さよなら936

 

修理にでかけていった936くんは

帰ってきませんでした。

駆動部まわりの樹脂が、顆粒となって崩れたそうです。

新しい子が来て、きげんをわるくしたのかと思ってましたが・・・

 

がんばって　がんばって

つないでくれたんだね。

30年くらい前に縫った蒸籠入れ。まだカタン糸だったと思います。

飯台やのし台の袋も　あの子のしごと。

マジックボビンといって、水平釜につけたまま下糸が巻けました。

上下の円周がちがうイレギュラーな形。

経営危機等のごたごたで、いったん手に入らなくなりましたが

HPから取り寄せられるようになりました。

ずいぶん買いましたが、どんどんこわれたな。

中心の接合があまくて、糸をまきんで　はがれてしまうのです。

べんりだったとんぼガイド。

じゃまになるといけないと思って、はずしておいて手許に残りました。

大きな手術をして

立ち直れるのかと思っていたとき

936くんとの長い対話が始まりました。

 

だれもいない家の中で　

なんどもなんども　

解くために縫うような繰り返しに

つきあってくれました。

約束の5年も過ぎるころ

こんどは936くんの状態がわるくなりました。

修理士さんのアドヴァイスでいったんは立ち直ったものの

折からのコロナ禍に、今度はだすのがためらわれました。

ぐずぐずしていて時機をのがしたのは自分なのですから。

後継機がきて

待機数も落ち着いたころ　正式に依頼をかけました。

　

ひとは

考えたくない可能性を　はじいてしまうのでしょう。

送り出すとき

ねぎらいのことばをかけていませんでした。

 

いやぁ、ちょっと電話口にだしてください、ともいえません。

いたすぎるよね。

けど。

 

さいわいにも、工房さんは意をくんでくださいました。

 

さよなら。

楽しい時を、ありがとう。

役にたってくれて、ありがとう。

そして、40年間　ほんとうにおつかれさま。