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山岳ガイド赤沼千史のブログ

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13鶏冠尾根から甲武信岳

2013年05月29日 | ツアー日記

 鶏冠山は甲府盆地に流れ込む笛吹川上流の東沢渓谷左岸に位置する。地図上には今のところ道はないことになっているが、鶏冠山までははっきりとしたルートになっている。数年前まで東沢の入り口には入山禁止のバリケートがあったのだが、今や可愛い看板に導かれるコースとなった。僕は毎年この時期に鶏冠尾根を甲武信小屋まで上り詰める。バイカウツギ、ミツバツツジ、ヤマツツジ、クモイコザクラなどが咲いて、そして何よりシャクナゲのトンネルをくぐり抜けていくのはとても楽しいからだ。花の咲かないシャクナゲの藪は、忌まわしいの一言に尽きる。強靱な枝はねじくれ曲がってザックのあちらこちらにひっかかり、僕らの行く手を阻もうとするから。

 先ずは東沢を少し遡り鶏冠谷出会いで飛び石づたいで対岸に渡った。例年なら二回徒渉が必要なのだが、いつかの大雨ですっかり流れが変わってしまったので、今年はその必要はなかった。

バイカウツギ

ミツバツツジ

 鶏冠谷を少し登って尾根に取り付く。急ではあるが以前に比べ大分踏みならされ歩きやすい。ヤマツツジやミツバツツジを愛でながらじわじわ登る。期待していたシャクナゲは開花後にどうも霜に当たったらしく、花びらが茶色く変色したり、開花の途中で止まってしまった物などが目立つ。シャクナゲは順次高度を上げて咲いていくので、これから行く人は問題ないとは思うが、今日はカメラを向ける気がしない。

最初に現れる第一岩峰は左側を大きく巻きながら登っていく。ここら辺の岩の割れ目に咲くクモイコザクラ残念ながらもう既に咲き終わっていた。

 第二岩峰付近は以前はザイルを使い岩稜歩きを使い楽しむところであったが、昨年から立派なステンレス製の鎖が設置され、いとも簡単に登ることができる様になってしまった。ああ、つまらない。山梨百名山なんかに選ばれたお陰で、楽しい山がまたひとつなくなってしまったのだ。ここが一般道扱いになるのも時間の問題だ。ガイドの出番も次第になくなる。

第二岩峰の岩場

鶏冠山(第三岩峰)

 第三岩峰を右側から巻いて、反対側のコルから戻るようにして現在の鶏冠山の頂上に立つ。現在のと書いたのは、実は本来の頂上はここからさらに30分ほど登ったところに在るピークに標柱があったと甲武信小屋の北爪君が教えてくれたからだ。どう考えても山頂の体裁を整えているのはそちらだと僕は前々から僕は思っていたので、今回それを聞いてスカッとした。何のためかは知らないがなんか安易だなあ。

 第三岩峰に到着するころから穏やかだった空に黒雲が沸き、ぽつぽつ雨が落ちてきたかと思ったら、いきなり雹が降り始めた。慌ててカッパを着込む。

 ここから上部は通う人も稀になるので、慎重に踏み跡を拾いながら登った。シャクナゲのトンネルは藪漕ぎに近く、しかも断続的に雨が降り続いているので体はびしょびしょだ。木賊山に近づく頃には雷まで鳴り始める始末。梅雨を前に暖気と寒気が入り交じり不安定な天候となっているようだ。

秩父らしい栂の森

 木賊山本体に取り付くと例年なら残雪が現れ、アイゼンを使ったりするのだが今年は殆ど雪がなく踏み跡を問題なく辿ることが出来た。残雪があると、道を見失い、シャクナゲの藪に突入しなければならなかったりするので助かる。こんなに雪が少ないのは初めてだし、数日前に行った富山の毛勝山は逆に記録的な大雪だったので、同じ時期の山を歩いている気がしない。偏西風と日本海を西側に持つ日本の風土は変化があって実に素晴らしいものだと思う。

 木賊山でようやく登山者に出会う。少し下れば甲武信小屋だ。

 甲武信岳小屋の小屋番北爪君は僕の友人だ。彼は腕利きのギター弾きで、それが縁で僕らは仲良くなった。三月の末には東京と石巻でそれぞれのバンドを率いて一緒にミニライブツアーを敢行もした。と言っても二人づつだけど。その時の顛末を彼がブログに書いているのでこちらもどうぞ。

石巻の旅【石巻 スペース千人風呂へ】

石巻の旅【南三陸へ】

石巻の旅【おおもり食堂と帽子】

石巻の旅【千人風呂ライブ~帰京】

 僕はこの時のことをとうとう書けなかった。なんでだろ?

 徳ちゃんは残念ながら不在で、代わりに弟さんのミツ次さんがいらっしゃった。テリー伊藤似の物静かな人だが、いつも目が穏やかに笑っている、そんな雰囲気をも持つ。

シルエットはうたた寝中ではなく うけつけ中の支配人

 

70年代のヤマハFG160、なんと3,000円なのにめちゃ良い音

 今日は結構早めに小屋に着けたので薪ストーブで体を温めて、ゆっくり目に芋焼酎を飲んだ。とにかく時間があるので、あまりピッチを上げると今日はとんでもない結果になってしまうので、自身をコントロールしつつ、大人な感じでこの何もしない時間を楽しむ。今日は日曜日だから小屋もそんなに忙しくなくて、北爪君とギターセッションを楽しんだり。宿泊客は昨日は100人、今日は15人だそうだ。結局、消灯後にギターを弾きはじめた我々は、もっとさわやかな演奏をすればよかったものを、なぜかオドロオドロしい演奏を繰り広げ、あげくお客さんに怒られて、ちんやり夜は更けていったのだ。いくつになっても馬鹿で申し訳無い。ご迷惑をおかけしましたみなさん。

 

 朝五時に朝食を済ませ、甲武信岳へ向かう。天気はすっかり回復して、朝日が眩しい朝だ。若干霞んでいて北アルプスまでは見通せないが、八ヶ岳や富士山も見えて登ってきた甲斐があるというものだ。

朝の甲武信小屋

 7時に下山を開始。シャクナゲの徳ちゃん新道を西沢へと下った。唐松が芽吹いて美しい。春ゼミが耳が痛いほど鳴いている。何千もの鈴をいっせいに鳴らしたようで、気が遠くなりそうだ。

アズマシャクナゲ

 下山後いつもの隼温泉で入浴、塩山駅解散。