今日はちょっと脱線して微生物についての小話をいたしましょう。
腸内細菌で「善玉、悪玉」という言葉があります。
善玉菌の代表格がビフィズス菌、悪玉菌の代表格がウェルシュ菌だとかいって、ひところはTVCMがじゃんじゃん流れていました。
これらは「ビフィズス菌をたくさん摂れば、腸の中のビフィズス菌もそれに伴って増えるだろう」という発想ですね。
なかには腸まで届く特殊な乳酸菌とか、芽胞を形成する特殊な菌を錠剤にしたものまで売られています。
でもよく考えてみれば、微生物の増殖スピードというのは驚異的に速いですから、環境が変わらなければ菌同士の力関係はほとんど変わらないわけで、どれだけ種をつぎ込んでも、あまり意味がないんじゃないかという気がします(全然効果がないという意味ではないのであしからず)。
さて、微生物には好気性微生物と嫌気性微生物とがあるそうです。好気性微生物は酸素を好む微生物で、嫌気性微生物は酸素を嫌う微生物です。
大ざっぱに言うと好気性微生物は無臭ですが、嫌気性微生物は臭いです。これはよく考えてみると面白いです。人間の鼻がどんなふうに進化して来たのかわかりませんけど、実際に、嫌気性微生物が出すような物質を人間の鼻は臭いと感じるようにできています。まあ、かなり強引な言い方ですが…。納豆菌みたいに好気性微生物でも臭い奴もいます。
嫌気性微生物には、ボツリヌス菌のように人間にとって都合の悪い物質を出すものもいますし、破傷風菌のように人間の組織の中に入り込もうとするものもいます。
けれども、嫌気性微生物だって、地球上になくてはならない存在です。
微生物も「バイキン」と言われると何だか気になります。そして気にし始めると何でも清潔にしていないといられなくなります。お化けは見えるから怖いわけですが、バイキンは見えないから怖い。いうなれば「バイキン」は想像上の生き物、現代の妖怪なのかもしれません。
さて、この「バイキン」という言葉、いったいいつから市民権を得たのでしょうか?
やっぱりやなせたかしさんかな?
さて、大腸菌――これほど汚名を着せられた微生物もいないでしょう。ほとんどの大腸菌は人畜無害です。大腸菌検査で引っ掛かると、その水は単に「コレラなどの病原菌に汚染されている疑いがある」ということが言えるだけなんです。そんなに大騒ぎする問題ではありません。
抗菌繊維で臭くなる!?
15年ぐらい前でしょうか、やたらに「抗菌」グッズが流行したことがありました。
台所や浴室で使う物だけでなく、中学生が使うシャープペンシルまで抗菌!というなんともほほ笑ましい有り様でした…。
そんなナンセンスグッズが現れては消えて行く中、ハッキリと「抗菌」の地位を確保した分野がありました。繊維製品です。
夏場、汗がしみ込んだ作業着をそのまま放置しておくと、臭くなります。ですから毎日汗を流す職人さん達の作業着を抗菌繊維で作るという発想は、すごく自然な発想です。
抗菌繊維の作業着は瞬く間に市場を席巻し、従来型のノーマルな作業着を探すのが困難なほどでした。
けれども不思議なことに、実際に現場で働く作業者の声は、このようなメーカーの思惑とは正反対のものだったのです。
「作業着が、以前より臭うようになった」――実際これが、現場の率直な声でした…。
専門家ではありませんので、どのような仕組みで、抗菌繊維で折られた作業着が、通常の繊維で折られた作業着よりも臭くなるのかわかりませんけれども、夏の暑い時期に、朝から汗だくで仕事していると、昼過ぎにはもう異臭を放つようになってくるんです。その匂いはというと、ちょうど放置していた食品がbacillus(桿菌)に覆われてしまった時の匂い、アミン臭といった感じです。“饐えた匂い”とでもいうのでしょうか。
試しに、新しく支給された作業着をやめて、以前支給されたノーマル繊維の作業着を着てみますと、1日仕事すればそれなりに汗臭くはなりますけれども、抗菌繊維の時のようなアミン臭はありませんでした。
これを聞いて、日常でよく似た経験をお持ちの方もおられるのではないでしょうか。
例えば、薬用石けん(※)を使い始めたら、なんだか以前よりも体臭が強くなったとか、アクネ菌を殺菌する洗顔フォームを使っていたら、かえってひどくなったとか、医者から水虫の薬(※)をもらってきたら、むしろ症状が悪化してしまった…等々。
こんな体験をして「ひょっとしてオイラ、特異体質なのかも。こんなこと絶対誰にも言えない!」と悩んでる人もいるのではと思います。
実は人間の健康な肌には、微生物がたくさんいます。カンジダ菌をはじめ、通常これらの菌は人間に害を与えないので、健康体であれば全く大丈夫なのです。共存共栄ってやつですね。
皮膚の常在菌というのは、人体に依存して細々と生きている、言ってみればかわいそうな生き物なんです。それを、「バイキンだからやっつけよう」という発想で駆除するわけですがなかなかうまくいきません。それは原因となる菌が特定できている場合でも、それを退治すれば治るかというとそんなに単純ではないということなのではないでしょうか。
効かない薬を使い続ければ、結果的に自分の皮膚を弱くしてしまうことにもなります。
胃袋にはピロリ菌がいますし、腸の中(実は外側)や手、頭、顔まで、人間はもともと全身微生物だらけです。サルもネコもイヌもみんな微生物まみれです。生まれたてのマウスを完全に無菌状態で育てると、すぐ死んでしまうという報告もあります。
…人間のカラダは細菌だらけ。そこのアンタも微生物だらけ。
やっぱり、なんといいますか、細菌どもの謀叛を抑えつつ、上手に付き合っていくのが上策ではなかろうか、と。
※1「表示指定成分」としてトリクロサンなどの薬用成分を含んだ石けん類をまとめて「薬用石けん」と呼びます。「表示指定成分」とは厚生労働省が商品に表示しなければいけないと定めた物質のこと。
※2 抗真菌薬。白癬菌を殺す目的で処方されます。
腸内細菌で「善玉、悪玉」という言葉があります。
善玉菌の代表格がビフィズス菌、悪玉菌の代表格がウェルシュ菌だとかいって、ひところはTVCMがじゃんじゃん流れていました。
これらは「ビフィズス菌をたくさん摂れば、腸の中のビフィズス菌もそれに伴って増えるだろう」という発想ですね。
なかには腸まで届く特殊な乳酸菌とか、芽胞を形成する特殊な菌を錠剤にしたものまで売られています。
でもよく考えてみれば、微生物の増殖スピードというのは驚異的に速いですから、環境が変わらなければ菌同士の力関係はほとんど変わらないわけで、どれだけ種をつぎ込んでも、あまり意味がないんじゃないかという気がします(全然効果がないという意味ではないのであしからず)。
さて、微生物には好気性微生物と嫌気性微生物とがあるそうです。好気性微生物は酸素を好む微生物で、嫌気性微生物は酸素を嫌う微生物です。
大ざっぱに言うと好気性微生物は無臭ですが、嫌気性微生物は臭いです。これはよく考えてみると面白いです。人間の鼻がどんなふうに進化して来たのかわかりませんけど、実際に、嫌気性微生物が出すような物質を人間の鼻は臭いと感じるようにできています。まあ、かなり強引な言い方ですが…。納豆菌みたいに好気性微生物でも臭い奴もいます。
嫌気性微生物には、ボツリヌス菌のように人間にとって都合の悪い物質を出すものもいますし、破傷風菌のように人間の組織の中に入り込もうとするものもいます。
けれども、嫌気性微生物だって、地球上になくてはならない存在です。
微生物も「バイキン」と言われると何だか気になります。そして気にし始めると何でも清潔にしていないといられなくなります。お化けは見えるから怖いわけですが、バイキンは見えないから怖い。いうなれば「バイキン」は想像上の生き物、現代の妖怪なのかもしれません。
さて、この「バイキン」という言葉、いったいいつから市民権を得たのでしょうか?
やっぱりやなせたかしさんかな?
さて、大腸菌――これほど汚名を着せられた微生物もいないでしょう。ほとんどの大腸菌は人畜無害です。大腸菌検査で引っ掛かると、その水は単に「コレラなどの病原菌に汚染されている疑いがある」ということが言えるだけなんです。そんなに大騒ぎする問題ではありません。
抗菌繊維で臭くなる!?
15年ぐらい前でしょうか、やたらに「抗菌」グッズが流行したことがありました。
台所や浴室で使う物だけでなく、中学生が使うシャープペンシルまで抗菌!というなんともほほ笑ましい有り様でした…。
そんなナンセンスグッズが現れては消えて行く中、ハッキリと「抗菌」の地位を確保した分野がありました。繊維製品です。
夏場、汗がしみ込んだ作業着をそのまま放置しておくと、臭くなります。ですから毎日汗を流す職人さん達の作業着を抗菌繊維で作るという発想は、すごく自然な発想です。
抗菌繊維の作業着は瞬く間に市場を席巻し、従来型のノーマルな作業着を探すのが困難なほどでした。
けれども不思議なことに、実際に現場で働く作業者の声は、このようなメーカーの思惑とは正反対のものだったのです。
「作業着が、以前より臭うようになった」――実際これが、現場の率直な声でした…。
専門家ではありませんので、どのような仕組みで、抗菌繊維で折られた作業着が、通常の繊維で折られた作業着よりも臭くなるのかわかりませんけれども、夏の暑い時期に、朝から汗だくで仕事していると、昼過ぎにはもう異臭を放つようになってくるんです。その匂いはというと、ちょうど放置していた食品がbacillus(桿菌)に覆われてしまった時の匂い、アミン臭といった感じです。“饐えた匂い”とでもいうのでしょうか。
試しに、新しく支給された作業着をやめて、以前支給されたノーマル繊維の作業着を着てみますと、1日仕事すればそれなりに汗臭くはなりますけれども、抗菌繊維の時のようなアミン臭はありませんでした。
これを聞いて、日常でよく似た経験をお持ちの方もおられるのではないでしょうか。
例えば、薬用石けん(※)を使い始めたら、なんだか以前よりも体臭が強くなったとか、アクネ菌を殺菌する洗顔フォームを使っていたら、かえってひどくなったとか、医者から水虫の薬(※)をもらってきたら、むしろ症状が悪化してしまった…等々。
こんな体験をして「ひょっとしてオイラ、特異体質なのかも。こんなこと絶対誰にも言えない!」と悩んでる人もいるのではと思います。
実は人間の健康な肌には、微生物がたくさんいます。カンジダ菌をはじめ、通常これらの菌は人間に害を与えないので、健康体であれば全く大丈夫なのです。共存共栄ってやつですね。
皮膚の常在菌というのは、人体に依存して細々と生きている、言ってみればかわいそうな生き物なんです。それを、「バイキンだからやっつけよう」という発想で駆除するわけですがなかなかうまくいきません。それは原因となる菌が特定できている場合でも、それを退治すれば治るかというとそんなに単純ではないということなのではないでしょうか。
効かない薬を使い続ければ、結果的に自分の皮膚を弱くしてしまうことにもなります。
胃袋にはピロリ菌がいますし、腸の中(実は外側)や手、頭、顔まで、人間はもともと全身微生物だらけです。サルもネコもイヌもみんな微生物まみれです。生まれたてのマウスを完全に無菌状態で育てると、すぐ死んでしまうという報告もあります。
…人間のカラダは細菌だらけ。そこのアンタも微生物だらけ。
やっぱり、なんといいますか、細菌どもの謀叛を抑えつつ、上手に付き合っていくのが上策ではなかろうか、と。
※1「表示指定成分」としてトリクロサンなどの薬用成分を含んだ石けん類をまとめて「薬用石けん」と呼びます。「表示指定成分」とは厚生労働省が商品に表示しなければいけないと定めた物質のこと。
※2 抗真菌薬。白癬菌を殺す目的で処方されます。