センセイの鞄 ・・・ 川上弘美

2004-09-21 23:00:56 | 読書
これは単行本のカバーです、私は文庫本で読みました。文庫本の装丁の雰囲気もこれに近い。

川上弘美のエッセイは新聞紙面で読んでいたが、小説を読むのはこれが初めて。
バリ・インターコンチネンタル・リゾートのプールサイドで読んだのだから、私としては破格の扱いだった。

40歳に手が届く独身女性と、彼女の高校時代の国語教師だった松本春綱老先生の交流を描いたオムニバス形式の小説である。

大町ツキコさんと元・国語教師のセンセイ。
駅前の一杯飲み屋で二十数年振りに再会し、飲み友達となったふたりの交流は仄かな恋心を感じさせながらも、決して崩れることはない。

淡く、それでいながら親密な二年間を舞台に小話が綴られていく。
居酒屋、花見、キノコ狩りの山の中で、島への小旅行、この世とあの世の境にあるどこかの干潟。
ゆったりとした落ち着いた語り口だから、シュールな設定でも違和感を感じることはなかった。

最初の二年間、恋愛を前提としたおつきあいをした次の三年間が過ぎて
ツキコさんはいつもセンセイが持っていた鞄を貰った。
センセイはこの鞄をツキコさんへと書き残してくれていたのである。
そう、恋愛期間の三年間はこの小説にはほとんど登場しない。

《ツキコさんはセンセイの鞄を覗きこむが、鞄の中にはからっぽの何もない空間が広がっている。ただ儚々(ぼうぼう)とした空間ばかりが広がっているのである》
最終章の一番最後の一節、私はじんわり浮かんだ涙を指で拭きとった。

背筋をしゃんと伸ばし、心持ちを高くして、センセイのように心穏やかに老いていくことはできるのだろうか。それは絵空事、憧れの老いの姿だろうが、それでもかくありたいものである。



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