寺子屋ぶろぐ

日記から身近な法律問題の解説まで。

相続人も大変です⑥(申し遅れましたが…)

2010年07月14日 | 相続制度
民法910条は言います。

「相続の開始後認知によって相続人となった者が、遺産の分割を請求しようとする場合において、他の共同相続人が既にその分割その他の処分をしたときは、価額のみによる支払いの請求権を有する。」

…どういうこと?

状況をご説明します。

Aが死亡しました。
相続人は、子のBとCです。
BとCは、遺産分割協議をして、相続財産の分配もすっかり終わりました。
もちろん、円満です。
しかし。
ある日、Bの自宅に、Xと名乗る人物がやって来て言いました。
「僕にも相続権があります。Aは僕の父ですから。」 
そう言って、Xは、Aの遺言書をBに見せました。
そこには、「Xを認知する」と記載されていました…。

認知。
これは、遺言ですることもできます。
遺言認知と言います。
そして、父親との関係で問題になります。

婚外子(非嫡出子)と父親との間には、自然的親子関係はありますが、法律的親子関係はありません。
つまり、血は繋がっているけれど、法律上は親子じゃないという事です。
法律上は親子ではないのですから、法律の制度である相続関係は、二人の間にはありません。
その二人の間に、法律的親子関係を発生させる手段が、認知です。
認知すると、婚外子の出生時にさかのぼって、親子関係が発生したとされます。

すると。
遺言認知により、XとAとの間に法律的親子関係が発生し、XはAの相続人としての地位を取得したことになります。

Aの相続全体として考えた場合、Aの相続人は、B・C・Xです。
先の遺産分割協議は、Xを抜かして行われました。
遺産分割協議は、相続人全員の合意が無いと成立しませんでした。

したがって、論理的には、BとCだけで行った遺産分割協議は無効です。

しかし、「それじゃあんまりでしょ」という事で、民法910条が創られました。

なので、既に終わってしまった遺産分割協議を覆すのではなく、それはそのままで、後はB・CとXとで、お金でやり取りして下さい、という事です。

ちなみに、相続分は、B・Cが各2/5で、Xは1/5です。
したがって、Xは、相続財産の1/5に相当するお金を、B・Cに対して請求できます。

「相続人も大変です」シリーズは、今回で終了です。
次回からは、相続分が、具体的な事情に影響を受ける場合についてのご説明をします。
「寄与分」と「特別受益」についてです。

…「諸事情が考慮されます①(尽くして尽くされて)」につづく。