東埼玉病院 リハビリテーション科ブログ

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カフアシストの使用方法と設定

2018年10月24日 | 臨床雑記

今日は当院でもよく使用されているカフアシストの使用方法や設定について、個人的な知見や経験を含めてお話していきたいと思います。

カフアシスト使用方法は「カフアシスト使用方法~在宅・事業所向け」をクリック

カフアシストは使用する患者さんも限定的で、存在は知っていても一般的にはなじみの薄い機械なのではないかと思われます。
そのため、導入するにしても医療制度上の位置づけはどうなっているのか?、どのような設定にすればよいのか?、指導はどのように行えばよいのか?などなど、使い慣れていない方は戸惑うことも多いのではないでしょうか?
そういった方々の参考になるように粗末な記事ではありますが、今回はカフアシストをテーマにさせていただきました。

そもそも「カフアシスト」とは製品名で、正式にはMechanical insufflation-exsufflation(MI-E)と呼ばれる機械の一つです。日本語では機械による咳介助と訳されますね。
ご存知だと思いますが、機械により陽圧(深呼吸)の後に陰圧(呼気)を加える咳介助方法のための機械です。
他にもミニペガソ・ペガソ、コンフォートカフ、パルサーといった機械があります。
それぞれで細かい設定や陽・陰圧のかかり方が異なるようですが、そう大きな性能の違いがあるわけではないようです。




対象疾患はいわゆる神経筋疾患の患者さんが主ですが、重症心身障害児・者や海外ではICUでも使用されているそうです。
当院では筋ジス患者さんで使用することが多いですが、それ以外でも適応可能で必要性があると判断された場合はALSやSCD・MSA患者さんなどでも導入することがあります。
重症心身障害児・者にはほとんど使用していません。

効果はたくさんありますが、以下の効果が言われています。
1. 気道内分泌物の除去
2. 神経筋疾患での上気道感染や頭部・胸腹部の術後での肺炎・無気肺・気管内挿管防止
3. ICUやリカバリールームで、気管内挿管を通しての排痰に効果あり、抜管を助ける。
4. NPPVから気管切開への移行遅延
5. 在宅人工呼吸において介助者でも使用可能、MI-Eの併用により緊急入院の頻度減少。
6. 気切チューブを通しての排痰にも有用
7. 鼻をかむことの代わり
8. 日常的な他動的深呼吸の手段とすることで、肺の微小無気肺と胸郭可動性維持の目的

当院では➂以外の全ての目的で使用されていることがほとんどかと思います。

そのエビデンスですが、いくつかのガイドラインで有効性が示されています。
・徒手介助により効果的な咳ができない患者には、MI-Eを考慮する(グレードB,エビデンスレベル4)
・機械による咳介助は神経筋疾患・脊髄損傷の排痰に有効である(グレードA)

適応基準に合致してリスクの低く受け入れが良好な患者さんであれば、ぜひ積極的に取り入れていくべきではないかと個人的には感じています。

その適応基準ですが、おおむね以下のような点が挙げられると思います。

適応基準
1. 12歳以上でCough Peak Flow(CPF:最大呼気流速)が徒手介助やMaximum Insufflation Capacity (MIC:最大強制吸気量)下でも270L/min以下
2. 上気道炎で痰が多く粘稠、易疲労性、徒手による圧迫で胸が痛くなる場合
3. 人工呼吸器を導入していること※
4. ある程度ウィーニング可能
5. 使用方法を理解できる程度の認知機能を有していること
6. 実施可能なスタッフ、介助者が居ること

CPFはいわゆる咳嗽力、咳の力を指し、ピークフローメーターという機器あるいはスパイロメーターを使用して測定することが可能です。



MICはアンビューバッグにて最大吸気よりさらに強制的に肺に吸気を送り込み、空気を漏らさないでいられる量を指します。

カフアシストは基本的に購入・レンタルとも自費で、ごく一部の県で一部助成していることを除いては、公的補助制度はありません。医療保険点数も、吸引か、人工呼吸管理料に含めて考えられており、単独では認められていません。
※排痰補助装置加算 1800点

 人工呼吸を行っている入院中の患者以外の神経筋疾患等の患者に対して、排痰補助装置を使用した場合に、第1款の所定点数に加算する。
通知
 (1) 排痰補助装置加算は、在宅人工呼吸を行っている患者であって、換気能力が低下し、自力での排痰が困難と医師が認めるものに対して、排痰補助装置を使用した場合に算定できる。
(2) 注に規定する神経筋疾患等の患者とは、筋ジストロフィー、筋萎縮性側索硬化症、脳性麻痺、脊髄損傷等の患者をさす。

医療保険制度についてもここでは触れさせて頂きました。
自宅での使用を検討する場合には人工呼吸器を導入していることが必須条件になります。逆に入院・入所されている方の場合は個人でカフアシストをレンタルすることはできませんが、その場合は施設にある機械を使用することになります。当院の筋ジス病棟に入院されている患者さんも病院の機材を使用しています。

一方で侵襲性やリスクのある機械でもあるので、除外基準もあります。
除外基準(相対的)
1. 心不全患者・不整脈(実施する際はモニタリング必須)
2. 気胸や気縦郭の疑い・既往
3. Bullaのある肺気腫の既往
4. 人工呼吸による肺障害の患者

かなり高圧を付加する性質の機械になりますので、いわゆる気胸や肺高血圧症のリスクが高くなることが言われています。事前に肺・胸郭の柔軟性を作っておく必要があります。デュシェンヌ型筋ジストロフィーなど先天性筋疾患の患者さんは呼吸機能や運動機能の低下により、これらの柔軟性が低下していきますので胸郭のストレッチやアンビューバッグでの強制吸気にて肺のストレッチを行っています。

次に導入手順をお話していきたいと思います。

導入手順
使用姿勢:60°体幹を起こした座位が理想、ただ特に規定はないのでやりやすい姿勢でいいと思います。ただ、マスクを押し当てても頭頚部や体幹が支持できる安楽な姿勢で行えることが大事です。
1. 医師の指示を確認。
2. SpO2や心電図(必要なら)をモニターしつつ、急変時に対応できる医療体制のもと実施。
3. 機器の役割や必要性の説明を行う。
4. 機械の設定を行う(詳細な設定については後で)。
5. 陽圧から陰圧への切り替わりをマスクを胸に押し当てて感じてもらう。その際に陽圧・陰圧のタイミングに合わせて、吸気・呼気の切り替えができるか、確認をする。
6. マスクのみを顔に当て、呼吸ができることを体験してもらう。
7. 基本設定は10~20cmH2O/-10~20cmH2Oで設定し、吸・呼気気時間は1.5~3.0秒、休止時間は1秒で設定。圧は徐々に上昇させていき、時間については患者の好みも確認しつつ調整していく。
8. 過換気予防のため、基本的には5サイクルの繰り返し、30秒程度の間隔をあけることが基本。
9. 実施セット数に制限はなし。痰がある場合は多く実施してよい。肺コンプライアンスの維持目的で実施する際は3~5セット。ただし口腔内やマスク、回路内に分泌物が喀出されたらすぐに終了し、除去する。
10. 意思疎通や理解力が良好な場合は咳をさせるより声門を開くように指示することで気道抵抗が減少し、より有効なCPFが得られることが示唆される。

特に10については福山型筋ジストロフィーなど知的障害がある患者さんだと圧を上昇させても十分なPCFが得られないことがあります。「喉の奥を開くように」と指示しても理解不良の場合は、「あー」「かー」「おー」「こー」などと発声させて、喉を開く感覚を根気よく指導してあげると理解してくださることがあります。個人的にはか行(「か」「こ」)が舌が口蓋を離れる瞬間に音が出る破裂音での発声になるので、喉の奥を開く感覚を指導するには良いのではないかと考えています。


除外基準の話で圧については少し触れましたが、それ以外の使用リスクについても当然知っておかなくてはいけませんので、お話します。
リスク
1. 嘔吐リスク回避のため、原則的には食後30分以内の使用は控える。
※ 嚥下機能の低下した患者においては、食事中のむせ込みや食後の喘鳴出現時に適宜使用し、誤嚥性肺炎予防に努めることも。
2. MI-E使用に抵抗を示す例では胃内圧の上昇が過剰になる可能性あり、早期に導入を検討するなど注意が必要。
3. 痰が上昇して気管に多量にある場合、陽圧時(つまり空気を送り込む時)に痰を逆に押し込んでしまい、最悪窒息する可能性あり。

最後に設定についてお話しします。
当院ではCough assist E70を現在使用していますが、この機械ではCPFや換気量のモニターが可能で、適応と安全性を判断しながら270L/min以上のCPFが得られる最適な圧設定を検討することが可能です。
 圧
40cmH2O/-40cmH2Oの圧なら外傷は起こりにくいとされています(3が、実際はそれ以上の圧をかけても有害事象は起こらなかったという報告も多く、より高い圧を設定したほうが効果的なのでは?と言われています。
国立病院機構八雲病院の理学療法士であります三浦利彦先生の報告によりますと、±40cmH2Oでも基本的には十分なCPFの確保は可能ですが、MICが2000ml以上保たれている例では+50cmH2O以上、>1500mlの例では+40cmH2Oの陽圧でないと、十分な深吸気が得られず、微小無気肺の予防効果や胸郭可動域維持効果が不十分となると報告しており、陰圧に関してもより高い圧をかけたほうが咳嗽力は上昇すると(当たり前ですが)報告しています。

 時間
基本的に吸気・呼気時間1.0~3.0秒、一時停止時間1.0~2.0秒の中で患者の好みで調整させることが多いです。ただし吸気時間を延長することで吸気量増加するため、MICの値を考慮する必要ありではないかと思われます。

 吸気流量
Cough assist e70では、吸気流量を「低」「中」「高」の3段階で調整することが可能です。
吸気流量を増やすことで吸気量の増加と吸気速度に変化が生じるので、MICの値と本人の感想を聞きながら調整していく必要があります。

 オシレーション
Cough assist e70では吸気・呼気・両方とそれぞれ振動をかけること(振動数0~20Hz、振動圧力0~10hPa)が可能でオシレーション機能と呼ばれています。現在のところ、カフアシストE70のオシレーション機能の効果について詳細に検討した報告はありませんので、高頻度胸壁振動法(high-frequency chest wall oscillation:HFCWO)の根拠となる文献を参考にしつつ、経験も踏まえてお話したいと思います。
まずは振動数からですが、それなりに高いHz数(5Hz以上)であれば物理的な粘液溶解作用が認められるようですが、特に13Hzで気管内の粘液クリアランスが3倍以上になったという報告があります。ただしカフアシストのような一瞬の圧力の中に振動が加わったところで同じような作用が得られるかどうかについては検討が必要かと思われます。
振動圧力についても検討した報告はなく、これに関してはより高いほうが痰を動かす効果が高いのではないかと思われます。
最後にではどの時期にオシレーション機能を付加すべきか?ということですが、個人的に何例か試したところ、吸気時に付加するのが一番酸素飽和度が高い傾向にあるようでした。オシレーション機能は最も圧がかかった時点で発生する仕様になっているので、呼気では最も陰圧がかかった状態(つまり肺胞が最も虚脱した状態)での振動刺激になるため、末梢の痰に十分に振動刺激が伝わらないのではないか?と思われます(あくまで筆者の個人的見解ですが…)。


非常に長くなってしまいましたが、カフアシストについて個人的な見解も多分に含んだ記事でした。
ここまで読んでいただいてありがとうございました。

カフアシスト使用方法については「カフアシスト使用方法~在宅・事業所向け」をクリック

参考文献
1. デュシェンヌ型筋ジストロフィー診療ガイドライン2014
2. デュシェンヌ型筋ジストロフィーの呼吸リハビリテーション
3. 日本神経治療学会治療指針作成委員会:標準的神経治療:重症神経難病の呼吸ケア・呼吸管理とリハビリテーション:2013
4. 三浦利彦:duchenne型筋ジストロフィーにおける機械による咳介助(Mechanical Insufflation-Exsufflation:MI-E)の最適な使用条件の検討と効果:Hirosaki University Repository for Academic Resources,2017
5. John R bach etc : Efficacy of Mechanical Insufflation-Exsufflation in Extubating Unweanable Subjects With Restrictive Pulmonary Disorders : RESPIRATORY CARE • APRIL 2015 VOL 60 NO 4
6. Bach JR、Barrow SE, Goncalves M: A historical perspective on expiratory muscle aids and their impact on home care:Am. J. Phys. Med. Rehabil. 92, p930-941 2013
7. Jesu´s Sancho MD, Enric Bures MD, Saray de La Asuncio´n RN, and Emilio Servera MD:Effect of High-Frequency Oscillations on Cough Peak Flows Generated by Mechanical In-Exsufflation in Medically Stable Subjects With Amyotrophic Lateral Sclerosis:Respir Care 2016;61(8):1051–1058
8. Tomkiewicz RP, Biviji A, King M:Effects of oscillating air flow on the rheological properties and clearability of mucous gel simulants. Biorheology. 1994 Sep-Oct;31(5):511-20.
9. King M, Phillips DM, Gross D, Vartian V, Chang HK, Zidulka A. Enhanced tracheal mucus clearance with high frequency chest wall compression. Am Rev Respir Dis. 1983 Sep;128(3):511-5.

C5(PT)


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