<夜明けあと>
「最後の晩餐に食べるとしたら、何食べますか?」
ソファでダラダラしていたら、新八が唐突に聞いてきた。
「・・・え、なになに新一君。銀さん殺す気?銀さんまだピンピンしてるよ?
なのになんで最後の晩餐とか聞いちゃうの?銀さん嫌いになった?」
ゆっくり後ろを振り返ると、険しい顔をした新八と目が合った。
「僕の名前は新八だボケェエエ!!いいから答えろっつーんだよ、この天パ侍ィイイ!」
案の定怒られた。こいつ、沸点低過ぎなんだよな~。こういう時は、スルーだスルー。
「うっせぇ、ツッコミだけが取り柄のメガネヤローに言いたくねーっつのコノヤロー。」
テレビに顔を戻しつつ、手を振りながら答えたら後ろから溜息が聞こえた。
「あーはいはい。銀さんはどうせいちご牛乳とかパフェとか甘いものですよねー。
聞いた僕がバカでしたー。人の質問にちゃんと答えられないなんて、ほんとつまんない人ですねー銀さんは。
そんなだからいつまで経ってもフワフワしてるんですよ。頭も職も!」
ドスドス足音を立てながら玄関に向かい、盛大な音を立てて扉を閉め、新八は万事屋から出て行った。全く、騒々しい奴だ。
「うっせぇ!・・・って聞こえねーか。」
神楽は定春の散歩をしに出掛けたので、この家には今俺しかいない。遠くで子供の笑い声がするのが聞こえる。
なんて静かで平和な午後だろう。
「最後の晩餐、ねぇ・・・。」
目を閉じると、ゆっくりと睡魔が襲ってきた。
「ほら、これをお食べなさい。」
差し出された白いお握りと白い手。その手を辿ると、優しい微笑みを浮かべた男と目が合った。
血の臭い。人の腐っていく臭い。
そんなものを嗅ぎ続けていた鼻は、香しいご飯の匂いに敏感に反応し、銀時は手で鷲塚むと共に口の中へ放り込んでいた。
「ほら、そんなに急がなくても、まだまだありますから。ゆっくりお食べ。」
いきなり現われた男の、毒が入っているかも知れないものを警戒せずに食べた。
それくらい餓えていたし、それに頭のどこかでこの男は危険じゃないと分かっていた。
だから、無我夢中で食べた後、その男、松陽先生について行った。
「強いて言うなら、あの時のお握りかなぁ。」
また食べたい。あの手から差し出されるお握りを。もう叶わないけれども。
目を開けると窓から射す太陽の光はすでにオレンジ色だった。
今日も依頼がないまま一日が終わっちまったようだ。
「神楽の奴どこまで散歩行ってやがんだ、ったく。」
起き上がって背伸びをする。
やっぱりソファーで寝ると体がこわばるなと思いながら立ち上がると、机に置き手紙があるのが見えた。
「銀ちゃんへ。アネゴの家にいます。起きたら来て下さい。神楽より。」
紙を掴んで読み上げる。
夕飯にお呼ばれでもしているのだろうか。
正直飯代が浮くのは嬉しいが、あの不味い料理をどう食べずに乗り切るか。
「まあ、新八もいるし食えるものあるだろ。いざとなれば食材パクって自分で作ればいいしな。」
お腹を擦りながら、玄関に向かう。
「一日中ゴロゴロしているだけなのに、どうしてお腹が減るんですかねー。
お腹と背中がくっつきそうだぜ。これが生きてるってやつなんですかね。」
「銀ちゃん遅い!もうお皿並べ終わっちゃったアル!」
新八の家に着くなり、神楽に怒られた。
オメー、集合時間書いてないのに遅いってどういうことだ、理不尽過ぎるぞコラ。
まあ、俺は大人だしー?これくらいじゃ怒らないしー?
「はいはい、銀さんが悪ぅございました。後片付け手伝うから勘弁しろ。」
靴を脱いで居間へ向かう。やたら玄関に靴が多かったのは気のせいか?
「どうも、こんばんはー。夕飯ごちそうになりまーす。」
居間の戸を開けると、お登勢のババァ、キャサリン、たま、晴太に月詠、九兵衛、そしてお妙が座っていた。
「ん?なんでテメーら揃ってんの?今日なんかあったっけ?」
このメンツが揃っていると、いつぞやの悪夢(6人同時結婚の回参照)を思い出して嫌な予感しかしない。
逃げ帰りたい気持ちを抑えつつ、聞いてみる。
すると、全員が一斉に溜息をついた。え、俺なにかマズイこと言った?
「やっぱこの人忘れてたよ。ったく、今日はアンタの誕生日でしょうが!」
後ろから鍋を持って現れた新八に言われてやっと思い出した。
そういえば、今日俺の誕生日か。
すっかり忘れてた。
「アンタの一番好きなもの作ってあげようってみんなと話してたのに、ちゃんと答えてくれなかったから適当に鍋にしましたからね!
文句は過去の銀さんに言って下さいよ!」
鍋敷きにドカッと鍋を置きながら新八は言った。
まだ怒っているようだ。
「あーそういうことだったの?だったら分かりやすくそう聞けよ。
だって普通そうだろ。“最後の晩餐”とかいきなり言われてすぐに答えられるかよ。」
「もういいですから、はい、そこ座って。さっさといただきますしますよ。」
新八に背中を押されて座卓につく。
こんな大勢の人と一緒の誕生日なんて、なんだかこそばゆい。
「「「「せーの、銀さん、お誕生日おめでとう!」」」」
みんなで声を合わせてお祝いの言葉を俺にかけてくれた。
嬉しい反面、なんだかそわそわする。
「なんか照れ臭いな、こういうの。・・・けどよ、ありがとな。」
パチパチと拍手が起きる。
「さて、じゃあ食べましょうか。今日のメインはちゃんこ鍋です。
いいですか。肉団子は1人3個ですからね、前のすき焼きみたいに醜い争いは今日はナシですからね!」
「はいはい。それじゃあ、いただきます!」
松陽先生、アンタのくれたお握り、すごい美味かったよ。
けどよ、俺に手を差し出してくれる奴らが、アンタの他にも今居てくれるんだ。
だから、コイツらと一緒に食べるなら最後だろうがなんだろうが食い物なんかなんでもいいなって思うんだ。
変かな、俺。
―終―
(あとがき)
星新一さんの「夜明けあと」という本からタイトルお借りしました。
明治維新後の人々の生活を、新聞記事を抜粋して簡潔に紹介している本なのですが、なんかちょっと銀さんぽいなって思って。
生死のやり取りをした戦場で生まれ育ち、今は平和な日々を生きている。
夜が明けるまえというのは、心がざわざわするけれど、
夜が明けたあとはどうなのだろうと考えてみました。
(追伸)
pixivに登録してみました。
人様の作品ばっか見てますが、たまに小説アップして行こうと思ってますので、こちらもよろしくです。
http://www.pixiv.net/member.php?id=1081449
「最後の晩餐に食べるとしたら、何食べますか?」
ソファでダラダラしていたら、新八が唐突に聞いてきた。
「・・・え、なになに新一君。銀さん殺す気?銀さんまだピンピンしてるよ?
なのになんで最後の晩餐とか聞いちゃうの?銀さん嫌いになった?」
ゆっくり後ろを振り返ると、険しい顔をした新八と目が合った。
「僕の名前は新八だボケェエエ!!いいから答えろっつーんだよ、この天パ侍ィイイ!」
案の定怒られた。こいつ、沸点低過ぎなんだよな~。こういう時は、スルーだスルー。
「うっせぇ、ツッコミだけが取り柄のメガネヤローに言いたくねーっつのコノヤロー。」
テレビに顔を戻しつつ、手を振りながら答えたら後ろから溜息が聞こえた。
「あーはいはい。銀さんはどうせいちご牛乳とかパフェとか甘いものですよねー。
聞いた僕がバカでしたー。人の質問にちゃんと答えられないなんて、ほんとつまんない人ですねー銀さんは。
そんなだからいつまで経ってもフワフワしてるんですよ。頭も職も!」
ドスドス足音を立てながら玄関に向かい、盛大な音を立てて扉を閉め、新八は万事屋から出て行った。全く、騒々しい奴だ。
「うっせぇ!・・・って聞こえねーか。」
神楽は定春の散歩をしに出掛けたので、この家には今俺しかいない。遠くで子供の笑い声がするのが聞こえる。
なんて静かで平和な午後だろう。
「最後の晩餐、ねぇ・・・。」
目を閉じると、ゆっくりと睡魔が襲ってきた。
「ほら、これをお食べなさい。」
差し出された白いお握りと白い手。その手を辿ると、優しい微笑みを浮かべた男と目が合った。
血の臭い。人の腐っていく臭い。
そんなものを嗅ぎ続けていた鼻は、香しいご飯の匂いに敏感に反応し、銀時は手で鷲塚むと共に口の中へ放り込んでいた。
「ほら、そんなに急がなくても、まだまだありますから。ゆっくりお食べ。」
いきなり現われた男の、毒が入っているかも知れないものを警戒せずに食べた。
それくらい餓えていたし、それに頭のどこかでこの男は危険じゃないと分かっていた。
だから、無我夢中で食べた後、その男、松陽先生について行った。
「強いて言うなら、あの時のお握りかなぁ。」
また食べたい。あの手から差し出されるお握りを。もう叶わないけれども。
目を開けると窓から射す太陽の光はすでにオレンジ色だった。
今日も依頼がないまま一日が終わっちまったようだ。
「神楽の奴どこまで散歩行ってやがんだ、ったく。」
起き上がって背伸びをする。
やっぱりソファーで寝ると体がこわばるなと思いながら立ち上がると、机に置き手紙があるのが見えた。
「銀ちゃんへ。アネゴの家にいます。起きたら来て下さい。神楽より。」
紙を掴んで読み上げる。
夕飯にお呼ばれでもしているのだろうか。
正直飯代が浮くのは嬉しいが、あの不味い料理をどう食べずに乗り切るか。
「まあ、新八もいるし食えるものあるだろ。いざとなれば食材パクって自分で作ればいいしな。」
お腹を擦りながら、玄関に向かう。
「一日中ゴロゴロしているだけなのに、どうしてお腹が減るんですかねー。
お腹と背中がくっつきそうだぜ。これが生きてるってやつなんですかね。」
「銀ちゃん遅い!もうお皿並べ終わっちゃったアル!」
新八の家に着くなり、神楽に怒られた。
オメー、集合時間書いてないのに遅いってどういうことだ、理不尽過ぎるぞコラ。
まあ、俺は大人だしー?これくらいじゃ怒らないしー?
「はいはい、銀さんが悪ぅございました。後片付け手伝うから勘弁しろ。」
靴を脱いで居間へ向かう。やたら玄関に靴が多かったのは気のせいか?
「どうも、こんばんはー。夕飯ごちそうになりまーす。」
居間の戸を開けると、お登勢のババァ、キャサリン、たま、晴太に月詠、九兵衛、そしてお妙が座っていた。
「ん?なんでテメーら揃ってんの?今日なんかあったっけ?」
このメンツが揃っていると、いつぞやの悪夢(6人同時結婚の回参照)を思い出して嫌な予感しかしない。
逃げ帰りたい気持ちを抑えつつ、聞いてみる。
すると、全員が一斉に溜息をついた。え、俺なにかマズイこと言った?
「やっぱこの人忘れてたよ。ったく、今日はアンタの誕生日でしょうが!」
後ろから鍋を持って現れた新八に言われてやっと思い出した。
そういえば、今日俺の誕生日か。
すっかり忘れてた。
「アンタの一番好きなもの作ってあげようってみんなと話してたのに、ちゃんと答えてくれなかったから適当に鍋にしましたからね!
文句は過去の銀さんに言って下さいよ!」
鍋敷きにドカッと鍋を置きながら新八は言った。
まだ怒っているようだ。
「あーそういうことだったの?だったら分かりやすくそう聞けよ。
だって普通そうだろ。“最後の晩餐”とかいきなり言われてすぐに答えられるかよ。」
「もういいですから、はい、そこ座って。さっさといただきますしますよ。」
新八に背中を押されて座卓につく。
こんな大勢の人と一緒の誕生日なんて、なんだかこそばゆい。
「「「「せーの、銀さん、お誕生日おめでとう!」」」」
みんなで声を合わせてお祝いの言葉を俺にかけてくれた。
嬉しい反面、なんだかそわそわする。
「なんか照れ臭いな、こういうの。・・・けどよ、ありがとな。」
パチパチと拍手が起きる。
「さて、じゃあ食べましょうか。今日のメインはちゃんこ鍋です。
いいですか。肉団子は1人3個ですからね、前のすき焼きみたいに醜い争いは今日はナシですからね!」
「はいはい。それじゃあ、いただきます!」
松陽先生、アンタのくれたお握り、すごい美味かったよ。
けどよ、俺に手を差し出してくれる奴らが、アンタの他にも今居てくれるんだ。
だから、コイツらと一緒に食べるなら最後だろうがなんだろうが食い物なんかなんでもいいなって思うんだ。
変かな、俺。
―終―
(あとがき)
星新一さんの「夜明けあと」という本からタイトルお借りしました。
明治維新後の人々の生活を、新聞記事を抜粋して簡潔に紹介している本なのですが、なんかちょっと銀さんぽいなって思って。
生死のやり取りをした戦場で生まれ育ち、今は平和な日々を生きている。
夜が明けるまえというのは、心がざわざわするけれど、
夜が明けたあとはどうなのだろうと考えてみました。
(追伸)
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人様の作品ばっか見てますが、たまに小説アップして行こうと思ってますので、こちらもよろしくです。
http://www.pixiv.net/member.php?id=1081449