アジア映画巡礼

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テルグ語映画『あなたがいてこそ』のジャンルは?

2014-06-27 | インド映画

テルグ語映画2本の宣伝を担当しているオムロさんから、やっと最終的なヴィジュアル素材をいただくことができました。とはいえ、『あなたがいてこそ』は、本国から送付されてきた画像が300枚もあるのに、すべてがソング&ダンス・シーンなのだとか。しかも、ほぼ全部が「ラーエ・ラーエ」の歌のシーンらしく、衣装は2、3違っているものの代わり映えしない雰囲気のものばかり。約4分で300枚のヴィジュアル素材をキャプチャーするとは、楽な仕事してますねえ、ですね。文句言ってても始まらないので、今日は手始めに『あなたがいてこそ』を素材に、テルグ語映画に詳しいPeriploさんから教えていただいた「ラーヤラシーマのファクション映画」のお話を。

まず、『あなたがいてこそ』の基本データをどうぞ。

 

『あなたがいてこそ』 公式サイト 
(2010/インド/テルグ語/125分/原題:Maryada Ramanna) 
  監督:S.S.ラージャマウリ
  主演:スニール、サローニ、ナジニードゥ、スプリート、ヴェーヌゴーパール、ブラフマージー
  提供:マクザム、アジア映画社、アジアヴォックス
    配給:太秦
  宣伝協力:オムロ
※7月26日(土)シネマート六本木、8月2日(土)シネマート心斎橋にてロードショー公開


物語は、1982年、対立する家系の2人の男が殺し合う場面から始まります。1人はラーガワ・ラーオ、もう1人はラーミニードゥ(ナジニードゥ)の弟。ラーガワ・ラーオが弟を殺したと知ったラーミニードゥは、まだ幼い自分の2人の息子マッラスーリ、バイレッディと共に復讐を誓うのですが、その頃ラーガワ・ラーオも負った傷がもとで息絶えていました。復讐を恐れたラーガワ・ラーオの妻は、幼い息子のラームを連れて大都会ハイダラーバードへと逃れます。

28年後、母を亡くしたラーム(スニール)は、観光名所チャール・ミーナールのあるハイダラーバードの下町で、ボロ自転車で荷物の配達に廻る毎日。でも、自転車では機動力に欠けるため、ついに配達員をクビになってしまいます。そんな時、父親の残した土地を相続できるという知らせが舞い込み、その土地を売ってオートリキシャを買おうと、ラームは土地の処理のために列車で故郷へと向かいます。


その列車の中で知り合いになったのが、絵の好きな娘アパルナ(サローニ)。実は彼女はラーミニードゥの娘だったのですが、そんなこととは知らない、というか、そもそも父親の確執を何も知らない脳天気なラームは、アパルナの忘れたスケッチブックを手にして、故郷の村に急ぎます。村に着いたラームが道を聞いたのは、何と強面に成長したマッラスーリ(スプリート)。お互い宿敵の間柄とはつゆ知らず、マッラスーリは目的地のモスクまでラームをバイクに乗せて運んでくれる始末。あとでラームがラーガワ・ラーオの息子と知ったマッラスーリは、あわててドスをかざして追いかけますが、ラームは見つからず地団駄を踏みます。

一方、自分の土地を確かめたラームは、土地のもめ事なら有力者のラーミニードゥに相談するのが一番、とアドバイスされ、寺院に参っているラーミニードゥとバイレッディ(ヴェーヌゴーパール)父子の所へ。気に入られたラームは、ラーミニードゥの家に招かれます。そこでアパルナと再会し、彼女の許嫁と周囲がみなしている彼女の従兄シュリカント(ブラフマージー)にも紹介されたラームは、すっかりうち解けてしまいます。ところがそこへ怒りに燃えたマッラスーリが戻ってきて、父ラーミニードゥと弟バイレッディに真実を告げたからさあ大変。たちまちラームは彼らから命を狙われることに。

ラーミニードゥは、家に来た客はもてなすという信条と、神聖な家を血でよごしたくないことから、ラームが家の敷居をまたいで外に出たら殺そうと待ちかまえます。やがて事情を知ったラームは、何とか家を出て行かないですむ方法は、と四苦八苦。何も事情を知らないアパルナも巻き込んで、ラームの決死の作戦が展開していきます....。


冒頭のタイトルからして楽しい映画で、自転車の車輪がテルグ語の文字へと変化していくアニメは何度見てもあきません。そして、ラームのボロ自転車が擬人化され、CGで表情(主にライトが表現します)が変わったり、しゃべったりするお楽しみも。とはいえ、ラームはまったく自転車の独り言に気づいていないんですが。ところが、そういう楽しさと相反する血なまぐさい抗争シーンや、何かというとドス(というか、香港のヤクザ映画でも出てくる長い片刃包丁みたいな武器なんですが、正式には何と言うのでしょう?)を持ち出し、人を殺すのもいとわないラーミニードゥ一家の残忍さもてんこ盛り。これぞまさしくテルグ語映画のテイスト、と思ったのは、昔見た『愛と憎しみのデカン高原』(1997)もそうだったからです。

テルグ語映画に詳しいPeriploさんや、本作の字幕監修を担当した山田桂子さん(字幕は藤井美佳さん)のお話だと、こういう映画は「ファクション映画」と呼ぶのだとか。「ファクション(faction)」とは、党派、派閥、派閥争い、内紛という意味だそうで、つまりは「抗争映画」とでも訳せばいいのでしょうか。こちらに、Periploさんが以前にお書きになった解説があります。そこにあるように、「抗争映画」の舞台となるのがアーンドラプラデーシュ州の南西部、ラーヤラシーマ地方で、「ラーヤラシーマのファクション映画」というのがテルグ語映画のひとつのジャンルになっているそうです。『愛と憎しみのデカン高原』もこの地方が舞台だったとかで、なるほどね~というところです。

いわば、韓国映画でヤクザ映画といえば釜山、という感じなのかも知れませんね。日本で言えば、広島を舞台にした『仁義なき戦い』シリーズに通じるようなものでしょうか。Periploさんのお話だと、タミル語映画ではタミルナードゥ州マドゥライが、カンナダ語映画ではカルナータカ州の州都である大都会、ベンガルールの裏社会がその舞台となることが多いそうです。「抗争映画」という概念はボリウッド映画では聞いたことがないだけに、とっても興味深かったです。

その「抗争映画」に、笑いもふんだんに盛り込まれ、ラブロマンス要素やソング&ダンスシーンももちろんバリバリに入っている、というところがすごいですね。『あなたがいてこそ』は特にその配分や盛り込み方がうまく、さすが『マッキー』(2012)のS.S.ラージャマウリ監督、と感心します。皆さんもぜひ、「ラーヤラシーマのファクション映画」の洗礼を、『あなたがいてこそ』で受けてみて下さい。病みつきになりますよ~。そうそう、『シャー・ルク・カーンのDDLJラブゲット大作戦』(1995)のパロディも出て来ますから、ボリウッド映画ファンの皆さんも必見です!




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