東埼玉病院 リハビリテーション科ブログ

国立病院機構東埼玉病院リハビリテーション科の公式ブログです

*表示される広告は当院とは一切関係ありません

作業療法勉強会『高橋宜盟さんが来た!』

2018年03月30日 | リハ科勉強会
3月2日金曜日、結ライフコミュニケーション研究所の高橋宜盟さんが勉強会講師として来てくださいました。講師をお願いした目的のひとつは「指伝話(ゆびでんわ)」というiPad用アプリについて教えて頂くため。スイッチ1つで操作することもできるので、難病の方のコミュニケーションツールとして、当院作業療法士に必要な知識技術です。もうひとつの目的はコミュニケーションの「考え方」についてお話頂くため。高橋さんと知り合ったとき「私が指伝話の話をするときは、コミュニケーション機器の話というより、考え方の話が半分以上ですが、必要とされているのはそこではないかなといつも思っています」と仰っていて、ずっと聴きたいと思っていました。
3週間近く経った今でも思い出すとわくわくします。頂いた資料から一部をここでご紹介します。


【諦めない・決めつけない】
 たっくんは右手の人差し指が2mmくらいしか動かない3歳前のSMAの男の子と紹介されました。訪問前に少しの動きを感知するスイッチをつけて指が動くとiPadが童話を読み上げるようにして試したところ、おもしろいのか、どんどんスイッチを指で動かしました。気が付いたら親指も動いていました。
 たっくんとお母さん・おじいちゃんの写真を撮って絵カードを作ったら、たっくんの写真ばかりタップして、何度も「たっくん」とiPadが言いました。たっくんは自分はたっくんだとアピールしていたようでした。気づいたら左手の指も動いていました。お母さん、大丈夫だ、これだけ押せたら勉強だってできるし会話だってできるようになるねって話をしました。
 それから半年後に再び訪問した時にはたっくんは指2mmどころではなく、両方の手首も動かすことができて、指先のセンサースイッチも自分の意思で押していました。わずか半年の間、お母さんは毎日たっくんが成長した時のことを楽しみにマッサージしていました。
 病院を退院するときに、家族以外、誰もたっくんが自分のいしをもってからだを動かせるようになるとは信じていなかったそうです。もうそういうもんだと決めつけていました。しかし実際はそうではなかったのです。お母さんはいま、ことばをたっくんに教えるにはどんな絵カードを作ればいいか、わくわくしています。そのわくわくがたっくんに伝わているのがわかります。

【パソコンを使わせたい、iPadを使わせたい?】
ALSの患者さんを訪問した時に、家族から「スイッチを使ってパソコンやiPadを使えるようにできないか?」という相談を受けることがあります。
 しかし当の本人に聞くと違う答えが返ってきます。あるALS患者の女性は、旦那さんが看病をしているときにベッドの足元のところでうつ伏せに寝てしまうので、布団をかけてあげたいと考えていました。自分のからだが動かないので、せめて旦那さんが寒くないようにエアコンのスイッチを操作したい、顔に夕日があたって眩しそうだからカーテンを閉めてあげたい、だからiPadを使いたいと思ったそうです。
 癌で声を失った男性が指伝話を手にしたのは、奥さんが運転する車の中で話しかけたかったからでした。筆談だと信号待ちで停車するまで伝えることができないけど、「緑がきれいだね」ということをタイミングよく伝えられてよかったそうです。そして奥さまに「ありがとう」を伝えることができたことも嬉しかったそうです。


高橋さんが語るのは機器の性能ではなく、機器を通して現れる人の在り様と、人と人とのつながりです。
こんな例え話をしてくださいました。
フランス人から「赤ワインを飲んでいるからフランス人は健康なのだ」と話を聞いた企業が、赤ワインに含まれるエキスからタブレットを開発しました。これを飲めば健康になれる!ほんとうにそうでしょうか?
フランス人は週末家族みんなで料理と美味しい赤ワインを楽しむ。どんな料理が良いだろうか?料理にあう赤ワインはどれだろうか?皆で乾杯してワイワイおしゃべりをしながら笑って食べて、飲んで・・・そんなワインを取り巻くあれこれはタブレットにはありません。コミュニケーション支援もこれと同じ。機器を導入すればよいということではないでしょう。

身体を動かすのは筋肉や神経だけではなく、意思と情動をともなってより機能するものであるということ。そしてどんなに身体が動かなくとも、誰かに何かを伝えたい、何かをしたいしてあげたいものだということ。人がどこまでも自らで在りたいという意思を叶えたい、高橋さんの思いと我々セラピストの思いは重なるところがあります。
ほんとうはもっともっとたくさんの心から消えない話をしてくださって、ぜんぶをご紹介できないのが残念です。



ここまで読んでくださって、ありがとうございます。
あたたかく、芽吹き花舞う春のように
皆様の毎日が明るく健やかでありますように

C2(OT)


東埼玉病院リハビリテーション科ホームページはこちらをクリック