寺子屋ぶろぐ

日記から身近な法律問題の解説まで。

相続人も大変です⑤‐2(遺産から出た賃料って?)

2010年07月02日 | 相続制度

不動産の賃貸経営を行っている人が亡くなった場合に考えなければならない点が1つあります。

それは…
相続開始から遺産分割までの間に発生した賃料債権は誰が取得するのか?

結論は、「相続分に応じて、各相続人に確定的に帰属する」です。
平成17年9月8日の最高裁の判例です。

なんで?
というわけで。

具体例は…
賃貸経営をしていたAが平成22年1月1日に亡くなりました。
賃貸経営の対象である不動産を「甲不動産」としましょう。
そして、相続人として、子であるBとCが居るとします。
BとCは、平成22年5月5日に遺産分割協議をし、甲不動産をBが単独で相続することで合意しました。

では。
ご説明します。

遺産分割協議が成立した5月5日までは、甲不動産は、BとCの共同所有状態でした。
遺産分割協議が成立したことにより、その共同所有状態が解消され、1月1日にさかのぼって、Bの単独所有だったとされます。

しかし、それじゃ、1月1日から5月5日の間に、Cから、売買などによりその持ち分を取得した人(「X」とします)が救われないじゃないですか、と考えられます。
なので、法は、「ただし、第三者の権利を害せない」という規定を設けました。
つまり、1月1日から5月5日まで、甲不動産がBとCの共同所有状態だったということを完全に無視せず、第三者であるXが権利を取得できる可能性を残した、という事です。

ならば、遺産分割の遡及効に勝つかも知れないXの登場の可能性も織り込んで、相続開始から遺産分割までの間の賃料債権の帰属を考えておかなければいけません。
なぜならば、遺産分割の遡及効に勝つXは、当然、その持ち分に応じてではありますが、甲不動産の賃料債権を取得する事になるからです。

というわけで。
上記の判例は、相続開始から遺産分割までの間の賃料債権は…
①遺産とは別のものであり、BとCがそれぞれの相続分に応じて確定的に取得する。
②この事は、後で行われた遺産分割協議による影響を受けない
としました。

こうしておけば、遺産分割の遡及効に勝つXが登場した場合でも、賃料についてCとXの間で精算してもらえば済みますよね。
「甲不動産の(共同)所有者だから賃料を得られる」という事とも矛盾しません。

なので。
賃貸経営をしている人が亡くなった場合、その相続人は、相続開始から遺産分割までの間の賃料を、その不動産の帰属とは無関係に、自分の相続分に応じてもらう権利があると、覚えておきましょう。

…「相続人も大変です⑥(申し遅れましたが…)」につづく。