8th day in Tibet(2007.07.16)
(The Most Important Day:最も重要な1日)
ゴルムドに到着して以前泊まっていたホテルにチェックインして目覚めたのは1000時ころ・・・
昨晩は、今日これから来るべきであろうエヌとの激闘の予感と、そしてその対策でまんじりともせずに0400頃まで起きてしまっていた・・・
心配された体調も完全とは言えないまでも取りあえずは落ち着いている・・・
帰ってきたゴルムド、計画的に作られた町なので道が無駄に広い・・・
ちなみに歩道も・・・ここまでくると閑静ではなく閑散としている・・・
1100時、エヌにダイヤルする・・・
私は開口一番こう伝える・
「ゴルムドに戻ってきた・・・何時ならいいんだ・・・??」
彼は最初1200時と言ったが思い直したかのように1800時と伝えてくる・・・
私は少し考えてこう答える。
「1200時だ・・・・俺はお前にこれ以上付き合って時間を無駄にしたくは無い・・・それともう一つ、付け加えてやる・・・400で手を打つと言ったが・・・全額・・・940出せ・・・」
こう言ったのは訳がある。時間を相手の指定に合わせないのと一度呑んだ金額をまたわざと高く言ったのは、相手のペースにさせず、相手に心理的な圧迫を与え、そして私の言い分を聞かせてやる為だった・・・
それにひょっとしたら・・・
エヌは少々ビックリして答えてきた
「お前は400で良いと言ったろう!何で急に変えるんだ・・・!!」
私はこういう
「いま電話で話しても無駄だ・・・お前は何時も逃げるだけだからな・・・1200時に・・・直に説明してやる・・・」
私の言い分にエヌも了解する。
後は会うだけだ・・・
ホテルを出てCITSには1155時に到着・・・
ちなみにこれがゴルムドCITS入口
4階に上がり、彼のオフィスへと足を運ぶ・・・
彼はちょっと席を外していたがすぐに戻ってきた・・・
これからだ・・・
「また会って嬉しいぜ・・・」
といって握手する・・・彼の顔がすこしひきつっているかのように見えるのは気のせいだろうか・・・
私は当たり障りのないスタートから始めた・・・
電話とは違って、今回は怒鳴りつける気持ちは無い・・・
「O.K.話をしていこうか・・・最初に言っておくがお前さんは何時も都合が悪くなると電話を切って逃げていたから俺の状況が分かっていないだろうから・・・もう一度はっきりと説明させてもらう・・・」
エヌは「そんなことは無く分かっている」と言おうとしてきたが・・・手を伸ばしてピシャリと遮ってこう言う。
「今は俺が話してるんだぜ、後で言い訳があるなら聞かしてもらうから先ずは聞くんだな!お前が少なくとも自分が”大人”で”ビジネスマン”というのならな・・・」
「先ず、俺たちが交わした契約は入境許可証と3日間分の宿泊、3日分のガイドにラサ市内の交通手段でそれに俺は1440払っているんだな・・・?」
彼にもこれには異論が無い。
「そしてラサに到着して・・・お前の教えてくれた代理店の契約不履行によって俺はキャッシュバックを500受けている・・・そうだな・・・」
当然の事だ・・・
「俺は電話で全額と言いなおしたのは・・・お前と俺との契約で単純計算だ・・・1440-500=940・・・それにお前から”たった”400返してもらった所で・・・残りは540だ・・・何だって俺は何一つ手にせず540も払ったままにしておかなければいけないんだ・・・??」
彼は私にこう言う。電話とは違い、今日の彼は比較的穏やかな口調だった・・・
「俺が何もしていないと言うが、俺はお前の為に許可証を取って渡しているだろう・・・それに対する利益を得るのは当然の事だ!俺がタダで座っているだけで仕事をしていないとでも言うのか??」
私はこう返す。
「お前も全てもう分かっているだろう・・・俺はラサで何一つ手にしていない・・・お前が俺に渡したのはただのFaxであってオリジナルではない・・・それに・・・前にも言ったがお前が何をやろうとも・・・その結果、俺が何も手にしなければ・・・それはお前が仕事をしたことにはならないし、サービスをしたとは言えないんだぜ・・・それにお前は俺に被害を与えていながら一度も謝っちゃあいないんだ・・・」
彼はこうだ
「例えそれがFaxでも・・・お前はパーミッションを手にしてラサに行けただろう・・・それは俺が”調整”したからだ・・・!だから俺はパーミッションをお前に渡したんだ!それにそれが無ければ行けなかっただろう??」
私はこう来ることを十分に予想していた・・・
彼が報酬を私から得れると主張できるポイントはそこにしかないのは分かっていたからだ。
だが、それを簡単に受け入れては、交渉が終わってしまう。そうさせる訳にはまだ行かなかった・・・
「お前さん・・・契約内容はもうはっきりしているよな・・・パーミッションのオリジナルは俺は一度も手にしてはいない・・・それに俺も最初勘違いしていたがお前はパーミッションに金がかかると言っていたが、実際はタダだぜ・・・パーミッションはツアーにくっついてくるものでお前らがその約束を果たせなかった時に自動的に俺はその権利を失っているんだ・・・契約不履行は俺の過失ではない・・・条件を守らせなかったお前の責任だ・・・、お前はその”責任”という奴に対して・・・支払わなければいけない・・・」
彼も私の言うことをそのまま受け入れるという訳にはいかない。
先ほどの主張を繰り返し、そしてこう返してくる
「例えそれがFaxでも・・・お前はパーミッションを手にしたんだ!それで問題は無かっただろう、それに俺はもうお前から貰った料金をホーに支払っているんだ。俺に何が出来るんだ、俺の手元には240元残っているだけだぞ、それなのに全額払えと言うのか!!俺は自分のポケットから200も出して、お前に支払う条件を呑んでやっているんだ!それで十分じゃないのか・・・」
これも十分に予期していた・・・彼が金を支払った第三者に責任を転嫁する。後進国ならではの商売の考え方だ・・・
この頃には「ティー・アイ・シー」の常識って物が私にももう分かっていた・・・
しかし・・・ここで引くわけには行かない。それを認めると私には失ったお金以外に何も残らないのははっきりしているからだ!
ホーに私が会って彼女と話をしても・・・ホーはエヌに言えと言うに違いがない、エヌに戻ってきたらお前はホーの所にいったからもう俺には関係がないと主張するに違いない。そうしてたらいまわしにされた挙句に怒り損となるのは目に見えてる・・・
私は自説を強行に主張する・・・
「電話でも言ったろうが・・・ホーがお前とどういう関係にあろうが・・・俺にはまったく関係がない・・・俺は前にも言ったがお前は俺に対しての責任を負うんだ・・・ホーが何かミスしていると言うなら・・・お前が連絡して奴からリファウンドさせればいいだけの事だ・・・俺には関係ない・・・。それにお前が自腹で200出すと言うが・・・数学を知っているか?940-400は540・・・俺は自分のポケットからこの何一つ手に入らないツアーに支払う事になるんだぜ・・・」
エヌはこう言う
「俺はすでに連絡しているんだ、彼女は”パーミッションを出したから問題ない”と言っている。俺にこれ以上何が出来るって言うんだ!!」
ここでしばらく話はまた電話と同じように平行線を辿る・・・
私は一度立場を変えて話をすることを提案した!
「O.K.お前さんの足りない頭では我々に何が起きているか・・・理解できていないようだから立場を変えよう、お前が客で俺がエージェントだ・・・」
「お前は俺にツアー代として1500支払った、俺が現地で会うガイドを紹介して実際に出会ったら・・・条件が出鱈目だ・・・お前は交渉してたった1/3の500、それも俺がガイドに渡した金額が500だからといってそれだけ手にした・・・、残りの1000・・・お前はどうするんだ???答えて貰おうか???」
エヌはこう言う・・・
「お前の言っていることは理解できている・・・だがな・・・そうであってもな・・・俺は”パーミッション”を出してお前はラサに付けた・・・それに俺は既に1200元ホーに支払って・・・」
また私はこう言う
「何度も言っただろう・・・俺はお前に金を払ったんだぜ・・・俺の領収証にはお前に金を払った”事実”があるだけだ・・・そしてお前が何もやらなかったという結果もな・・・ホーに責任を取らせるのは・・・お前の”仕事”だ。俺がやることじゃぁない・・・」
エヌは私にこういう
「インポッシブル・・・!ホーに責任を取れとは言えない、俺はもう確認しているんだ・・・どうしてもというなら・・・お前が連絡してくれ・・・」
この辺りは彼と私と考え方の違いの最大のポイントで、お互いの論戦が平行線になる原因だ・・・
彼の考え方は彼は彼女に支払って、私にFaxを出した段階で責任自体が無いという考えで
私の考え方は料金を支払って窓口になった以上、もし何か発生したときには彼に責任があるという考え
だからだ・・・
そして・・・なんとなく分かっているのはホーはエヌよりも立場の強い場所にいるという事だ・・・
だが・・・今一度強く押してみる
「何度も言わせるなよ、ホーは俺とは関係ない・・・お前がホーとの間に何も出来ないと言うのが俺には理解出来ない・・・お前がホーに言って金を戻して俺に渡せば済むだけだ・・・」
「インポッシブル・・・インポッシブル・・・!」
口調こそ変わらないもの、彼は明らかに消耗も、そして困惑もしているのが目に見えて分かった・・・
さらにエヌはこう続ける・・・
「お前は俺にああしろ、こうしろというが・・・それは無理だと言っているだろう・・・分からないのか・・・ホーにももう確認しているんだぞ!それにFaxとは言え渡してラサにいくのに問題は無かっただろう・・・それなのに全額か?お前は一度400でいいといっただろう・・・・なんで前言を覆してまた全額なんて言うんだ!!俺はタダでお前の為に働くことになったんだぞ!時間も、電話も・・・」
私は彼の消耗し、そして硬化させてきた態度を見て「潮時」というのを考え始めていた・・・
ケリを付けるなら・・・そろそろいい頃合だろう・・・お互いの考え方の違いというのはもう分かったし・・・ここは前言通りに540は諦めよう・・・
こういったことはやり過ぎると全部失うからだ・・・
ただ・・・540というのは何も考えずに諦めるにしては大きすぎる・・・
少なくとも・・・相手に否を悟らせ・・・そして・・・精神的なダメージを与えてやる・・・
俺が失う金額と等価になるように・・・
そしてついに私の持つ交渉術の最大秘奥義
「謝り殺し(あやまりごろし)」
を炸裂させる決意を固めた・・・
この秘奥義の威力は・・・懇切丁寧に相手の否を非難しながらそれを知らなかった私に否があるからそちらは悪くないと色々な例を挙げて相手を責め立てるという性質の悪い奥義である・・・
当然のことながら、並ならぬ技量と、そして高度な演技力が要求される必殺技だ・・・!
この奥義の問題は、使った側の「人間性の悪さ」を際立たせてしまうという、何とも「他人受け」しない秘奥義だが・・・
これをやるしかないだろう・・・
交渉はこれからクライマックスを向かえる・・・
ミスは許されない・・・!!
私はゆっくりと立ち上がり、部屋の中をさも考え事をしながらというように歩き始め、声のトーンを下げて彼の方に時折視線を移して話し始める・・・
「どうやら・・・この件は俺が悪かったようだ・・・お前が俺から全額受領して領収証を渡したとはいえ・・・お前が誰かにお金を渡したらお前の責任がなくなるという摩訶不思議なシステムを・・・俺は知らなかったようだ・・・申し訳ない・・・」
「・・・」
「それに・・・俺は明らかに”世界標準”でお前が仕事をしているから”常識”に沿ってクレームを出せばいいとだけ考えていたが・・・お前の標準は”子供標準”で”大人の仕事”じゃないと言うことも知らなかった・・・それなのに・・・申し訳ない・・・」
「・・・」
「さらに・・・なにか起きたときに・・・お前の能力が明らかに欠如していて・・・対応が出来ないということも・・・まったく想像すらしていなかったんだ・・・俺が知らなかったのが問題だ!謝らせてくれ・・・」
「・・・」
彼は無言になる・・・かなり堪えているようだ・・・
私はこうさらに続ける・・・
「俺は今・・・俺にとって大事だと思っていた540は諦める・・・お前の言ったとおりに”たった”400でいい・・・お前の仕事はまったく意味が無かったが・・・お前の馬鹿さ加減を考えに入れていなかった俺のミスだ・・・謝らせてくれ・・・申し訳ない・・・」
「・・・」
「それに・・・お前が仕事と言うことに対するプライドも・・・責任感も無いことにまったく俺は気付かなかったんだ!お前を信用できる男と思い込んでしまっていたんだ・・・明らかに俺の勘違いだったんだ・・・・申し訳ない・・・」
「・・・」
そういって、彼の机の正面の椅子に座る・・・
彼は無言だ・・・唇を噛み締めている・・・それはそうだ・・・丁寧にここまでコケにされて怒らない人間はいないだろう・・・彼が激昂したら・・・そのときは向こうに併せて激昂するかわざと冷静にするか・・・そのときに考えよう・・・
彼にこう問い合わせる
「答えてくれ!俺は540ドブに捨てて”たった”400で後は泣くといっているんだ・・・どうなんだ・・・」
私のこの一連の台詞に演技力・・・
もし・・・公開されていたのなら・・・・・・
今年の「オスカー」は私で決まりだっただろう・・・
密室の中での戦いだったので、観客は誰もいなかったが・・・
彼は答えを要求する私を遮り時間を少しくれと言う・・・
・・・そして・・・
意外な一言が・・・
「俺の心臓病が・・・今もし何かあったら・・・責任を取ってくれ・・・」
「・・・???」
「・・・!!!」
「へっ???」
なんちゅう飛び道具を持っていやがるんだ・・・コイツは・・・・それは・・・それは・・・予想外の答えだぞ・・・
私はしばし呆気に取られる
その隙に・・・
彼の反撃はしたたかだった・・・
「200でどうだろうか・・・」
脳で反応するより先に口が反応していた・・・
「ノー!」
言って自分の回答にホッとする・・・危ない所だった・・・ついつい「イエス」などと言ってしまっていたら・・・
しかし・・・この状況、あれだけの罵詈雑言を浴びせても・・・損害額を少なくしようと仕掛けてくるとは・・・
中国4000年・・・私の敵う相手ではなかったのだろうか?
ただ、最低の400は手にしてやる・・・
「いいや、200程度じゃだめだ・・・俺は”たった”400貰えれば良いんだ・・・渡してもらおうか・・・」
彼はブツブツと「何で俺のポケットマネーから200も出すんだ」というような事を呟きながらお金を取り出し100元札を4枚それも見ているとわざわざ汚いものを選んで・・・渡してきた・・・
取り合えず400は手にした・・・そして彼から貰った1440元の領収証を渡す。彼は明らかに意気消沈して手に取った領収証を破り捨てて、灰皿に投げ捨てる・・・
しかしまだ終わっていない・・・私は540失ったままだ・・・彼にこう言う・・・
「よし、支払いは終わりだ・・・ただ・・・俺はお前に540払ったままになっていることは分かっているだろう・・・540元の領収証を出してもらおうか・・・まあメモでいいぜ・・・」
彼は私に再度「俺が渡した領収書(さっき破って捨てたもの)は」と聞いてきたぐらいだからかなりの精神的なダメージを受けていたのだろう。私が彼の灰皿から切れ端をつかんで示して気付いたぐらいだったから・・・
そして彼は目の前にあったA4サイズの紙のしたの部分を切り取り、「これでいいか?」と確認した後で「540元パーミッション代として私から受領した」と言う意味の文章を書いてサインして渡してきた
ちなみにこれが結末のレシート
写真
彼はその間じっとうつむいたままだ・・・
しかし・・・私の損害は540、彼の損害は200、明らかに私の損失が上だ・・・
最後に私はこういう
「今回の件は本当に申し訳なかった・・・俺がお前に金を払ってもその契約不履行をお前が取る能力が欠如しているなんていることは・・・俺の常識からいってありえないと思っていたからだ・・・重ねて謝らせてくれ・・・」
「受領した金額は余りにも少ないが・・・お前の限界以上の処理をしてくれたと思う・・・お前を俺は賞賛するぞ・・・」
彼は・・・下を見たまま・・・こう伝えてきた・・・
「俺は・・・お前との・・・契約不履行を謝る・・・申し訳ない・・・」
「・・・」
「・・・」
この一言が・・・もっと前にあれば・・・私もここまでやらなかっただろう・・・人それぞれの性格にもよるだろうが・・・
彼が最初に私に謝って・・・そして彼の出来る最大を最初からしてさえいれば・・・
そして・・・付け足すかのようにボソッともう一言・・・
「誰かが・・・誰かが・・・俺の200を持っていってしまったんだ・・・」
それは彼の敗北宣言だった・・・
誰かというのは、私の事であるのか?それともホーの事なのか??
彼に同情しかけたが・・・
そう言えば私は「540」も失っていた・・・彼より多い額だった・・・
だが・・・心に受けた痛手はどうだったのだろうか・・・??
私は彼にこう返す
「お前はもう謝らなくていい、健康に気をつけてな・・・」
「そして・・・次はきちんと上手くやることを・・・願っているよ・・・」
彼が小さく「サンキュー」と答えた・・・
そして私は部屋を出る。
少し振り返ったとき・・・見えたのはまだ下を向き・・・俯いた彼の姿だった・・・
これが最終決戦の舞台となったCITSのエヌのオフィス
(The Most Important Day:最も重要な1日)
ゴルムドに到着して以前泊まっていたホテルにチェックインして目覚めたのは1000時ころ・・・
昨晩は、今日これから来るべきであろうエヌとの激闘の予感と、そしてその対策でまんじりともせずに0400頃まで起きてしまっていた・・・
心配された体調も完全とは言えないまでも取りあえずは落ち着いている・・・
帰ってきたゴルムド、計画的に作られた町なので道が無駄に広い・・・
ちなみに歩道も・・・ここまでくると閑静ではなく閑散としている・・・
1100時、エヌにダイヤルする・・・
私は開口一番こう伝える・
「ゴルムドに戻ってきた・・・何時ならいいんだ・・・??」
彼は最初1200時と言ったが思い直したかのように1800時と伝えてくる・・・
私は少し考えてこう答える。
「1200時だ・・・・俺はお前にこれ以上付き合って時間を無駄にしたくは無い・・・それともう一つ、付け加えてやる・・・400で手を打つと言ったが・・・全額・・・940出せ・・・」
こう言ったのは訳がある。時間を相手の指定に合わせないのと一度呑んだ金額をまたわざと高く言ったのは、相手のペースにさせず、相手に心理的な圧迫を与え、そして私の言い分を聞かせてやる為だった・・・
それにひょっとしたら・・・
エヌは少々ビックリして答えてきた
「お前は400で良いと言ったろう!何で急に変えるんだ・・・!!」
私はこういう
「いま電話で話しても無駄だ・・・お前は何時も逃げるだけだからな・・・1200時に・・・直に説明してやる・・・」
私の言い分にエヌも了解する。
後は会うだけだ・・・
ホテルを出てCITSには1155時に到着・・・
ちなみにこれがゴルムドCITS入口
4階に上がり、彼のオフィスへと足を運ぶ・・・
彼はちょっと席を外していたがすぐに戻ってきた・・・
これからだ・・・
「また会って嬉しいぜ・・・」
といって握手する・・・彼の顔がすこしひきつっているかのように見えるのは気のせいだろうか・・・
私は当たり障りのないスタートから始めた・・・
電話とは違って、今回は怒鳴りつける気持ちは無い・・・
「O.K.話をしていこうか・・・最初に言っておくがお前さんは何時も都合が悪くなると電話を切って逃げていたから俺の状況が分かっていないだろうから・・・もう一度はっきりと説明させてもらう・・・」
エヌは「そんなことは無く分かっている」と言おうとしてきたが・・・手を伸ばしてピシャリと遮ってこう言う。
「今は俺が話してるんだぜ、後で言い訳があるなら聞かしてもらうから先ずは聞くんだな!お前が少なくとも自分が”大人”で”ビジネスマン”というのならな・・・」
「先ず、俺たちが交わした契約は入境許可証と3日間分の宿泊、3日分のガイドにラサ市内の交通手段でそれに俺は1440払っているんだな・・・?」
彼にもこれには異論が無い。
「そしてラサに到着して・・・お前の教えてくれた代理店の契約不履行によって俺はキャッシュバックを500受けている・・・そうだな・・・」
当然の事だ・・・
「俺は電話で全額と言いなおしたのは・・・お前と俺との契約で単純計算だ・・・1440-500=940・・・それにお前から”たった”400返してもらった所で・・・残りは540だ・・・何だって俺は何一つ手にせず540も払ったままにしておかなければいけないんだ・・・??」
彼は私にこう言う。電話とは違い、今日の彼は比較的穏やかな口調だった・・・
「俺が何もしていないと言うが、俺はお前の為に許可証を取って渡しているだろう・・・それに対する利益を得るのは当然の事だ!俺がタダで座っているだけで仕事をしていないとでも言うのか??」
私はこう返す。
「お前も全てもう分かっているだろう・・・俺はラサで何一つ手にしていない・・・お前が俺に渡したのはただのFaxであってオリジナルではない・・・それに・・・前にも言ったがお前が何をやろうとも・・・その結果、俺が何も手にしなければ・・・それはお前が仕事をしたことにはならないし、サービスをしたとは言えないんだぜ・・・それにお前は俺に被害を与えていながら一度も謝っちゃあいないんだ・・・」
彼はこうだ
「例えそれがFaxでも・・・お前はパーミッションを手にしてラサに行けただろう・・・それは俺が”調整”したからだ・・・!だから俺はパーミッションをお前に渡したんだ!それにそれが無ければ行けなかっただろう??」
私はこう来ることを十分に予想していた・・・
彼が報酬を私から得れると主張できるポイントはそこにしかないのは分かっていたからだ。
だが、それを簡単に受け入れては、交渉が終わってしまう。そうさせる訳にはまだ行かなかった・・・
「お前さん・・・契約内容はもうはっきりしているよな・・・パーミッションのオリジナルは俺は一度も手にしてはいない・・・それに俺も最初勘違いしていたがお前はパーミッションに金がかかると言っていたが、実際はタダだぜ・・・パーミッションはツアーにくっついてくるものでお前らがその約束を果たせなかった時に自動的に俺はその権利を失っているんだ・・・契約不履行は俺の過失ではない・・・条件を守らせなかったお前の責任だ・・・、お前はその”責任”という奴に対して・・・支払わなければいけない・・・」
彼も私の言うことをそのまま受け入れるという訳にはいかない。
先ほどの主張を繰り返し、そしてこう返してくる
「例えそれがFaxでも・・・お前はパーミッションを手にしたんだ!それで問題は無かっただろう、それに俺はもうお前から貰った料金をホーに支払っているんだ。俺に何が出来るんだ、俺の手元には240元残っているだけだぞ、それなのに全額払えと言うのか!!俺は自分のポケットから200も出して、お前に支払う条件を呑んでやっているんだ!それで十分じゃないのか・・・」
これも十分に予期していた・・・彼が金を支払った第三者に責任を転嫁する。後進国ならではの商売の考え方だ・・・
この頃には「ティー・アイ・シー」の常識って物が私にももう分かっていた・・・
しかし・・・ここで引くわけには行かない。それを認めると私には失ったお金以外に何も残らないのははっきりしているからだ!
ホーに私が会って彼女と話をしても・・・ホーはエヌに言えと言うに違いがない、エヌに戻ってきたらお前はホーの所にいったからもう俺には関係がないと主張するに違いない。そうしてたらいまわしにされた挙句に怒り損となるのは目に見えてる・・・
私は自説を強行に主張する・・・
「電話でも言ったろうが・・・ホーがお前とどういう関係にあろうが・・・俺にはまったく関係がない・・・俺は前にも言ったがお前は俺に対しての責任を負うんだ・・・ホーが何かミスしていると言うなら・・・お前が連絡して奴からリファウンドさせればいいだけの事だ・・・俺には関係ない・・・。それにお前が自腹で200出すと言うが・・・数学を知っているか?940-400は540・・・俺は自分のポケットからこの何一つ手に入らないツアーに支払う事になるんだぜ・・・」
エヌはこう言う
「俺はすでに連絡しているんだ、彼女は”パーミッションを出したから問題ない”と言っている。俺にこれ以上何が出来るって言うんだ!!」
ここでしばらく話はまた電話と同じように平行線を辿る・・・
私は一度立場を変えて話をすることを提案した!
「O.K.お前さんの足りない頭では我々に何が起きているか・・・理解できていないようだから立場を変えよう、お前が客で俺がエージェントだ・・・」
「お前は俺にツアー代として1500支払った、俺が現地で会うガイドを紹介して実際に出会ったら・・・条件が出鱈目だ・・・お前は交渉してたった1/3の500、それも俺がガイドに渡した金額が500だからといってそれだけ手にした・・・、残りの1000・・・お前はどうするんだ???答えて貰おうか???」
エヌはこう言う・・・
「お前の言っていることは理解できている・・・だがな・・・そうであってもな・・・俺は”パーミッション”を出してお前はラサに付けた・・・それに俺は既に1200元ホーに支払って・・・」
また私はこう言う
「何度も言っただろう・・・俺はお前に金を払ったんだぜ・・・俺の領収証にはお前に金を払った”事実”があるだけだ・・・そしてお前が何もやらなかったという結果もな・・・ホーに責任を取らせるのは・・・お前の”仕事”だ。俺がやることじゃぁない・・・」
エヌは私にこういう
「インポッシブル・・・!ホーに責任を取れとは言えない、俺はもう確認しているんだ・・・どうしてもというなら・・・お前が連絡してくれ・・・」
この辺りは彼と私と考え方の違いの最大のポイントで、お互いの論戦が平行線になる原因だ・・・
彼の考え方は彼は彼女に支払って、私にFaxを出した段階で責任自体が無いという考えで
私の考え方は料金を支払って窓口になった以上、もし何か発生したときには彼に責任があるという考え
だからだ・・・
そして・・・なんとなく分かっているのはホーはエヌよりも立場の強い場所にいるという事だ・・・
だが・・・今一度強く押してみる
「何度も言わせるなよ、ホーは俺とは関係ない・・・お前がホーとの間に何も出来ないと言うのが俺には理解出来ない・・・お前がホーに言って金を戻して俺に渡せば済むだけだ・・・」
「インポッシブル・・・インポッシブル・・・!」
口調こそ変わらないもの、彼は明らかに消耗も、そして困惑もしているのが目に見えて分かった・・・
さらにエヌはこう続ける・・・
「お前は俺にああしろ、こうしろというが・・・それは無理だと言っているだろう・・・分からないのか・・・ホーにももう確認しているんだぞ!それにFaxとは言え渡してラサにいくのに問題は無かっただろう・・・それなのに全額か?お前は一度400でいいといっただろう・・・・なんで前言を覆してまた全額なんて言うんだ!!俺はタダでお前の為に働くことになったんだぞ!時間も、電話も・・・」
私は彼の消耗し、そして硬化させてきた態度を見て「潮時」というのを考え始めていた・・・
ケリを付けるなら・・・そろそろいい頃合だろう・・・お互いの考え方の違いというのはもう分かったし・・・ここは前言通りに540は諦めよう・・・
こういったことはやり過ぎると全部失うからだ・・・
ただ・・・540というのは何も考えずに諦めるにしては大きすぎる・・・
少なくとも・・・相手に否を悟らせ・・・そして・・・精神的なダメージを与えてやる・・・
俺が失う金額と等価になるように・・・
そしてついに私の持つ交渉術の最大秘奥義
「謝り殺し(あやまりごろし)」
を炸裂させる決意を固めた・・・
この秘奥義の威力は・・・懇切丁寧に相手の否を非難しながらそれを知らなかった私に否があるからそちらは悪くないと色々な例を挙げて相手を責め立てるという性質の悪い奥義である・・・
当然のことながら、並ならぬ技量と、そして高度な演技力が要求される必殺技だ・・・!
この奥義の問題は、使った側の「人間性の悪さ」を際立たせてしまうという、何とも「他人受け」しない秘奥義だが・・・
これをやるしかないだろう・・・
交渉はこれからクライマックスを向かえる・・・
ミスは許されない・・・!!
私はゆっくりと立ち上がり、部屋の中をさも考え事をしながらというように歩き始め、声のトーンを下げて彼の方に時折視線を移して話し始める・・・
「どうやら・・・この件は俺が悪かったようだ・・・お前が俺から全額受領して領収証を渡したとはいえ・・・お前が誰かにお金を渡したらお前の責任がなくなるという摩訶不思議なシステムを・・・俺は知らなかったようだ・・・申し訳ない・・・」
「・・・」
「それに・・・俺は明らかに”世界標準”でお前が仕事をしているから”常識”に沿ってクレームを出せばいいとだけ考えていたが・・・お前の標準は”子供標準”で”大人の仕事”じゃないと言うことも知らなかった・・・それなのに・・・申し訳ない・・・」
「・・・」
「さらに・・・なにか起きたときに・・・お前の能力が明らかに欠如していて・・・対応が出来ないということも・・・まったく想像すらしていなかったんだ・・・俺が知らなかったのが問題だ!謝らせてくれ・・・」
「・・・」
彼は無言になる・・・かなり堪えているようだ・・・
私はこうさらに続ける・・・
「俺は今・・・俺にとって大事だと思っていた540は諦める・・・お前の言ったとおりに”たった”400でいい・・・お前の仕事はまったく意味が無かったが・・・お前の馬鹿さ加減を考えに入れていなかった俺のミスだ・・・謝らせてくれ・・・申し訳ない・・・」
「・・・」
「それに・・・お前が仕事と言うことに対するプライドも・・・責任感も無いことにまったく俺は気付かなかったんだ!お前を信用できる男と思い込んでしまっていたんだ・・・明らかに俺の勘違いだったんだ・・・・申し訳ない・・・」
「・・・」
そういって、彼の机の正面の椅子に座る・・・
彼は無言だ・・・唇を噛み締めている・・・それはそうだ・・・丁寧にここまでコケにされて怒らない人間はいないだろう・・・彼が激昂したら・・・そのときは向こうに併せて激昂するかわざと冷静にするか・・・そのときに考えよう・・・
彼にこう問い合わせる
「答えてくれ!俺は540ドブに捨てて”たった”400で後は泣くといっているんだ・・・どうなんだ・・・」
私のこの一連の台詞に演技力・・・
もし・・・公開されていたのなら・・・・・・
今年の「オスカー」は私で決まりだっただろう・・・
密室の中での戦いだったので、観客は誰もいなかったが・・・
彼は答えを要求する私を遮り時間を少しくれと言う・・・
・・・そして・・・
意外な一言が・・・
「俺の心臓病が・・・今もし何かあったら・・・責任を取ってくれ・・・」
「・・・???」
「・・・!!!」
「へっ???」
なんちゅう飛び道具を持っていやがるんだ・・・コイツは・・・・それは・・・それは・・・予想外の答えだぞ・・・
私はしばし呆気に取られる
その隙に・・・
彼の反撃はしたたかだった・・・
「200でどうだろうか・・・」
脳で反応するより先に口が反応していた・・・
「ノー!」
言って自分の回答にホッとする・・・危ない所だった・・・ついつい「イエス」などと言ってしまっていたら・・・
しかし・・・この状況、あれだけの罵詈雑言を浴びせても・・・損害額を少なくしようと仕掛けてくるとは・・・
中国4000年・・・私の敵う相手ではなかったのだろうか?
ただ、最低の400は手にしてやる・・・
「いいや、200程度じゃだめだ・・・俺は”たった”400貰えれば良いんだ・・・渡してもらおうか・・・」
彼はブツブツと「何で俺のポケットマネーから200も出すんだ」というような事を呟きながらお金を取り出し100元札を4枚それも見ているとわざわざ汚いものを選んで・・・渡してきた・・・
取り合えず400は手にした・・・そして彼から貰った1440元の領収証を渡す。彼は明らかに意気消沈して手に取った領収証を破り捨てて、灰皿に投げ捨てる・・・
しかしまだ終わっていない・・・私は540失ったままだ・・・彼にこう言う・・・
「よし、支払いは終わりだ・・・ただ・・・俺はお前に540払ったままになっていることは分かっているだろう・・・540元の領収証を出してもらおうか・・・まあメモでいいぜ・・・」
彼は私に再度「俺が渡した領収書(さっき破って捨てたもの)は」と聞いてきたぐらいだからかなりの精神的なダメージを受けていたのだろう。私が彼の灰皿から切れ端をつかんで示して気付いたぐらいだったから・・・
そして彼は目の前にあったA4サイズの紙のしたの部分を切り取り、「これでいいか?」と確認した後で「540元パーミッション代として私から受領した」と言う意味の文章を書いてサインして渡してきた
ちなみにこれが結末のレシート
写真
彼はその間じっとうつむいたままだ・・・
しかし・・・私の損害は540、彼の損害は200、明らかに私の損失が上だ・・・
最後に私はこういう
「今回の件は本当に申し訳なかった・・・俺がお前に金を払ってもその契約不履行をお前が取る能力が欠如しているなんていることは・・・俺の常識からいってありえないと思っていたからだ・・・重ねて謝らせてくれ・・・」
「受領した金額は余りにも少ないが・・・お前の限界以上の処理をしてくれたと思う・・・お前を俺は賞賛するぞ・・・」
彼は・・・下を見たまま・・・こう伝えてきた・・・
「俺は・・・お前との・・・契約不履行を謝る・・・申し訳ない・・・」
「・・・」
「・・・」
この一言が・・・もっと前にあれば・・・私もここまでやらなかっただろう・・・人それぞれの性格にもよるだろうが・・・
彼が最初に私に謝って・・・そして彼の出来る最大を最初からしてさえいれば・・・
そして・・・付け足すかのようにボソッともう一言・・・
「誰かが・・・誰かが・・・俺の200を持っていってしまったんだ・・・」
それは彼の敗北宣言だった・・・
誰かというのは、私の事であるのか?それともホーの事なのか??
彼に同情しかけたが・・・
そう言えば私は「540」も失っていた・・・彼より多い額だった・・・
だが・・・心に受けた痛手はどうだったのだろうか・・・??
私は彼にこう返す
「お前はもう謝らなくていい、健康に気をつけてな・・・」
「そして・・・次はきちんと上手くやることを・・・願っているよ・・・」
彼が小さく「サンキュー」と答えた・・・
そして私は部屋を出る。
少し振り返ったとき・・・見えたのはまだ下を向き・・・俯いた彼の姿だった・・・
これが最終決戦の舞台となったCITSのエヌのオフィス