タイ国経済概況(2021年3月)

1.景気動向
(1)国家経済社会開発委員会(NESDC)が2月15日に発表した速報値によれば、2020年第4四半期の経済成長率は前年同期比▲4.2%で、第3四半期の同▲6.4%からマイナス幅が縮小。2020年通年は前年比▲6.1%であった。2021年については、世界経済・貿易量・内需の回復、政府刺激策等により前年からの反動でプラス転換し、前年比+2.5~+3.5%と予測している。ただし、新型コロナウイルスの感染状況の改善、政治情勢の安定、観光やサービス産業の回復に加え、輸出や民間投資の促進等が前提条件となる。また、2020年通年のインフレ率は前年比▲0.8%だった。2021年は同+1.0~+2.0%が予測されている。

(2)盤谷日本人商工会議所(JCC)は2月17日、新年景気討論会をオンラインにて開催した。金融保険部会からは、タイとASEANの景気動向、タイの家計債務、為替・金利動向等を説明。2021年以降のASEAN各国の経済は、アジア通貨危機やリーマンショックの時のようなV字回復ではなく、緩やかな復調が続くとみられ、企業はこのような状況に腰を据えて付き合っていく必要があるとした。

(3)タイ工業連盟(FTI)が2月18日に発表した1月の自動車生産台数は、前年同月比▲5.2%の14.8万台だった。前年同月比マイナスは昨年10月以来、3ヵ月ぶり。内訳は国内向けが同▲12.4%の6.2万台、輸出向けが同+0.8%の8.6万台で、国内向けは5ヵ月ぶりにマイナスに転じた。また、1月の国内新車販売台数は前年同月比▲21.3%の5.5万台、輸出台数は同+13.5%の7.4万台。国内新車販売台数は昨年12月に新型コロナウイルス感染の第2波が発生した影響で新車需要が落ち、3ヵ月ぶりにマイナスとなった。一方で輸出台数は、主要仕向け地のひとつであるアジア向けが同+39.4%と大きく伸び、1年7ヵ月ぶりにプラスを記録した。

(4)FTIが2月18日に発表した1月の自動二輪車生産台数は、前年同月比+4.9%の22.0万台だった。前年同月比プラスは2019年12月以来、13ヵ月ぶり。内訳は完成車(CBU)が同+1.7%の16.6万台で、完全組み立て部品(CKD)が同+16.5%の5.4万台。また、1月の国内販売台数は前年同月比▲6.6%の13.6万台、輸出台数は同+2.3%の8.0万台だった。


2.投資動向
タイ投資委員会(BOI)のドゥアンジャイ長官は2月10日、2020年の投資申請統計を発表した。新規申請額は4,812億バーツで、前年比30%減少となった。申請件数は同13%増の1,717件だった。産業別では電気・電子が最も多く503億バーツ、農産品・食品加工が411億バーツ、自動車・自動車部品が378億バーツと続いた。また新型コロナウイルス感染拡大に伴う需要の増加を受け、BOIが昨年4月に医療機器等の生産投資を促進する奨励策を打ち出したことで、医療産業への申請額が同2.6倍の223億バーツに拡大した。国・地域別の海外直接投資額では、日本が759億バーツ、211件で、2017年以来首位に立った。


3.金融動向
タイ中央銀行の発表によると、2021年の1月末時点で金融機関預金残高は22兆4,884億バーツ(前年同月比+9.7%)、貸金残高は26兆1,950億バーツ(同+4.7%)といずれも増加。


4.金利為替動向
〈金利動向〉
(1)(2月の回顧)
2月のバーツ金利はすべての年限で大幅上昇。昨年後半に一部で強まったタイ中銀の利下げ期待が後退したことに加えて、ワクチン接種進展への期待、米国の1.9兆ドル規模の追加経済対策法案も3月中旬に成立見通しとなっていることから米国景気に対しても楽観的な見方となり、インフレ期待が高まって米金利上昇。バーツ金利も米金利上昇につれて上昇した。昨年末にタイでも新型コロナウイルス感染第2波が確認されロックダウン措置が導入されたが、緩やかかつ短期間となったことから、経済への影響は前回対比限定的とみられていることもバーツ金利上昇要因となった。なお、3日に開催されたタイ中銀金融政策委員会(MPC)では、大方の予想通り全会一致で政策金利は現行の0.50%維持が決定された。タイ中銀MPCでは緩和的な金融政策が引き続き必要であり、必要に応じて適切な追加政策を実施する準備はあるが、限られた政策余地を最大限に適切かつ有効に使えるよう温存するため、現状維持を決定したとのこと。タイ経済の先行きは不透明でリスクは下方にあるとしながらも、政府の景気刺激策と輸出の回復のおかげで順調に回復途上にあるとの認識を示した。一方で、今年のタイ経済成長率見通しを引き下げる可能性が指摘された。タイ10年物国債利回りは1.77%台、同5年物利回りは1.07%台、同2年物利回りは0.64%台とそれぞれ0.47%、0.36%、0.20%の金利上昇となった。

(2)(3月の展望)
米国の景気回復とそれに伴うインフレ上昇期待を背景とした米金利動向をテーマとした展開が継続。今月発表された米2月雇用統計が事前予想以上に良好な結果であったことや、米金融当局者が金利上昇に対して牽制しなかったこと等から、米金利は一段と上昇している。今後発表される米経済指標のほか、16~17日の米連邦公開市場委員会(FOMC)も注目される。なお、24日にタイ中銀MPCも開催が予定されているが、政策金利は据え置かれるとの見方が現状のコンセンサス。

〈為替動向〉
(1)(2月の回顧)
2月のドルバーツ相場は、一段と膠着し30を巡っての攻防が継続したが30を超えて越月となった。3日に開催されたタイ中銀MPCでは、大方の予想通り全会一致で政策金利は現行の0.50%維持が決定された。依然不確実性が高くリスクは下方にあるが、政府の経済刺激策や輸出の回復により景気回復は継続との見方が示された一方で、今年の経済成長率はこれまでの見通しを下回る可能性が指摘された。為替相場に関しては前月も大きな方向感なく揉み合っていたこともあり、必要に応じて対策は打つとしながらもあまり懸念は示されなかった。また、コロナ感染第2波の発生で抑制措置が部分的であり昨年の抑制措置導入時に比べて緩やかなものであったことや、人民元高等を手掛かりとしてバーツが買い進まれる局面もあったが、タイGDPの1割以上を占めていた国際観光収入がすぐに回復する道筋は依然遠いことや、年初来サポートラインとなっていた29.8台で跳ね返さるといったテクニカルな要因等もあり、下値も攻めきれず30を中心とした狭いレンジ内での推移が継続。月末にかけては、米景気回復によるインフレ高進への期待から米金利が上昇したことや、タイ経常収支が3ヵ月連続で赤字となったことからドルバーツは30.1台まで上昇してクローズ。

(2)(3月の展望)
米国の景気回復とそれに伴うインフレ上昇期待を背景とした米金利動向をテーマとした展開が継続されるものと思われる。今月発表された米2月雇用統計が事前予想以上に良好な結果であったことや、米金融当局者が金利上昇に対して牽制しなかったこと等から米金利は一段と上昇している。今後発表される米経済指標のほか、16~17日の米FOMCも注目される。なお、24日にタイ中銀MPCも開催が予定されているが、政策金利は据え置かれるとの見方が現状のコンセンサス。


5.政治動向、その他
(1)タイ政府は、核兵器の開発、保有、使用を全面禁止する初の国際法規である核兵器禁止条約に関する国連事務総長宛ての通知書を閣議承認した。同条約は2020年10月に発効に必要な50ヵ国・地域(タイを含む)が批准したことを受け、1月22日に発効。条約参加国は発効から30日以内に国連に通知書を提出することになっている。なお、日本は同条約には参加していない。

(2)タイ政府は2月25日付で、タイ全土を対象とした非常事態宣言の適用を2021年3月31日まで延長する旨を官報に掲載。非常事態宣言の延長は10度目で、昨年3月26日に発令されてから1年以上の延長が確定した。



(注)本資料は情報の提供を目的としており、何らかの行動を勧誘するものではありません。
投資等に関する最終決定は、お客様ご自身で判断されますよう宜しくお願い申し上げます。

情報提供:三井住友銀行バンコック支店 SBCS CO., LTD.

 
 
 
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