アジア映画巡礼

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超ド級韓国映画が押し寄せる!<2>『KCIA 南山の部長たち』

2021-01-22 | 韓国映画

2020年の韓国映画観客動員数トップの作品『KCIA 南山(ナムサン)の部長たち』が、今日から日本でも公開されています。以前にも『ユゴ 大統領有故』(2005)として映画化されたことのある、1979年の朴正熙(パク・チョンヒ)現職大統領暗殺事件を描くもので、直接手を下した金載圭(キム・ジェギュ)KCIA部長の部下の目から見た物語となっていた『ユゴ』とは異なり、キム部長自身を主人公に据えたのが本作です。名前は「キム・ギュピョン」と変えてあるのですが、かなり綿密なリサーチがされたようで、当時の韓国、大統領府、そしてKCIAの内情が緊迫感を持って描かれています。タイトルが「部長たち(부장들/ブジャンドゥル)」となっている点にも要注目です。

『KCIA 南山(ナムサン)の部長たち』 公式サイト  
2020/韓国/韓国語/114分/原題:남산의 부장들
 監督:ウ・ミンホ
 主演:イ・ビョンホン、クァク・ドウォン、イ・ソンミン、イ・ヒジュン、キム・ソジン
 原作:金忠植『実録KCIA―「南山と呼ばれた男たち」』(訳:鶴真輔/講談社刊)
 配給:クロックワークス
※1月22日(金)よりシネマート新宿ほか全国ロードショー

COPYRIGHT © 2020 SHOWBOX, HIVE MEDIA CORP AND GEMSTONE PICTURES ALL RIGHTS RESERVED.

1979年10月26日夜。パク・チョンヒ大統領(イ・ソンミン)はお気に入りの招待所(大統領がプライベートな会合を持つための家)で、警護役のクァク・サンチョン室長(イ・ヒジュン)らと共に飲んでいました。招待所にやってきたKCIAのキム部長(イ・ビョンホン)は、警備していた二人の部下に対して「国が道を誤れば我々も終わりだ。覚悟のほどは?」と尋ねます。この夜キム部長は、ある決心を秘めて招待所にやってきたのです。部下から「閣下も?」と尋ねられたキム部長は、「今日始末する」と厳しい顔で答えます。そしてキム部長は、その決心を実行に移すべく、大統領が宴席を設けている部屋にやってきます...。

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キム部長がこんな行動を取った背後には、複雑な事情と感情がありました。キム部長がソウル中心部の南山(ナムサン)に本部があるKCIA(韓国中央情報部)の部長になったのは、親友でもあった前部長パク・ヨンガク(クァク・ドウォン)がアメリカに亡命したからでした。パク・ヨンガクはこの日より40日前、アメリカ下院の聴聞会で証言し、韓国大統領の腐敗ぶりを告発したのでした。「祖国の民主化を願い、証言台に立った」というパク・ヨンガクの言葉にソウルのパク大統領は激怒し、さらに彼が回顧録を書いていると聞いて、キム部長にそれを奪いに行かせます。ワシントンに着いたキム部長はパク・ヨンガクと会いますが、彼はキム部長に「部長になったのか、どんな地位かも知らないで」と同情するように言います。そして青瓦台(大統領府をこう呼ぶ)の裏の顔をいろいろ語ってくれたのですが、KCIAの要職に就いたばかりのキム部長には、パク・ヨンガクの原稿を持ち帰ることしか頭にありませんでした。

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一応任務は果たしたキム部長でしたが、パク・ヨンガクのさらなる裏切りがあったり、ワシントン在住韓国人ロビイストの女性デボラ・シム(キム・ソジン)の暗躍があったり、さらには帰国後青瓦台で盗聴器が発見されたりと、様々な事件がキム部長を襲います。警護役のクァク室長からは突き上げられ、やがてパク大統領からの信頼も薄れてきたように感じられてきて、キム部長は焦燥感と疎外感にさいなまれていきます...。

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内容はドロドロしているのですが、素晴らしい人間ドラマになっています。そして、演じている俳優たちがいずれも見事で、やじ馬根性で韓国政治をのぞき見るよりも、人というのはこういう風に人間性を壊されていくのだ、という人間観察へと見る者を引き込んでくれます。沈着冷静でいながら、根暗を感じさせて人には胸襟を開かないキム部長は、イ・ビョンホンには演じにくかったのではと思いますが、大物オーラと小人物感の両方を漂わせる難しい役をさすがの貫禄で体現してくれています。しかし、驚くべきはクァク室長を演じたイ・ヒジュンで、この人は『戦場のメロディ』(2015)の闇市の大将みたいなチンピラしか印象になかったのですが、本作では体重を25㎏も増やして臨んだそうで、まるで別人のよう。大統領の側近でありながら、右翼武闘派というかヤクザの若頭というか、そういう雰囲気を漂わせる品のない、力だけに頼る男を堂々と演じていて目を見晴らされます。

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そして、クァク・ドウォンはいつもの通り安定の演技なのですが、もう一人驚かされたのがパク大統領役のイ・ソンミン。事前に配役を知った時には、顔が全然似ていないのに大丈夫かしら、と思ったのですが、いざ画面に現れてみると、実際のパク大統領に似てる~! あのキロッとした目を半眼気味にし、冷たさを頬からあごの線ににじませた顔は、どう見ても、報道や文献などで見ていたパク・チョンヒ大統領です。すごい役者ですね、イ・ソンミン。『工作 黒金星(ブラックビーナス)と呼ばれた男』(2018)の北朝鮮の大物役でも驚かされたのですが、それ以上に素晴らしいなりきりぶりでした。こんな風に、俳優陣の演技だけでも見どころ超満載、そのほか浦川留さんもブログで言及していましたが、間接的にこの大統領暗殺事件に触れたソン・ガンホ主演作『大統領の理髪師』(2004)へのオマージュと思われるシーンもあったりして、最後まで緊張感に身を固くしつつも、韓国現代史の闇を見せてもらって、大満足の作品でした。

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確かに、この事件を同時代的に経験した韓国の人や、歴史として学習した若者層にとっても、この映画はものすごく興味深い作品だったろうと思います。今回、「部長はなぜ大統領を殺したのか?」の解釈も誠実に呈示してあるのですが、それでも、すべての謎が解けたわけではなく、またこの先も、このテーマで映画化される作品が出てくるかも知れません。そんなことを考えていて気がついたのは、最初に言及した『ユゴ 大統領有故』が作られのが2005年、ノ・ムヒョン大統領の時代です。そして本作『KCIA 南山の部長たち』は、パク・クネ大統領が退陣し、ムン・ジェイン大統領になった現政権時代の作品です。ご承知の通り、パク・クネはパク・チョンヒ大統領の娘ですし、彼女が大統領の間はもちろん、軍事政権やパク・チョンヒ大統領と近しい政権の間は、こんな作品はもってのほか、だったわけで、映画も時代を写す鏡になっているわけですね。緊急事態宣言下の公開になってしまったのは残念ですが、映画館は感染予防策も完璧ですので、ロコモ防止がてら、ぜひお出かけになってみて下さい。最後に予告編を付けておきます。

『KCIA 南山の部長たち』2021.1.22(金)公開【予告編】

 


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