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アジア映画巡礼

アジア映画にのめり込んでン十年、まだまだ熱くアジア映画を語ります

「サタジット・レイ レトロスペクティブ 2025」の豊穣な世界へ

2025-04-23 | インド映画

その昔、インド映画が芸術映画と商業映画とに分かれていた時代がありました。芸術映画は英語では「アート・フィルム(Art Film)」と呼ばれ、それが1960年代の後半からは、「平行映画(Parallel Cinema)と呼ばれるようになります。この「平行」を日本では誤解していた人もいるのですが、これは当時インドの文学運動で「平行文学(Samantar Sahitya/ サマーンタル・サーヒティヤ)」と呼ばれる一連の文学作品がこの頃に生まれて、それらの作品が原作となった『Us Ki Roti(その日の糧)』(1969/原作:モーハン・ラーケーシュ/監督:マニ・コウル)や『Sara Aakash(天空)』(1969/原作:ラージェーンドラ・ヤーダウ/監督:バース・チャテルジー)といった映画が海外で高い評価を受けたことから、そう呼ばれるようになったものです。さらに、1974年にシャーム・ベネガル監督が『芽ばえ』を世に出すと、今度は「ニュー・シネマ(New Cinema)」と呼ばれるようになります。現実に鋭く切り込み、社会問題を描く作品であるものの、「パラレル・シネマ」よりは娯楽性があり、しかもカラー作品である、というのが「ニュー・シネマ」の位置づけでした。そして、こういった映画ではない映画、溢れんばかりの娯楽要素とソング&ダンスシーンが入っており、一般公開されて多くの観客を楽しませる映画は「主流映画(Main Stream Cinema)」と呼ばれたりしていたのですが、1991年からの経済発展はこの両者の垣根を崩してしまい、今では「アート・フィルム」という呼び方もまったく聞かれなくなってしまいました。

©National Film Archive of India

そのアート・フィルム作りをインドで力強く進めた監督が、サタジット・レイ(1921.5.2ー1992.4.23)です。上の写真は、『大地のうた』(1955)を撮影中のサタジット・レイ監督ですが、この頃彼は広告会社で働いており、従って映画撮影ができるのは日曜日のみ、日曜大工ならぬ日曜映画作家だったと言われています。その作品が、1955年に完成したあと、ニューヨークのMoMA(Museum of Modern Arts/近代美術館)で上映され、さらには1956年のカンヌ国際映画祭でベスト・ヒューマン・ドキュメント賞を受賞、一気に世界中から注目されることになります。日本人では、東宝東和という映画会社の社長川喜多長政夫人の川喜多かしこさんがカンヌでこの『大地のうた』を見て感動し、何とか日本で上映しようといろいろ努力したのですが、無名の監督、しかもインドの監督の作品とあってはどこの劇場もそっぽを向き、やっと1966年にアート・シアター・ギルド(ATG)という当時の上映組織が公開を引き受け、初めて映画館にかかったそうです。その時、川喜多かしこさんやATGの人たちが彼の名前「Satyajit Ray」に採用したカタカナ表記が「サタジット・レイ」で、以後、X線みたいな(泣)このカタカナ表記が今日に至るまで生き続けることになります。正しい読み方は、彼の母語であるベンガル語では「ショットジト・ラエ」、インドの公用語であり、英語というかローマナイズではその音をアルファベット書きすることが多いヒンディー語では「サティヤジト・ラーイ」となります。それから50年余、彼は今も日本風の読み方の名前で、日本の映画ファンに深く愛されているのです。

Photo by T. Matsuoka

サタジット・レイの作品は、ATGでの『大地のうた』に始まり、その後1974年に岩波ホールで映画上映が始まった時に、「エキプ・ド・シネマ(映画の友)」という名称が映画上映運動体に冠され、その第1回上映作品として『大樹のうた』(1959)が選ばれたのでした。その後は2,3年に1本ないし2本、サタジット・レイ監督作の新たな作品が公開され続けて、それは1992年11月公開の遺作『見知らぬ人』(1991)の上映まで続きます。同じ1992年の10月22日ー25日には、その少し前、1992年4月23日に亡くなったサタジット・レイを記念して、「日印国交樹立40周年記念 サタジット・レイ映画祭」も開催されました。上映されたのはいずれも、過去に岩波ホールで上映された作品ばかりでしたが、まだ『ムトゥ 踊るマハラジャ』(1995)が日本で大ブレイクする前、サタジット・レイのファンを始めとするインド映画に関心を持つ人たちが大勢集まったのでした。その後は、配給会社プレイタイムが2015年に『ビッグシティ』(1963)と『チャルラータ』(1965)のデジタルリマスター版を字幕にも手を入れて公開してくれましたが、こうして日本で公開や映画祭上映された作品はドキュメンタリーを除くと14本。レイの劇映画は合計31本なので、その半数にも及びません。そのため新たな作品の紹介が待たれていたのですが、このたび日本初公開の3作品を加えた計7本の作品が、「サタジット・レイ レトロスペクティブ2025」として上映されることが決まりました。提供はJAIHO、配給はグッチーズ・フリースクールで、7月にBunkamuraル・シネマ渋谷宮下で上映される予定です。今日はラインアップだけですが、ご紹介しておきましょう。

サタジット・レイ  レトロスペクティブ2025

<上映作品>
  『音楽サロン デジタルリマスター』
   1958年/インド/ベンガル語/100分/原題:Jalsaghar


©1956/ALL RIGHT RESERVED ANJAN BOSE

  
  『ビッグ・シティ デジタルリマスター』
   1963年/インド/ベンガル語/136分/原題:Mahanagar


  ©1963 /ALL RIGHTS RESERVED KAMAL BANSAL


  『チャルラータ デジタルリマスター』
   1964年/インド/ベンガル語/119分/原題:Charulata


  ©1964 /ALL RIGHTS RESERVED KAMAL BANSAL

 
  『臆病者 デジタルリマスター』
   1965年/インド/ベンガル語/70分/原題:Kapurush


  ©1965 /ALL RIGHTS RESERVED KAMAL BANSAL


  『聖者 デジタルリマスター』
   1965年/インド/ベンガル語/67分/原題:Mahapurush


  ©1965 /ALL RIGHTS RESERVED KAMAL BANSAL

 
  『主人公 デジタルリマスター』
   1966年/インド/ベンガル語/117分/原題:Nayak


    ©1966 /ALL RIGHTS RESERVED KAMAL BANSAL


  『エレファント・ゴッド デジタルリマスター』
   1979年/インド/ベンガル語/カラー/122分/原題:Joi Baba Felunath

  
 ©1979 /ALL RIGHTS RESERVED KAMAL BANSAL

    提供:JAIHO/配給:グッチーズ・フリースクール 


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