先日,BDAの中国銀行拒否問題に関して,大笑いさせてもらったのですが,あれから情報を仕入れつつ,少し考えてみました。六者会議の行方はえらく混迷の度合いを深めています。ぐだぐだになるだろう,というのは大方の見方で,その意味においてはさほど不思議なことではありませんが,ちょっと整理整頓したいと思います。
●各国の立場●
北朝鮮の立場 核は廃棄しません。核施設も廃棄しません。開発は続けます。でも,ちょっと懐が寂しいので,開発を休んでやろうかと思っています。皆さん,休んであげるので,金よこせよ。
アメリカ:イランで忙しい。最近は南米方面も何かとわずらわしい。北朝鮮は後回し。
中露:国境付近動乱はうっとおしい。でも,核もいや。
日本:拉致解決せよ。
韓国:早く援助したーいbyノムヒョン。国民はウザイのはいや。
北朝鮮放置,というのがコンセンサス(日米露中)
●六者会議のテーマ●
しばしの平穏を(日米露中)。
北朝鮮:なんかくれ。
●このテーマとBDA処理とがかみ合わない●
BDAの処理
①BDAはアメリカとの取引を禁止する
⇒ BDAは事実上,破綻した
②今後,世界中の金融機関が北朝鮮との取引をしない
⇒北朝鮮は今後,決済銀行がなくなる
③2500万ドルはマカオ(中国)にまかせた この2500万ドルの引き受け銀行がいない
⇒2500万ドルが宙に浮いたまま
※そもそも,BDAの金庫は空なので,北朝鮮に2500万ドル返すことはムリ?
実際,BDAから既に預金者が預金を引き出してしまったことは十分考えられます。取り付け騒ぎがあったという報道を目にしたことはありませんが。また,世界中の機関はBDAに金は貸さんでしょう。転覆する可能性が非常に強い,というか事実上破綻してますから。
この分析は,2chでは早くから指摘されてきました。私も大いに参考にさせていただいています。
【wktk】韓国経済ワクテカスレ 3won【国家財政キムチ色】 http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2007/01/09/20070109000004.html
しかし,この2chスレの見方はBDA処理に関してのものであり,六者会議全体を俯瞰したものではありません。
なぜ六者会議を開いたのか。ただ制裁を強化するだけなら,六者会議の必要がないし,勿論北朝鮮と取引する必要も無い。という疑問が私には涌いてきます。
さらに,一般的にはアメリカはへたれたと捉えられているし,2500万ドルにしてもアメリカのミス,という見方がなされています。アメリカにとっては賢いやり方には見えません。
わざわざそんな回りくどいことをしないで,六者会議などせずに,桜の紋所見せて(アメリカだからイーグルか?),
「2500万ドル没収。今後北朝鮮に決済銀行はないよ。一件落着。」
と見得を切ってれば,「正義はアメリカにある」と拍手喝采だったと思うのです。
また,BDAの結果は六者会議の継続を非常に困難にするもの。 しかし,各国はなんらかの成果を期待してこの会議を再開しているはず。いきなり,会議をつぶすような真似をアメリカがしてきたわけです。
●この会議を眺めるアメリカの3つの視線●
アメリカの3つの視線
①対北強硬派ー以前の政府。核を制裁によって排除していこうとする人たち。
②対北柔軟派ー現在の政府,及び国務省。ハル次官補。核を話し合いによって排除していこうとする人たち。私の感想では,現在の政府は,核問題については先送りしたがっている。
③財務省ー核とかではなく,北朝鮮の偽札偽造,資金洗浄は絶対許さないとする人たち。これは,アメリカの総意だと思う。グレーザー次官補代理。
私は,この会議がもつれているのは,上記3つ,特に財務省と国務省②の間に齟齬が生じているからだと思います。
財務省の立場
しかし,BDAのアメリカとの取引禁止,というのは当初からの既定路線だったでしょう。そうでないにしても,選択の一つに入っていたはずです。金正日の資金洗浄ルートをつぶすことは,アメリカの非常に大切な,北のミサイル技術と同等かそれ以上の重要性をもっていました。何しろ,ドルの信用性にかかわることです。ドルに信用性がなくなれば,貿易赤字,財政赤字によって簡単にアメリカは破綻します。
偽札偽造は財務省にとっては絶対に看過できないこと。北朝鮮をつぶさなければ収まりがつかないでしょう。当然,BDAのアメリカとの取引禁止ー北朝鮮の新規決済口座開設不能という処置は当然です。
また,2500万ドルは汚れた金です。金融機関(中国銀行)がどういう反応を示すか,財務省ならば簡単に予測できたでしょう。中国銀行は民間銀行です。担当者は全員アメリカ留学経験者ばかりでしょう。中国銀行の担当者が空気を読むことは難しいことではないと思いますし,財務省から或いは財務省へ何らかのアプローチがあったとしても不思議ではありません。
北朝鮮の要望
対して,北朝鮮は口座資金の返還にこだわっていました。金正日やその取り巻きが金融のことにまったくオンチなのかもしれません。BDAのアメリカとの取引禁止の意味ー今後,北朝鮮の決済口座開設が非常に難しくなるーをよく理解できなかったか,そんなこと百も承知でただ目先のためだけに口座資金を取り返しにきたか。その辺りは私にはわかりませんが,北朝鮮が口座資金を欲しがっているというよりも,北朝鮮は金そのものが欲しい。そのように私には見えます。
国務省或いはアメリカ政府の立場
本来はBDAの問題は六者会議とは別個のもの。アメリカの根幹に関わる問題なのですから,北朝鮮を潰しにかかることは財務省的には当然の処置です。この件に関しては財務省は折れません。というより,アメリカの総意です。
国務省及び政府は,北朝鮮とは適当にやっていきたいわけです。優先順位は①イラン ②南米問題(ベネズエラがきなくさい) ③北朝鮮? でしょうか。民主党が躍進したこともあり,政府は前言を翻して北朝鮮と対話をすることにしたようです。
対話をする前に,米朝間にはいろいろな懸案が積み重なっていました。とりあえず,北朝鮮はBDAの制裁解除を求めてきました。本来なら,受けることができないのですが,どうも北朝鮮は金自体にこだわっているようでした。とすれば,突破口はあります。そう国務省は考えたのかもしれません。
そのBDA問題を六者会議再開のバーターとして組み込んだわけです。ここに,会議のそもそものグダグダの原因があります。
●2500万ドルの行方●
2500万ドルを中国銀行が引き受けて,この件は終わるかに見えました。ところが,意外なことがおきました。中国銀行が受取を拒否したのです。
いや,そもそも既にBDAの金庫には送る金がない,という見方もあります。 BDAはドル決済ができません。パトリオット法によります。同時多発テロによって生まれた法律です。コルレス先の銀行口座も封鎖されていますので,打つ手なし。
どこまでが,財務省の計算に含まれていたでしょうか。
BDAとアメリカとの取引禁止は当然の処置。
偽名を使った件でBDAが送金手続きに入れない,というのも当然わかっていたでしょう。
もし,BDAの金庫に金がないとするのならば,それも当然予想しなければならないできごとでしょう。
中国銀行の拒否はどうか。根回しがあってしかるべきなのに,それにも関わらず中国銀行が拒否してきた,ということは,根回しが不十分だったか,或いは別の思惑があるのか。この辺りはどこまで財務省の計算にあったかは私にはわかりませんが,何か不透明なできごとがおこっているような感じがします。
とにかく,財務省はある程度の筋書きを読んだ上で,或いは自分で筋書きを書いた上で,マカオ(中国)に下駄を預けたと思います。それはさほど難しくない筋書きだったと思います。陰謀というほどのもんでもありません。
中国はかまされたのでしょうか。この件に関しては中国は激しい抗議をしています。
アメリカは全額返却はムリだとかいいながら,猿芝居してたのでしょうか。
●政治の世界?●
アメリカは北朝鮮に歩み寄ったのは確かだと思います。 BDA問題は,そもそも核の問題とは別個の問題。北朝鮮を突き放すためなら,わざわざ北朝鮮に会って合意をする必要がありません。さっさと×の烙印をBDAに押して,北朝鮮をさらに追い込めばいいだけの話です。 だから,BDAをバーターにして六者会議を再開させたのは確かでしょう。アメリカが柔軟な,見方によってはへたれた姿勢を見せたわけです。
バーターにしたのは,口座資金の北朝鮮への返還。確かに汚れた金です。北朝鮮も信用できる相手ではありません。一方,北朝鮮から見れば世界は信用できないわけです。信用できない相手同士ですから,お互いに常識的な信義があるとは思いません。
しかし,いくら悪党同士の話し合いだとしても,闇で話しているわけではありません。一応,出るとこに出て話をつけているわけです。世界中の人も注目しています。 口座資金の返還は守るべき約束でしょう。それが六者会議を再開した条件なのですから。
ところが,アメリカはいくら資金返却の責任をマカオ(中国)に丸投げしたといえど,実質的にはアメリカのせいで資金が帰ってこないわけです。 しかも,BDAのアメリカとの取引禁止,という実質的な制裁はこの先北朝鮮を苦しめるでしょう。北朝鮮はやられた,と感じるはずです。それは北朝鮮に新たな不信を植え付けるだけだと思うのですが。
これでは,ただ北朝鮮を追い込むだけではありませんか。この先,北朝鮮が核開発を進めていくのは規定路線だと思いますが,その口実を与えてしまったのではないでしょうか。それは,金を返さなかった、ということではなく,信義に反した,やっぱりアメリカは信用できない,という理由からです。アメリカは下手をうってます。
●この先どうなる?●
まだ,結論ではありません。現在米中で調整が行われています。どのような決着をするのでしょうか。北朝鮮に資金が戻らなければ,六者会議は終わりです。しかし,銀行に資金を移動させることは世界中のあらゆる金融機関が嫌がります。ということは,なにか仕掛けをもうひとつかます必要があるわけです。 単純に,この銀行に口座資金を移します,ではまったく世間が納得しませんから。また,違法性の強い口座資金を全額北朝鮮に返却することについても強い不信にさらされるでしょう。
2500万ドルはなんとか解決させるのではないでしょうか。アメリカがなんらかのお墨付きを与えるかもしれない。中国が肩代わりするかもしれない。韓国など,はあはあいって待ってるのではありませんか?
2500万ドルの行方にはアメリカの信義がかかっていると思います。
尻尾だって、千切れんばかりじゃないですか。
このままでok。
一方的に信義を要求するのは、朝鮮半島の手ではないか。自分達が信義を守らないのに、相手に信義を求める、非難するのが、常套手段なのに、この文章はいただけない。
信義という道徳が、互いに通じる相手ではないことを百も承知で渡り合っている米朝だと思うが。
Unknown様>どう考えても,北朝鮮は金に困っているはず。余裕なんかない,というのが当然の結論ですよね。私はそれでも核開発を続けていく,という考えに変わりはありまえんが,それはただの私の思い付きです。
爺爺様>おっしゃられるお気持ちは十分わかります。私も少々誤解を招くような表現をしています。
勿論,お互いに信義などありません。やくざ同士の抗争みたいなもんです。
また,北朝鮮はそんなことを言えるような立場ではありません。犯罪性の強い金を返せ,と言っているわけですから。
私は以下のような理由でこのような表現を使いました。
①確かに北朝鮮は信用するに足りる相手でもありません。しかし,かといって同じ土俵に降りるのもどうかと。
②つまらない隙を北朝鮮に与えるのはうっとうしい。このまま会議が流れてしまったら,北朝鮮はアメリカのせいにするのではないでしょうか。
今後北朝鮮が核開発をすすめるにあたっての理由にもなります。
③この会議をなんとか維持するためにも必要(私自身はこの会議は無駄だと思ってますので,どうでもいいのですが)。
④この2500万ドルの行方はさほど重要ではありません。欲しければもってけば?くらいの感じです。ポイントは,決済口座にありますので(それでも全額返却は止めて欲しい)。
だいたいそんなところからあえてアメリカの信義という表現を使いました。
今後も鋭いご意見お待ち申しあげております。
その意味でBDA問題もマカオ(中国)に一任では。
核は事実上韓国と中国にしか使えません。
アメリカ、日本には届かないですし。(ミサイルに乗らない)
その意味で核の恐喝(北京オリンピック、上海万博)が有効なのでは?
一番脅威を感じるのは中国かと愚考いたします。
中国と北朝鮮は緊張を孕んだ関係です。
以前金日成の時に北朝鮮はロシア、中国派の人材を粛清してますし、金正男に成ってからも中国派の人材を粛清してます。
中国もクーデターを工作してますし(チラシの裏)。
国境沿いに精鋭師団を貼り付けにしてます。
また援助を恣意的に止めたりしてます。
偽札はWWⅡ以前なら戦争理由になるますからねえ。
アメリカはドルの信認(基軸通貨)を守る意味から言って表ざたにした以上譲歩できません。
取引材料にするなら、会談の時にすればいい話ですから。
アメリカは証拠を長い間握っていましたが、いったん表に出した以上けじめを付けさせる義務があります。
しかし確か今回のBDAはマネー・ロンダリングの金で偽札の代金と断定してませんから中国に一任したのでは。
無理がある推論かな。
北と中国はかなり仲が悪そうです。政権維持のためでもあるのでしょうが,おっしゃられるとおり,北の中国派はどんどん粛清されているみたいですね。
ところが,北朝鮮に一番援助しているのは中国だといいます。石油の80%,食料の70%(数字はうろ覚え)を中国に依存しているらしいです。
ここのところ,中朝戦争の話がよくネットでもちあがりますが,そんなことありえません。中国からのパイプを閉めるだけで北朝鮮は瀕死になるからです。
なんにせよ,両国の関係は不可解なものがあります。
あと,見落としていた,というか誤解していましたが,アメリカは偽札の代金と断定しているわけではありませんね。