アジア映画巡礼

アジア映画にのめり込んでン十年、まだまだ熱くアジア映画を語ります

『マダム・イン・ニューヨーク』の一家が住む町プネー

2014-06-30 | インド映画

『マダム・イン・ニューヨーク』、6月28日(土)に無事初日が開きました。おめでとうございます! 知人の話ですと、昼間の回はほぼ満員で、終了後拍手も起きたとか。最後に自然と拍手が起きるなんて、『きっと、うまくいく』以来ですね。

ところで、『マダム・イン・ニューヨーク』というタイトルになったため、ニューヨークだけが舞台と思われがちですが、最初の30分ぐらいは、主人公シャシの一家が住むプネーの町でお話が進行します。プネーは、マハーラーシュトラ州の州都ムンバイから南東に約170キロ。急行列車だと4時間ほど、飛行機だと50分ぐらいで着いてしまいます。デカン高原上にあり、ムンバイに比べて気候がいいため、昔から学園&研究都市として栄えました。有名なデカン・カレッジ等たくさんの教育・研究機関があるのですが、中でもプネー大学はサンスクリット語やインド哲学の研究で有名で、名古屋大学を始めとする日本各地から留学生がやってきます。

近年は学園&研究都市以外に、IT産業の盛んな町としても知られており、「東のシリコンバレー」とも呼ばれているとか。あと、日本語教育も盛んで、私の知人もプネーでもう何十年も日本語教育に携わっています。IT技術者で、きれいな日本語を話すインド人がいたら、「プネーのご出身?」と聞くと大体当たりかも知れません。


さらに、プネーにはインドの映画大学に当たる国立の映画&テレビ研究所(Film & Television Institute of India=FTII/上の写真はその入口ゲート)や映画史料館(National Film Archive of India)など、映画関連の施設もあります。今はインド各地に国立や州立、私立の映画学校がいろいろできていますが、FTII設立の1961年から30年間余りは、ここが映画青年たちの希望の星でした。俳優コースは一時なくなって、また現在復活していますが、卒業生にはジャヤー・バッチャン、シャバーナー・アーズミー、ナスィールッディーン・シャーら錚々たるメンバーがいます。

そんな、近年発展しつつも落ち着いた雰囲気のある町で暮らすシャシの一家。一家の名字はゴードボーレーと言い、デーヴァナーガリー文字(ヒンディー語やマラーティー語で使われている文字)で書かれた「ゴードボーレー・ニワース(ゴードボーレーの住まい)」という門柱の表札が一瞬映ります。ゴードボーレーはマハーラシュトラ州に特有の名字で、にも書きましたが、「~エー」で終わる姓(シンデー、デーシュパーンデー、ゴーカレーなど)は、「~カル」で終わる姓(マンゲーシュカル、カーレーカル、パーテーカルなど)などと共に、すぐにマハーラシュトラ州の人だとわかってしまう名字です。ちなみに、シャシのお姑さん役を演じているのは、1970年代のアート系映画によく出ていたスルバー・デーシュパーンデーという女優さんです。

(C)Eros International Ltd

ゴードボーレー家に朝配達される新聞は、「タイムズ・オブ・インディア」という英語紙と、「ナヴ・バーラト・タイムズ(新インド新聞)」というヒンディー語紙。シャシと、それからもしかしたらシャシのお姑さんもヒンディー語紙を読むのでしょうか。マハーラーシュトラ州の言語はマラーティー語なので、ヒンディー語よりもマラーティー語の新聞の方が読みやすいのでは、と思いますが、これはヒンディー語映画なのでこういうアレンジになったのでしょうね。この新聞の言語は、ラストのシーンにも関わって来ます。

ヒンディー語がもうひとつ関わってくるのは、娘サプナの学校で会う英語の先生との会話。この英語の先生は神父さんでもあるのですが、南西インドのケーララ州南部にある町コッタヤムの出身なのです。ケーララ州は教育程度が高く、みんな州の言語であるマラヤーラム語以外に英語もしっかりと身につけています。ところが、英語ができるためヒンディー語はあまり必要がないことから、言語系統も違うし、中央政府が押しつけるヒンディー語はイヤだし、というわけで、南インド4州の人たちはヒンディー語ができない人も多いのです。そんなインドの言語事情が、、映画の中には盛り込まれています。

(C)Eros International Ltd

ところで、『マダム・イン・ニューヨーク』こと「English Vinglish」は、南インドの言語であるタミル語版も作られています。タミル語版は基本的には吹き替え版なのですが、ちょっと異なっているのは、アミターブ・バッチャンに代わって、タミル語映画の大物俳優アジート・クマールが「飛行機の中で出逢う面白い人」に扮しているところ。こちらに画像がありますが、アジートもなかなかに渋い演技を見せてくれてチャーミングですね。タミル語版では上記のような言語問題はどのように表現されているのか、ちょっと見てみたい気もします。そうそう、上にリンクを貼ったシーンでは、ヒンディー語版でワインを飲んでいたシャシは、タミル語版ではコーラを頼みます。タミル語版は、シャシにはあくまでも良妻賢母イメージという保守路線^^なのでしょうか。

英語以外の言語にも注目して見ると興味深い『マダム・イン・ニューヨーク』。明日は映画ファン感謝デーなので、料金がお安くなります。また金曜日は、シネスイッチ銀座のレディース・デー。リピーターの方は、お得な料金を選んでご覧になって下さいね~。


 


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