
・「墜落のある風景」/マイケル・フレイン
ぼくは本を書くために田舎に引っ越してきた。妻と。ぼくたちの小さな赤ちゃんと。ぼくは哲学から絵画の方面へと専門分野を転向しつつあるところだった。漠然とした根拠はないものの、ここで何か書けるという予感はあった。
新しく越してきた者の常として、ぼくらは隣人のチャート氏に食事に招かれた。チャート氏はぼくらが絵画を専門としているのを知り、ぜひ我が家のコレクションを見てほしいと申し出てきた。なるほど、ぼくが専門としている時代とは外れているものの、それなりに価値のあるコレクションではある…しかし、物置に置かれた一枚の絵を見るなり、ぼくはあっと息をのんだ…もしかすると、この絵はブリューゲルではないのか!?
ぼくはつとめて無表情を装いながら、チャート氏の話を聞いていた、彼はこの大きな屋敷を維持するために、少しずつ絵のコレクションを売りさばいているという。もしこの中で価値のありそうなものがあれば、何枚かを売って金にしたいと。ぼくはこの話に食いついた。コレクションの何枚かを画商へ売って、手数料を山分けする傍らで、このブリューゲルはあまり価値のない物だったよ、と言ってぼくの手に入れてしまおうと。その瞬間から、ぼくの中でこのブリューゲルは「ぼくの絵」となった。世界的な富と名声を得るための、ぼくの絵。
ブリューゲルは16世紀ベルギーの画家で、この時代の多くの画家がそうであるように、画家自身についての生涯についてはあまり詳しくわかっていない。「雪中の狩人」「牛群の帰り」「暗い日」「干し草狩り」「収穫」など、農民の当時の生活を緻密に描きこんだ画家である。これら5枚は一年の四季を表現した連作と見られているが、四季というのに5枚あるのは不自然だ。夏のテーマの作品が2枚もあるのもおかしい。となれば、これら5枚のほかに失われた絵が存在するかもしれないという仮説も、ごく自然である。ぼくの絵はブリューゲルの連作の一部、「春」に相当するものではないのか…?こうしてぼくはブリューゲルの謎を解き明かしつつ、チャート氏から絵を奪うための作戦を着々と進めていたのだが…?
話は主人公ぼくのブリューゲル研究と、チャート氏との巧妙な騙し合いの2つで構成されているんだけど、ブリューゲルの謎自体があんまり面白くないし、よくある歴史的な宗教弾圧の話に収束してしまうので、かなり退屈な感じ。しかも主人公が学者肌なものだから、ついつい研究に夢中になってしまって、絵を買い取るという現実的な問題にほとんど手をつけていない…という頭でっかちな状態に陥ってしまう。まあそこらへんは後々の展開に影響してくる重要なポイントではあるんだけどね。
物語が大きく動くのは終盤も終盤、実はチャート氏にはいろんな裏事情があって…という事実が発覚してからなんだけど、やっぱりこうなるまでの展開が遅い…。美術品の素人が金儲けをたくらむ、そういう話は面白いんだけど、やっぱりどうにもそれまでの道中が長すぎます。
ぼくは本を書くために田舎に引っ越してきた。妻と。ぼくたちの小さな赤ちゃんと。ぼくは哲学から絵画の方面へと専門分野を転向しつつあるところだった。漠然とした根拠はないものの、ここで何か書けるという予感はあった。
新しく越してきた者の常として、ぼくらは隣人のチャート氏に食事に招かれた。チャート氏はぼくらが絵画を専門としているのを知り、ぜひ我が家のコレクションを見てほしいと申し出てきた。なるほど、ぼくが専門としている時代とは外れているものの、それなりに価値のあるコレクションではある…しかし、物置に置かれた一枚の絵を見るなり、ぼくはあっと息をのんだ…もしかすると、この絵はブリューゲルではないのか!?
ぼくはつとめて無表情を装いながら、チャート氏の話を聞いていた、彼はこの大きな屋敷を維持するために、少しずつ絵のコレクションを売りさばいているという。もしこの中で価値のありそうなものがあれば、何枚かを売って金にしたいと。ぼくはこの話に食いついた。コレクションの何枚かを画商へ売って、手数料を山分けする傍らで、このブリューゲルはあまり価値のない物だったよ、と言ってぼくの手に入れてしまおうと。その瞬間から、ぼくの中でこのブリューゲルは「ぼくの絵」となった。世界的な富と名声を得るための、ぼくの絵。
ブリューゲルは16世紀ベルギーの画家で、この時代の多くの画家がそうであるように、画家自身についての生涯についてはあまり詳しくわかっていない。「雪中の狩人」「牛群の帰り」「暗い日」「干し草狩り」「収穫」など、農民の当時の生活を緻密に描きこんだ画家である。これら5枚は一年の四季を表現した連作と見られているが、四季というのに5枚あるのは不自然だ。夏のテーマの作品が2枚もあるのもおかしい。となれば、これら5枚のほかに失われた絵が存在するかもしれないという仮説も、ごく自然である。ぼくの絵はブリューゲルの連作の一部、「春」に相当するものではないのか…?こうしてぼくはブリューゲルの謎を解き明かしつつ、チャート氏から絵を奪うための作戦を着々と進めていたのだが…?
話は主人公ぼくのブリューゲル研究と、チャート氏との巧妙な騙し合いの2つで構成されているんだけど、ブリューゲルの謎自体があんまり面白くないし、よくある歴史的な宗教弾圧の話に収束してしまうので、かなり退屈な感じ。しかも主人公が学者肌なものだから、ついつい研究に夢中になってしまって、絵を買い取るという現実的な問題にほとんど手をつけていない…という頭でっかちな状態に陥ってしまう。まあそこらへんは後々の展開に影響してくる重要なポイントではあるんだけどね。
物語が大きく動くのは終盤も終盤、実はチャート氏にはいろんな裏事情があって…という事実が発覚してからなんだけど、やっぱりこうなるまでの展開が遅い…。美術品の素人が金儲けをたくらむ、そういう話は面白いんだけど、やっぱりどうにもそれまでの道中が長すぎます。