アジア映画巡礼

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TIFF2022-DAY2:イラン映画と香港映画の日

2022-10-26 | アジア映画全般

オープニングの日から一晩明けて、10月25日(火)には映画祭の上映も本格化しました。プレス(報道関係者)とインダストリー(映画業界関係者)向けに行われるP&I上映は通称「プレス試写」と呼んでいますが、朝10時からコンペ部門、アジアの未来部門、NIPPON CINEMA NOW部門、ガラ・セレクション、TIFFシリーズと、一斉にスクリーニングが始まりました。というわけで今日はプレス試写でイラン映画『蝶の命は一日限り』2022)を見、その後一般上映のチケットをいただいて、香港映画『消えゆく燈火』(2022)を見ました。どちらもアジアの未来部門の作品です。

『蝶の命は一日限り』

 2022/イラン/ペルシア語、マザーリー語/78min/英語題:Butterflies Live Only One Day 
 監督:モハッマドレザ・ワタンデュースト
 出演:マンザル・ラシュガリ、マルヤム・ロスタミ、ネダ・ハビビ

湖を一望できる丘の上に1人暮らす老婦人。湖の中に浮かぶ小島を目にすることだけが彼女の生きがいです。目も衰え、針の穴に糸が通らず困る彼女。本当なら、息子のやさしい手が針と糸を奪って、彼女の代わりに通してくれるはずなのに。一人息子はイラン・イラク戦争(1980-88)で殉教し、彼女も足を片方失ったのでした。その不自由な足で彼女は乗り合いバスに乗り、役所に行って請願を続けます。巨大なダムができてかつての村が水の下に沈み、元の住民はみんなよそへ移ったというのに、彼女だけがダム湖のそばに住んで日々小島を見つめ続けるのです。その理由は...。

この理由がはっきりと語られないまま物語は進行していき、見る方は、なぜそれほどまでに小島に執着するのか、と、グッと物語に惹きつけられていきます。途中、彼女の見る夢や幻影も混ぜられて、悲しい母親の物語が最後に解き明かされるのですが、事前にパンフレットなどを読んでいなかったことが幸いして、強烈な謎解きサスペンスも味わうことができました。森や野原や湖の美しい景色と同時に、巨大なゴミ捨て場も登場して、無機質な巨大ダムと共に無慈悲なこの世を象徴しているかのようです。

1点だけ疑問に感じたのは、一人暮らしの彼女の所に健康チェックに保健師か医師の女性がやってくるのですが、視力検査(イランではロシア語の「シュ」の字みたいなああいう図形が使われるのだ、と初めて知りました。「上、右、左、下」とか答えていくようです)をして眼鏡のレンズをいろいろ取り替えると、湖の中の島がよく見えるようになったのか、彼女がその検査眼鏡を取ることを嫌がる、というシーンがありました。でも、彼女のように80歳前後だと老眼だと思うので、もともと遠くはよく見えていたのでは? 眼鏡の度を合わすのは、むしろ手近なものを見るための老眼鏡としてなのでは? と思ったのでした。

で、今日ショーレ・ゴルパリアンさんと一緒にモハッマドレザ・ワタンデュースト監督(上写真。とても背が高い、格好いいモデルのような監督さんです)がいらしたので聞いてみたところ、「あのシーンは眼科医にもアドバイスしてもらって撮ったんですが、単に老眼だけでなく、いろいろ見えにくかった目が度合わせの眼鏡によってよく見えた、ということです」と説明して下さいました。それって、白内障とか緑内障? それは眼鏡では矯正できないのでは? 等々思ったイヂワルな私(身をもって体験しているのでウルサイ^^)ですが、見る人を釘付けにする、緊張感あふれる作品でした。

 

『消えゆく燈火』

ⒸA Light Never Goes Out Limited

 2022/香港/広東語/103min/原題:燈火闌珊/英語題:A Light Never Goes Out
 監督:アナスタシア・ツァン(曾憲寧)
 出演:シルヴィア・チャン(張艾嘉)、サイモン・ヤム(任達華)、セシリア・チョイ(蔡思韵)

ⒸA Light Never Goes Out Limited

香港の下町でネオンサインの師父として工房をもち、長年いろんなネオンを作ってきた阿鑣(ビウ/サイモン・ヤム)は、妻の美香(メイヒョン/シルヴィア・チャン)とも仲のいい、気のいい初老の香港人でした。ところがある日、そんなビウは突然天国に旅立ってしまいます。一人娘の彩虹(チョイホン/セシリア・チョイ)は父の衣服などはもう不要とばかりどんどん捨てたりリサイクルに出したりするのですが、メイヒョンはとてもそんな気になれず、ある日洗濯していたビウの服から工房の鍵が見つかったのを機に、彼の工房へ行ってみます。集合住宅のビルの一室にあるビウの工房には、懐かしいネオン管が残されており、留守電もまだ生きているようです。ところが、そこに変な男がいてメイヒョンはびっくり仰天。その若い男はビウの弟子のレイ(周漢寧/ヘニック・チョウ)だと名乗り、ビウに指導してもらった頃の動画を見せたりしますが...。

ⒸA Light Never Goes Out Limited

と、映画が始まってすぐあの世に行ってしまうビウ役のサイモン・ヤムは、その後も随時顔を出してくれるのですが、物語を引っ張っていくのは上写真のシルヴィア・チャンと、これが映画初出演となる若手俳優ヘニック・チョウです。さすがにシルヴィア・チャンは堂々たる演技で、亡くなった夫を愛していて、喪章である白い花をなかなか髪からはずせない妻が、徐々に立ち直って夫が最後に作りたいと思っていたネオンサインの完成を目指す、という夫婦愛のストーリーを最後まで描ききってくれます。本作は、香港では消えゆく民間芸術と言っていいネオンサインの職人たちを顕彰する意図もあるようで、エンドロールには歴代のネオンサイン名人が7名登場します。最後の一人が本作の技術顧問でもある人で、実際にヘニック・チョウに指導する場面なども出てきます。

監督のアナスタシア・ツァン(上写真)はソルボンヌ大で映画を学んだ才媛で、本作が監督デビュー作です。古き良き時代の香港文化がすたれていくのを記録しようという気持ちもあったようで、劇中に登場する「白花油」等の懐かしいネオンサインを本作のために再現したり、ネオンサインを作る前に描かれる美麗なデザイン画を何枚も登場させたり、エンドロールは「ネオンサイン名人列伝」とでも言うべき紹介でしめくくったりと、映画のストーリーと同じくらいそれらの記録部分が魅力的でした。映画の中でももっとネオンサインの作り方をじっくり見せてくれてもよかったと思うのですが、最後のゴージャスなネオンサインがいきなり登場、という感じになってしまい、ちょっと残念でした。ゲストを迎えてのQ&Aもあったため、ほぼ満席の上映だったのですが、シルヴィア・チャン、サイモン・ヤムは登場せず、アナスタシア・ツァン監督と若手のお二人セシリア・チョイとヘニック・チョウ、そしてプロデューサーの陳心遙が登壇してQ&Aが繰り広げられました。動画はまだアップされていないようなので、日本語字幕付き予告編を付けておきます。サイモン・ヤム、来てくれると最高だったのに...(密かにファンなんです、私)。

電影《燈火闌珊》首支官方預告片(日本版)

 


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