アジア映画巡礼

アジア映画にのめり込んでン十年、まだまだ熱くアジア映画を語ります

第19回東京フィルメックス:私のThe Last DAY

2018-11-27 | アジア映画全般

しつこく続ける第19回東京フィルメックスのレポート(笑)。自分的には最終日となった11月24日(土)に見た2作品が力作だったので、ぜひレポートしておきたい、ということもありますが、今回東京フィルメックスは大きな困難を乗り越えて開催にこぎつけたことから、できるだけたくさんレポートを上げて、そのご苦労に報いたく思いまして。それに実は私、プレス申請の締め切りを3日過ぎてからあわてて申請し、ダメかな~と思っていたのを拾っていただいたので、そのご親切にも報いるために、隅から隅までレポートを、というわけなのでした。24日に行われた各賞の授賞式でも、審査委員長のウェイン・ワン(王穎)監督(下写真はグランプリを受賞した『アイカ』のセルゲイ・ドヴォルツェヴォイ監督に賞状を渡すウェイン・ワン監督)が「こんな素晴らしい映画祭があって、皆さんラッキーですよ」という意味のことをおっしゃっていましたが、本当にその通りだと思います。東京国際映画祭とはまた違った性格の映画祭として、末永く続いてほしいと思っています。

で、最終日に見たのは、クロージング・フィルムとして上映されたジャ・ジャンクー (賈樟柯)監督の『アッシュ・イズ・ピュアレスト・ホワイト(原題)』と、ブリランテ・メンドーサ監督の『アルファ、殺しの権利』でした。どちらも、監督の来日はなし。でも、『アッシュ・イズ・ピュアレスト・ホワイト(原題)』のジャ・ジャンクー監督はビデオ・メッセージを寄せていて、上映前にスクリーンから観客にご挨拶。すでに来年の公開が決定しているため、配給会社のビターズ・エンドが観客アンケートを採ったりもしていて、ちょっと浮き立つ気分でした。ブリランテ・メンドーサ監督の方は、つい1か月前まで東京国際映画祭で審査員長として長期滞在していたので、続けての来日は無理ですよね。ちょうど新聞等にTIFFの総括が出る時期で、TIFFに対するメンドーサ監督の苦言というか提言というか、「映画祭のコンペ作品は、映画祭が意図する芸術性が感じられないといけない」という発言があちこちで紹介されていたことから、何だか彼も来日しているような錯覚に陥ったりしました。

【クロージング作品】
『アッシュ・イズ・ピュアレスト・ホワイト(原題)』

© 2018 Xstream Pictures (Beijing) - MK Productions - ARTE France Cinéma

2018/中国、フランス/141分/原題:江湖児女/英語題:Ash Is Purest White
 監督:ジャ・ジャンクー (賈樟柯)
 出演:チャオ・タオ(趙涛)、リャオ・ファン(廖凡)、シュウ・チェン(徐崢)、梁嘉艶、ディアオ・イーナン(刁一男)
 配給:ビターズ・エンド

中国語原題のとおり、江湖(世間という意味ですが、ちょっと意訳すると、切った張ったのヤクザな世界、という感じ)に生きる娘、巧巧(チャオ/チャオ・タオ)が主人公です。舞台は山西省大同の郊外で、炭鉱に働く人々が集う娯楽場を仕切る斌哥(ビン/リャオ・ファン)にいつも寄り添うのがチャオでした。ある日、2人が車に乗っている時にビンが襲われ、彼を助けようとチャオはビンの拳銃を持ち出してぶっ放し、結局2人とも警察に逮捕されてしまいます。ビンは微罪で済みましたが、チャオは非合法の拳銃を持っていた罪で5年間服役し、やがて出てくるとビンが今いるという長江沿いの町奉節へ。ビンはチャオの出所を出迎えてもくれなかったのですが、奉節に行ってみて、その理由がわかります...。

© 2018 Xstream Pictures (Beijing) - MK Productions - ARTE France Cinéma

チャオとビンとの20年近い歳月の変遷を描いていて、それに中国の変化が重なります。チャオ・タオはウィッグや派手な衣装を身にまとって若い頃のチャオを演じ、ビンに惚れて”彼の女”でいることで世の中を渡っていた時代から、服役や様々な苦労を経て、やがてビンが”彼女の男”として存在するようになるまでを、小気味よく演じています。チャオ・タオの前ではさすがのリャオ・ファンもちょっと影が薄く、途中から情けない男になることもあって、あまり強い印象を残しません。ほかに、彼女とからむ男性キャラとして、大言壮語を吐く新疆ウィグル地区カラマイの男(シュウ・チェン)も登場するのですが、しばらくするとあっさり退場。せっかくのシュウ・チェンも、カメオ出演程度の出番でした。


© 2018 Xstream Pictures (Beijing) - MK Productions - ARTE France Cinéma

カメオ出演と言えば、これまでのジャ・ジャンクー監督作に出演した俳優たちが、ちょろっと顔を出しています。特に面白かったのは、『山河ノスタルジア』(2015)の張譯(チャン・イー)が出演するシーンで、こんなエピソード、どこから見つけてきたんだろう、と笑ってしまいました。同じく『山河ノスタルジア』の董子健(ドン・ズージェン)も奉節の警官役で出ていたらしいのですが、気がつきませんでした。あと、リャオ・ファン主演作『薄氷の殺人』(2014)のディアオ・イーナン(刁一男)監督も、リャオ・ファン演じるビンの友人として出演。こちらは割と重要な役で、堂々たる&クセのある演技を見せています。それから、クレジットにはなかったのですが、医師役で出ていたのはフォン・シャオカン(馮小剛)監督ではなかったか、と思うのですが。来年の公開時にまたじっくりと見て、確認しようと思います。

今回も音楽はリン・チャン(林強)が担当していますが、ジャ・ジャンクー監督、それにしてもサリー・イェー(サリー・イップ/葉文)の歌が好きですね。『プラットフォーム』(2000)でも使われていた「瀟洒走一回」と、あともう1曲出て来ました。サリー・イェー、写真を整理していたら、懐かしい1993年の「歌金曲」授賞式で撮った写真を発見。「最も人気のある女性歌手」賞を受賞した時のもので、司会は左からアラン・タム(譚詠麟)、ドゥドゥ・チェン(鄭裕玲)、マイクを握っているのがサリー・イェーで、その右は阿丹ことローレンス・チェン(鄭丹瑞)です。『アッシュ・イズ~』にはほかにも、返還前の香港を代表するような曲、テレビドラマ「上海灘」の主題歌も出て来たりと、ジャ・ジャンクー監督世代にとっては、青春を刻印するのは香港の楽曲なのかも知れません。


<特別招待作品>
『アルファ、殺しの権利』
2018/フィリピン/100分/原題:/英語題:Alpha, The Right to Kill
 監督:ブリランテ・メンドーサ
 出演:アレン・ディソン、イライジャ・フィラモー、バロン・ガイスラー

メンドーサ監督の 、『ローサは密告された』(2016)に続く麻薬もの、と言えばいいでしょうか。今回は『キナタイ マニラ・アンダーグラウンド』(2009)と同じく、警官が主人公です。警部のエスピノ(アレン・ディソン)は密告者である署の掃除係エライジャから情報を得て、麻薬一味がアジトにするアパートを突き止め、ボスのいる時を狙って踏み込む計画を立てます。署員総動員で実行されたその作戦は、逃れようとしたボスを射殺するなど大きな成果を上げますが、ボスが持って逃げようとしたデイパックが行方不明になりました。実はエスピノはエライジャと組んで、そのデイパックをわが物とし、入っていた麻薬をエライジャにさばかせて、大金を得ていたのでした。家庭ではよき夫、小学生の娘2人のよきパパであり、学校の役員にも選ばれるエスピノでしたが、私腹を肥やし、さらには上司にも利益を得させるため、証拠品の横流しをしていたのです...。


警察官のパレードから始まり、そのパレードで終わる作品ですが、『キナタイ』や『ローサは密告された』と同じく、警察官腐敗の実態をスリリングに描いています。これがフィリピンの現実なのでしょうが、何度もこういった悪徳警官を題材とせざるを得ない監督に、思わず同情してしまいました。とても見応えのある作品ではあるものの、メンドーサ監督が、もっと別の題材を取り上げられる日が来てほしいと祈らずにはいられません。

では、また来年の東京フィルメックスを楽しみにしています。事務局の皆様、お世話になりましてありがとうございました!

 



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4 コメント

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これまた同じ会場で観ておりました (よしだ まさし)
2018-11-28 13:00:58
僕もブリランテ・メンドーサ監督の『アルファ、殺しの権利』を観てきました。
ブリランテ・メンドーサ監督の作品としては、なんだか普通の映画になっていたという、奇妙な感想を持ってしまいました。
どちらかというと、ドキュメンタリーに近いような映画を撮る監督という印象だったのですが、こんかいは映画的なドラマがきっちりあって、ドラマ映画的な技法もしっかり使っていたと感じました。

それにしても、またしても麻薬戦争が題材で、このところ日本の映画祭に来るフィリピン映画の多くが同じ題材を扱っていて、いささか食傷気味です。それだけ、大きな問題であり、問題意識を持つ映画監督が扱わざるを得ないというのもわかるのですが。

そうそう、会場を出る時に、cinetamaさんの後ろ姿をお見かけしましたよ。
返信する
よしだ まさし様 (cinetama)
2018-11-28 21:25:16
続けてのコメント、ありがとうございました。

よしださんも会場にいらしたのですか~、残念。
実はうかがいたいことがあったのです。

タイトルになっている「アルファ(Alpha)」って、何ですか?
「フィリピン」「アルファ」でいろいろググってみたのですが、「アルファリスト」という、税務関係の人名をアルファベット順に並べて税務署に提出する、というものぐらいしか出て来ませんでした。
「殺しの権利」と結びつくアルファって何なんでしょう?
教えていただけると嬉しいです~。
返信する
Unknown (よしだ まさし)
2018-11-28 23:56:33
これ、僕もわかりませんです。タガログ語のタイトルを見れば分かるかなとも思ったのですが、本作はタガログ語のタイトルはついてないみたいですね。いったい、「アルファ」って何なんでしょう?
返信する
よしだ まさし様 (cinetama)
2018-11-29 01:07:44
お返事、ありがとうございました。
よしださんもご存じないとなると、監督に聞くしかなさそうですね。
フィルメックス、パンフに書いておいてくれるといいのに。
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