アジア映画巡礼

アジア映画にのめり込んでン十年、まだまだ熱くアジア映画を語ります

4月は『メイド・イン・バングラデシュ』でダッカへ飛ぼう!<その①>

2022-04-01 | 南アジア映画

元は「東パキスタン」と呼ばれていた地域が「バングラデシュ人民共和国」として独立宣言をしたのは、1971年3月26日。この日、独立運動の高揚を押さえ込もうとしたパキスタン軍がアワミ連盟のムジブル・ラフマン党首を逮捕したのですが、その数分前に彼は「バングラデシュ分離独立宣言」をしたとされていて、バングラデシュでは3月26日が「独立記念日」の休日となっています。この時は、その後インド軍が介入し、バングラデシュを目指す東パキスタン+インドVS.西パキスタン(現在のパキスタン)という戦いが長期にわって続き、同年の12月16日にパキスタン軍が降伏して、やっとバングラデシュは名実ともに独立を果たしたのでした。それから51年、日本でバングラデシュ映画が初めて公開になります。バングラデシュ映画はこれまで映画祭等で上映されたことはあるのですが、一般公開は初めてです。まずは映画のデータをどうぞ。

『メイド・イン・バングラデシュ』 公式サイト 
 2019年/フランス、バングラデシュ、デンマーク、ポルトガル/ベンガル語/95分/原題・英語題:Made in Bangladesh
 監督:ルバイヤット・ホセイン
 出演:リキタ・ナンディニ・シム、ノベラ・ラフマン、パフビン・パル、ディバニタ・マーティン
  提供・配給:パンドラ
4月16日(土)より岩波ホールにてロードショー、以後全国順次公開予定

映画は冒頭、ミシンが並ぶビルの1室を映し出します。JUKIの電動ミシンを掛けて、伸縮性のある赤い布地を縫っているのは23歳のシム。天井で扇風機が回る狭い室内には、3列で各列10台ずつぐらいのミシンが並んでいます。隅にはアイロンが掛けられるコーナーもあって、古びたアイロンがこれも何台もあります。そんな時、突然停電になって「火事だ!」という叫び声が。あわてて我先に逃げ出す女性たち。シムは助かったのですが、亡くなった同僚もいて、おまけに火事で工場が当面閉鎖されたため、給料も出ません。そんな時、シムは労働者権利団体のナシマから声を掛けられ、彼女の事務所に行って聞き取り調査に応じることに。「謝礼を出す」と言ったナシマの言葉に惹かれたのでした。

© 2019 – LES FILMS DE L’APRES MIDI – KHONA TALKIES– BEOFILM – MIDAS FILMES

シムは13か14歳の頃家を飛び出し、ダッカに出て来たのですが、最初の靴工場は薬品臭がきつく、次にメイドとして勤めた家庭では暴力に遭い、繊維工場に移って現在の工場が3社目でした。その間に結婚もしたのですが、夫はやさしいものの定職に就いておらず、シムの給料だけが頼りです。下町の建物にある1部屋を借りて2人で住んでいるのですが、大家の家賃取り立てが厳しく、食べるお米にこと欠くこともしばしば。その後工場は再開しましたが、給料は出ても残業代は払ってもらえず、シムが抗議すると、マネージャーに命じられた主任はシムに手を上げ、「来月払うと言ってるだろ。出て行け!」と押し出します。頭にきたシムは、労働者権利団体に行った時にナシマから誘われた集会に行ってみることにしました。仲間も誘っていった集会で、「労働組合を作って政府に登録すれば、雇用主たちも勝手なことはできません」という話を聞いたシムは、自分たちも労働組合を作ろうと思い始めます....。

© 2019 – LES FILMS DE L’APRES MIDI – KHONA TALKIES– BEOFILM – MIDAS FILMES

2013年4月24日にダッカの北西にある町シャバールで、ラナ・プラザという8階建ての商業ビルが崩落し、死者1,127人、行方不明者約500人、負傷者2,500人以上が出たという事件があったことを憶えてらっしゃるでしょうか? ここには27社もの繊維産業の縫製工場が入り、以前からの耐震性を無視した違法な増築に加え、4台の大型発電機と数千台のミシンが生じさせる振動が相まってビルに亀裂を生じさせ、それが崩落に繋がった、と言われています。日本の会社JUKI(ジューキ)が製造する工業用ミシンの音を映画の中でも聞くことができますが、その振動と共に重量も負荷となったのでは、と思わせられてしまいます。

© 2019 – LES FILMS DE L’APRES MIDI – KHONA TALKIES– BEOFILM – MIDAS FILMES

そんな状況から生み出されるTシャツやブラウス、ジャージなどは、ユニクロやヨーカドーなどのスーパーで、身近に目にすることができます。安い労働力を求めて、中国からベトナム、インドネシアへ、そしてバングラデシュへ。そこで作られた製品にはきちんと生産国の名が入ったタグが付けられているのですが、それを眺めて、作った人、縫製した人にまで思いを馳せる人は何人いるでしょうか? 今朝の新聞に挟んであったユニクロのチラシにある1,990円や1,000円のTシャツにも、「なぜこんなに安くでできるの?」とは思わず、「パシオスなら、しまむらならもっと安い」とか思ってしまうのが、我々の日常です。『メイド・イン・バングラデシュ』の中で主人公のシムが、自分たちが毎日何十枚、何百枚と仕上げているTシャツ2~3枚の売値が、自分たちの月収に等しいと知って愕然とするシーンがありますが、JETROの2010年統計によると、バングラデシュの製造業工員の収入月額は47ドル(約5,800円)。確かに、1,900円のTシャツ3枚分です。

© 2019 – LES FILMS DE L’APRES MIDI – KHONA TALKIES– BEOFILM – MIDAS FILMES

こんな風に、バングラデシュがわかると共に、日本を始めとする世界も見えてくる作品です。このあと2、3回、この映画のこととバングラデシュのことをご紹介していきたいと思います。最後に予告編をどうぞ。

映画『メイド・イン・バングラデシュ』予告編

 


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