2週間後、ドハニーのオフィス
目の前に置かれた書類を不安げに見やってから、クリストファーは上司の顔を伺った。
「どうだったんです?」
「読んで御覧なさい。貴方より的確に判断できる人はいない筈でしょう」
「・・・・」
ためらいがちに手を伸ばしてページをめくる。かなり分厚い書類を彼が読み通すあいだ、完璧な静寂が部屋を支配していた。
やがてクリストファーは書類を閉じた。
「・・どう?」
クリストファーの顔には晴れやかな微笑みが浮んでいた。
「完璧ですね。彼は大丈夫だ」
「本当にそう思う?」
「ええ。部長は・・そう思われないのですか?」
ドハニーはしばらく無言だった。
「・・貴方がそう言うのなら間違いないのでしょう」
「部長・・」
ドハニーがにっこり笑った。久しぶりに見る上司の笑みであった。
「クリストファー」
「はい」
「これでいいのね?」
「・・ええ」
「後悔はしない?」
いつにない上司の優しい口調に胸を衝かれて、青年は頬を赤らめた。
そして、静かに首を横に振った。
「・・わかったわ」
ドハニーはしばらく下を向いていた。
「クリストファー」
「はい」
「貴方とは長い付き合いね」
「・・・・・」
「使命に私情は禁物と思って、いつも貴方には厳しく接してきた。でも、今はそれを後悔しているの」
「部長」
「アンドレアと呼んで、これからは」
青年の眼が大きく見開かれた。
「・・アンドレア」
「貴方のことは実の子供のように思っている。愛していたのよ、ずっと」
「・・わかってます」
「御免なさい」
「いいんです、心配しないで。僕は幸せでした」
二人はそれからしばらくの間、無言で机を隔てて座っていた。あたかも共有する空間を愛しむかのように。
やがて、吹っ切るようにドハニーは立ち上がった。
「じゃあ、始めましょう。これから主導権を握るのは貴方よ」
クリストファーも立ち上がる。
「あのやんちゃ坊やを調教できる?」
「まあ、見ててください」
二人はそっと微笑み合った。
その12へ
目の前に置かれた書類を不安げに見やってから、クリストファーは上司の顔を伺った。
「どうだったんです?」
「読んで御覧なさい。貴方より的確に判断できる人はいない筈でしょう」
「・・・・」
ためらいがちに手を伸ばしてページをめくる。かなり分厚い書類を彼が読み通すあいだ、完璧な静寂が部屋を支配していた。
やがてクリストファーは書類を閉じた。
「・・どう?」
クリストファーの顔には晴れやかな微笑みが浮んでいた。
「完璧ですね。彼は大丈夫だ」
「本当にそう思う?」
「ええ。部長は・・そう思われないのですか?」
ドハニーはしばらく無言だった。
「・・貴方がそう言うのなら間違いないのでしょう」
「部長・・」
ドハニーがにっこり笑った。久しぶりに見る上司の笑みであった。
「クリストファー」
「はい」
「これでいいのね?」
「・・ええ」
「後悔はしない?」
いつにない上司の優しい口調に胸を衝かれて、青年は頬を赤らめた。
そして、静かに首を横に振った。
「・・わかったわ」
ドハニーはしばらく下を向いていた。
「クリストファー」
「はい」
「貴方とは長い付き合いね」
「・・・・・」
「使命に私情は禁物と思って、いつも貴方には厳しく接してきた。でも、今はそれを後悔しているの」
「部長」
「アンドレアと呼んで、これからは」
青年の眼が大きく見開かれた。
「・・アンドレア」
「貴方のことは実の子供のように思っている。愛していたのよ、ずっと」
「・・わかってます」
「御免なさい」
「いいんです、心配しないで。僕は幸せでした」
二人はそれからしばらくの間、無言で机を隔てて座っていた。あたかも共有する空間を愛しむかのように。
やがて、吹っ切るようにドハニーは立ち上がった。
「じゃあ、始めましょう。これから主導権を握るのは貴方よ」
クリストファーも立ち上がる。
「あのやんちゃ坊やを調教できる?」
「まあ、見ててください」
二人はそっと微笑み合った。
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