アジア映画巡礼

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「インド北東部を知るための45章」でインド世界が広がる

2024-09-09 | インド文化

明石書店の「エリア・スタディーズ」シリーズに、また1冊、充実した内容のインド関連本が加わりました。笠井亮平・木村真希子編著の「インド北東部を知るための45章」(明石書店、320ページ、定価2,000+税)です。笠井先生、ご恵存ありがとうございました。

インドをあまりご存じない方にとっては、まず、「インド北東部」とはどこか、というお話から始めないといけないかも知れません。下は、「新たなるインド映画の世界」(PICK UP PRESS, 2021)から引用したインド地図ですが、菱形のインドの右肩上、かろうじで小さな回廊で繋がっているような地区が、「インド北東部」です。番号が振ってあって、「アッサム語」と書かれていますが、これは北東部8州の一つ、アソム(アッサム)州が比較的映画の製作本数が多いことから、代表して「アッサム語映画」が作られているのはここ、と示した次第です。

ここに8州の名前と、州都の名前を書いておきます。
 ・アルナーチャル・プラデーシュ州/イタナガル
 ・ナガランド州/コヒマ
 ・マニプル州/インパール
 ・アッサム州/ディスプル
 ・ミゾラム州/アイゾール
 ・トリプラ州/アガルタラ
 ・メガラヤ州/シロン
 ・シッキム州/ガントク

私はまだどの州にも行ったことがないのですが、インド古典舞踊の一つマニプリをずーっと昔にちょっとだけ習ったことがあり(マニプリ・ダンスとして習ったケースと、タゴール・ダンスの基礎としてマニプリの基本を習ったケースがある)、マニプル州と紅茶の産地アッサム州には、一度行ってみたいと思っていました。その反対に、インパールやコヒマという地名からは、第二次世界大戦中の日本軍の無謀なインド侵略作戦を思って、とてもこういう場所には行けないな、とも思ったりもしていました。そして近年、インド映画の中に北東州の問題や、北東州出身のキャラクターが盛り込まれることが多くなり、もっとよく知らなければ、という思いにも突き動かされていたのです。中でも、ナガランド州の労働歌を紹介しながら、ナガランドの歴史や人々を身近に感じさせてくれる秀作ドキュメンタリー映画『あまねき旋律(しらべ)』(2017)を見たあとは、こういう世界に浸ってみたい、と強く思わされました。『あまねき旋律』のソフトが発売されていないのは残念ですが(今からでも遅くない、発売して下さい、ノンデライコ様)、あれは素晴らしい作品でした。今回は使える写真が何もないので、この映画の予告編を付けておきます。

『あまねき旋律(しらべ)』予告編

 

今回の本「インド北東部を知るための45章」の中にも、映画関連の章があります。ひとつはこの映画が初めに上映されたのは2017年の山形国際ドキュメンタリー映画祭なのですが、その翌年、同映画祭で「春の気配、化薬の匂い:インド北東部より」という特集上映が行われました、それを紹介したのが本書の第33章で、同映画祭の理事である藤岡朝子さんが書いています。また、第27章「ナガの特殊な音楽世界――伝統的ポリフォニー・教会音楽・ポピュラー音楽」でも、音楽民俗学者の岡田恵美さんが触れています。それから、【コラム4】では、皆さんお馴染みの高倉嘉男さんが、「ヒンディー語映画の中の北東部」として、多くのヒンディー語映画に言及しています。これはぜひ、読んでみて下さいね。

その中では言及されていないのですが、Netflixや映画祭で上映されたヒンディー語映画『ピンク』(2016)も、3人の女性の1人がアンドレアという北東州出身で、それゆえに裁判の中でも相手側の弁護士からあてこすりを言われるシーンがありました。演じているのは、アンドレア・タリアングというメガラヤ州シロン出身の女優・歌手の女性で、父親もバンドを組んでいる歌手という音楽畑の人です。上のポスターの一番右の女性で、はっきりモンゴロイド系とはわからない顔でしたが、北東州出身者への差別を感じさせるシーンが作ってありました。こんな風に、いろんな映画に登場している北東州出身者キャラですが、北東州自身の映画製作についてもちょっと書いておきましょう。

私が初めて見た北東州の映画は、アリバム・シャーム・シャルマ監督のモノクロ作品『Imagi Ningthem(私の大事な息子)』(1981)という作品(上写真)でした。多分、1982年に初めて参加したインド国際映画祭で見たのだと思います。両親のいない少年と祖父が主人公で、望まぬ妊娠だったことから息子を父親に託して去った母との間に起こる確執を描いた作品でしたが、オーソドックスなメロドラマ、という感じだったのを憶えています。その後、何本かの北東州の映画を毎年のインド国際映画祭で見ましたが、憶えているのはメガラヤ州のカーシー語で作られた映画『Manik Raitong』(1984)ぐらいでしょうか。この作品はカラーで、悲恋物語だったように憶えていますが、なかなか見応えがありました。

2016年度のCBFC(インド映画検定局)のレポートを見てみると、アッサム語16本、カーシー語7本といったように、北東州の映画もコンスタントに作られていることがわかります。何かの折に見られるといいですね。それまでは、まずはこの本でしっかりと北東州の知識を身につけようと思います。アマゾン沼での紹介はこちらです。少し涼しくなってきたし、勉強しなくっちゃ!

 

 


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