タイ国経済概況(2021年4月)

1.景気動向
(1)世界銀行は3月26日に発表した東アジア太平洋地域経済見通し報告の最新版にて、タイの2021年の経済成長率を3.4%、2022年と2023年の経済成長率をそれぞれ4.7%、3.9%と予測した。タイ経済は徐々に回復基調にあるが、タイ政府が厳重なロックダウンを実施した場合、経済の回復は停滞するとしている。また、ASEAN8ヵ国(シンガポール、ブルネイを除く)の2021年の経済成長率予測は、ベトナムが6.6%で首位、マレーシア(6.0%)、フィリピン(5.5%)、インドネシア(4.4%)と続く。同報告のASEAN9ヵ国(ブルネイを除く)のワクチン接種状況では、もっとも接種が進んでいるシンガポールが接種率13.54%。次いでインドネシア(2.41%)、マレーシア(1.13%)、カンボジア(1.02%)となった。タイの接種率は0.08%であり、最下位のベトナム(0.02%)に次いで低い数値となっている。国際通貨基金(IMF)も4月6日に、最新の世界経済見通しを発表。タイの2021年と2022年の経済成長率をそれぞれ2.6%、5.6%と予測した。

(2)タイ工業連盟(FTI)が3月18日に発表した2月の自動車生産台数は、前年同月比+3.1%の15.5万台だった。2ヵ月ぶりに前年同月比プラスを記録した。内訳は国内向けが同▲0.5%の6.7万台、輸出向けが同+5.9%の8.8万台で、国内向けは2ヵ月連続のマイナス。1~2月の累計生産台数は、前年同期比▲1.2%の30.3万台となった。また、2月の国内新車販売台数は前年同月比▲10.9%の5.9万台、輸出台数は同▲16.5%の7.9万台。1~2月の累計国内販売台数と累計輸出台数は、それぞれ前年同期比▲16.3%の11.4万台、同▲4.3%の15.4万台だった。国内新車販売台数は、昨年12月に新型コロナウイルス感染の第2波が発生した影響で新車需要が落ち、国内向け生産同様2ヵ月連続のマイナスとなった。1月にアジア向けを大きく伸ばしたことで1年7ヵ月ぶりのプラスを記録した輸出台数も、中東向けが前年同月比▲45.8%、欧州向けが同▲58.1%と大きく落ち込み、2月は再びマイナスとなった。

(3)FTIが3月18日に発表した2月の自動二輪車生産台数は、前年同月比+1.3%の21.9万台となり、2ヵ月連続のプラスを記録した。内訳は完成車(CBU)が同+4.0%の16.8万台で、完全組み立て部品(CKD)が同▲6.8%の5.0万台。また、2月の国内販売台数は前年同月比▲6.4%の13.0万台、輸出台数は同▲1.8%の8.8万台だった。


2.投資動向
日本貿易振興機構(JETRO)バンコク事務所は3月29日、「タイ日系企業進出動向調査2020年」を発表。同調査はタイに進出する日系企業の進出状況を調査するもので、2020年10月5日から2021年3月12日の間に、7,318社を対象に行われた。これによれば、個別のヒアリング等により実際の活動が確認された日系企業は5,856社あり、前回(2017年)の調査から412社増加。業種別では製造業(2,344社)が最多で、卸売業・小売業(1,486社)、サービス業(1,017社)がこれに続いた。サービス業は前回の896社から121社増加し、調査開始以来初めて1,000社を超えた。また、前回に引続き、中小企業および個人が出資する企業数の割合が、大企業が出資する企業数を上回る結果であった。なお、本調査における「日系企業」とは、日本法人もしくは日本人が10%以上出資している企業を指す。


3.金融動向
タイ中央銀行の発表によると、2021年の2月末時点で金融機関預金残高は22兆5,658億バーツ(前年同月比+9.7%)、貸金残高は26兆3,042億バーツ(同+4.9%)といずれも増加。


4.金利為替動向
〈金利動向〉
(1)(3月の回顧)
3月のバーツ金利は5年を起点に長期金利が上昇となった一方で短中期金利は低下。コロナワクチン接種進展や追加経済対策等で米景気回復が期待される中、インフレ懸念から米長期金利が上昇した一方で、タイ中銀が4月に実施の債券入替プログラムが意識されバーツ長期金利は上昇。債券入替プログラムで既存短期国債が長期国債に置き換えられることによる、長期国債の需給悪化が懸念された。短中期金利も月央までは長期金利と同様に上昇を続けたが、一部投資家による保有債券の年限短期化等から低下に転じた。16~17日に開催された米連邦公開市場委員会(FOMC)で、2023年末時点での利上げを示唆したメンバーは前回から1名増加したものの依然コンセンサスは据え置きであったことから米中期金利が低下したが、米長期金利は依然上昇継続となった。これを受けてバーツ中期金利も低下。その後、タイ中銀金融政策委員会(MPC)が意識され、コロナ感染第2波の影響で経済見通しが下方修正されるとの見方や、米国が2023年まで政策金利据え置きとなる見込みの中でタイ中銀が先んじて利上げをする可能性は極めて低いこともバーツ短中期金利の押し下げ要因となった。24日に開催されたタイ中銀MPCでは大方の予想通り政策金利は現行の0.50%に据え置かれ、経済見通しも下方修正された。タイ10年物国債利回りは1.95%台、同5年物利回りは1.08%台とそれぞれ0.18%、0.01%金利上昇、同2年物利回りは0.50%台と0.14%金利低下となった。

(2)(4月の展望)
長期金利を中心に米国の景気回復と、それに伴うインフレ期待を背景とした米金利動向に振らされる展開継続。コロナリスクは依然不透明であり金融当局者のスタンスは依然景気フレンドリーで引き締めを急いでおらず、マーケット参加者のインフレ懸念との温度差があることには注意を要する。

〈為替動向〉
(1)(3月の回顧)
3月のドルバーツ相場は上昇。昨年11月以来となる31台を回復。コロナワクチン接種進展や追加経済対策等で米景気が回復していく中でのインフレ高進が懸念され、米長期金利が上昇したことが主な背景。市場参加者がインフレを懸念する一方で、パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長をはじめとする金融当局者は現状の金融政策は適切であり、長期金利上昇に対するけん制発言は出てこずであった。上旬に発表されたタイ2月消費者物価指数(CPI)が政府による電気・水道料金引き下げ等から前年比落ち込み幅を拡大させたことや、米3月雇用統計が予想対比堅調で米長期金利が上昇したこと等を手掛かりにドルバーツ上昇。16~17日に開催された米FOMCでは全会一致で政策金利は据え置かれ、経済および物価見通しは上方修正された一方で、政策金利見通しを示すドットチャートでは2023年までの政策金利据え置きとのコンセンサスが維持された。24日のタイ中銀MPCでも全会一致で政策金利は現行の0.50%維持が決定された。声明文では、経済見通しがコロナ感染第2波の影響が勘案され、2021年は従来の前年比3.2%増から3.0%増に、2022年は同4.8%増から4.7%増に下方修正された。タイ経済は貿易相手国の経済回復に即した物品回復や景気刺激策に支えられる見込みであるとしたが、回復はセクターごとにばらつきがあるとした。また、タイ中銀MPCと同日に発表されたタイ2月貿易統計において、原油高を主要因として輸入が急増し貿易黒字額が減少したこともドルバーツ上昇を加速させた。月末にかけてもワクチン接種進展や米インフラ投資計画への期待からドルバーツは上昇継続し、31.0台を回復してクローズ。

(2)(4月の展望)
米国の景気回復とそれに伴うインフレ期待を背景とした米金利動向をテーマとした展開が継続されるが、マーケットの期待と米金融当局者のスタンスとには隔たりがある。引続き、経済データおよび金融当局者の発言に注目。


5.政治動向、その他
(1)タイ政府は3月31日、タイへの入国者に対する防疫措置および隔離に関する基本方針の変更を発表。4月1日からの適用で、搭乗可能健康証明書(Fit to Fly Health Certification)の提示が不要となったほか、日本を含む、アフリカ11ヵ国以外からの入国者は隔離期間が14日間以上から10日間以上に短縮された。また、渡航14日前までにワクチン接種を終えた入国者については、隔離期間が7日間以上となった。

(2)タイ政府は3月30日付で、タイ全土を対象とした非常事態宣言の適用を2021年5月31日まで延長する旨を官報に掲載。非常事態宣言の延長は11度目となる。



(注)本資料は情報の提供を目的としており、何らかの行動を勧誘するものではありません。
投資等に関する最終決定は、お客様ご自身で判断されますよう宜しくお願い申し上げます。


情報提供:三井住友銀行バンコック支店 SBCS CO., LTD.

 
 
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