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山岳ガイド赤沼千史のブログ

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13虫倉山堂津岳5月7,8日

2013年05月10日 | ツアー日記

 今回は長野百名山を二座、虫倉山と堂津岳。今年の4月はとても寒かったし、残雪期の登山といえどもその上には新しい雪が降って季節をとっちがえそうな山が続いていたが、今回は春らしい山を満喫出来た。前日にキャンセルがあったので今回はお客さんはお一人、まるでデート登山。長野駅で集合して中条の虫倉山不動滝登山口へ向かう。

 虫倉山には山姥伝説が残っている。ここの山姥は大姥様と呼ばれるのだが、旅人をだまして泊めてとって喰ったりはしない。普段は虫倉山の洞窟に住み、年に一度孫達がやってくる日に二合徳利を持って麓の酒屋に現れる。その二合徳利に酒をくれと言うので酒を入れるとなんと二升も入ってしまったというのだ。その後この酒屋はたいへん栄えたそうだ。雨乞いを頼まれれば山を駆け巡り雨を降らせ、山蛭に人の血を吸うなと言い含め、なんとも村人に愛されている大姥様なのだ。詳しくはこちらで。ほっこり面白いですよ。

http://www.nakajyo-actio.jp/yamanba/index.html

 さて不動滝登山口から芽吹きもまばらな斜面を登る。オオツボスミレや、ミヤマエンゴサク、ネコノメソウ、エンレイソウなどの咲く道だ。エンレイソウは白と紫が混在している。

 昨年の熊棚が残っている。クヌギのドングリを枝ごとバキバキ折っては食べ、残った枝を尻の下にどんどん敷いて座り込んで食べるのだ。数年前戸隠西岳P1尾根を目指していたとき、これをやってる親子熊に出くわした事があった。熊は大慌てで木から降りて森の中に消えていったから良かったけど、それは20メートルほどの距離で血の気の引く思いをした。ツキノワグマはヒグマに比べると、どことなく何を考えているか解らない顔つきをしていると思うのは僕だけか?それはプーさんとかの影響なのだろうか?

 尾根に登り上げると風が冷たい。芽吹きはまだだから、枝の間からは北アルプスや、頸城の山々も垣間見える。ゆっくり1時間ちょっとで山頂に到達した。

高妻山と戸隠連峰

 北アルプスが眩しい。それにしても手前の里山の山ひだのなんと複雑なことだろう?このような山間にもわずかな土地を見つけ人々が住んでいる。長野県は特に山間に住む人が多い。こんなところに?と言うところでしっかりと畑を耕し自給自足に近い生活をしているのだ。若い人はいなくても、みんな山を離れない。寒かろうが不便だろうが山を離れない。そして、そういう人達が守る里山はその向こうに北アルプスを借景としてこの時期限りなく美しい。長野県が日本一の長寿県なのはこういう人達が飽くまでも質素に暮らしているからだ。

 下山後宿泊先の鬼無里ふるさとの館へ入る。ここは第三セクターの宿だが、地元のおばちゃん達が運営している。ここで出してくれる夕食は山菜と手作りの保存食を中心に何とも自然の滋味にあふれたもばかりを食べさせてくれる。汚れきった僕の体が綺麗になる感じがいい。おばちゃんが三人、客は我々二人だけだからなんだか申し訳無い

 

 翌朝朝食を済ませ奥裾花自然園へ向かう。車のフロントガラスには霜がびっしりと降りている。ラジオをつけると、五月としては観測史上最も冷え込んだ朝だと言っている。今年はいったいどうなっているんだろう?

 奥裾花自然園は裾花川上流に広がるブナ林の台地だが、山からしみ出す水が湿原を形成し、日本一の水芭蕉の群落で知られる。何をして日本一なのか定かでは無いがとにかく日本一と言っている。一つの群落として日本一なのかなあ?礼文島の群落はこんなもんじゃ無かった気がするし、尾瀬だって凄いのでは無いかとも思うのだが、その時期に尾瀬を訪ねたことが無いので比較にならない。そもそも僕は水芭蕉を可愛いとか思った事が無い。何が良いのかさっぱり解らない。咲き終わった後のお化けの様な葉っぱを見るとなんか「クソ、だまされた!」と感じてしまうし。

こうみ平湿原

唯一見つけた可愛らしい水芭蕉 これはいいかも

目指す堂津岳

 と言うわけで、雪の斜面を適当に尾根に向けて登る。雪が冷え込みのお陰で良く締まって歩きやすい。ブナの巨木を縫うように、自由に歩いて稜線に登る。広くなだらかな稜線は藪もなく快適に歩けるし、誰もいない。誰もいない山は一番の贅沢だ。所々に整備中の登山道が現れる。伐開作業が進んでいるようだ。もうじき無雪期の登山が可能になるのかも知れない。

過去ここら辺で何度か熊を目撃

雨飾山

 

 右から堂津、金山、天狗原、雨飾。最高の天気だが、この後お客様諸事情により撤退。自然園に戻り入浴、鬼無里いろは堂の絶品おやきを購入し長野駅解散。

 追伸:水芭蕉の芭蕉とはバナナのことだ。沖縄の芭蕉布はバナナの繊維を織り上げたもの。両者は同じサトイモ科の植物だ。と言う事は吉本バナナは吉本芭蕉という事になり、松尾芭蕉は松尾バナナと言う事になる。カワイクナイ?松尾バナナ。そのセンスがハンパでない。芭蕉が現代に存在したら迷わず松尾バナナを名乗っていただろう。