http://news.goo.ne.jp/article/businessi/business/fbi20131011000.html
2013年10月12日(土)08:21
(フジサンケイビジネスアイ)
トヨタ自動車が本格発売する燃料電池車(FCV)の開発が最終段階に入った。2015年の発売へ量産が目前に迫り、焦点は生産技術でいかにコストを下げるかに移っている。「小さな化学プラントを載せた車」と形容されるほど複雑なシステムコストは08年に比べ20分の1近くまで下がったが、価格のめどは1000万円を切るレベルにとどまるためだ。20年代前半には年数万台規模の販売を視野に、価格を300万~400万円程度まで下げたい考え。実現へ向け提携先の拡大もありそうだ。
8日に東京・晴海で開かれたトヨタの先進技術説明会。外観を隠すための黒いシートで覆われたセダンタイプのFCVの試作車4台を並べ、試乗車として報道陣に初めて公開した。担当者は「直線で思い切りアクセルを踏んでも問題ない。市販のハイブリッド車(HV)『プリウス』と同じレベルだ」と走行性と安全性について自信を持って説明した。
トヨタは02年にFCV「FCHV」を、08年に進化させた「FCHV-adv」をそれぞれ発売したが、価格の高さやインフラ整備が整っていないことで、主に法人向けのリース販売にとどめていた。その後、小型・軽量化とコストダウンへの取り組みを加速。15年に初の市販車として販売する計画だ。燃料電池システムを納めるスペースが最も狭く、開発のハードルが高いセダン型のFCVをまず発売し、車種を広げる。
試作車は、走行性能でHVと遜色がなく、発進時の加速感はガソリン車よりも優れているという。7日に行われた走行試験では、愛知県豊田市の本社から晴海までの322キロの長距離走行に成功。残りの水素残量を計算すれば、650キロ程度まで走行可能だったといい、ガソリン車並みに走れることも実証した。田中義和・製品企画本部主査は「(高い)トヨタの品質を確保して発売できるかが問題。出だしでつまずけば、信頼性を大きく損なう」と気を引き締める。
ただ、最大の課題はコストダウンだ。市販へ向け、同社は部品の見直しなど徹底したコスト削減を進めてきた。高圧の水素をためるタンクを、パッケージを工夫することで従来の4本から2本に半減。また、FCVは動力源となる電気を発生させるのに酸素と水素の化学反応を促す白金を使用するが、その使用量も極力減らした。高橋剛・技術統括部主査は「材料のグレードを落としても、性能は変わらない」と自信を示す。
ただ、こうした取り組みが進むなか、「大量生産できるまでには至っていない」(高橋主査)のが実情。15年に発売する市販車は1台800万~900万円となる見通しだ。「FCHV-adv」に比べて大幅に下がるとはいえ、「この価格では買い手はいない。先進性や格好良さなど、よほどの大きな変化を加えない限り、販売は厳しい」(証券アナリスト)。
解決策は販売量を確保して量産効果を出すことだが、手っ取り早い方法が他社との提携。トヨタは15年をめどに、燃料電池システムを独BMWに供給し、20年までに共同開発を進める。BMWとの協業で普及を促す考えだ。ただ、トヨタが提携相手として選んだBMWは、米ゼネラル・モーターズ(GM)や独ダイムラーと違い、燃料電池の開発はこれまでほぼ手がけてこなかった。このためトヨタの技術力に頼るところが大きく、「トヨタにとって協業による効果は限定的ではないか」(同)という声もある。
高橋主査も、「FCV開発においてはトヨタに一日の長があり、提携関係は現在のところ緒についたばかり。強みが生かせるよう進める」と、提携によるメリットが享受できるのは当分先とみている。トヨタとしても、提携関係を広めることにはなお関心は高いとみられる。電気自動車の普及が見通せない中で、FCVは次世代エコカーの本命に浮上。BMWとの提携前に、トヨタはGM、独ダイムラーとも提携を模索してきたが折り合いがつかなかった。ホンダからも提携を持ちかけられたが、「交渉が不調で破談になった」(ホンダ幹部)経緯もある。そのホンダは結局GMとFCV開発で提携した。
今後、注目されるのが韓国の現代自動車だ。合従連衡が進むFCV開発において、独フォルクスワーゲン(VW)と並び孤高の存在となっている。トヨタが現代自を陣営に取り込めば、量産効果は計り知れず、今後の低価格競争でも優位に進められる。あるトヨタ幹部は「現代自の動向が気になる」と話す。FCVの覇権をめぐる水面下での合従連衡の動きは、市販化を目前にさらに激しくなりそうだ。(飯田耕司)