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one phrase×one story

心に残る言葉には、きっとなにかが込められてる。そんな言葉を紡いでいきます。

夜明けあと

2011-10-11 01:31:24 | SS
<夜明けあと>



「最後の晩餐に食べるとしたら、何食べますか?」
ソファでダラダラしていたら、新八が唐突に聞いてきた。
「・・・え、なになに新一君。銀さん殺す気?銀さんまだピンピンしてるよ?
なのになんで最後の晩餐とか聞いちゃうの?銀さん嫌いになった?」
ゆっくり後ろを振り返ると、険しい顔をした新八と目が合った。
「僕の名前は新八だボケェエエ!!いいから答えろっつーんだよ、この天パ侍ィイイ!」
案の定怒られた。こいつ、沸点低過ぎなんだよな~。こういう時は、スルーだスルー。
「うっせぇ、ツッコミだけが取り柄のメガネヤローに言いたくねーっつのコノヤロー。」
テレビに顔を戻しつつ、手を振りながら答えたら後ろから溜息が聞こえた。
「あーはいはい。銀さんはどうせいちご牛乳とかパフェとか甘いものですよねー。
聞いた僕がバカでしたー。人の質問にちゃんと答えられないなんて、ほんとつまんない人ですねー銀さんは。
そんなだからいつまで経ってもフワフワしてるんですよ。頭も職も!」
ドスドス足音を立てながら玄関に向かい、盛大な音を立てて扉を閉め、新八は万事屋から出て行った。全く、騒々しい奴だ。
「うっせぇ!・・・って聞こえねーか。」
神楽は定春の散歩をしに出掛けたので、この家には今俺しかいない。遠くで子供の笑い声がするのが聞こえる。
なんて静かで平和な午後だろう。
「最後の晩餐、ねぇ・・・。」
目を閉じると、ゆっくりと睡魔が襲ってきた。


「ほら、これをお食べなさい。」
差し出された白いお握りと白い手。その手を辿ると、優しい微笑みを浮かべた男と目が合った。
血の臭い。人の腐っていく臭い。
そんなものを嗅ぎ続けていた鼻は、香しいご飯の匂いに敏感に反応し、銀時は手で鷲塚むと共に口の中へ放り込んでいた。
「ほら、そんなに急がなくても、まだまだありますから。ゆっくりお食べ。」
いきなり現われた男の、毒が入っているかも知れないものを警戒せずに食べた。
それくらい餓えていたし、それに頭のどこかでこの男は危険じゃないと分かっていた。
だから、無我夢中で食べた後、その男、松陽先生について行った。



「強いて言うなら、あの時のお握りかなぁ。」
また食べたい。あの手から差し出されるお握りを。もう叶わないけれども。
目を開けると窓から射す太陽の光はすでにオレンジ色だった。
今日も依頼がないまま一日が終わっちまったようだ。
「神楽の奴どこまで散歩行ってやがんだ、ったく。」
起き上がって背伸びをする。
やっぱりソファーで寝ると体がこわばるなと思いながら立ち上がると、机に置き手紙があるのが見えた。
「銀ちゃんへ。アネゴの家にいます。起きたら来て下さい。神楽より。」
紙を掴んで読み上げる。
夕飯にお呼ばれでもしているのだろうか。
正直飯代が浮くのは嬉しいが、あの不味い料理をどう食べずに乗り切るか。
「まあ、新八もいるし食えるものあるだろ。いざとなれば食材パクって自分で作ればいいしな。」
お腹を擦りながら、玄関に向かう。
「一日中ゴロゴロしているだけなのに、どうしてお腹が減るんですかねー。
お腹と背中がくっつきそうだぜ。これが生きてるってやつなんですかね。」


「銀ちゃん遅い!もうお皿並べ終わっちゃったアル!」
新八の家に着くなり、神楽に怒られた。
オメー、集合時間書いてないのに遅いってどういうことだ、理不尽過ぎるぞコラ。
まあ、俺は大人だしー?これくらいじゃ怒らないしー?
「はいはい、銀さんが悪ぅございました。後片付け手伝うから勘弁しろ。」
靴を脱いで居間へ向かう。やたら玄関に靴が多かったのは気のせいか?
「どうも、こんばんはー。夕飯ごちそうになりまーす。」
居間の戸を開けると、お登勢のババァ、キャサリン、たま、晴太に月詠、九兵衛、そしてお妙が座っていた。
「ん?なんでテメーら揃ってんの?今日なんかあったっけ?」
このメンツが揃っていると、いつぞやの悪夢(6人同時結婚の回参照)を思い出して嫌な予感しかしない。
逃げ帰りたい気持ちを抑えつつ、聞いてみる。
すると、全員が一斉に溜息をついた。え、俺なにかマズイこと言った?
「やっぱこの人忘れてたよ。ったく、今日はアンタの誕生日でしょうが!」
後ろから鍋を持って現れた新八に言われてやっと思い出した。
そういえば、今日俺の誕生日か。
すっかり忘れてた。
「アンタの一番好きなもの作ってあげようってみんなと話してたのに、ちゃんと答えてくれなかったから適当に鍋にしましたからね!
文句は過去の銀さんに言って下さいよ!」
鍋敷きにドカッと鍋を置きながら新八は言った。
まだ怒っているようだ。
「あーそういうことだったの?だったら分かりやすくそう聞けよ。
だって普通そうだろ。“最後の晩餐”とかいきなり言われてすぐに答えられるかよ。」
「もういいですから、はい、そこ座って。さっさといただきますしますよ。」
新八に背中を押されて座卓につく。
こんな大勢の人と一緒の誕生日なんて、なんだかこそばゆい。

「「「「せーの、銀さん、お誕生日おめでとう!」」」」

みんなで声を合わせてお祝いの言葉を俺にかけてくれた。
嬉しい反面、なんだかそわそわする。
「なんか照れ臭いな、こういうの。・・・けどよ、ありがとな。」
パチパチと拍手が起きる。
「さて、じゃあ食べましょうか。今日のメインはちゃんこ鍋です。
いいですか。肉団子は1人3個ですからね、前のすき焼きみたいに醜い争いは今日はナシですからね!」
「はいはい。それじゃあ、いただきます!」
松陽先生、アンタのくれたお握り、すごい美味かったよ。
けどよ、俺に手を差し出してくれる奴らが、アンタの他にも今居てくれるんだ。
だから、コイツらと一緒に食べるなら最後だろうがなんだろうが食い物なんかなんでもいいなって思うんだ。
変かな、俺。

―終―

(あとがき)
星新一さんの「夜明けあと」という本からタイトルお借りしました。
明治維新後の人々の生活を、新聞記事を抜粋して簡潔に紹介している本なのですが、なんかちょっと銀さんぽいなって思って。
生死のやり取りをした戦場で生まれ育ち、今は平和な日々を生きている。
夜が明けるまえというのは、心がざわざわするけれど、
夜が明けたあとはどうなのだろうと考えてみました。


(追伸)
pixivに登録してみました。
人様の作品ばっか見てますが、たまに小説アップして行こうと思ってますので、こちらもよろしくです。
http://www.pixiv.net/member.php?id=1081449


三色

2009-05-06 00:17:14 | SS
「銀ちゃ~ん。私このピンクのやつがいいアル。」


[三色]


甘い匂いに誘われて、甘味処『餡泥牝堕(あんどろめだ)』の店先に、万事屋3人組が通りかかった。
『餡泥牝堕』は、以前『魂平糖』という団子屋に依頼されて、団子勝負をした相手だ。

新八は、その時のことを思い出して、溜息をついた。

生涯で甘いものを一番大量に食べたあの日のことは、忘れられない。
あの勝負のあと食べた、しょっぱ~いせんべいが、どれだけうまかったことかっ!

口の中が甘過ぎて、ほんとうに気持ち悪かった。


「銀ちゃん。私柏餅食べたいネ。」

神楽が銀時に裾を引っ張ってねだる。

「ね~、買って買って。」

こういう様子を見ていると、神楽と銀時はほんとの兄妹みたいだ。

吉原で会った、本当の兄貴、神威に甘えられなかった分、銀時に甘えているのだろうか。

そんな考えにいたり、新八はせつない気持ちになった。

「ちょっと落ち着け。いま財布の中身確認するから。」

神楽の頭を押さえて裾から引き離し、懐から財布を取り出す銀時。

「う゛。ちょ~っと足りないかな~。」

途端に目が泳ぎだす。

多分、GW中暇だったから、競馬やパチンコで使っちゃったんだろう。

新八はもう一度溜息をついた。

「いくら足らないんですか。僕も食べたいんで、足りない分は出しますよ。」

銀時の顔が輝く。

「さすが新八。頼りになるねぇ~。」

調子のいい男だ。

「よし、神楽。好きなの一つ選べ。」

ケースに並んでいる柏餅は、3種類あった。

「銀ちゃん、私このピンクのやつがいいアル。」

即答する神楽。

「早っ!」

こと食べ物に関しての迷いのなさには、感心する。

「じゃあ俺は白いので、新八は緑な。ねえちゃん、3種類1個ずつちょうだい。」

頷いて、店員に指を三本立てる銀時。

「ちょっ、僕の意見はスルーですか!」

お金を出すのは、ほとんど僕なのに。

「いいだろ。どうせ1人1個しか買えないんだから、違う味楽しもうぜ?」

手際よくパックに詰められた柏餅を受け取りながら、銀時が悪びれなく言う。

「ほれ、お代頼むわ。」

15円しか出してない人が、なんでこんなに偉そうなんだ。





「3等分って難しいですね。」

緑の餅を手でちぎろうとしながら新八は言った。

多分、よもぎが練り込んであるんだろう。鮮やかな緑色だ。

「別に、一口づつかじればいいじゃん。」

銀時はすでに、白い餅を口に運んでいる。

「だって、神楽ちゃんの一口と銀さんの一口、僕の一口は違うじゃないですか。」

不公平を防ぐには、事前に等分するのが一番だ。

「そこは個人の良心に委ねる。お、これはこしあんだ。」

「もう手遅れか・・・。」

肩を落とす新八。

「銀ちゃん、私のはなんか白いネ。何これ?」

神楽もすでに自分の分を食べている。

「それは、みそあんってやつだ。」

「みそ?みそなのに甘いなんて不思議アル。」

神楽が目をきらきらさせている。

「じゃあ、僕のはつぶあんかな。・・・やっぱりそうみたい。」

よく伸びる餅の中から、黒いあんが出てきた。

「はい、銀さん。神楽ちゃん。」

ちぎったのを二人に渡す。

ふと、妙とおやつを半分こしていた時を思い出して、くすぐったい気持ちになる。

「サンキュー。じゃあ俺のも。」

かじった白いもちを等分にして、新八と神楽に渡す銀時。

「私のもあげるアル。」

神楽も、ピンク色のもちを二人にちぎって渡した。

「じゃあ、改めて、いただきます。」

新八は、3つのちぎられたもちを眺めて、なんだか自分たちみたいだなっと思いながら、緑色のもちを口に運んだ。



















Touch Me If You Can

2009-04-23 20:00:02 | SS
ぬら孫の犬→玉SSを投下します~。↓



確かめる。

俺の頭を撫ぜる手があることを。

抱き締められて感じる、体の温もりを。

俺と玉章が、ここに存在していることを。

一度は離れた。

でも、俺は今ここに戻ってきた。

玉章のもとに。

俺が惹かれた禍々しさはなく、その表情は憑きものが落ちたように穏やかだ。

それを少し物足りなく思うけれど、玉章であることに変わりない。

俺は玉章に二度拾われた。
今度こそ、離れずにいよう。

この手を、温もりを、失いたくないから。

だから、もっと撫でて、抱き締めてほしい。

確かめるには、それしかないから。

死者の帰る日

2008-11-01 01:53:08 | SS
オレンジのカボチャ。
三角形の目とギザギザの口。
凶暴なようで愛嬌のある顔。
表面を撫でると、つるりとしている。
腐らないようワックスが塗ってあるのだ。

机の上に飾られたそれを、スザクは手にとり、手の中で転がしていた。
今日は、死者が家族の元へ戻ってくる日。
彼が気になっていることは1つ。

”ルルーシュは来てくれるのだろうか。”

馬鹿馬鹿しい考えだということは分かっている。
死んだ人間と会うことはできない。
日本のお盆と同じで、今生きてる人間が故人を偲ぶきっかけの日なのだ。
それでも・・・。

「ふう。」

自然と溜息が出る。
ゼロの仮面を被り続けることは、”枢木 スザク”という個人を捨て続けることである。
C.C.以外の人間は、自分が生きていることを知らない。
ナナリーでさえも。

この世に誰も自分の存在を認めてくれる人がいないという孤独。
つい挫けそうになる。
だからこそ、この世にいないルルーシュに、想いを馳せてしまう。

彼の最期の言葉が耳について離れない。
彼の体温。
華奢な体。
剣を引き抜いた感触。
ナナリーの泣き声。

自分が一生囚われ続け、一生かけて償っていく諸々のコト。
重くのしかかるが、それがあるからこそ、生きていられる。
生きる理由を与えてくれたルルーシュに感謝しつつも、今隣にいない彼のことを恨めしく思う。

今日くらいは、彼に会いたい。






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いまごろハロウィンSS載せてみる。
スザク→ルルーシュです。
R2最終話後の設定。

私のSSってモノローグばっかだな・・・。

そのうち、HPにしまいます。

























バレンタインデー・キッス

2008-02-15 03:58:27 | SS
ガンダムOOのバレンタイン小説書き上げました。

・SB4人組
・ユニオン2人
・AEUの女王様と犬
・人革連の親子
・日本のバカップル

の5本です。

しばらくはブログに載せておきます。

http://caricature.blog.shinobi.jp/
余裕が出てきたら、HPも改装しますので・・・。

これでやっと、ガンダムOOサーチに登録できます。(作品数が、規定数超えたので)

とりあえず、16日までは放置します。




Trick or Treat

2007-11-01 00:06:24 | SS
「なんだそれは。」
刹那はロックオンの手元を指差した。
その指の先には、オレンジ色のカボチャに奇妙な顔が描いてある容器。
「ん?お前、知らないのか?今日はハロウィンっていうお祭りなんだよ。子供がお化けや魔女の仮装をして、"お菓子くれなきゃ悪戯するぞっ!"って近所を回ったりするんだ。」
「この船に仮装している奴などいないが・・・。」
「形はどうでもいいんだよ。たまには息抜きも必要だろ?お菓子はお兄さんの奢りだ。ただし一人一個な。刹那はどれにする?」
「・・・俺はいらない。お菓子より悪戯がいい。お前じゃ駄目か?」


ランドマーク

2006-09-24 00:48:48 | SS
 あそこに見えるは観覧車。
時計代わりにちらと見る。
ライトアップしたビルの間で、チカチカと色を変える。
暗い空が、黒いキャンバス。
「あと5分」
ウッドデッキを走っていく。
足音が大きく響く。
外灯が眩しくて、少し下を向く。
渡りきって、エスカレーターを駆け上がり、ビルの中へ。
店の明かりは消えていて、エレベーターだけが明るい。
5Fへ上がって、チケットを出し、カウンターを通り過ぎる。
息を整えながら、映画館のドアを開ける。
中では既に映画の予告が始まっていた。
「よかった、何とか着いた。」
暗闇に浮かぶ映像。
なんとなく、さっきの観覧車を思い出した。

バス停

2005-08-04 20:38:28 | SS
右にカーブした道の先に、バス停がある。
ラスト2mの直線になるとき、その細長い物体は視界に入る。
そして、大抵カーブを曲がりきると、バスがいる。
だから、いつも走る羽目になる。
乗り遅れると、最低20分は待たなければならないので、必死だ。
カーブが道を隠すから、頭の中のバス停に向けて、走る。
カーブの先にバスが来ていないこと期待しながら。