というわけで、前回に引き続き、論文がJACSに通った記念にまたもや思い出話をします。
(前回の記事→こちら)
リン酸の話にしようかとも思ったけど、それは次回にとっておき、今回は原料合成のその2です。
前回はスタンダードタイプの基質(オルト位にヒドロキシ基×2とメトキシ基、メトキシメチル基のついたやつ)に焦点を当てていたので、今回は他の基質にも触れましょう。
さて、スタンダードタイプ以外に印象深い基質を挙げろと言われたら、やはり含ハロの基質が思い浮かびます。
本編のTableに載ってるやつなら、オルト位置にフッ素のついたやつと、オルト三置換ビアリールで塩素のついたやつですね。
今まで試してきた基質はメトキシ基やメチル基など、電子供与性基を持つものばかりだったので、じゃあ電子求引性基を持つ基質も作ろう、ということで含ハロ基質を作る話が出ました。
その第一号として作ろうと思ったのが、オルト位に塩素を持つオルト四置換ビアリールでした。
o-クロロフェノ-ルから始め、ヒドロキシ基のMOM化→オルトリチオ化→ホルミル化→MOMの除去→ヒドロキシ基のTf化…の経路だかでホウ酸に対するカップリングパーツを作りました。
が、いざカップリングをしてみるとビアリールにならない。
恐らくオルト位の塩素が立体的にデカすぎるのだろう、とのこと。
まぁホウ酸にはMOMが2つあるしね(´・ω・)
じゃあデカい塩素がダメなら小さいフッ素にすればいいじゃない!
というわけで、o-フルオロフェノールにして同じ経路で挑戦。
そしてカップリングで見事にくっつき、ビアリールができたわけです。
この後のホルミル基の還元はLAHだと収率がかなり悪かったため(含ハロのせいか)、ボロハイで還元しました。
そして出来上がったフッ素の基質ですが…
恐ろしく固体性がいい! むしろ良すぎる!
本反応の不斉ブロモ化の基本条件は基質0.1mmolに対し、1.0mLのトルエン/ジクロロメタン=1/1の混合溶媒を使います。
けど、このフッ素の基質は固体性が良すぎる故、室温でトルエンにはほぼ不溶、メチクロに対しても溶けにくい有様。
なので、Tableにも書いてある通り、ジクロメタンのみの溶媒で、さらに通常条件よりの4倍希釈した濃度で反応を行っているのでした。室温で約5~10分ぐらいかき混ぜて完全に溶かしています。
そんな化合物だから、当然NMRを取るのもなかなか大変でした。
重クロにほとんど溶けないため、チューブ内で白いものかぷかーっと浮いており、最初は重アセトンでとっていました。
扱う側としては、ある程度固体性が高い方がいいわけですが、高すぎるのも厄介だなぁと思ったものです。
もう一つの含塩素の基質はカップリングパーツを作る時が印象深かった。
m-クロロフェノールのホルミル化ですね。
何も考えずにホルミル化をしようとするとn-BuLiを使ってオルトリチオ化→DMFの流れになるわけですが、m-クロロフェノールに対してこれをやると、ヒドロキシ基と塩素の間もホルミル化され残念なことになってしまいます。
つまり、選択的にヒドロキシ基と塩素に挟まれてない方のヒドロキシ基のオルト位をホルミル化しないといけないわけですが…
これに使った試薬が、無水塩化マグネシウムとパラホルムアルデヒド、トリエチルアミンです。
何か人名が付いてた反応だったような気がしないでもないけど忘れました(ぉ
上記の試薬をアセニト中で用いると、選択的に片一方がホルミル化できます。
反応機構は……考えてみてくだしあw
ここで懐かしいのは、塩化マグネシウムをすり鉢でゴリゴリやったことですね。
研究室にあった無水塩化マグネシウムは雑な封がしてあったおかげで、空気中の水分をたっぷり吸って、立派で大きな結晶になっていました。
「無水…(´・ω・)?」
しかし塩化マグネシウムはこれしかないし…というわけで、すり鉢で粉末状に砕いた後、加熱真空引きで水分を飛ばそうとしました。
結晶の塩化マグネシウムは柔らかいため、すり棒で押し砕こうとしても潰れるだけでなかなか粉末にならず。
それでもがんばってゴリゴリしたらある程度の量ができたので、オイルバスとラインを駆使し、ようやく実験に使えそうな状態にしたのでした。
そんな苦労話を雑談混じりでお隣の研究室の助教さんにしたところ…
助教さん:「無水の塩化マグネシウム? うちにあるよー? 貸したげよっか?」
ボク :「えっ?」
そして持ってきてくれた瓶にはサラサラの白色粉末がたっぷりと入っており…
…ありがたくそれを使わせてもらいました(ぉ
ボクが時間をかけてあれこれしたアレは出番なし……今となってはいい思い出です……
さて、このホルミル化、選択的にと言ってもそんなに収率はよくないです。
サポーティングインフォによると、室温3時間で収率50%
ボクがやったときはreflux条件で数時間やって60%ちょっとぐらいだったか。
この反応、refluxでやるとジムローに白い固体が付着して、ジムローがつまるんですよね。
最初やったときは、ジムローの下の方が真っ白になり、ジムロー内で冷やされた溶媒が下に落ちず、中に溜まってしまっている状況になりました。
多分塩化マグネシウム由来の何かの塩だと思うけど、洗ってもなかなか落ちないしでめんどくさかったですね。
ちなみにこの塩素の基質も結構いい感じの固体でしたが、溶解度は普通で素直でした。
原料合成の話は語り出せばキリがないので、とりあえずはこの辺にしておきましょう。
もし何かあったらコメントくだされば、覚えてる範囲でお答えしますので。
次はリン酸の想い出話辺りにでもしましょうかね――
(前回の記事→こちら)
リン酸の話にしようかとも思ったけど、それは次回にとっておき、今回は原料合成のその2です。
前回はスタンダードタイプの基質(オルト位にヒドロキシ基×2とメトキシ基、メトキシメチル基のついたやつ)に焦点を当てていたので、今回は他の基質にも触れましょう。
さて、スタンダードタイプ以外に印象深い基質を挙げろと言われたら、やはり含ハロの基質が思い浮かびます。
本編のTableに載ってるやつなら、オルト位置にフッ素のついたやつと、オルト三置換ビアリールで塩素のついたやつですね。
今まで試してきた基質はメトキシ基やメチル基など、電子供与性基を持つものばかりだったので、じゃあ電子求引性基を持つ基質も作ろう、ということで含ハロ基質を作る話が出ました。
その第一号として作ろうと思ったのが、オルト位に塩素を持つオルト四置換ビアリールでした。
o-クロロフェノ-ルから始め、ヒドロキシ基のMOM化→オルトリチオ化→ホルミル化→MOMの除去→ヒドロキシ基のTf化…の経路だかでホウ酸に対するカップリングパーツを作りました。
が、いざカップリングをしてみるとビアリールにならない。
恐らくオルト位の塩素が立体的にデカすぎるのだろう、とのこと。
まぁホウ酸にはMOMが2つあるしね(´・ω・)
じゃあデカい塩素がダメなら小さいフッ素にすればいいじゃない!
というわけで、o-フルオロフェノールにして同じ経路で挑戦。
そしてカップリングで見事にくっつき、ビアリールができたわけです。
この後のホルミル基の還元はLAHだと収率がかなり悪かったため(含ハロのせいか)、ボロハイで還元しました。
そして出来上がったフッ素の基質ですが…
恐ろしく固体性がいい! むしろ良すぎる!
本反応の不斉ブロモ化の基本条件は基質0.1mmolに対し、1.0mLのトルエン/ジクロロメタン=1/1の混合溶媒を使います。
けど、このフッ素の基質は固体性が良すぎる故、室温でトルエンにはほぼ不溶、メチクロに対しても溶けにくい有様。
なので、Tableにも書いてある通り、ジクロメタンのみの溶媒で、さらに通常条件よりの4倍希釈した濃度で反応を行っているのでした。室温で約5~10分ぐらいかき混ぜて完全に溶かしています。
そんな化合物だから、当然NMRを取るのもなかなか大変でした。
重クロにほとんど溶けないため、チューブ内で白いものかぷかーっと浮いており、最初は重アセトンでとっていました。
扱う側としては、ある程度固体性が高い方がいいわけですが、高すぎるのも厄介だなぁと思ったものです。
もう一つの含塩素の基質はカップリングパーツを作る時が印象深かった。
m-クロロフェノールのホルミル化ですね。
何も考えずにホルミル化をしようとするとn-BuLiを使ってオルトリチオ化→DMFの流れになるわけですが、m-クロロフェノールに対してこれをやると、ヒドロキシ基と塩素の間もホルミル化され残念なことになってしまいます。
つまり、選択的にヒドロキシ基と塩素に挟まれてない方のヒドロキシ基のオルト位をホルミル化しないといけないわけですが…
これに使った試薬が、無水塩化マグネシウムとパラホルムアルデヒド、トリエチルアミンです。
何か人名が付いてた反応だったような気がしないでもないけど忘れました(ぉ
上記の試薬をアセニト中で用いると、選択的に片一方がホルミル化できます。
反応機構は……考えてみてくだしあw
ここで懐かしいのは、塩化マグネシウムをすり鉢でゴリゴリやったことですね。
研究室にあった無水塩化マグネシウムは雑な封がしてあったおかげで、空気中の水分をたっぷり吸って、立派で大きな結晶になっていました。
「無水…(´・ω・)?」
しかし塩化マグネシウムはこれしかないし…というわけで、すり鉢で粉末状に砕いた後、加熱真空引きで水分を飛ばそうとしました。
結晶の塩化マグネシウムは柔らかいため、すり棒で押し砕こうとしても潰れるだけでなかなか粉末にならず。
それでもがんばってゴリゴリしたらある程度の量ができたので、オイルバスとラインを駆使し、ようやく実験に使えそうな状態にしたのでした。
そんな苦労話を雑談混じりでお隣の研究室の助教さんにしたところ…
助教さん:「無水の塩化マグネシウム? うちにあるよー? 貸したげよっか?」
ボク :「えっ?」
そして持ってきてくれた瓶にはサラサラの白色粉末がたっぷりと入っており…
…ありがたくそれを使わせてもらいました(ぉ
ボクが時間をかけてあれこれしたアレは出番なし……今となってはいい思い出です……
さて、このホルミル化、選択的にと言ってもそんなに収率はよくないです。
サポーティングインフォによると、室温3時間で収率50%
ボクがやったときはreflux条件で数時間やって60%ちょっとぐらいだったか。
この反応、refluxでやるとジムローに白い固体が付着して、ジムローがつまるんですよね。
最初やったときは、ジムローの下の方が真っ白になり、ジムロー内で冷やされた溶媒が下に落ちず、中に溜まってしまっている状況になりました。
多分塩化マグネシウム由来の何かの塩だと思うけど、洗ってもなかなか落ちないしでめんどくさかったですね。
ちなみにこの塩素の基質も結構いい感じの固体でしたが、溶解度は普通で素直でした。
原料合成の話は語り出せばキリがないので、とりあえずはこの辺にしておきましょう。
もし何かあったらコメントくだされば、覚えてる範囲でお答えしますので。
次はリン酸の想い出話辺りにでもしましょうかね――
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