ヒグラシは夏の終わりを告げる蝉のなずなのに、
私の住む里では、なぜか油蝉・ミンミン蝉の露払いのように鳴きはじめる。
オレンジ色の夕暮れに聞くヒグラシの声には、
厳しい残暑はこれからというのに、
燃えさかる夏の終焉のもの悲しさを感じてしまうのです。
ヒグラシの声に合わせるように、待望の「ちりとてちん」外伝、
『まいご3兄弟』がBSで放送されました。
短いながら、ちりとてオタクの期待にたがわぬイイ話でした。
落語ネタの使い方、本編とのつながり方、絶妙なキャスティング、
そして手抜きのないセット・・・
どこをとっても『ちりとてちん』ワールドを堪能できる出来映えですね。
・・・なんですがこのドラマ、不思議なドラマで
落語『七度狐』を地で行くような心持ちにさせるところがあって、
狐の尻尾を掴んで引っ張ったつもりが、大根を抜いていた・・・そんな、
喜六・清八のような気分になるのも確かなんです。
何度か見直して、その作り(脚本)の緻密さにあらためて唸らされるものの、
自信を持って正解を出しかねる思いが残る。
つまり・・・四草と田村亮演じる扇骨職人が実の親子なのかどうか。
ネット上でも見解が真っ二つに別れてますが、
私は今の見解では、実の親子ではない派に傾いています。
しかしずるい言い方をすれば、光が波でもあり粒子でもあるように、
どちらでも良いのかもしれない。
あるいはある作家が、自分の小説を使われた試験の答案で、
どれが作者の本意かという問いに、答えられなかったということだってある。
肝心なのは、四草も”自分を受け入れてくれるふるさと”、
”根を張り、寄って立つ大地を持っている”ことを確信できことなのだから、
無理に答えを出すのはかえって無粋なことかもしれない。
運転席から顔を出した時の笑顔と、四草会での晴れ晴れとした表情を知って、
われわれは何度でも笑って泣けばいい。
四草ファンはこのドラマで、また一層好きになったに違いないでしょうが、
しかし身近にこんな男がいたら、私だって小草若じゃないが
「10年も付き合っているのに、何を考えているかわからん、
得体のしれないヤツ」と思って、進んで友達にはならないだろうなあ。
彼のような毒舌を面と向かって聞かされたら、殴りかかるのも無理はない。
しかしさすがに草若師匠は、そんな四草のニヒルで尊大な言動の裏に隠された
純情を見抜いていたのでしょう。
そして女性ファンも、そんなところに母性をくすぐられてしまったのですかね。
四草の毒舌が、決して邪悪によるものでなくて、
純情をストレートに出すことへの照れから来るものという意味で、
草々の感情丸出しのストレートととは正反対ではあるけれど、
コインの裏表のふたり、と思わせるラストシーンでした。
ところで四草の得意のネタ『算段の平兵衛』ですが、
あの売れっ子小説家・浅田次郎と算段の平兵衛を結びつけたら
ビックリするでしょうか。