お菓子屋でのバイトの給料は
必ず給料日にもらえるというわけには
いきませんでした
個人経営のそのお店を紹介してもらって
働くことになった経緯に
訳があったのですが
今はこの流れで話すより
のち先でまた大問題になりますので
その時にします
夜はコンパニオンの仕事をしたり
そのつながりで、いける夜間バイトも
息子を託児所に預けて働けました
一時間保育料1200円ですから、手元に残るのは僅かでも
その場しのぎで食いつなげられたらましなのです
お菓子屋さんでのお給料がまともに入らないのなら
日銭を稼ぐしかありませんし
それも私のその時の力量ではいっぱいっぱいでした
託児所に預けてまで働くことは
息子のためにはならないのでは
いつも起きて私の迎えを待っているので
心身の成長にはよくないのでは
そう考える日々の私へ
どこからともなく答えのように
朗報です
託児所の園長先生に
将棋に興味があるようだと聞いたのだ
息子から聞いていたのには
ご高齢の園長先生は
寝たきりになられた奥様の介護もしておられ
預かっている子供たちの遊んだり寝たりする部屋とは別部屋に
おばちゃん先生が寝ておられ
そのお部屋では奥様(おばあちゃん先生)と園長先生と
ちっとも眠らない息子と3人で静かに過ごすことがあり
そこで園長先生が将棋を指すのを息子は見ていたのだそうだ
それでためしに、おもちゃの小さな将棋盤と駒のセットを買ってみた
将棋には正直ピンときませんでしたが
飛び上がって喜ぶ息子には私のほうが
驚きました
園長先生は息子に少し教えてくださったのか
小さな手で
「パッチン パッチン」と言いながら
直ぐに将棋を指し始めました
おもちゃの将棋といっても
厚紙で作られたもので
私がそばをバタバタ通ると
駒は吹っ飛んでしまうようなものです
それでも
1人で「パッチン パッチン」
真剣なお顔つき
その所作を見ていると
パズルが買ってあげられない罪悪感も
私の中から
吹っ飛んでいきました
まだ字も読めない息子に
子供用の入門書を古本屋で買ってみると
めきめき上達をしていき
読めないはずの本もそのうち読みはじめた
そんなに時間を要さずで、です
思いのほか喜んだのは
父でした
父は小学生のとき
町の将棋大会で優勝して賞金がわりに
みかんをひと箱もらって
お母さんに褒められたという思い出話を聞かされたことがあったので
息子が将棋をしているというと
それはそれは驚いて
大喜びをしたのです
私には兄が二人いますが
どちらも将棋を知らないまま育ち
(もちろん私もです)
家で将棋の話が上がった記憶もありませんでしたから
孫がまさか将棋の相手になるとは
夢にも思わないくらい
嬉しかったのです
父は息子のおもちゃで
すぐに向かい合って将棋を始めました
息子は
おじいちゃんが、自分の理解者で
心から尊敬をする師のような存在になり
父は父で
将棋を指すときは
遊びや学びを共有してくれる大親友を相手にしているかのようで
二人が夢中になる姿は
年齢を超えた
まるで同志
涙もろくなった母が
二人の様子をみて
うれし涙を流し
今その時を思い出し
私も涙腺が緩むのです