かまわぬ

成田屋贔屓が「思いつくまま」の落書き。

藤娘

2006-03-13 12:31:15 | 伝統芸能
五月の團菊祭に久しぶりの成田屋父子が出演する。しかも、あの海老さまが「藤娘」を踊る。もっとも、6月のヨーロッパ興行で同じものを出すというから、その練習のため、とのうがった見方もある。

長唄「藤娘」は、大津絵の中にある、藤の枝をかたげた美しい娘を舞踊化した「変化物」である。六世菊五郎が従来のものを工夫して、松の大木と藤の大輪の背景を舞台にし、現在はこれを踏襲している。眼目は「男心の憎いのは」というクドキである。藤娘は、日本舞踊のなかでも秀逸なもののひとつである。ここにその歌詞を記してみたい。

長唄 「藤娘」

若むらさきに とかえりの 花をあらわす 松の藤浪

人目せき笠 塗笠しゃんと 振かかげたる 一枝は 

紫深き 水道の水に 染めて うれしきゆかりの色に

いとしと書いて藤の花 エエ しょんがいィィな

裾(すそ)もほらほら しどけなく

鏡山 人のしがより この身のしがを 

かへりみるめの 汐(しお)なき海に 娘すがたの はづかしや

男ごころの憎いのは ほかのおなごに 神かけて

あはづと三井(みい)のかねごとも 堅い誓いの石山に

身はうつせみの から埼や まつ夜をよそに 比良の雪

とけて 逢瀬の あた妬(ねた)ましい ようものせたにゃ わしゃのせられて

文(ふみ)も堅田(かただ)の かただより こころ矢橋の かこちごと

藤の花房(はなぶさ) 色よく長く 可愛がろとて 酒買うて 飲ませたら

うちの男松(おまつ)に からんでしめて てもさても と返りという名のにくや

かえるというはいみ言葉

花も言わぬ ためしでも 知らぬそぶりは奈良の京

杉にすがるも 好きずき 松にまとうも 好きずき

好いて好かれて はなれぬ仲はときわ木(ぎ)に

たちも帰らできみとわれとか おおうれし おおうれし

松を植よなら 有馬の里へ植えさんせ

いつまでも 変わらぬちぎり かいどりづまで よれつ もつれつ まだ寝がたらぬ

宵寝まくらの まだ寝が足らぬ 藤にまかれて 寝とござる

アア何とせうか どせうかいィィィな

わしが小まくら お手まくら

空もかすみの夕照りに 名残惜しみて 帰る雁金(かりがね)