口に出せない、ぜったい、
ありがとうなんて。
畝のカフェで休んでいると冷蔵庫のかたちをした恋人が走ってくる。よう、っていうので、よう、って答える。そのあと、こんな静かな女ってなによ!が、騒がしい場所にどすんと、腰をおろす。冷水が気だるさに溢れる。かなりネガティブなため息をつきながら勝手にしやがれの真似して唇に指。あっ、サングラスをしたジーン・セバーグの、ドアが重い。呼吸がしづらくて言葉も切れ切れに、ちょっとこれ言い訳っぽいの、引っぱがしてっと、小脇によく冷えた別れ話を抱えている。あまりにも怪しいので無視。日焼けしていない気持ち悪い白い肉体に真っ赤な口紅は似合わないぞと攻め込むと、泣きながらケツで走って逃げる。恋人のかたちをした冷蔵庫は傷つきやすい。コーラが一本、ひかえめに畔に落ちている。空瓶だ。そいつ、飲んだ。口に出せない、ぜったい、ありがとうなんて。それから、雲ひとつない青空を飲んだ。カフェのマスターが心配そうに、覗き込んでいる。大丈夫。ただひたすら、ぐびぐび、空虚を飲みこんでいるだけだから。