アジア映画巡礼

アジア映画にのめり込んでン十年、まだまだ熱くアジア映画を語ります

ベトナム映画『ベトナムを懐(おも)う』&『漂うがごとく』公開迫る

2019-03-10 | 東南アジア映画

昨年開催され、大好評だったベトナム映画祭。多種多様な作品が紹介されていてとても楽しめましたが、その中の2本が3月23日(土)より一般公開となります。今のベトナム映画の水準を示してくれると共に、国を離れた人や現代ベトナムの若者の心象風景を見事に伝えてくれる作品2本です。春休みにぜひどうぞ。


 『ベトナムを懐(おも)う』 公式サイト

2017年/ベトナム/ベトナム語・英語/88分/原題:Dạ cổ hoài lang/英語題:Hello Vietnam
 監督:グエン・クアン・ズン
 出演:ホアイ・リン、チー・タイ、ゴック・ヒエップ、ディン・ヒウ、ジョニー・バン・トラン、トリッシュ・レ、タイン・ミー、チョン・カン、オアイン・キウ
 配給宣伝:ムービー・アクト・プロジェクト(アルゴピクチャーズ内)
3月23日(土)新宿K's cinemaほか全国順次ロードショー


©HK Film

物語の舞台は1995年冬、雪に見舞われたニューヨーク。年老いたトゥー(ホアイ・リン)は息子グエンが住まわせてくれている老人ホームから無断で抜け出し、息子のアパートにやってきます。ところがそこでは、孫娘タムがアメリカ人ボーイフレンドのハリーといちゃいちゃの真っ最中でした。トゥーが勝手に抜け出してきたことがわかって、タムはよけいに頭にきます。そんなタムなど無視して、トゥーは旧友のナム(チー・タイ)に電話を掛け、家に来るように言います。ナムも老人ホームから息子の家に戻ったのですが、息子一家は外出していて、孤独を感じていたのでした。なぜ二人が家に戻ったかと言えば、その日はベトナムでは大事な荒神様を祀る日だったからです。さらにトゥーにとっては、ベトナムで亡くなった妻の命日でもありました。息子グエンがアメリカに渡ったあと、トゥーは妻と二人、グエンからの仕送りで暮らしていたのですが、トゥーがひとりぼっちになってしまったのでグエンが引き取ったのです。英語もできないトゥーがアメリカで思い出すのは、若かった日々。金持ちの息子だったナムと月琴を弾いて歌うのが生業のトゥーは、共に1人の女性を愛していたのでした...。

©HK Film

もとは大人気の舞台劇だったそうで、ニューヨークでのシーンはほぼそれを踏襲しているのではないかと思われます。それにフラッシュバックがたびたび挿入され、ベトナムロケの豊かな自然と共に過去の物語を見せてくれます。物語の背景がわかっていればもっとよく主人公の心情などが理解できる作品ですので、公式サイトにあるキーワードの解説や、劇場用カタログに掲載される加藤栄先生の解説文をぜひお読み下さい。私も、荒神様の日が何かわからず、あとで加藤先生の解説を読んで大いに納得したのでした。日本でも、昭和30年代頃までは「荒神(こうじん)」も親しい神様で、関西では「おくど(かまど)の神さん」として、毎年かまどの煙突に貼るお札を張り替えたりしていたのですが、かまどが姿を消してしまうと、荒神の記憶も薄れてしまいましたね。なお、大東文化大で教えておられる以前教えておられた加藤先生は、東京外語大でベトナム語を学び、多くの文学作品を翻訳しておられます。ベトナムに興味を持たれた方は、文学作品も読んでみて下さい。

©HK Film

ベトナム戦争の記憶も遠くなってしまったのですが、1975年のベトナム戦争終結まで、日本でも様々な戦争反対運動が行われました。ナパーム弾という密林を焼き払う爆弾を雨あられと降らせて、南ベトナムで反政府のゲリラ活動を行う人々を一掃しようとした米軍の作戦など、半世紀近く経つ今でもよく憶えていますが、団塊の世代の皆さんには青春の記憶と重なるかも知れません。グエン・クアン・ズン監督は、その頃岩波ホールで上映されたベトナム映画『無人の野』(1979)の脚本を書いた作家を父に持つ人だそうで、あの映画の、黒いビニール袋に赤ん坊を入れて水の中に沈め、自分たちは息を殺して水の中に潜って米軍攻撃から逃れた若い夫婦を憶えている世代としては、感慨深いものがあります。


©HK Film

そういったベトナムの歴史を背景にし、老人問題、世代間格差、特に異国で暮らす3世代のそれぞれの思いをユーモアもまじえながら描写している本作は、含蓄の多い作品となっています。日本の若い世代でベトナム好きの方にも、知らなかったベトナムの現実を見せてくれるのでは、と思いますので、ご覧になってみて下さい。なお、ニューヨークの鴨さんが名(迷?)演技を見せてくれますので、最後のエンドクレジットも含めてお見逃しなく。


 

漂うがごとく』 公式サイト

2009年/ベトナム/ベトナム語/106分/原題:Choi voi/英語題:Adrift
 監督:ブイ・タク・チュエン
 出演:ドー・ハイ・イエン、リン・ダン・ファム、ジョニー・グエン、グエン・ズイ・コア
 配給宣伝:ムービー・アクト・プロジェクト(アルゴピクチャーズ内)
3月23日(土)新宿K's cinemaほか全国順次ロードショー

©Vietnam Feature Film Studio1,Acrobates Film

ある小さな家で行われている結婚披露宴から始まる本作は、花嫁であるズエン(ドー・ハイ・イエン)が呆然とするシーンをちらと見せて、この結婚の先行きに不安があることを暗示します。くるくると立ち働く夫の妹ら婚家の人々に比べ、夫であるタクシー運転手ハイ(グエン・ズイ・コア)は友人たちにお酒を飲まされ、酔いつぶれてしまったのです。それでも2人は新居をかまえ、お互いの日常に戻ります。結婚後も旅行ガイド兼通訳として働くズエンには、ちょっと変わった女友達カム(リン・ダン・ファム)がいて、まるで高等遊民のようなその生活について行けないものを感じながらも、ズエンは気がつくとカムの所に足を向けていました。そんなカムから頼まれて届け物をしに行った先で、ズエンはトー(ジョニー・グエン)という男と知り合い、危険な臭いを持つ彼に惹かれていきます..。

©Vietnam Feature Film Studio1,Acrobates Film

トラン・アン・ユン監督作品や、他のアート系アジア映画の記憶が呼び覚まされるような作品で、好みが分かれるかも知れません。過渡期のベトナムの様々な姿の一つとも言えるのでしょうが、現実逃避しているようなカム、結婚生活が始まったばかりというのにカムの生き方にずるずると影響を受けているズエン、そこに現れる謎めいた男のトーという構成は、決してハッピーエンドにはならないことを予感させてくれます。脚本を担当した、自身も監督でありプロデューサーであるファン・ダン・ジーの言を借りると、「本作は、満たされない渇望や人間の欲望をさらけ出すことがテーマ」だそうで、そこに標準を合わせると、登場人物たちのいろんな言や振る舞いも納得できます。

映画『漂うがごとく』予告編

主人公ズエンを演じるのは、『モン族の少女 パオの物語』(2006)で初々しい主人公を演じたドー・ハイ・イエン。すっかり成熟した大人の女性となり、『モン族の少女』とは違った魅力をたたえるドー・ハイ・イエンは一見の価値あり。上の予告編でご確認の上、ぜひ劇場で再会してみて下さい。それから、あと3日で終わりなのですが、タイミングよくこんな催しも開かれています。


この両作品の試写があった日、渋谷の東急フードショーを何気なく通り過ぎようとしたらこの催しをやっていて、おいしそうなベトナム料理がいろいろショーウインドーを占領していたのでした。チラシの下段に開催場所が書いてありますので、月~水の間にそのあたりをお通りになる方はのぞいてみて下さいね。



コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 高いぞ、デリーの映画料金 | トップ | ポスター屋さん復活!&その... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

東南アジア映画」カテゴリの最新記事