えりこのまったり日記

グダグダな日記や、詩的な短文、一次創作の書き物など。

わたしの居場所1

2019-02-12 15:23:58 | 書き物
『ゆきの』


大学卒業から、2年あまりで友達が結婚した。
お相手は、大学時代から付き合ってた、歳上の彼。
長く付き合ってたのは知ってたけれど、社会人になってからこんな早く結婚するなんて思わなかった。
都内での結婚式のため、私は実家のある東北から前日のうちに泊まり込んでいた。



披露宴会場は都内のホテル。
部屋をチェックアウトしてから、荷物をクロークへ。
幾つもの宴会場があるフロアに上がる。
まだ時間があるから、休憩場所のソファーに座ってあたりを見渡したら、見覚えのある顔が見えて思わず二度見した。
あれは、同じサークル仲間だった淳くんだ。
隣の受付の前にいるから、隣の披露宴会場なのかな。
そして、その隣にいるのは…
もう会うことはないかもと思ってた、村上くん。
村上和也。
学生の頃は、天パの髪をふわふわさせてた。
今は髪も短くしてうまく撫で付けてる。
淳くんと、顔を近づけて何やら喋ってるみたいだ。
急な展開にドキドキして目を逸らした。
しばらくして顔をそっと向けると、淳くんが気がついたようだ。
こっちを、じっと見てから村上くんに話し掛けてる。
話し掛けられてる村上くんが横を向いてるのが見えた。
あの横顔、好きだったな…
学生時代の記憶はまだ、そんなに薄れてない。
でも、村上くんへの気持ちはもう、胸の一番奥に沈めたつもり。
ただ、こんなに早くまた顔を合わせるなんて、予想外だったけれど…




披露宴が無事終わり、同じホテルの中のパーティールームが二次会の会場だった。
招待客はみんな、披露宴の衣装のまま移動してる。
私も、薔薇のモチーフを散らした濃いピンクのワンピースのまま。
ゆるくカールした髪は、シニヨンに。
耳元には大振りのパールのイヤリング。
パーティー用とは言え、こんな格好は学生時代には全くしなかった。
…いや、1回だけしたかな。
最後の勇気を振り絞って。
「ゆきちゃん、久しぶりだね」
「…淳くん」
廊下で淳くんに呼び止められた。
「そのピンクのワンピース、すごく似合ってる。女の子っぽくなったね~」
「あ、ありがとう」
あの頃から、なぜか淳くんだけは私を可愛いと褒めてくれてた。
ショートヘアで、いつもジーパンとTシャツ、大きなリュックを抱えてた私を。
淳くんの後ろにいる村上くんは、1度も言ってくれなかったな…
「ゆき、久しぶり」
ようやく、村上くんが口を開いた。
「うん…ほんと久しぶりだね。村上くん、元気だった?」
「ああ、まあ…仕事は忙しいけどね。ゆきはどう?」
「私?私も忙しいかな。ちょっとずつ慣れては来たけど」
「そう…」
村上くん、淳くんとは映画同好会で一緒に過ごした。
特に村上くんとは、一時だけどいつもいつも一緒だった。
淳くんは『ゆきちゃん』と呼ぶけれど、村上くんは私を『ゆき』と呼んでた。



笑いと涙のツボが一緒で、
コーヒーが好きで、
思い立ったらすぐ行動して。
そして、映画が大好き。
私にとって村上くんは、『めちゃめちゃ気が合う人』だった。
噛み合わないことがあっても、村上くんだと受け入れることが出来た。
それが、気づいたら…
天パが可愛くて、なのに低い声が男の人で。
笑顔が可愛くて年下見られるのに、捲ってる袖から出てる腕が、私とは違うんだって教えてくれる。
綺麗な横顔にいつも見とれてた。
そう、『好きな人』になってた。
ラブコメの映画が好きな私は、村上くんに恋したんだわ、と自覚した。
自覚して、村上くんもそうだったらいいのにと願ったのだ。
でも、恋愛経験の無い私にも分かるくらい、村上くんが私を好きかなんてこと、ありそうには見えなかった。
…でも、今日の村上くんは。
思ってたことをすぐ口に出してたのに、口数が少ない。
その理由はなんとなく見当はついたけれど、私は気づかない振りをした。
もう、私の気持ちは沈めたの。
振り向いて貰えない人のことは、忘れるしかないもの。
「ゆきちゃんはさ、今彼氏いるの?」
淳くんがケロッと聞いてくる。
相変わらずだな。
「残念ながら、いないよ。まだ仕事で手一杯なの」
「そっか~そんな素敵なのに。勿体ないよね」
サラッと褒めてくれる淳くん。
そんなやりとりを聞いてる村上くん。
…そんな顔しないでよ。
どうせもう、私のことなんて忘れてたんでしょ?
「あ、ちょっとあっち行って来る!」
顔見知りを見付けたのか、淳くんが離れて行く。
村上くんと二人残されてしまって、気まずくなった。
「…私、そろそろ行かなくちゃ」
そう言いかけたら、村上くんに遮られた。
「向こうに行くと、ベランダに出られるんだって。行ってみないか」
「ベランダ?」
「夜景が綺麗らしいよ」
「…でも、時間が…」
「ちょっと、見てみようよ」
「じゃあ、ちょっとだけ」



石造りのベランダに出ると、中の灯りが漏れていて、明るい。
でも、手すりまで来るとランプみたいな灯りだけで、薄暗かった。
その代わり、庭のイルミネーションがよく映えていて綺麗。
12月始めの夜の空気は都心でも冷たくて、持っていたファーのケープを急いで肩に掛けた。
「よく似合ってるよ。女の子って侮れないな」
「侮れない?」
「…ほら、男の子かってくらいショートカットで、スカート1枚も持ってないって言ってただろ」
「ああ…そういえば、そうだったかな」
「それが、こんなワンピース似合っちゃうんだから」
「似合ってる、かな」
「うん…すごく」
村上くんの好きなタイプは、私とは真逆。
なのに、こんなこと言ってくれるなんて。
「村上くんはさ、彼女出来たの?」
「え?」
「ほら、もう社会人になって2年たつでしょ。出会いとかありそうじゃない」
「…いや、そんな出会いなんて全然…」
「そうなんだ…村上くんの会社都内だし、出会いなんていくらでもありそうなのに」
「仕事忙しいし、そんな暇ないよ。ゆきだってそうなんだろ」
「うん…まあ、そうだよね」
久しぶりに村上くんと言葉を交わすと、学生にもどったみたい。
でも、二人ともなんだかぎこちない。
私も、居心地が悪くなって、もう行かなくちゃと思った。


「そろそろ中に入ろうよ。もう寒い。私も行かなくちゃ」
そう声を掛けると、しばらく黙ってた村上くんがボソッと言った。
「ゆきのメッセージのID、ずっと一緒なの」
「うん…そうだけど」
動かない村上くんをおいて、中に入ろうとした。
途端に、手首をぎゅっと掴まれた。
「…どうしたの、痛いよ」
「また、連絡してもいいか?」
「…なんで」
「なんででも。ゆきとまだ話したいことが…」
予想外の村上くんの反応に、どうしていいか分からなくなった。
今さら、まだ何を話すの。
私はあの時振られたって思ってるのに。
「中途半端なこと、言わないで」
村上くんの手を振りほどいて、中に入った。
そのまま二次会会場に入り、ワインを受け取った。
新郎新婦が入って来たら、二次会が始まる。
まだドキドキしてるというのに、辛口のワインを飲み干してしまった。
私には、振られて終わった恋。
新しい出会いだってあるかもしれないもの、さっきのことは忘れよう。
きっと村上くんは少し懐かしかっただけ。
今さらあの頃には戻れないのよ。




『和也』


ゆきが中に入ってしまったのを見て、ため息をついた。
あんな風に言いたかったんじゃないのに。
もっと…今の俺の気持ちを言いたかった。
ゆきの今の気持ちを知りたかった。
なのに、なんでこう上手く言えないんだ。
ゆきはなんであんな頑ななんだ…
あんな…
あんな、綺麗になるんだな。
化粧っ気が無くて、いつも素顔で色気も何もなくて。
女の子扱いしたことなんて、1度も…
いや、最後のクリスマスパーティーの時だけは、違ったけれど。
あの時のゆきを見てから、もやもやして自分の気持ちが分からなくなったんだ。
だから今日、もっとちゃんと喋りたかった。
そうだ、よく考えよう。
考えて、ちゃんとゆきに伝えなくちゃ。
そのチャンスは、絶対にある。









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