旧態依然の長物

電話にでるのが大嫌い。
とくに家の電話に出るのが嫌い。
携帯電話がこれだけ普及した昨今、固定電話といった旧態依然した長物は不要ではあるものの、社会常識が撤去を許してはくれない。

会社の電話に出るのは相手が大体社内の人間か取引先って相場が決まってるのでそんなでもないけど、家の電話は誰から掛かってくるかわからないから嫌いだ。

かつて、就職する前に実家にいた頃に何年にもわたって「コムサ・デ・モードさんですか？」という電話が掛かってきた。
決まった相手ではなく、いろんな人から掛かって来ていたようだ。
最初の頃は電話に出た家族同様に「違います」だのと言っていたが、自分だけは出来るだけ相手をするようにした。
なんだか判らない約束やなんやらにも「ハイ、判りました。承知しました」だの、「では伝えておきます。失礼ですが？」などといって相手の会社の名前を聞いたこともあった。
同様に蕎麦や何ぞと間違って掛かってくる電話にも真摯に受け答えをするようにしている。
コムサ・デ・モードについては、高校時代からの友人がこちらに電話する際にそらで掛けていると、「コムサに掛かってしまうことがある」といっていたので、余程番号が似ていたのだろう。
似てるよしみで掛かってきた電話に受け答えをしてあげるのも悪くない。

嫌なのが、マンション販売会社。
新聞にマンションのチラシが入っていたので冷やかしに行ったことが何回かある。
かつて住宅建材・水周り関係の販売会社に従事していたこともあったので、興奮気味に35年ローンを組んでマンションの契約書にサインをする世の夫婦よりはそれらについて詳しい。
色々と嫌味な質問をして販売員の言い訳を聞くのが楽しい。
それらの話は大概が「そこまでのコストは．．．。」で話が寸断されてしまうのだが、もっと楽しいのはマンションに隣接する土地について尋ねること。
「南側が他所の駐車場なんですね。いずれはマンションが建つかもしれませんね」
「東側のドラッグストアは賃貸契約が終わったら、いずれはマンションが建つかもしれませんね」
西側のマンションはここの5階にまでしか掛かってませんが、かなり老朽化していますから、いずれは新しい高層マンションが建つかもしれませんね」
販売員は隣のドラッグストアの土地はここのマンションと同じ地主だったので、5階以上の建築物を立てる計画はないだの、サッカー中継のアナウンサーのように早口でまくし立てるが泳いでいる眼が楽しい。
話が脱線したが、一度そういうところを尋ねると数年は放っておいてはくれない。
土曜日の朝になると電話が掛かってくるし、断ると新しいマンションが建った際や、名簿を見た別の辺売いんからの電話で安眠を阻害される。

ユニクロに下着にするTシャツを買いに行ったときのこと、3つあるレジのひとつに並んでいると、前に並んだ中年女性がカードを使って買い物をしたため、後から別の列に並んだ連中のほうが早く会計をしませていた。
こういうのが許せない性格なので、「レジが開いたら先に並んでいる客を優先してよ」と自分の会計のときに意見をしたが、すぐに表情が素に戻るビジネススマイルで「申し訳御座いませ～ん」と言われて終わり。
店内にあった意見を書いてユニクロ本社の広報だかに届ける切手不要の葉書に文句を書いた。
「貴社は会計の際に一列に並んで順に開いているレジで対応するシステムをとっていないため、並んだ順番が早いにも関わらず長い時間待たされて不愉快な思いをしました。サービス業として最下層に位置する銀行ですらCD機の前に一列に並べるというのに、若く先進的なイメージでうっている貴社が時代錯誤な顧客対応をしているのは滑稽です」
忘れもしない翌週の土曜日の8時30分頃。
安眠を貪っていると、葉書に名前を書いた店舗の店長から電話が掛かってきた。
順番を飛ばして対応したことへの詫びと、日曜日は客が多いので一列にしているという言い訳。
おたくではTシャツか黒い靴下しか買わない大した客じゃないから忘れてくれといって電話を切った。
朝っぱらから電話で叩き起こされたので気分を害した。
「先日当葉書にて、貴社へ小生なりの進言をしたところ、名を挙げた店舗の店長殿より週末の早朝に親切丁寧な電話を頂きました。お気持ちはありがたく頂戴いたしますが、疲れが残って睡眠を多くとろうとしている週末はせめて10時以降に電話をして頂きたく存じます」
って、余程また葉書を取りにいって文句を書いてやろうかと思ったが億劫なので止めた。

父親が死ぬとハイエナのような墓石屋からの電話が鳴り止まず、子供が幼稚園に上がると教育関連商品のセールスの電話が鳴り響く。
電話はだから嫌いだ。