富士日記

2005-05-08 20:08:31 | 読書
富士日記〈上・中・下〉 武田 百合子 中公文庫

私が影響を受けた日記文学は、枕草子や紫式部日記ではなく、武田百合子さんが書いた「富士日記」だ。
二十代の前半に初めて富士日記を読んで 武田泰淳の小説よりずっといいと思った。

日記を書くのは恥ずかしい下品なことだと教育されてきたから(ロクでもない親だ)
富士日記を読んだときは、感動して泣きそうになった。

派手な顔立ちで、庶民的、ちょっとがさつな雰囲気の普通の奥さん。
昭和30年代終わりから50年代にかけての13年間、最後は武田泰淳の死で終わる。
杉並の自宅(高井戸近辺)と富士山麓の別荘を、武田百合子は旦那の泰淳氏を乗せてせっせと往復した。

等身大の日記には、高尚なことは何も書かれていない。
天気、買い物、別荘での食事の内容、飼い犬/飼い猫(車に積んで移動していた)、娘の花ちゃん。
ただただひたすら書きまくっている。
読めばわかるが、別荘生活と言ってもあきれるほど質素なのだ。

別荘地のご近所には大岡昇平宅があって、親しく交流していたらしい。
日記の中での大岡昇平の奥さんは、成城住まいの上品な上流婦人の雰囲気が漂っていた。
大岡さんちの犬は、うちのと違って上品だ。そんなことも書いてあったと思う。

富士日記は泰淳氏も読んでいた。泰淳氏がひとこと加筆している箇所が時々現れる。
妻の日記をどう思って読んでいたのだろうか。
自分の死後に出版されて、人気の日記文学になるとはさすがに思わなかっただろう。




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