いよいよ10月となり、『花嫁はどこへ?』の公開日10月4日(金)が近づいてきました。このブログでも、こちらやこちらでご紹介したほか、プロデューサーであるアーミル・カーン・インタビューのことなどもお伝えしてきましたが、あと2回、お付き合い下さい。さて本日は、この映画の中で「悪いのはこいつだ!」と言われている2つのものについてご紹介します。その前に、映画のデータをどうぞ。
© Aamir Khan Films LLP 2024
『花嫁はどこへ?』 公式サイト
2024年/インド/ヒンディー語/124分/原題:Laapataa Ladies/字幕:福永詩乃
監督・プロデューサー:キラン・ラオ
出演:ニターンシー・ゴーエル、プラディバー・ランター、スパルシュ・シュリーワースタウ、ラヴィ・キシャン、チャヤ・カダム
配給:松竹
※10月4日(金)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、シネリーブル池袋ほか全国公開
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この映画は、「結婚」をめぐる事件を描く作品で、その中で批判的に紹介されるのが「ダウリー(Dowry)」または「ダヘーズ(दहेज)」と呼ばれる結婚持参財です。これは花嫁側から花婿側に贈られる現金、動産、不動産を指し、また、花嫁自身の所有財産となる現金や貴金属もその範疇に入れられたりします。昔から、この持参財の重い負担は花嫁の実家、特に父親に重荷となり、それにまつわる映画も『Duniya Na Mane(世間は認めない)』(1937)や『Dahez(持参財)』(1952)など、昔から繰り返し作られています。日本でも、昭和の時代以前は特に農村部で、花嫁がどのくらい衣装や道具を持ってきたか、というのを自慢する風潮がありました。箪笥が何棹に長持がいくつ、鏡台に文机に...とお道具をいろいろ従えて花嫁が婚家に嫁入り、挙式前後には村の人が毎日お座敷にやってきては、中身の披露を楽しんでいく、という習慣があったのです。ただ、日本は、そのお道具や衣装を揃えるための「結納金」という花婿側からの現金供与があったのですが、インドの場合もそういった風習は存在はしたものの、あまり一般的ではなかったようです。この映画でも、上の車中シーンでそれぞれの持参財を自慢するシーンが出てきますが、2001年の地方農村では「バイク」が持参財の花形であったようで、さらに流行を先取りした「携帯電話」も登場します。
© Aamir Khan Films LLP 2024
そんな持参財騒動に、実は私も一瞬ですが巻き込まれたことがあります。本年3月にムンバイでタクシーに乗った時のこと、60歳前後と思われるタクシーの運転手さんとヒンディー語でいろいろ話しているうちに、突然彼が「マダム、お金を貸してくれないか」と言い出したのです。「はあ? 何で私にそんなこと言うの?」と聞いたら、実は娘が2人だか3人だかいるのだが、長女が結婚するにあたって持参財を用意する金が足りない、必ずあとで返すから、いくらでもいいので貸してほしい、と泣きつかんばかりに言うではありませんか。「いやいや、私、お金持ってないし。それに私から借りてもどうやって返してくれるのよ」等々理由を並べて「ダメ!」とお断りし、目的地に着いたらさっさと料金分のお金を渡してその場を去ったのですが、こんなことは初めてでした。その前にチェンナイでこの作品を見ていたため、本当に金策に窮している「花嫁の父」だったのか、それとも新手のタクシー詐欺(タクシーのあの手この手の料金ごまかしは日常茶飯事です)だったのか、としばらくの間もやもやした次第です。持参財問題、経済発展後もなくなりませんねえ。
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もう一つの悪の権化?である警察ですが、以前のブログでご紹介したように、「盗難は怖い、警察の取り調べはもっと怖い」ということわざもあるほどで、日本とは大違いです。まあ、悪いお巡りさんばかりではないと思いますが、警官にワイロはつきもの、というのがインドでの常識です。本作でも、花婿のディーパク(スパルシュ・シュリーワースタウ)が警察署に行こうとしたら、父親が「腕時計ははずしていけ。警官に取られるぞ」と忠告するし、日本人観客には「?」のシーンが多いのでは、と思います。警察署が最初に登場するシーンでは、署長のマノハル警部補(ラヴィ・キシャン)が大金を数えつつ、折り目が切れた札を交換させ(切れたり端が欠けたりしているお札は相手から受け取り拒否されます)、デスクの前に座って歌っている中年女性には、「歌声に免じて1万ルピー(保釈金を)減額します」と言ったりします。つまり、収監されている人間を釈放するための保釈金の額は、署長の胸三寸で決まる、というわけですね。このあとも、警察に何かを依頼するときはお金が必要、ということが、セリフの中に出てきます。
© Aamir Khan Films LLP 2024
面白いのは、この署長が部下をみんな「ジー(~さん)」と敬称を付けて呼ぶことで、女性警官は「ベーラー・ジー(ベラ君)」、男性警官は「ドゥべー・ジー(ドゥベ君)」と呼ばれています。叱責する時はもちろん呼び捨てですが、署長と署員たちの関係がこれでよくわかります。おまけに女性警官の「ベラ君」はスポーツ採用枠で、従って昼食には栄養補助食品として卵と果物が支給されるらしく、そのたくましい身体から、国体級のレスリング選手とかではないか、と推測できます。「ベラ君」は署長のパーン(噛みタバコと訳されたりする嗜好品で、口中清涼剤的な役割を果たす食品)に入れるベテルナッツをくるみ割りのような道具で細かくする役目も引き受けていて、バチン、と砕くその音がプシュパやディーパクをびくっとさせます。こんな設定もなかなか上手な、『花嫁はどこへ?』の脚本です。そして、この息の合った警察署メンバーが、ラストには拍手パチパチの行動をしてくれるので、ぜひ、ご注目下さい。
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細部に何かと見どころの多い『花嫁はどこへ?』、ゆったりと楽しんで下さいね。最後に本編映像冒頭部分+予告編の映像を付けておきます。
“アーミル印”の本作冒頭シーン映画『花嫁はどこへ?』 本編映像