蛇を踏む 川上弘美

2005-06-06 23:15:11 | 読書
表題の「蛇を踏む」は、1996年上半期の第115回芥川賞の受賞作。
他に「消える」「惜夜記(あたらよき)」が収録されている。

女流の真骨頂ですね。幻想小説と色分けする人もいるようですが、川上弘美自身が書いているとおりで、これは「うそばなし」です。

川上の作品は「センセイの鞄」(谷崎潤一郎賞受賞)が初読だった。
こちらは万人向け、男の読者でも大丈夫な造りになっているから、迷わずお薦めする。

センセイの鞄を読んで足慣らしをしたら、蛇を踏む、もぜひ。

若い女性が公園で蛇を踏んづけた。
蛇は中年女の姿に変わり、ヒロインの部屋に棲みついてしまう。
蛇は家事をしながらヒワ子の面倒を見る。「蛇はいいわよ、蛇の世界は暖かいわよ」

これだけでもかなり変なのだが、ヒワ子が勤めている数珠屋にも蛇と棲む人がいて、
蛇と共棲まいは特別なことではないのだ。
読むのは簡単でとても面白いが、読者に訴えたいことは(あるとすれば)なになのだろう。

カフカの小説に似ている。倉橋由美子もかなり近い。不思議の国のアリスでもある。

二番目の「消える」、こちらは完全にカフカの世界だ。

このごろずいぶんよく消える。
一番最初に消えたのが上の兄で、消えてから二週間になる。
(中略)
兄の前にはゴシキが消えていた。



ゴシキは壺だ。
わけわからんですが面白い。私の好みとしては蛇よりこっちだ。

最後の「惜夜記(あたらよき」は夜がテーマの短編の連作である。
これは詩を散文で書いたものだろう。最近読んだ「寺山修司少女詩集」に似ている。

こうやって感想を書いてみると、なにか一連のものがありますね。
あらすじだけ聞くと気持ちが悪いような気がするでしょうが、そうではなく良いところだけが印象に残る。

川上弘美の人柄のせいだろうか。



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