介の労を取って下さった名古屋の三田村商店様、九谷上絵協同組合の皆様、大変お世話になりました。皆さんとの出会いが今後の互いの飛躍の第一歩になるように祈るとともに、私自身もより一層の精進を続けて参りたいと思っております。

読者の皆様も良いお年をお迎え下さいませ。Merry ChristmasそしてHappy New Year!!!