29日目

盗み聞きするつもりはなかったけど、
聞いちゃったものはしょうがない。

内線で話をしたあと、
バルドがうっかり通話を切り損ねたのが
私の責任なはずもない。


私は簡単な受信内線は
外部出力で聞いて外部センサで返す設定にしている。
受話器には触らない。
発信者がちゃんと切らなければ、
そのまま繋ぎっぱなしになる。


その後、ショコラちゃんからバルドに連絡が入って、
その会話が私にだだ漏れになったのは
私のせいじゃないと思う。


聞こえてきた時点で、
会話を遮るのも何だから通信が終わってから指摘しようと思ってた。
まさか私に聞かれたくないような話をするということを予想できるわけがない。




バルドがこのプロジェクトにいい感情を抱いてないことは本人の口から聞いてて、何度か口論になったこともある。

同じ開発部内で扱っているといっても、基礎研究と実品開発は目指すところが違う。
目的が違うものを同列に扱って議論することに意味はない。
バルドにそのことを指摘したこともあったが、
最終的に企業利益を追求しているという観点で見れば目的は同一、と言われては
返す言葉がない。

その点において基礎研究のコストパフォーマンスが悪いのは私も認める。
しかし基礎研究を放棄してしまっては企業として可能性が狭まってしまう。



どうもバルドは試行錯誤の過程で当たり前のようにある、1+1=0という展開が嫌いらしい。
努力しても何も実らないことはあるが、
たまに1+1=7と言えるような大当たりもある。
良い方向に転がることも含めて、その不確実性が許せないらしい。


そーゆー性格だと、研究には向いてないよねー確かに。
商品開発に向いているかどうかは判らないけど。

バルドが開発に関わっていた電子物干竿とやらが売れるかと言うと、ちょっとわからない。
まだ発売前で、スペック見たけど・・・
物干竿＋エア・コンディショナー。
普通に洗乾機使えばいいじゃないか、と私は思うのだけど。
残念ながらというか幸いというか、私はこの街では洗乾機が買えないレベルの生活を体験したことはない。
そういった生活をしている人には、もしかしてウケるんだろうか？



ともあれ、外れっぱなしの内線から聞こえてきた話を総合すると、

「バルドはこのプロジェクトをかなり積極的に潰そうとしている」

ということだ。


事の詳細は、電波塔との通信ログを確認することにする。
というか、あまり思い出したくない。
いや、ちゃんと覚えておいて、対抗策を練らないとまずいんだけど。












バルドのことだから、通信直後にログを改竄していそうな気がしてきた




ログ、肝心のところが無かった。２個目の宝玉の話だけ残ってた。
「ドナに報告すんのめんどくせぇからまだやってない」って言ったのも残ってたけど。それは残してていいんだ？


仕事早いよバルド。そんな方向にだけ仕事ができちゃうのは困るから。
本当に。