タイ国経済概況(2020年11月)

(1)国際通貨基金(IMF)は10月21日、アジア大洋州地域経済見通しを発表。タイの経済成長率について、2020年は▲7.1%、2021年は+4.0%と予測した。また、タイ財務省財政局(Fiscal Policy Office:FPO)は10月29日、タイの経済成長率につき、2020年は▲7.7%(予想レンジ▲7.2~▲8.2%)、2021年は+4.5%(同+4.0~+5.0%)との予測を発表。今年7月時点では2020年の経済成長率予測を▲8.5%としており、0.8ポイントの上方修正となった。さらに同局は2020年の輸出額を▲7.8%(同▲7.3~▲8.3%)、民間消費を▲3.0%(同▲2.5~▲3.5%)、民間投資を▲9.8%(同▲9.3~▲10.3%)と予測している。

(2)タイ工業連盟(FTI)が10月19日に発表した9月の自動車生産台数は、前年同月比▲11.3%の15.0万台だった。17ヵ月連続の前年同月比マイナスだが、7ヵ月ぶりに15万台を超え、前月に続き10万台の大台を超えた。内訳は国内向けが同+5.1%の8.2万台、輸出向けが同▲25.4%の6.8万台。1~9月の累計生産台数は、前年同期比▲38.8%の96.3万台となった。また、9月の国内販売台数は前年同月比▲3.5%の7.8万台、輸出台数は同▲34.4%の6.4万台。1~9月の累計国内販売台数と累計輸出台数は、それぞれ前年同期比▲29.8%の53.5万台、同▲36.5%の52.1万台だった。

(3)FTIが10月19日に発表した9月の自動二輪車生産台数は、前年同月比▲1.2%の20.4万台だった。20万台の大台を超えるのは7ヵ月ぶり。内訳は完成車(CBU)が同+3.6%の17.5万台で、完全組み立て部品(CKD)が同▲22.8%の2.9万台。1~9月の累計生産台数は、前年同期比▲25.0%の139.5万台となった。また、9月の国内販売台数は前年同月比▲1.2%の13.3万台、輸出台数は同▲12.5%の5.7万台。1~9月の累計国内販売台数と累計輸出台数は、それぞれ前年同期比▲13.7%の114.6万台、同▲23.9%の51.3万台となっている。


2.投資動向
(1)タイ国投資委員会(BOI)が発表した投資統計によれば、第3四半期まで(1~9月)の新規投資申請件数は前年同期比+1%の1,098件、申請金額は同▲15%の2,237億バーツだった。このうちタイ政府が誘致を強化している重点産業への申請が金額ベースで58%を占め、中でもBOIが4月に新たな奨励策を発表していた医療産業については、申請件数が同2.3倍の65件、申請金額も同+75%の147億バーツと大幅に増加。また、1~9月の海外直接投資(FDI)は新規申請件数が同▲1%の657件、申請金額は同▲29%の1,185億バーツであった。国・地域別では日本が申請件数139件、申請金額375億バーツで件数・金額ともに最多だったが、前年同期比では件数が同▲12%、申請金額も同▲33%と落ち込んだ。

(2)タイ国鉄は10月28日、高速鉄道の敷設に関する事業費506億バーツの契約「コントラクト2.3」を中国の請負業者と締結。同契約はバンコクと東北部ナコンラチャシマ間を結ぶ第1期区間の敷設計画の一部で、線路、電気システム、機械の購入、車両の調達および人材訓練等の費用負担を含むもので、中国側との交渉が難航していた。最終的にタイ国内においては、バンコクからラオスとの国境であるノンカイまでをつなぐ607キロメートルの高速鉄道の敷設が予定されているが、まずは2026年中に第1期区間、253キロメートルの竣工を目指す。


3.金融動向
タイ中央銀行の発表によると、2020年9月末の金融機関預金残高は22兆328億バーツ(前年同月比+9.5%)、貸金残高は25兆6,209億バーツ(同+3.5%)といずれも増加。


4.金利為替動向
〈金利動向〉
(1)(10月の回顧)
10月のバーツ金利は全ての年限でほぼ横ばい。米追加経済対策を巡る協議は難航したものの、米大統領選、上下両院選挙への思惑で米金利が上昇したことで、特に米金利に連動しやすいバーツ長期金利は小幅ながら連れて上昇。米選挙に関しては大統領、上下両院ともに民主党が勝つという「ブルーウェーブ」への期待で大規模経済対策が打たれ、国債増発、増税との見方となっていたが、4年前の大統領選での予想外の結果がイメージされ、市場参加者は「ブルーウェーブ」トレードになかなか乗り切れずであった。タイ国内では、10月よりセタプット氏がタイ中銀総裁に就任。就任後の会見では、タイ経済が新型コロナ前の水準に戻るには2年以上かかるとの見通しを示し、また金融政策についてはすべての政策ツールを使う必要があり、非伝統的な手段導入の可能性も除外しないと述べた。一方、会見より前に発表されたタイ中銀金融政策委員会(MPC)の議事録では、委員会は過去最低水準の政策金利は景気回復を促すとみる一方、追加利下げは現状では効果が薄く金融システムの脆弱性が増す可能性があると指摘。その上で限られた政策余地を適切でより効果的なタイミングに残しておくことが不可欠と判断したことが明らかにされており、必要に応じて政策総動員も辞さないが、適切なタイミングに限ると考えられる。またタイ国内において反政府活動が活発化し、非常事態宣言が発令され、タイSET株価指数が2%下落となる局面もあったが、タイ国債市場の反応は限定的であった。タイ10年物国債利回りは1.41%台、同5年物利回りは0.86%台とそれぞれ前月末対比では0.02%上昇、0.01%低下、同2年物利回りは0.02%上昇となった。

(2)(11月の展望)
米大統領選ではバイデン氏が勝利したが、上院は共和党、下院は民主党が過半数は維持と事前予想の「ブルーウェーブ」は起きなかった。今後は米組閣が注目とはなるであろうが、欧米での新型コロナ感染拡大およびそれに伴うロックダウン導入、経済データ等に注目が移る可能性も。今月は18日にタイ中銀MPCが予定されているが、政策金利の維持が予想されている。

〈為替動向〉
(1)(10月の回顧)
10月のドルバーツ相場は下落。米追加経済対策を巡る協議に加えて、米大統領・上下両院議員選が迫ってきたことで米選挙への思惑に振らされる展開となった。米選挙に関しては、大統領、上下両院とも民主党が勝つという「ブルーウェーブ」への期待で、大規模経済対策が打たれる一方で増税が行われるとの見方がドルの重しとなった。ただし、4年前の大統領選での予想外の結果がイメージされ、市場参加者は「ブルーウェーブ」トレードにはなかなか乗り切れずであった。新型コロナ感染に関して、欧米を中心に感染拡大に歯止めが利かない中、欧州の一部で再びロックダウンの導入が決定、タイ国内でも反政府活動の活発化への懸念といったリスク材料はあったが、米選挙への注目が勝った格好となった。タイ中銀は今月よりセタプット氏が新総裁に就任。就任後初の会見で、タイ経済が新型コロナ前の水準に戻るには2年以上かかるとの見通しを示し、また金融政策については全てのツールを使う必要があり、非伝統的な手段の導入の可能性も除外しないとの意向を示した。月初、米追加経済対策への楽観論や良好な米経済指標リスクセンチメントが改善したが、トランプ米大統領および共和党上院議員数名が新型コロナに感染したことが判明したことでリスク警戒が高まりドルバーツは上昇し月間高値を付けた。その後、トランプ米大統領が早期に退院したことを受けてドルバーツも下落に転じた。国慶節明けに人民元が大幅に上昇、約1年半ぶりの高値を付けたことを受けてドルバーツも下落し、一時31.0台半ばをつけた。その後、中国人民銀行が顧客の外貨購入時に市中銀行に対して義務付けていた準備金の撤廃を発表。これは元高抑制のための措置と見られ、人民元が下落するとバーツも連れ安となりドルバーツは反発。さらに米追加経済対策を巡る協議に進展が見られないことや、新型コロナワクチン開発への期待の後退等でドル高が進行。15日早朝、プラユット首相は前日の反政府デモを受けてバンコク都に非常事態宣言を発令したことで、ドルバーツは小幅上昇で反応。反政府デモが継続していることでタイSET株価指数が2%下落したが、ドルバーツの値動きは極めて限定的であった。月末近く、欧米での新型コロナ感染拡大に加えて米追加経済対策の進展も見られず米国株が急落し、リスク回避の動きが強まったがアジア通貨全般にこじっかりとなった。その後も海外市場ではリスク回避の動きが強まったが、ドルバーツは小動きに留まり、31.1台でクローズ。

(2)(11月の展望)
注目されていた米選挙は、バイデン氏が大統領に当選、一方で上院は共和党、下院は民主党が過半数を維持し、ねじれ議会は継続の見通し。これを受けて大幅にドル安となりドルバーツも下落となった。今後はポストトランプトレードがしばらく続くと考えられるが、欧米での新型コロナ感染拡大によるロックダウン導入が進む可能性や、経済データに再び注目が戻る可能性には注意が必要。


5.政治動向、その他
(1)タイ財務省令(2020年6月10日付)に基づき、10月より源泉徴収税の電子納税システム「e-Withholding Tax」が導入された。これにより歳入局への納税が三井住友銀行を含む11の銀行経由で可能になったほか、同局のウェブサイト上で納税履歴が確認できるようになった。また同システムを利用して納税する場合、2021年末までサービス提供や請負等の源泉徴収税率が通常の3%から2%に軽減される促進策も実施されている。

(2)タイ政府は10月29日付で、タイ全土を対象とした非常事態宣言の適用を11月30日まで延長する旨を官報に掲載した。非常事態宣言の延長は7度目。 



(注)本資料は情報の提供を目的としており、何らかの行動を勧誘するものではありません。
投資等に関する最終決定は、お客様ご自身で判断されますよう宜しくお願い申し上げます。


情報提供:
三井住友銀行バンコック支店 SBCS CO., LTD.  


 
 
 
コメント ( 0 ) | Trackback ( )
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする


« タイ国で匿名... タイ投資委員... »


 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。