寺子屋ぶろぐ

日記から身近な法律問題の解説まで。

相続人って誰なのよ④(生まれてますか?)

2010年05月08日 | 相続制度
前回、相続人には、相続開始時に生きている推定相続人がなれるとご説明しました。

今回は、相続関係を考える上で、「生きている事とはどういうことか」のご説明をします。

端的に言えば、「胎児は相続人になれるのか(胎児に相続権はあるのか)?」ということです。

民法3条第1項では、次の様に定められています。

「私権の享有は、出生に始まる。」

要するに、何らかの権利(たとえば相続権)は出生しないと取得できないよ、という事です。
この規定からすれば、胎児に相続権はなさそうです。

一方で、医療技術が進歩した今日、死産の確率はかなり低下しています。
これを踏まえ、胎児に、ある一定範囲の権利の取得を認めても良いのではないかとする考えがあります。加えて、十月十日という期間の差(出生の先後関係)で相続権の有無が決まるのはおかしいのではないかという疑問があります。

ここから、「ある一定範囲の権利」に相続権を含めて良いのではないかと結論付けることも可能です。

というわけで、民法886条第1項です。

「胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす。」

民法は、後者の立場を採用しました。
したがって、胎児には相続権があります。

たとえば。
お父さんとお母さんがいて、お母さんのお腹の中に胎児である僕が居ます。
ここで、お父さんが亡くなると、お父さんの財産は、お母さんと胎児である僕が1/2ずつで相続します(配偶者別格+第一順位相続)。
つまり、胎児である僕は、1/2の相続権を取得しました。

では、亡くなったお父さんの財産について、お母さんと胎児である僕との間で遺産を分割するための協議は出来るのでしょうか?

できるとする立場は、胎児には相続権が認められているのだから、それに基づいて遺産分割協議をする事に問題はない、と考えます。
できないとする立場は、生まれてこない可能性だってあるのだから、少なくとも出生するまでは遺産分割協議は出来ない、と考えます。

民法886条第1項の「既に生まれた」という表現との兼ね合いで、「できない」とする立場には、より踏み込んだ説明が必要です。
この点につき、「出生することを条件として胎児に相続権の取得を認めたのが民法886条第1項なのだ」と説明します。

つまり、民法886条第1項は・・・
「胎児は、相続については、(無事に出生した場合には、胎児時代にさかのぼって)既に生まれ(てい)たものとみなす。」
と読むのだ、と説明します。

…ちょっと、無理がある様な気はします。
しかし、実際、生まれて来ない可能性も否定できません。

したがって、相続関係を確定するための手段である遺産分割協議を、このような不安定な状態で実行することは好ましくないと考えられています。

つまり、「できない」という立場が多数を占めているという事です。

ちなみに、胎児が「既に生まれたもの」とみなされるのは、相続権のほか、不法行為による損害賠償請求権および遺贈を貰える権利です。

・・・「相続人って誰なのよ⑤‐1(相続分が半分に)」につづく。