山岳ガイド赤沼千史のブログ

山岳ガイドのかたわら、自家栽培の完全手打ち蕎麦の通販もやっています。
薫り高い「安曇野かね春の蕎麦」を是非ご賞味下さい

毎日ツアー残雪の燕岳

2014年05月26日 | 毎日ツアー

 快晴に恵まれているが西風が強く燕岳にある燕山荘前のテ場では、テントを張るのにみんな苦労しているようだった。誰かの持ってきた鯉のぼりが引きちぎれんばかりに激しく風の中を泳いでいる。彼らにとって今日は相当な激流だ。カッと目を見開いて、負けてたまるかと頑張っている。五月の風の中を泳ぐ鯉のぼりはかっこいい。それが腹の中に大きく風をはらんで悠然と青空を泳ぐ様を見ていると、勇気が沸き上がってくるような気がする。

 最近は住環境の変化のためか、そんな時代じゃないのか、鯉のぼりを揚げる家が減っている様に思う。しかも、端午の節句を新暦でやる地域が多いから、五月のただ中に泳ぐ鯉のぼりの数はほんのわずかなものになってしまった。桃の節句も時期が早すぎる。梅もようやく咲くぐらいの時期に桃と言われてもピンとは来ない。七夕も梅雨ど真ん中で、天の川を見上げることも叶わず、なんかしっくりと来ない。お盆だけは旧暦なのもちぐはぐで。なんでかなあと悩んでしまう。日本人はそんな季節感を大切にして来たと思うのだが、そこら辺もうどうでも良くなってしまったのだろうか。やっぱ、五月の空を泳ぐ鯉のぼりがいい。

 この日の晩は相当強い風が吹き荒れた。テントで一晩を過ごす登山者達はかなり辛い思いをしていたのではないだろうか。ここのテント場は西斜面にあって、今日みたいな日は相当煽られたはずだ。シュラフの中の空気は顔の辺りを出たり入ったりして、その中はなかなか暖まらないから、足先を擦りあわせて眠れぬ夜を過ごすのだ。まあ、それも終わってみれば楽しい思い出になる。一晩ぐらい眠れぬことはどうって事はないのだ。そう思おう。

 そんなテント場を抜けてご来光を見るために頂上に向かった。ツアー全体では昨日も登頂しているので向かったのは三名の方だけだったが、喧噪を離れて静かな山を歩くのは清々しくて、昨晩飲み過ぎた罪を洗い流してもらえるような心持ちだった。ここ燕岳は花崗岩の奇岩が多く、イルカ岩や、メガネ岩にあたる光が美しかった。遠く槍ヶ岳が次第に朝日に照らされていく。

これは朝日、夕日?多分朝日

朝日が水が張られた安曇野の田園を照らす

メガネ岩

イルカ岩

タチツボスミレ

オオミスミソウ(雪割草)

オオミスミソウ(八重咲き)

 ツアー初日の5月3日、西穂高岳を震源とする地震があった。西穂高岳では最大震度5の揺れを感じ、余震は数十回の揺れを感じたとのことだった。それが引き金になったのか、燕岳の登山口に通じる県道が土砂崩落のため通行止めとなってしまった。翌朝6時から復旧工事は始まったが、僕等が中房に下山した後も通行止めは解除されず、数百人の登山者が中房周辺に足止めを喰らうことになった。最初は歩いて下山も考えたが、歩行も禁止との情報に、諦めてのんびりするしかない登山者達。風呂に入ってビールを飲んで、昼寝をしたり、おしゃべりしたり、そよ風に当たったり、気ままに時を過ごす。どうしようもないこんな時間、それは忙しさに負われる現代の人達には逆に貴重な体験とも言える。ぼくらの生活には今、そんな時間がなさ過ぎるのかも知れない。全てはうまいこと仕組まれていて、緩い時間、曖昧な時間、適当な時間は存在を許されていないのが現代だと思うのだ。登山口へ降りてポツンと何も無いバス停で2時間に一本しかないバスを待ったり、かつては普通にあったそんなどうしようも無い時間。この間も、友人とそんな話をしたばっかりだ。だが、それも悪くないなと思う。そのうちなんとかなるだろうとあきらめて、神様のプレゼントを楽しむのだ。

開通を待つ車列・・・・・・午後2時30分に一旦解除された。

 自営業者として突っ走ってきた。少しだけこんな時間を持とうとふと考えた。いや、まだ出来ないか。


毎日越百から安平路山藪漕ぎ縦走9月28~30日

2013年10月01日 | 毎日ツアー

 秋の気配が濃厚になってきた9月の末、中央アルプスの南端に位置する越百山(コスモヤマと読む、本当はコシモヤマらしい)から安平路山を縦走した。このルートの売りはなんと言っても「藪漕ぎ」である。「藪漕ぎ」?そうここは、背丈ほどのクマザサの海を泳ぐコースなのだ。お客さんからの情報に因ると、日本三大藪漕ぎルートのひとつなんだそうだ。文字通り藪を漕ぐ。なんでそんな事する?・・・・・・・・理由は分からない。それが人間の不可思議なところ。

伊那谷と北岳から塩見あたり

 1日目、越百小屋へ泊まり、朝出発する。越百山を過ぎるといきなりハイマツは藪漕ぎみになり、南越百山から南は、いよいよ熊笹の藪となる。最初こそ未だ幾分その背丈は低いのだが、奥念丈山をこえ、松川乗越に至るとそれは背丈を超えるようになる。

 しかし、ここ数年このルートへ来ていなかったとはいえ、なんか、今年は様子が違う。そう、藪がやたらと濃くて、とにかく手強いのだ。数年前のコースタイムに比べても時間が掛かる。以前は笹の海に潜るとぽっかりとトンネルのようにルートが見えたものだが、今回はたびたびその道を見失う。と言うか、ルートは笹に呑み込まれ、ただの笹藪になりつつあると感じた。もはや、ここは登山道とは呼べない環境になってしまっている。こまめな赤布などで、ルートが示されていれば、まだ、藪化を押さえる事が出来るかも知れないが、現在ここを歩いて居る人達は全員踏み跡を外して迷走しているに違いない。同じ場所を大勢が歩けばまだその踏み跡は維持できると思うのだが。

 越百小屋の伊藤さんに因ると、このルートには「安平路の藪を守る会」的なものが有って、笹刈とかの手を出せないんだそうだ。しかしだ、このままでは、ここは完全に踏み跡は消失する運命にあるだろう。となると、この路を登山道として、登山地図に残すことには、非常に危険なことになる。現在多くの地図には赤の破線で、「熟達者向き」「藪深く踏み跡なし」とか書かれているが、踏み跡が殆どなくなってしまえば、廃道扱いにするしかないのではと僕は思う。もっとましな廃道はいくらでもある。

猛烈な藪

背丈を完全に超える藪を喘ぎながら行く

 この日、二人のお客さんが完全にバテてしまった。もともと避難小屋泊の予定でシュラフも持っているし、天気も心配ないので添乗の荻野さんとこのお二人は安平路山の北側基部でビバークをしてもらう事になった。本体は無事避難小屋へ到達したが、本日の行動時間は12時間近くとなった。数年前は9時間ほどで到達できたのだが。藪漕ぎは正味10時間である。

 もし「藪を守る会」というものがあるとしたら、その方々には少し考えて頂きたい。現在の状況では守っているのではなく放置しているとしか言えないと思う。赤布もまばらで、色んな種類があって統一されたものではないし、標識も朽ち果て殆ど読めない。赤布も看板もそんなものなくても僕はちっとも困らないが、ここをルートとして登山地図に掲載するのであれば、それにはそれなりの裏付けが必要である。現在「安平路の藪を守る会」は「安平路を廃道にする会」と同義語になっている。

避難小屋の窓に星

朝焼け

朝焼け2

雲海と南アルプス

 翌朝、荻野添乗員とお客さんお二人を待って下山した。一晩休んだらお二人とも元気を取り戻してこの日は快調に歩いて頂けたので事なきを得たが、これで、天気でも悪かったらと思うとぞっとする。

サラサドウダン

 最後は林道をあるいてゴールは昭和45年に集団離村した大平宿。ここはかつて飯田宿と妻籠宿を結ぶ宿場集落であった。趣のあるその十軒ほどの宿場には現在保存活動があって、宿泊も可能なのだそうだ。

 昼神温泉にて入浴、笹の埃にまみれた体をさっぱりと洗う。しかし僕は着替えを持っていないという大失態に気づく。でもなんと生ビールの美味いことよ、JR飯田線羽場駅にて下車させて頂いて解散。皆さん大変お疲れ様でした。

 


毎日聖岳と光岳

2013年09月08日 | 毎日ツアー

美しい草原と木道、だが、ことごとく鹿に食い尽くされている

 南アルプス南部、聖岳と光岳(てかりだけ)は趣有る静かな山域だ。北アルプスで育った僕にとっては、かなりの異次元感覚があって、山域を構成する地質や植生が大分違うからいつも新鮮な感じがする。ダケカンバのよじれ方や、お花畑や草付きの雰囲気もまるで違うし、深い深い森もまるで違っている。今回は数年ブリにやって来たので、それは、まるで初めて見るもの達のようで実に楽しい。

 初日は椹島にとまり、翌日聖平小屋へ。途中も時々弱い雨に降られたが聖平に到着してしばらくしすると雨が強まってきた。予報通り、それはかなり激しい雨で夜中には雷を伴っての暴風雨となった。8月末の大槍ヒュッテと同じだ。「またか」と思う。

 三日目、聖岳を登頂の予定だが朝になっても雨は止まず、しばらく様子を見ることに。時々雨は強まり、お客さんも殆ど諦めがちではあったが、ふとした瞬間に僕と小室添乗員の意見が一致した。

「行きましょう」

「はい、そうですね」

 もちろんラジオや、テレビの天気予報も参考にして居るのだが、ずっと山に来ていると、雲の流れやちょっとした空気感みたいなもので、「これはいけるな}みたいな感覚を持つことがある。僕が最終的に決断を迫られた時、一番当てにしてるのはこの自分の山カンである。小室さん、そして、同宿の水越ガイドも同じ瞬間にそれを感じたのはまったく不思議だが、よくあることでもある。その地域の独特の気象は、その地域に長く住んで初めて解ることだと思う。今回は結果全員が登頂できて、ものすごくお客さんに喜ばれた。

ミヤマコゴメグサ

ベニヒカゲとタカネンマツムシソウ、タカネナデシコ

ガンコウランと極小ハクサンフウロ(直径2センチぐらい)

茶臼小屋 

 茶臼小屋へ移動して四日目は光岳への往復である。茶臼岳から仁田岳に掛けては草原とダケカンバの美しい道だ。しかし、ここでものすごく気になることがあった。それは、花が異常に少ないこと。以前はもっと豊かな植生であったと思うのだが、ぽつぽつしか花は見あたらず種類も少ない。よく見ると、草原を形成するイネ科の草の先端がことごとくちぎれていて、ハクサンフウロも、草丈が極端に短く花も小さいのだ。コバイケイソウは花だけが綺麗さっぱりなくなっている。その原因は、もうみなさんお解りの通りだが鹿の食害だ。鹿は夜な夜な現れては、そこら辺の草を食べまくってしまう。毒草で有るはずのコバイケイソウも、その花がよほど美味しいのだろう、一本残らず食べてあるのは驚きだ。ハクサンフウロは一度食べられたあとの二番芽なのだと思う。花たちも必死で命を繋ごうとしている。しかし以前こぼれた種が何年かにわたって発芽をするだろうから、早く対策が施されれば、植生は復活するはずだか、このままでは、お花畑の喪失は避けられない事の様に感じる。以前は居ないとされていた北アルプスでも鹿の目撃例が増えている。上高地でも。僕は最北部の毛勝山でもニホンジカを見かけた。何とか対策を考えなければ、この世界は失われてしまうのだ。遠くで男鹿が切ない声で鳴いている。 

富士に日の出

亀甲状土、上河内、光岳周辺 http://www.city.shizuoka.jp/deps/seiryuu/tisitu0831.html

イカす標柱(一辺が30センチぐらいだから、かなりの気合いの入れよう)

 これは鹿とは関係ないが、今年の山にはいつもと違う現象が起きている。コバイケイソウの大発生は以前にも書いたが、これは7年ぶりの当たり年。それに対して、ガンコウランは実が一つもついていない、完全な裏年である。お客さんに聞いても、他の山域でもそれは一緒であるという。もう一つ、ハイマツの実が殆どついていないこと。因って、この時期集団で忙しくハイマツの実を取っては食べているはずのホシガラスが殆ど見あたらない。今回もいくつか見かけたが、彼らは今低い樹林帯で、不本意ながらシラビソの実を食べている。

 ホシガラスとハイマツは共生関係を築いているのはご存じだろうか?ハイマツは大きな群落を作る。斜面一面に領域を広げるのだが、その松ぼっくりはその場に落ちてしまえば陽が当たらず、発芽は困難になってしまう。そこで、ホシガラスが仕事をする。彼らは、松ぼっくりをそのクチバシでくりくりねじってもぎ取ると、ひとっ飛びしてハイマツ帯の脇へ運び、裸地でそれをつついて食べるのだ。だが、その食べ方は実にいい加減で、食い散らかすというのが当たっている。その実は必ず残るのである。これがやがて陽を浴びて発芽する。この世は上手くできている。

不明

不明

不明 もしかしてキナメツムタケ?

フシグロセンノウ

シャラ つるつるの木肌、不思議な木だ

 五日目、疲れも相当なものになる。体力的にも精神的にも。しかし、今回のお客さん達はよく歩いてくれた。誰一人遅れることもなく、最終日の厳しく危険な下りをこなして、大きな怪我もなく、完璧な毎日ツアーだった。雷雨をやり過ごして縦走を成し遂げた喜びは大きい。素晴らしい。

皆さん大変お疲れ様でした。

コアジサイ

ヤマブドウ、うまかった。 サルナシもあったがまだ早くて渋くえぐい

オトコエシ

畑薙大吊り橋 181.7メートル(こわいよ)

 

 

 

 

 

 


毎日ツアー大キレット8月25~27日

2013年08月31日 | 毎日ツアー

 秋雨前線が南下してがらりと空気が入れ替わったようだ。一頃より大分涼しくなって、山を歩くにはとても気持ちのよい季節。今回の大キレット縦走はそんな好条件に恵まれた快適縦走だった。

前日の槍平小屋では夕方から少し雨が降ったのだが、朝にはそれもすっかり上がり、時々沸いては消える雲が穂高連峰をより魅力的に見せてくれる。

 岩は乾いている。フリクションも良く効いて落ち着いて一つ一つをこなせば大丈夫だ。歩けば目の前に長谷川ピークや北穂高岳滝谷が迫ってくる。沸く雲のせいか展望はいつにもまして結構な迫力だ。

 難所を次々と越え、飛騨鳴きもやっつけて北穂小屋へ到着。みんなハイタッチ~握手~安堵感~生ビール!(笑)

全員の成功おめでとうございます。

南岳の下り

長谷川ピークをふり返って(鎖ベタ張りの岩稜に2班の雄姿)

滝谷に住む雷鳥(ハイマツもあまりなくてなんでここに?と思う)

快晴の夜 風は強い 寒い 消灯後シャッターを何度も切る

諏訪湖の新作花火発表会か?遠くに花火がみえた。

トリカブト、前穂

あちこちであっという間に秋の実り

ほほえましい全く人を怖がらず毛繕い中の徳沢の小猿、群れの中には発信器をつけられた者がいた

シュロソウ

ゴマダラカミキリ

キアゲハ幼虫

トリカブト、木道

ミヤマシシウドに甲虫(ここは虫たちの居酒屋だ)

槍平小屋の壁飾り、この小屋には「全ての武器を楽器に」なんて看板もある、YES!!