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山岳ガイド赤沼千史のブログ

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13内緒沢 社員旅行7月18、19日

2013年07月20日 | ツアー日記

 昨日からの雨で川は濁りが入り15センチ程増水もしていた。

「どうする?」なんて言いながらも僕らの気持ちは決まっていた。最初の渡渉は股下ぐらいまでなので何とか行けるだろう。だけどこれ以上降ったら後はどうなるかわからない。いざとなったら藪を漕いでの高巻きで逃げればいいやと、三人全員が思っていた。ここまでやって来て、そこには、我々を待っている岩魚たちがいて、そう簡単に逃げ帰るわけにはいかない。濁った増水の沢に入るなんてよい子の皆さんはマネしないでね。

 雨は断続的に降り続くが、川の水は次第に澄み始めて水位も下がりつつあった。この沢の下部は日帰り釣り師が入るから殆どつれないので、2時間ほど歩いて上流を目指す。そこから竿をだして、荷物も背負ったままつり上がる。早速に僕の毛鉤に岩魚が食らいついた。 未だ時間が早いので、リリース(逃がしてあげる事)をしながら沢を登る。

 今回のメンバーは、下條、小林、そして僕だ。と言うか基本いつもこのメンバーで沢に入る。僕ら間にはある種の分業が出来上がっていて、装備もに関しては何も打ち合わせをしなくてもそれぞれが、必要な物を過不足なく持ち寄って遡行が成立する。例えば、鋸とか、火吹き竹とか、竹串とか、まな板とか、タープとかそんなだ。沢登りを、楽しむためには僕らなりの特殊な装備があってそれを、各自が担当をわきまえていると言うことだ。キャンプサイトについても、タープを張る者、薪を集める者、火を焚く者など自然と自分の役回りを果たし、さっさとやっつけて、ひたすら夕まずめ(夕方の釣れる時間帯)に備える。

 下條は僕より一回り近く先輩だが、おっとりしていて、一切酒は飲まず、物静かな人だが、内に秘めたヤンチャ魂に溢れる人。火炊きの名人だ。どんな雨の中でも火を焚く。山の斜面の濡れた枯れ葉をひっくり返して、乾いた焚き付けを見つけ出し、根気よく火をつける。「餌釣り師」

 小林は僕より三つ上の大酒飲みだが、こいつと居れば大丈夫、何とかなると人に思わせる雰囲気を持つ。釣りは餌釣りも毛鉤釣りも両方やる無節操男。ちょと、そそっかしいと言うか、僕に負けまいと焦っているのか、いつも絡んでしまった仕掛けを直している印象がある。毎度のことだが今回も竿を一本折った。餌、毛鉤なんだったらルアーも引く「せっそうな師」

 そして、ぼくを含めた三人であるが、歳の差など全く意に介せずタメ口を利き、常にお互いをからかい、ジャブを食らわしつつ、冗談しか言わないと言うのが我々なのだ。気持ちが折れた者が負けになる。そうでなければ雨降る沢でずぶ濡れになりながら釣りを続けるなんて出来るわけがないのだ。典型的な遊び人三人衆であり、それぞれが達人である。お互いが掛けがえのない友でありライバルだ。因みに全員血液型は0型である。

下條「餌師」大物釣りはまかせとけ

小林 「せっそうな師」 だが頼りになる男だ。

 さて、この沢であるが、場所は口が裂けても言えない。僕らは毎年ここにやってきては、夏山シーズン前の命の洗濯をする。素晴らしい溢れんばかりの自然の恵みを味わって鋭気を養う、謂わば僕らの社員旅行みたいなもんだ。今回は二日間で70匹ぐらいは釣っただろう。もちろん食べられる分以外は他の奴には釣られるなよーーとリリースだ。

一投入魂 気配を悟られぬよう静かに近づき竿を振る。こういう大釜の白泡の裏に大岩魚が息づく

抵抗する岩魚

美しい天然岩魚 ピンシャンといってヒレが大きく張っている。旅館の塩焼きはみんな丸くて小さいヒレなんですよね。

 目的のテントサイトに到着しテントを設営し、薪を集めその他諸々をこなして僕らは、夕まずめに出かけた。雨は降ったりやんだりを繰り返し、上流部の黒雲がかなり気になるが僕らは釣りを続ける。雨が濁りの入った激流をたたくが、魚はちゃんと出てくれるので楽しくて仕方が無い。

 僕は毛鉤釣りだ。虫に似せて釣り鉤に鳥や獣の毛を巻く。糸の先につけた毛鉤をポイント(魚が居そうな場所)にピンポイントで放り込むと、すかさず岩魚がスーッと浮上してきてバシャッと毛鉤を咥えて反転する。その瞬間竿をたてて、毛鉤を奴の口に食い込ませる。これを「アワセ」という。餌釣りと違って、魚が見えるので興奮度は相当なものだ。釣り師が穏やかで落ち着いた心境で釣り糸を垂れていると思ったら大間違いで、心拍数は上がりっぱなしで、アドレナリンが出まくりなのが実態なのだ。行動は常に次の淵しか見ないので、今まで何度も怪我をした。足指の骨折3回、肋骨骨折2回。有名な三俣蓮華小屋の「おにサ」は鉄砲撃ちで、常に熊を探しながら歩いていたので足はいつも怪我だらけだったと聞くが、僕らもそんなもんだ。岩魚に心奪われ足下を見ていないのだ。危ないねえ。

必殺毛鉤

 毛鉤は全て自分で巻く。市販の物は値段が高いし、貧弱な物が多くて、浮力がなく激流の中では役に立たない。毛鉤釣りは見て釣る釣りなので毛鉤が自分から見えて岩魚から見えるのが重要で、そのためには浮力が必要だから空気を沢山ため込むようなフワッとした毛鉤が僕は好きだ。オレンジの目印もたっぷりつける。毛鉤を変えず、これでより沢山のポイントを当たるのが僕の釣りだ。足で釣るのだ。

今回唯一の極太尺岩魚(30センチ)なんとこの後網に入れようとした瞬間暴れたこいつに逃げられてしまった

 本日のおかずがそろたっところで沢を下りテント場に戻った。相変わらず雨は止まない。僕らは全身濡れ鼠。普通なら気分も沈みがちだが、ぼくらは魚をさばき、タープの下で火を焚き、着替えもせず宴会に突入する。火は僕らを暖め、次第に衣服を乾かしてくれる。焚き火の力はハンパではない。熱燗を飲みながら次第に気分が高揚する。川魚は生臭いといったい誰が言ったのだろう。ここの源流岩魚は全く生臭くはなく、小林は鯛より美味いという。三枚におろした後のアラはフキと一緒にお汁にしたが、油が非常に上品で甘く、確かに鯛汁真っ青である。塩焼きも最高の出来。

本日の岩魚ちゃん、大きなもので27センチぐらい 逃がした尺岩魚が悔しい

タープを張ってその下で焚き火 根性で火を焚く 

本日の食材、岩魚、きゃらフキ、そして天然クレソン

岩魚の皮はこのように剥く。皮が薄く切れやすいのでこれが一番、ワイルドだろ? 実はまだ生きている。残酷?知るか!

岩魚の塩焼き 串で軽く焼いた後、網で寝かして焼き上げる、肉汁を逃がさずふっくらジューシーに香ばしく焼き上がる、これまた絶品

酢〆岩魚の刺身とアボガドの和え物 天然クレソンと一緒に頂く、絶品!ほんと美味いから

熱燗はビールの缶でつける、文字通り熱缶だ。あーー染みこむんだなこれが

 結局眠りにつくまで雨は止まずも、僕らは沢の音に負けない様にでかい声で冗談を言い、笑い、沢を語り合った。ずぶ濡れの衣類はいつしか乾いてしまった。したたか飲んでシュラフに潜り込んでも雨がフライシートを叩いていたようだが、いつの間にか沢の音の中に自分の存在は消え、気を失うように僕らは眠りについた。

焚き火の脇で一晩経った「焼き枯らし」燻製だから保存が利く。これがまた旨かった。少し残った日本酒で朝からいっぱい、バカ!

 翌朝、端から源流へ抜けようと言う気のない僕らはキャッチ&リリースをしながら、時間の許す限り上流を目指した。天気は回復し、明るい沢は実に気持ちが良い。流れも完全に澄んで楽しいのなんの。思い通りに毛鉤を打ち込んで、狙い通りに岩魚がすっと現れ毛鉤を咥える、この気持ちよさ。美しい大淵に竿を振る自分のなんと格好良く美しい事よ!誰か写真撮ってーーー。だが、今回カメラを持つのは僕だけだった。気の利かないオヤジ達だ。

回復の朝の美しい淵

コヨウラクツツジ

10メートルの滝と大釜 差し渡しは20メートル、深さはおそらく5メートル以上 大岩魚がきっと潜んでいるが、そいつらはなかなか出てこない。

サンカヨウその1

サンカヨウその2 少し苦くて渋いが食べられる

チョウチョの図鑑買わなきゃなあ さっぱりわからん

蝶とオオハナウド もう少し花ビラが開くと高級レースのようで大変美しい

 仕事柄、そう何回も沢登りは出来ないのだが、8月には黒部川上廊下(これはもう15年以上通う僕らのライフワークだ)、9月にはどこか違うとこに行きたい。それともう一本ぐらい。

 沢登りという日本独特の登山スタイル、是非皆さんお試しを。尚、この沢の詳細については絶対に言うことが出来ないので、一切のお問い合わせを受け付けません。悪しからず。



 


13雨飾山転進空木岳

2013年07月15日 | ツアー日記

 信濃大町駅で集合して目的の天狗原山を目指して白馬まで来たのだが、梅雨の戻りの雨はとうとう本降りになり、天気予報でも良い兆しは一つも見えず、僕たちは南下することを決断した。さあて、どこに行くかしばし考え、全員が行ったことがないと言うことで、中央アルプスの空木岳、池山尾根をテント泊で登ることにした。駒ヶ根まで車を飛ばして、池山林道に入ると、林道と登山道が交わる辺りから、林道脇にやたらに車が駐車してあるの。その少し先の駐車場も満杯。ここ数年通行止めであった林道はゲートが開かれ、さらに先に進めて、終点の駐車場まで行くことが出来た。ここも満車で、幸運にもたまたま下山する方がいたので駐車することが出来た。考えてみれば今日は海の日の連休初日なのだ。だけど、池山尾根のここがこんなにも車で溢れているのは今までないことだ。この終点駐車場から朝早くの出発であれば、空木岳日帰り登山も十分可能だ。

オカトラノオ

 腹ごしらえをして出発する。池山小屋までは、古い林道を利用した遊歩道になっていて、傾斜は揺るやかだが、唐松などの人工林が目立ち植生は単純で登山道としてはあまり楽しくない。

コアジサイ(清々しくて可憐なあじさい、北アルプスでは見ない)

センジュガンピ(ナデシコ科)小沢など水の気配があるところを好む

1時間半ほどで池山小屋に到着した。ここは、広々して清潔な避難小屋で、目の前には水場がありとても快適そうだが、未だ時間が早いので水を補給して上に行くことにする。

池山避難小屋

 さらに1時間ほど登って登山道から少し離れた笹の尾根上にテントを設営した。多少ブヨがいるが快適な所だ。テントの中でゆっくりしていると、雨が降り始めた。梅雨は空けたはずなのに、どうもそうではなくて、前線が南下し、北陸から東北にかけて雨が降っているようだ。

黄色の御殿、向こうはガイドが泊まる黄色の掘っ立て小屋(ツェルト)

 夜中にも時々雨が降っていた。風もあるので、僕のツェルトはばたばたと揺れ結露が顔に降り注ぐ。でも、かまわず体を丸めた。起き上がって対策を施して目を覚ましてしまう事の方がいやなのだ。降り注ぐ結露もうつろいの中で受け入れる。

 午前5時に出発して池山尾根を登る。ここには大地獄、小地獄という鬼門があって、それは樹林の中の岩場なのだが、以前からやたらに事故が起きる場所がある。そのためか近年鎖や梯子がしっかりと整備され、今は不安な感じはしない。

ゴゼンタチバナ

 標高が上がり、空木平への道を分け森林限界を突破すると、ここの尾根の名物「駒石」だ。巨大な花崗岩のひと塊なのだが、石積み職人が意図的に積み上げたように見える。

駒石 堂々たる石積み 高さは10メートル程か

 崩壊花崗岩のザラ道を辿って空木岳に到着。それにしても、この道の崩壊、流失はかなりひどい。僕はここへ20年近く通っていると思うが、懸命の整備にも関わらず砂礫の流失は止まらないようだ。人が歩く、微妙な斜面に窪みが出来る、雨が降る、表土が流失する。この繰り返しで、微妙なバランスを保っていた花崗岩の砂礫斜面はどんどん掘られてしまう。同じような問題は、湿原や火山性の山などで同様の事が起きているのだが、画期的な解決策はないように思う。人が歩かないことが一番か?

 

 駐車場がいっぱいだっただけのことはある。頂上は結構な賑わいで、風も強くガスが沸いてとても寒い頂上ではあったが華やいだ雰囲気だった。

 下山は空木平ルートをとる。空木岳を登る人は多くが木曽駒ヶ岳方面からの縦走者で、下山は駒石経由を選ぶ。空木平ルートは若干時間がかかる為敬遠されがちなのだが、実はここには素晴らしいお花畑が広がる。空木平避難小屋は整然として周りの雰囲気も明るく乾いていて、目の前には豊富な水がある。是非泊まってみたいなと思ったし、ここで見る星空はきっと素晴らしいにちがいない。

空木平避難小屋

コバイケイソウ 今年は久しぶりの大当たり年(ヤングコーンの様でうまそうだが有毒)

ハクサンチドリ

オオヒョウタンボク 二つの花に一ずつ実がなりやがて癒着して赤いヒョウタン型になる。実は実に旨そうだが毒草

イチヨウラン

 下山の途中深い栂の森の中でランを見つけた。その場では名前がわからなかったが、帰宅後フェイスブックで友人達に聞いたところイチヨウランであることが判明。根元に楕円形の葉を一枚だけつける。ちょっとよれている感じだったので、直ぐそれとはわからなかったが、貴重なランの一種だ。

ハリブキ(お前らに食われてたまるか!と凶器をその身にまとう、茎はさらに手のつけられないヤンチャぶり)

 テントを撤収して駐車場まで下山をする。登るときにつまらないと言った下部遊歩道は、傾斜の緩い快適な下山道だ。

 結果今回の転進は大正解だったと思う。こぶしの湯にて入浴、駒ヶ根の蕎麦名店「丸富」にて二八蕎麦「朝日」をたぐる。格調高い蕎麦だが若干高くない?(945円)岡谷駅解散。

 


13剣岳点の記ルート撤退7月6,7日

2013年07月09日 | ツアー日記

 今回は剣岳初登頂のルート。長治郎谷を登り剣岳へ、そして残雪豊富な平蔵谷を下降すると言うものであったが、先ずは結果から言ってしまおう。撤退である。いくらもったいぶっても撤退は撤退である。このブログを読み進めるみなさんが「なんだよ。撤退かよ!」とがっかりしない為に最初に言ってしまおう。この日富山地方は梅雨末期の大雨となり、我々はとても登頂するどころではなく、日程を一日早め、すごすごと逃げ帰ってきたのだ。東京地方の友人達がFACE BOOK で「梅雨明けだ!」などと叫んでいるその日に。

 このルートは雪状態が一番良いこの時期に行くことにしている。5月は未だ至る所雪だらけであるし、残雪も不安定な時期だ。8月ともなると、雪渓はガチガチに締まってステップを切ることも大変になってくるし、ピッケルさえ打ち込めない。だから、梅雨のこの時期に長治郎を目指す。梅雨はずっと雨が降り続いているわけではないので、登頂の可能性はそれほど低くなくて、今までも8割方登頂できているはずだ。

 それにしてもアルペンルートには今までいったい何度乗ったことだろう。今回のお客さんもそれぞれベテランの方々だし、そもそも、一般の観光客と違ってアルペンルートの乗り物に乗ることが目的ではないので、

「アルペンルートってかったるいですよね」

「そうね、全然つまんないわ」

「なんの感動もないわ」

などと勝手なことをいいながら、文明の恩恵に大いに与り僕らは標高2,450mの立山室堂へ到着した。

 未だ雨は降っていなかったが時々体をあおられる程風が強く、ガスで周囲は何も見えないのだが、剣沢を目指して出発した。

 室堂の地獄谷では今異変が起きている。それは亜硫酸ガスの異常発生だ。地獄谷は通常でもガスが噴出し、湯がぐらぐらと沸くこの世の地獄だが、ここのガスが3.11以降異常な噴出を続けているのだ。地獄谷コースの道は閉鎖され、雷鳥荘を経由するルートを行かなくてはならないが、数百メール離れたこの道を歩いてでさえ、鼻や目に相当な刺激を感じる。強烈な硫黄臭に、鼻はツンツン、目にはピリピリとヤバイ感じが伝わってくる。雷鳥荘脇の谷間では、ハイマツは無残にも枯れ果て、赤茶けた姿になってしまっている。百年単位で成長してきたであろうハイマツが枯れると言うことは、ここ百年こんな事はなかったと言う事だ。ガンコウランもほぼ全滅。クロマメノキ(ブルーベリー)は亜硫酸に強く健在だ。焼岳でも、飛騨側の中腹から白い煙が上がってるし、地殻の下の方で今何かが起きているのだろうか。


 天気も悪いので今回は何度も雷鳥に出会った。歩いていると、道脇からパタパタと雷鳥が登山道に飛び出て来る。そして、我々を先導するかのように前を歩きしばらくすると、道からそれていく。しかも、その殆どはオスだ。多分いまメスは抱卵中でオスは見張りをしているのだろう。部外者が近づくと、自分がおとりとなって登山者の注意を引きつける。「こっちだよーー」とね。僕は彼に「おう、そうかそうか、そこに巣があるのか。わかっちゃったぞー。」なんて人間様らしく意地悪なことを言ってみたりする。風も次第に弱まって、別山乗越も無事越えられそうだ。

 乗越で支配人の坂本さんに会いに剣御前小屋に立ち寄ったのだが、受付の中を覗いてびっくり。

 そこにずらりとぶら下がる物、なんじゃ?これは????見ればそれは狐、狸、そしてテンの毛皮だ。テンを触らせてもらったが、極上のふわっふわっ。流石に珍重されるだけの事がある。

 坂本さんは山を下りる冬場、芦峅寺で猟師をしている。芦峅寺と言えば、立山ガイド達の郷であり、彼らは同時に雪山を自在に駆け巡る優秀なマタギでもあった。古くから立山ワカンや、鉄カンジキと呼ばれるアイゼンなど独自の装備をもち、スキーも駆使して猟をしていた。ところが今や高齢化によって後継者は少なく、その独特の技術は失われようとしている。坂本さんは芦峅寺の生まれではないのだが、今芦峅寺に住んでその伝統を受け継ごうとしているのだ。現在どこでも猟をたしなむ人が減り、各地の猟友会などは存亡の危機にある。鉄砲を撃つ者がいないので、天敵を失ったニホンジカが大繁殖をし、貴重な高山植物を食い尽くしている。鹿を撃つにも山を駆ける撃ち手がいないのだ。今年は長治郎谷でも鹿が目撃されたという。僕も、昨年春の毛勝山で鹿を見た。その生息域は思いの外急速に広がっている気がする。さて、この毛皮、可愛そうだとか、残酷だとかいろいろ意見もあるだろう。だが、これは文化なのだ。僕には少なからず憧れがあるし、そんな坂本さんを尊敬している。

 僕たちはホワイトアウト気味の剣沢を下って、剣沢小屋に入った。しばらくすると雨が降り始め、夕方頃からは土砂降りとなる。当初の天気予報ではこの三日間天気は良いはずだったのだが、梅雨前線が日本海に停滞している。外では風がピューピューうなりをあげている。

奥が佐伯新平若大将(寝癖で髪の毛が爆発しているがイケメンじゃ)

 夜中も断続的に強い雨が降り、朝になってもそれは降り止まなかった。天気予報も悪いので一日早い撤退を決意した。悪天の間隙をぬって、来た道をとぼとぼと帰る。こんな事もあるのだ山は。又来よう。雷鳥が時々先導してくれる、サンキュー。

剣沢小屋のお宝その1 植村直己の書(ベニヤ板にマジックペンつうのがレア、それにしてもセンスがいい)

剣沢小屋のお宝その2 若かりし頃の八千草薫(可愛い)右手前は佐伯文蔵氏


13徳本大滝鍋冠縦走7月1、2日

2013年07月03日 | ツアー日記

 上高地へ至る上高地線の島々宿から島々谷を入り徳本峠へいたる道は、現在の国道が出来までは重要な上高地へのアプローチ道であった。ウォルター・ウェストンや、芥川龍之介もここを歩いて上高地に入った。クラシック中のクラシックルートといえる。一方今回の下山ルートは大滝山から鍋冠山を経由し小倉に下るルートだが、こちらの歴史も古く、播隆上人はここを通り槍ヶ岳を目指した。岩魚止小屋は現存する最古の山小屋で、大滝山荘は歴史的に日本最初の山小屋ではないかという説もある。今回歩くのはこの二つのルートを繋ぐ、余りにも渋いコースである。

 踏みならされた道には趣がある。島々谷は沢筋の道だから、斜面のトラバースなど不安定な場所もあるが、所々に残る石垣やら、炭焼き釜のあとやら、新しく出来た道には醸し出せない風情というものがある。戦国時代飛騨松倉城主三木秀綱の妃がここまで逃れ来て島々村の杣びとに打ち殺されたという秘話が残る。

ウワバミソウ(夏でも食べられる山菜、たたくとヌルミがでる)

 この時期の沢筋の道は全てがしっとりとして深い緑に包まれている。真夏は眩しすぎて植物もその身に鎧をまとい、必死に自らを守ろうとしている様に感じるが、この梅雨の時期はみんなまだリラックスして渾然一体となっている様に感じる。

ヤマドリタケモドキとしたら一級品、アシベニイグチとしたら有毒、どっちだろ?

 柳が綿毛を飛ばしている。それも尋常な量ではない。ひと塊もあるようなものをぼたぼたと落としている。一本の木の綿毛を全て集めたら、掛け布団が一枚出来上がりそうだ。

柳の綿毛(茶色のつぶつぶが種)

 岩魚止橋を渡ると岩魚止小屋だ。現存する最古の山小屋。山小屋というよりは、まさしく杣屋と言った風情だ。入り口の板戸には手打ちの釘が使われていて、おそらく、建物自体大正以前の物だろう。現在残念ながら営業はしていない。かつては、この小屋の囲炉裏から島々谷へ煙がたなびいていた。

岩魚止小屋

岩魚の叩き板(いいなあ)

カツラの葉

 僕は桂の木が好きだ。形の整った丸い葉が整然と並んだその枝は日の光を透かして何とも清々しい。これが秋になって黄色く色づき枯れ葉となれば、まるでカラメルか綿菓子のような甘い香りを放つようになる。ここの桂は幹周り10メートルぐらいありそうな巨木である。

ショウキラン

オオバギボウシ

コケイラン

 岩魚止小屋からワンピッチ行ったところで休息をとると、オコジョが姿を現した。石ころの間や、木の根元の穴を行ったり来たり、出たり入ったり忙しく動き回る。オコジョの写真を撮るのはかなり難しいことだが、今回3枚だけまともな物が撮れた。肉眼ではわからない表情や指の形も何とも可愛い。誰が見ても可愛い。森の中をひたすら歩く今回のコースの中で一番興奮したのは、なんとこのひと時だった。

オコジョその1 かわいいのなんの

オコジョその2 みてよこの手。ピアノ弾かせたい

オコジョその3 バッチリカメラ目線

 オコジョは肉食獣だから、虫や、ネズミや、蛙や、蛇を食べているのだろう。僕の友人がオコジョが野ウサギを追いかけ回しているのを見たことがあると言っていた。可愛い顔してやるね、お前。

 虫たちの活動も活発で、いろんな虫を見かける。ある種の人は、虫と聞いただけで気持ち悪いと考え、何も見ることさえしない人もいるが、イモムシやなんか何もしないのだから先ずよーく見てみれば、その美しさや、可愛らしさも見えてくる。ルーペを持ち歩くと虫も花も魅力的な鑑賞対象になる。写真もいいね。マクロワールドは緻密で美しい。

 

虫には詳しくありません、ごめんなさい

 道が沢から離れ、ジグザグに斜面を登るようになれば徳本峠小屋に到着だ。早い時間の到着だったが、しばらくすると雨が降り出した。その後雨あしは強まり土砂降りになる。この小屋は10年ほど前に新築されたが新築反対運動があって、古くからの小屋を残す形で立て替えが行われた。上手いこと風情を残してあり、最近大人気で完全予約制である。僕は今回予約無しでここに来てしまい何とか頼み込んで泊めて頂いた。面目ない。我々は雨の音を聞きながら旧小屋で眠らせて頂いた。

カツラの葉その2

 翌朝は午前5時に出発し、殆ど展望の利かない樹林をひたすら歩く。とは言え、ここの森は北アルプスには珍しく笹や灌木類が少なく、まるで南アルプや秩父の山を歩いているような趣がある。森の中でも視線は意外と遠いところに求められるし、苔むした林床にはマイヅルソウや、タケシマラン、ツバメオモトやゴゼンタチバナなどが目立ち目に映る物は心地よい。時々現れる湿地にはキヌガサソウが見事だった。

キヌガサソウ

 期待していた槍見台でも殆ど何も見えず、僕たちは森をひたすら歩く。大滝南峰のお花畑で視界は一気に開けたが、僕はここで期待していたある物を見つけられなかった。いくら探し回っても見つけることが出来ない。僕は天然のそれを、ここでしか見たことがなくて、今回も一番の楽しみにしていた物なのだが、どこにも見あたらない。いったいどうなってしまったのだろう?気分は晴れない。

ハイマツの花

 大滝山から八丁ダルミを下り、鍋冠山へ。超マニアックで地味なこの山は山頂も実に地味だ。とは言え僕の家の窓から眺めることが出来るのは、常念岳でも燕岳でもなくこの鍋冠山であり大滝山なので、個人的に特別な愛着みたいなのがあって、この山の森が深く静かなのは僕の誇りだ。

 この界隈は歩く人も少ないのだが、道は地元の有志によって良く整備され森は美しい。冷沢からは2キロほど林道を歩き、事前に回しておいた我がハイエースに乗り込む。三郷室山荘にて入浴、松本駅解散。良く歩いたね。近代的な物を目にせず、タイムスリップ的なノスタルジーに浸れる大人のルートである。

 

 

 

 

 


13キタダケソウ6月26~28日

2013年06月29日 | ツアー日記

 キタダケソウは南アルプス北岳に特産する、キンポウゲ科キタダケソウ属の多年草である。環境省レッドデータブックⅡ類VU。近似種はあるものの、世界中でここにしかない希少種だ。それは、ハクサンイチゲの亜種だとかそんなんではなく、白い花こそ似た感じに見えるが、実際は花も葉も全てが違う別種だ。国内での近似種としては北海道アポイ岳のヒダカソウと崕山のキリギシソウがある。こちらは絶滅危惧ⅡaCR。キタダケソウよりも深刻な状況だが、キタダケソウもかなり絶滅に近い種であることは間違いない。キタダケソウが花を咲かせるのは、ツクモグサがそうであるように、他の種が開花する以前に花を咲かせ、6月中旬から7月初旬が見頃になる。生息地は北岳の某所、大体200メートル×100メートルの範囲にしかない。どういう加減なのかその生息地は歩いていくと突然始まり突然終わる。北岳の稜線直下にひっそりと、人々が訪れる前に花期は終わる。その希少性と可憐な姿は見た者全てを虜にするそんな魔力を持つ。僕も大好きな花だ。

 僕はここ10年以上毎年この花を見てきた。さて今年のキタダケソウはどうだろう?毎年の事ながら、わくわくする気持ちは同じだ。群生地に近づくとそれは突然現れる。ただ、今年は様子が少し違ってハクサンイチゲがもう満開で、キタダケソウは既に終わろうとしていた。雨と風に打たれた花弁は色が抜け、まるで蝋細工のように透明になったものが殆どで、被写体になりそうな物を探すのに苦労した。しかもハクサンイチゲと混生しているのでパット見では区別がつかない。

今年一番のベッピンさん

左上のボケてるのはハクサンイチゲですね。違うでしょ?わかる?

 キンポウゲの仲間なので、花弁に見えるのは実は萼で、色はハクサンイチゲよりも若干クリーム色がかってみえる。実に上品な淡いアイボリーだ。葉はこの段階では短い茎から密生して、花期が終わると次第に徒長し真夏であれば結構ビヨーんと伸びている。その様は何となくイタリアンパセリに似てるかも知れない。全く種族が違うので的を獲た例えではない、おそらく。

数年前のい撮ったもの(コンパクトカメラ)発色がちと悪いです。

同じく数年前のもの(コンパクトカメラ)

 いくら見つけてもよれよれのものしか手の届くところにはなくて、お花畑の真ん中に足を踏み入れる衝動に駆られるが、それは絶対してはならない。個体数はここには結構あって頼もしささえ感じるが、盗掘などにより数は減っているらしい。南アルプス市はこのキタダケソウをあまり人々の目に触れさせたくないようで、広河原行きバスの運行を花期も終わる例年6月25日からとしている。以前は北沢峠からの林道バスは信州側とあわせて6月15日から運行していたが、これもやめてしまった。南アルプス市営山岳館館長の塩沢さんに「見せたくないんでしょ?」と聞いたことがあるが、何も言わずニヤッとした。僕も昨年は夜叉神峠から3時館半ほど歩いて広河原に入った。おまけに夜叉神峠のゲート番がどうしようもない頑固者で(管理者の県は自己責任でどうぞと言っているのに)頑として通っていいと言わない。喧嘩して入ったのを覚えている。今はインターネットの批判にさらされて、登山者に自己責任であることを一筆書かせているらしい。一本気と言えば一本気、通行止めなのは確かだからね。

 話がそれてしまったが、ここでさらに以前に撮ったベッピンさんをどうぞ。

コンパクトカメラ(接写能力だけは凄い)こんなんシャッター押すだけ。

 ともあれ今年もキタダケソウに会えたのはうれしかった。地球温暖化が進めば、彼らは生息域を失う運命にある。氷河期からずっと居場所を追われ、こんな高い山の稜線まで追い詰められて来たのだから。もうこれ以上高いところは無いのだ。

 今日は雨が降ったり止んだり陽が出てみたりの1日だった。今晩は北岳肩の小屋に泊まる。お客さんがお一人なので節約のため僕はテントに泊まる。小屋の森本さんは「いいから、小屋泊まれよ」と言ってくれたが、ガイドは食わねど高楊枝なのだ。飲んだくれて、iPod聞いて就寝。

青の宿

北岳バットレス

小太郎尾根分岐への道すがらは見事な花畑だ。

このキノコの軒下で雨宿りしたくなるのは僕だけ?

ゴゼンタチバナ

賑やかな淑女達

 三日目朝は若干ガスが切れて周りの山や中アやらも見ることが出来た。下山はまた深いガスの中を広河原へ。芦安白峰会館にて入浴。小作にて「おざら」という名の、ほうとう版のつけ麺を頂く。冷たく絞めた麺を暖かい着け汁で頂くやつだ。僕はカボチャのほうとうが苦手なのだが(なんでかぼちゃ入れるん?)、これはシコシコと麺を楽しめ美味かった。因みに僕は札幌味噌ラーメンも苦手。なぜなら、最後まで麺食ってるんだかモヤシ食ってるんだかわからないから。食事を済ませ甲府駅解散。

 帰り道猛烈な睡魔に襲われ車を止めて一眠り。起きがけにモンシロチョウをパチリ。追憶のハイウェイ20号線をとろとろ走って帰宅したのだった。

 

 




13東沢渓谷釜ノ沢東俣遡行6月22,23日

2013年06月25日 | ツアー日記

 そろそろ、沢の水も温む頃となり、沢登りシーズンがスタートする。梅雨ではあるが、積雪の少ない地域の沢ではむしろその適度な増水が沢登りを楽しくさせてくれると言う事もある。もちろん、度を越した増水は僕らを大変困らせて、時には閉じ込められたり、延々と藪漕ぎを強いられたり、命の危険をはらんだ事態に陥れるので充分に注意が必要だ。

 甲府駅にて集合して、取り合えず川を見てからと雁坂道を西沢渓谷まで向かう。途中広瀬湖では湖面が息を呑むほど静かで、対岸の山を映して美しかった。

広瀬湖の朝

 今回も前日まで結構な雨が降ったが、ここ甲武信岳周辺は荘でもなかったようで、増水はあってもわずかで川の濁りもなく入渓を決断する。適度な水量で楽しめそうだ。ひと月前に鶏冠山を登りに来たときに比べて緑が深くなっている。生き物たちの営みは休むことを知らない。お客様は五名様、ガイドは僕と頼れる先輩の下條ガイド。

鶏冠山

 東沢出会で遊歩道から別れ沢に入る。最初は左岸につけられた古い道跡を辿る感じで、朽ち果てた観光看板みたいなものもあって、もしかしたら東沢渓谷も観光資源として人々が巡っていたのかも知れない。迫力ある結構な滝が現れる。

岩魚止めの滝

 いったん道は河原に降りるがそこにはホラ貝というゴルジュが存在する。ゴルジュとは両岸を岸壁に遮られ河原のない場所のことをを言うが、ここは通常数十メートルある川幅が、三メートル程に狭められて深い淵になっている。屈曲したゴルジュの奥は見通せないがおそらく二数百メートルぐらいは在るだろう。突破はもちろん無理なので、高巻き道を迂回する。道ではあるがあくまでも高巻き道だから、木の根に捕まり細心の注意で登らなくては滝壺にドボンだ。

田部重治もびっくり ホラ貝

 山の神を過ぎてししばらくすると道はなくなり河原の石を拾って歩いていく。頻繁に渡渉を繰り返すが、水量は少なくてせいぜい膝下ぐらいで流される不安もないし、スクラムなども必要ない。時々日差しもあるので、パチャパチャ楽しみながら川を渡る。今年初めての沢登りだし、水の冷たさが気持ちが良い。沢登りは基本河原を歩き、その先で行き詰まると対岸に渡渉する。そして、滝が現れれば、正面を突破するか高巻くかして上流を目指す。時にはゴルジュを泳ぎ、側壁をへつったり。でもここにはそんな心配はない。

休憩時にはお互いの装備をチェック

 

美しい淵を見ながら

鹿の頭蓋

東のナメ

うねり吹き出す滝

滑りやすいスラブをフリクションを効かせて

 釜ノ沢出会いは本流の金山沢と比較すると小さめでともすれば見逃しがちだが、何処かの誰かさんによって無粋な赤ペンキマークが着けられていた。あちらこちらに看板やらペンキやら。ルートファインディングが沢登りの楽しみの大きな要素なのにまったく困ったものだ。

 釜ノ沢に入ると直ぐ魚止めの滝で右岸のスラブをお助けヒモでのぼり、ブッシュのなかを登れば、ナメと釜が連続する四段の滝だ。沢靴のフリクションを効かせてスラブを登るのは楽しいが、足を滑らせたら滑り台を一気に滑り落ち、釜に呑み込まれてしまう。ここを登り切るといよいと本日のハイライト千畳のナメだ。緩い傾斜のナメが連続し、水は音もなく流れ、両岸の森がトンネルのように渓を包み込んでいる。どこを歩いてもいいのだ。つま先からしぶきが上がり歓声がわく。夢の様な時間。

 みんなほんとに楽しそうだ。ずっとこの幸せが続けば良いのにと思う・・・・・・・だが、楽しい事はいつか終わる。

 さて、ここを過ぎると両門の滝。西又と東又がここで出会い一つの釜に注いでいる。しかもそれは全てが一枚の岩で出来た大スラブだ。

両門の滝

両門の滝でポーズ!

 ここは右側の東俣をえらび、再び小さく高巻く。迷い沢を右に見て小尾根を登ると広河原に出た。今日の宿はこの辺りに求める。この辺りは広く、左岸の樹林の中や右岸の河原の所々に具合の良いテントサイトがある。僕らは右岸の河原を今日の宿と決めゆっくりと過ごした。通常サイトを決めるとガイドはテント設営やら、薪集めやら、岩魚釣りやらで忙しいものだが、今日は時間が早いのと、なによりここには岩魚が一匹もいないのですることがない。そういう意味では全くつまらない沢だ。

 そうこうしているうちに、雨が降り始めた。梅雨の振り方ではなく、どちらかというと夕立だ。みんなテントに潜り込んで雨音を聞き、少しうとうとする。たっぷりの時間と雨音、雷も鳴っているが気分は・・・・・・悪くない。

 2時間ほどして雨も止んだのでテントから抜けだすと下條ガイドがひとり火をたき始めていた。下さんは火炊きの達人で、どんなに雨が降ろうと火をおこす。大増水の黒部川上廊下で閉じ込められ全てが濡れて絶望的な気分の中、下さんが火をおこし、僕らは暖まり天ぷらを揚げて食べ笑った。火がどんなに力強く僕らを暖めてくれるものなのか、思い知った出来事だ。諦めなければ光は見えるのだ。

達人火をおこす この程度の雨ならチョロいもんだ

毛虫(なんだろ?)

たなびく煙

 夕食は先日のツクモグサのツアーでたまたま出来あがったジンギス鍋。途中摘んできた山椒がアクセント。つゆだくでご飯にぶっかけて頂く。雨は止んだし気分は良いし、飯は美味いしぼくはまた飲み過ぎてしまった。沢は魔物だ。因みに下條ガイドは一滴も飲まない。

肉じゃ!!

炎を司るひとを 「火いじり」転じて「聖」になったという

 翌朝は6時過ぎに出発、曇ってはいるが降ることはなさそうだ。しばらくは沢通しに行っても良いが、ごろごろの河原歩きなので、左岸の苔むした樹林を行く。あちらこちらにテントサイトがある。

 樹林から抜け出て沢は次第に傾斜が増してくる。水師谷手前のスラブ滝をフリクションで越える。ここから右へ入ると上部はずっと岩盤の上を歩く快適な登りだ。所々傾斜の強いスラブが現れるが、小さく高巻いて回避する。

 喘ぎながら登る。左右の岸壁にはイワカガミ、キバナノコマノツメ、そして特産種クモイコザクラ。谷が次第に開け明るくなってくるころ、甲武信小屋の水場が見えた。最後のスラブを味わって、楽しんで登り釜ノ沢東俣は終了した。水場道を10分ほど上れば甲武信小屋だ。

先人達が捨てた草鞋の塔

林床は一面のコイワカガミ、しかも葉がメチャクチャ小さい

 甲武信小屋では 支配人の北爪君やミツ次さん、友人の鈴木さんが待っていてくれた。しばらくはフリータイム。お茶を頂いて話に花が咲いた。着替えたり希望者は甲武信岳まで遊びに行ったりゆっくりと時間を過ごした。

白樺はへの字

モミジカラマツっていう花があったけどこれはモミジとカラマツ

 時間には余裕があるし、ゆっくり行けば良いのだが、強者達はそういうわけには行かない。真っ白なシグマシューズをを履いた怪しい集団は軽快にチャッカチャッカと3時間で徳ちゃん新道を下山。いつもの隼温泉にて入浴、塩山駅解散。

 みんなが少したくましくなった気がするよ。

 

 

 


13八ヶ岳ツクモグサ6月15,16日

2013年06月19日 | ツアー日記

 ようやく今年の梅雨もそれらしくなって、農作物にとっては恵みの雨ではあるが、登山する立場となるとそれはそうではなくて、重く垂れ込めた空を少し恨めしく思いながら美濃戸から今日の宿泊地、行者小屋へ向かった。昨夜も一雨あって、林床の苔が息を吹き返しふっくらと美しく、歩きながら手のひらでなぞってみたりすると、ビロードのような感触が伝わってくる。

森を飲み込む苔

 今回のツアーも目的はツクモグサではあるが、もう一つなかなかお目に掛かれない花がここら辺には在る。それはホテイランというもので、草丈10センチほどの可愛らしいランだ。詳しく場所はお教えできないのでここら辺としか言えないが、まあ一帯はロープで仕切られ、一つ一つの個体に札がつけられてしっかり管理されているので、興味のある人には一発で解るが、僕らが夢中になって写真を撮っている間も、無関心に通り過ぎる人も沢山いて、人それぞれなんだなあと思ったのだった。花期は峠を少し過ぎてシャッキリしたものは少なくて、しかも、ロープを越さないで接近出来る個体がなかなかない。苦しい体制で、息を止めて撮影するのは結構きつい。森は暗くカメラのシャッタースピードが速いところを選べないので、一枚撮り終わると「ぷはー!」となる。素潜りと同じ感覚だね。

 それにしても、ロープが張られているにも関わらず、それを越えて踏み込んだあとが沢山ある。そこにホテイランは咲いていないのかも知れないが、こういう希少種は少しの環境の変化でその場を追われる事になるから、立ち入りは絶対だめね。盗掘なんかもってのほか。山野草をショップで売るのも辞めてもらいたいものだ。

 

ホテイラン

 ゆっくりと登っていくと、案の定雨が降り始めてカッパを身につけた。優しい暖かな雨だし、森は深く美しく、行者小屋はそんなに遠くないからまあ許すとしよう。

雨の唐松

 行者小屋では夕方からドシャ降りとなる。今日は自炊泊だから小屋の軒下のベンチを借りて夕食をとった。本日のメニューは焼きそば、ジンギスカン鍋、焼きチーズカレー(お焦げ付き)といったところだ。山では何を喰っても美味しいが、さて、これを家で食べたら美味しくないのかと言えば、やっぱり美味いと思う。でも、山でみんなでワイワイ食べるのはほんとに美味しいね。ジンギスカン鍋にはお客さんが持ってきてくれたトマトとパプリカも投入されて(あれ?キュウリもはいってるなあこれ)見た目も美しく最高の出来だった。

ジンギス鍋(絶品!)つゆだくで

お客さんは小屋素泊まり。「赤沼さんも小屋に泊まったら」と言われたが、痩せても枯れても僕はガイドだからそんな事は出来ない。初志貫徹、おまけにケチだからテントに泊まる。最近メンテナンスを怠っていたので朝方には大分雨が染みこんで来て、足の辺りが濡れて少し冷たかった。

 夜半から再び降り始めた雨は朝になっても止まず、ようやく雨が納まった7時半頃出発して地蔵尾根を登り、まっすぐツクモグサを見に行くことにした。今年は開花が早めで道すがら色んなものが咲き始めていた。オヤマノエンドウ、クモマナズナ、イワウメ、ツガザクラ、イワヒゲ、コメバツガザクラ、キバナシャクナゲ、そして、チョウノスケソウ。例年ではまだ咲いていない花が開いて、ガスに覆われて展望は何もないのだが道すがらは楽しい。

オヤマノエンドウ

チョウノスケソウ

イワウメ

 そして、僕たちはあこがれのツクモグサに突然であう。小尾根を登り上げるとそれはいきなりお花畑となっているのだ。お客さんからは歓声が上がる。ツクモグサは本州では白馬岳とここ八ヶ岳でしか見ることの出来ない希少種であり、雪解けが終わるとともに開花する一番花だ。全体が繊毛に覆われホンワリと幻のような姿が特徴的だ。それはキンポウゲ科オキナグサ属に属し、図鑑によると、山草愛好家城数馬が八ヶ岳で発見し、父の名九十九に因んで命名されたとある。自分の名を冠した花があるってどんな気分だろう?因みに、チョウノスケソウも名の由来はそのたぐいだ。

ツバメの子

 日差しがないので花弁は開かず、耐えるように咲くその姿はいとおしい。花の大きさはウズラの卵ぐらいで、少し開いたその様はツバメの雛がいっせいに口を開けてえさをせがむ姿に似ている。花の直ぐ下の葉が小さな羽をいっぱいに広げたように見える。被った岩の下に咲くものは、体中にびっしり生えた繊毛に吹き付けた霧や雨が宝石のような雫となって実に美しい。こうやって、体が直接濡れるのを防いで保温をしているのだなあと思った。ツクモグサはその保温力でその時期の虫たちを独り占めし、受粉と言う目的を達成しているではないだろうか?フクジュソウやミヤマキンポウゲは同じキンポウゲの仲間であるが、それらはパラボラアンテナ方式で虫を集める。あのテカッとした花弁の内側は外気より2℃ほど気温が高いのだそうだ。虫たちが暖まりにやってくると言うわけ、凄いね。

 みんなどれだけ写真を撮っただろう?1時間近くツクモグサを楽しんで大満足した僕らは、登りと同じ地蔵尾根を下ることにした。

ミネザクラ

 途中行者小屋付近で子鹿に出会った。たいしてこちらを気にすることもなく草をはんでいる。すぐ近くには母親らしきのも居たのだが、慌てて逃げようとはしない。鹿というのは普通とても臆病で、人の気配でさっと逃げてしまうものだが、ここの鹿も人慣れが始まっているのかな?確かに愛くるしいのだが、もし僕が猟師で鉄砲を持っていればいただきの場面だ。ダッーーン!!

 一瞬回復しそうになった空も再び雲に覆われてしまった。少し増水している南沢を下って美濃戸へ下山。もみの木荘で入浴。お目当ての「みつ蔵」の蕎麦は絶望的な行列が出来ていて断念しビーナスライン沿いで蕎麦を頂いたが、まあまあだったかな。でも、多分二度とは入らないかも。茅野駅にて解散。

 

 

 


岩殿山と白沢天狗山6月13、14日

2013年06月14日 | ツアー日記

 岩殿山は現在の長野県東筑摩郡筑北村坂北、旧坂北村と生坂村の境界に南北に連なる里山である。西側には麻績川の支流を挟んで(何故か国土地理院の2万5千図にも掲載がない沢)対をなすように京ヶ倉が連なる。どちらも砂岩の岩峰が特徴的で、標高こそ1,007mと高くはないが、充分に魅力的で、こちらを登ればあちらもと言う気にさせてくれる所だ。

 歩いてみると解るのだが、登山道のそこここには、石碑や石灯籠、道祖神、馬頭観音、五輪の塔、そして岩殿寺奥の院が配置されて、田舎寺ながらこの岩殿山全体を大伽藍に見立てた非常に格式高い作りになっているような気がするのだ。開祖慈覚大師円仁は今なおその威光を放っている。

 お客様は女性ばかり4名様。別所ルートから登る。梅雨とは言え、雨の気配はなく、若干蒸し暑さも感じるが風が僕らを助けてくれる。里山なのでとりあえずの展望はないが、大きな石碑が、僕たちを不思議の国へと誘う。いったいどうやってこれをここまで運んだのだろう?現場で切り出したとしてもそれは大変な労力だ。

かたちの良い松の向こうに姨捨山

 稜線に登り上げるのにさほどの時間はかからない。分岐を南へ稜線を辿り難しくはない岩峰を縫って行く。岩の頭を通過する時は一気に視界が開け、京ヶ倉越しに後ろ立山が見えて歓声が上がる。岩山の向こうに岩山、そして未だ雪をたっぷり抱いた北アルプス、素晴らしい。

 未だつかないのと思う頃岩殿山山頂に到着。途中までご丁寧にあった看板類だが何故か山頂には何もなくて三角点がポツンとあるだけ。しばらく休んで今日のメインイベントの奥の院へと向かう。岩殿山がメインイベントじゃないの?・・・・・そうなんです、奥の院が凄いのです。

 今来た道を戻り分岐から北への稜線を辿る。現れる岩場も難しいところはないが、足を滑らしたら大変だ。天狗岩には見事に彫り込まれた階段があって、これにもまた畏敬の念が沸く。何かを念じるように掘ったに違いない。

 道はこれから下る岩殿寺ルートをわけて、しばらく行くと奥の院となる。ここが凄い。今回のメインディッシュだ。「ここをパワースポットと呼ばずして、何処がパワースポットと呼べよう!」ぐらいな気持ちになる。それは高さ数十メートルの砂岩の大岩なのだが、オーバーハングして張り出した部分は10メートル近くあってその根元に社が安置されている。これが岩殿寺奥の院。その岩のルーフの壁面が凄い。圧倒的な造形なのだ。宇宙を支配する宇宙帝国の大王の部屋の壁はきっとこんなに違いない。・・・・・・・大げさか?

 あちこちの山を歩いてきた僕でも、このような岩には他にお目に掛かったことがなくて、それが波に洗われた海岸のものなら不思議とも思わないのだが、ここは完全に山のてっぺんだ。岩から水がしたたっている訳でもなく、ここだけ風が猛烈に吹き付ける訳でもない。なんでこんなになるのだろう?それを説明する看板などは一切ない。あーーー不思議! それ考えると夜寝らんなくなっちゃうよ。奥の院の岩の天辺で記念写真。

女の子たち

 頭の中で、その不思議をぐるりぐるりと考え解きながら岩殿寺まで下山した。僕は予め置いておいたチャリンコを飛ばし、別所ルート登山口まで車を取りに行った。お客様を待たせてはいかんと必死で漕いだので、ゲロを吐きそうになったが、かろうじて吐いてはいない。

 ガイド宅では季節の野菜と蕎麦を召し上がって頂き、山の話で盛り上がる。今回は怪しい日舞の先生がいらっしゃらなかったので、静かに夜は更けていった。ああ、平和。

 第二日目は北アルプスの爺ヶ岳の東尾根上にある前衛峰、白沢天狗山だ。ここには道がなかったのだが、近年整備され後立山を望む展望の山として登られるようになった。だが、まだ、人は少ない。岩殿山もそうだったが、ここでも誰にも会わなかった。爺ヶ岳スキー場から昨日より蒸し暑い尾根道を、ひたすら登る。

 いくつも新しい標柱が立てられてはいるが、これがご覧の様にことごとくズタズタになっている。誰の仕業?これはね、熊ですね。実はツキノワグマはガソリンとか、ペンキの臭いが大好きで、出来たばっかりの標柱を立てるとそれをペロペロやりに来るのだ。とはいえそのペンキは一応乾いているので思うようには味わえず、終いにカンシャクをおこした熊はその牙と爪で新品の標柱をバキバキにしてしまうと言う事のようだ。他の場所でもペンキを塗った標柱がこういう目に遭ってるのをよく見かける。恐ろしいね。

 春ゼミは絶好調だ。ほんとならここで座り込んで目をつむり、一心に春ゼミの声を浴びたいぐらいだが。蒸し暑いブナの森を喘ぎながら登る。皆汗でびっしょりだが、ここまで汗をかくとすがすがしささえ感じる。

カラフル毛虫(アオバセセリの幼虫なんだそうです、makkoちゃんありがと)

空色の蛾

ヨウラクツツジ

クロモジの木 薫り高い妻楊枝になる

ブナコブ

爺ヶ岳スキー場はアヤメがいっぱい

 3時間半で白沢天狗山到着。残念ながらガスが沸いていて期待していた大迫力爺ヶ岳は見えず。まあ、梅雨だし仕方がない。これからの楽しみはなんと言っても風呂入って、乾いた衣類を身につける事だ。全員の気持ちは同じだったに違いない。大町温泉郷薬師の湯にてひと風呂浴びて、わっぱら屋の蕎麦をたぐり穂高駅解散。

 


13クライミング初夏講習会

2013年06月01日 | ツアー日記

 僕のクライミング講習会は基本的に、ガイドと一緒に登山する場合にしばしば現れる、ロープを使っての登降をスムーズに行うための講習会だ。だから、クライミングシューズを履いて、難易度の高いフリークライミング用の壁を登ったりするのは、最後の余興みたいなもので、時間があればやろうかな位に考えている。

 大町の人口岩場は長野県が運営するもので、長野県山岳総合センターが管理している。屋根のあるフリークライミング前傾壁の北壁と難易度の低い垂壁の西壁、人工登攀用の南壁、あと、東西に50度から80度くらいの傾斜の練習壁がある。支点もしっかりあるので、クライミングの型を学ぶには安全でとても良い施設だ。しかも、許可を受けた者は只なのがありがたい。

 岩場に行くと、3人さんが既に練習中で、北壁を登っていた。挨拶してさてさてと言うところで、見るとスラックラインが張られているではないか。3人さんも往来を横切るように張ってあるそれを、申し訳無いと思ってか「どうぞ、やって下さい」と言ってくれたのでしばしスラックライン体験となる。要するに、綱渡りだ。

 これ、難しいです。落っこちると悔しいもんだから、つい熱くなってしまう。大笑いしながらみんなで楽しんだ。大いなる暇つぶしにはいいなあ。近々購入しようかと思う。

 と言う事で今回のメニューは先ずはロープの結び方から始まった。8の字結び。普通に作るやり方と、直接ハーネスに結びつけるやり方をみっちりやる。たとえ、ここで出来るようになっても、それは気のせいで、うちに帰って台所に立ったときなどに繰り返しやらないとだめよ、てなことを話しながら何回もやって頂く。次はプルージック。これは、メインのロープにくくりつけて、自分を確保しながら登ったり降りたりが出来る便利な結び方。フェンスに固定ロープを張っての支点通過もやっておこう。

 休憩時間にボルダリングも体験。これ簡単そうに見えてとても難しい。なんじゃこれ状態です。

 本日の最後は東壁の第1段目のテラスまでの登降訓練。僕がテラスで確保し、皆さんに登ってもらい、懸垂下降で降りてもらうと言うもの。ロープをしっかりハーネスにセットすることと、セルフビレーを解除するタイミングが重要だ。手順を間違えないこと。自分が何をやっているのかをちゃんと把握する事を理解してもらう。間違えたらあの世行きだ。

 この日はガイド宅に宿泊して頂いた。今回のお客様は女性のみ4名様。あまり多くは語らないが楽しい宴会は延々と続き、歌を歌ったり、笛を吹いたり、シャミを弾いたり法螺を吹いたり。最終的にはI村師匠の手ほどきで4姉妹のタオルを使ったエロ日舞で締めくくられた。4人そろって何を手にしているのかお解りだろうか?

完全に降参です。

 二日目は雨となった。北壁以外は完全屋外なので北壁を登ることにした。先に来ていたのはガイド仲間の中島さん、その後も水谷さん率いるクライマー連中が続々と現れ、北壁は大渋滞状態に。瑞籬山やら小川山やらが雨でダメになったので、みんなここへ集結してきたのだ。僕らは一番簡単な右側ルートをトップロープでクライミングを楽しんだ。隣のお嬢さんがメチャクチャうまくてみんなで見とれる。しなやかに、軽やかに、大胆に、力強く登っていく。惚れてしまいます。

 しばらくして雨も止んできたので、屋上に出て18メートルの懸垂下降を体験して頂いた。垂直の壁を自分の手一本でコントロールしながら下降するのはかなり勇気のいることだが、皆さん果敢にこなしてくれた。いくつになってもお転婆は辞められないのだ。ヤンチャ、お転婆のお手伝い致します。まだまだ出来る事は沢山あります。その調子で頑張りましょう。

 

 


13鶏冠尾根から甲武信岳

2013年05月29日 | ツアー日記

 鶏冠山は甲府盆地に流れ込む笛吹川上流の東沢渓谷左岸に位置する。地図上には今のところ道はないことになっているが、鶏冠山までははっきりとしたルートになっている。数年前まで東沢の入り口には入山禁止のバリケートがあったのだが、今や可愛い看板に導かれるコースとなった。僕は毎年この時期に鶏冠尾根を甲武信小屋まで上り詰める。バイカウツギ、ミツバツツジ、ヤマツツジ、クモイコザクラなどが咲いて、そして何よりシャクナゲのトンネルをくぐり抜けていくのはとても楽しいからだ。花の咲かないシャクナゲの藪は、忌まわしいの一言に尽きる。強靱な枝はねじくれ曲がってザックのあちらこちらにひっかかり、僕らの行く手を阻もうとするから。

 先ずは東沢を少し遡り鶏冠谷出会いで飛び石づたいで対岸に渡った。例年なら二回徒渉が必要なのだが、いつかの大雨ですっかり流れが変わってしまったので、今年はその必要はなかった。

バイカウツギ

ミツバツツジ

 鶏冠谷を少し登って尾根に取り付く。急ではあるが以前に比べ大分踏みならされ歩きやすい。ヤマツツジやミツバツツジを愛でながらじわじわ登る。期待していたシャクナゲは開花後にどうも霜に当たったらしく、花びらが茶色く変色したり、開花の途中で止まってしまった物などが目立つ。シャクナゲは順次高度を上げて咲いていくので、これから行く人は問題ないとは思うが、今日はカメラを向ける気がしない。

最初に現れる第一岩峰は左側を大きく巻きながら登っていく。ここら辺の岩の割れ目に咲くクモイコザクラ残念ながらもう既に咲き終わっていた。

 第二岩峰付近は以前はザイルを使い岩稜歩きを使い楽しむところであったが、昨年から立派なステンレス製の鎖が設置され、いとも簡単に登ることができる様になってしまった。ああ、つまらない。山梨百名山なんかに選ばれたお陰で、楽しい山がまたひとつなくなってしまったのだ。ここが一般道扱いになるのも時間の問題だ。ガイドの出番も次第になくなる。

第二岩峰の岩場

鶏冠山(第三岩峰)

 第三岩峰を右側から巻いて、反対側のコルから戻るようにして現在の鶏冠山の頂上に立つ。現在のと書いたのは、実は本来の頂上はここからさらに30分ほど登ったところに在るピークに標柱があったと甲武信小屋の北爪君が教えてくれたからだ。どう考えても山頂の体裁を整えているのはそちらだと僕は前々から僕は思っていたので、今回それを聞いてスカッとした。何のためかは知らないがなんか安易だなあ。

 第三岩峰に到着するころから穏やかだった空に黒雲が沸き、ぽつぽつ雨が落ちてきたかと思ったら、いきなり雹が降り始めた。慌ててカッパを着込む。

 ここから上部は通う人も稀になるので、慎重に踏み跡を拾いながら登った。シャクナゲのトンネルは藪漕ぎに近く、しかも断続的に雨が降り続いているので体はびしょびしょだ。木賊山に近づく頃には雷まで鳴り始める始末。梅雨を前に暖気と寒気が入り交じり不安定な天候となっているようだ。

秩父らしい栂の森

 木賊山本体に取り付くと例年なら残雪が現れ、アイゼンを使ったりするのだが今年は殆ど雪がなく踏み跡を問題なく辿ることが出来た。残雪があると、道を見失い、シャクナゲの藪に突入しなければならなかったりするので助かる。こんなに雪が少ないのは初めてだし、数日前に行った富山の毛勝山は逆に記録的な大雪だったので、同じ時期の山を歩いている気がしない。偏西風と日本海を西側に持つ日本の風土は変化があって実に素晴らしいものだと思う。

 木賊山でようやく登山者に出会う。少し下れば甲武信小屋だ。

 甲武信岳小屋の小屋番北爪君は僕の友人だ。彼は腕利きのギター弾きで、それが縁で僕らは仲良くなった。三月の末には東京と石巻でそれぞれのバンドを率いて一緒にミニライブツアーを敢行もした。と言っても二人づつだけど。その時の顛末を彼がブログに書いているのでこちらもどうぞ。

石巻の旅【石巻 スペース千人風呂へ】

石巻の旅【南三陸へ】

石巻の旅【おおもり食堂と帽子】

石巻の旅【千人風呂ライブ~帰京】

 僕はこの時のことをとうとう書けなかった。なんでだろ?

 徳ちゃんは残念ながら不在で、代わりに弟さんのミツ次さんがいらっしゃった。テリー伊藤似の物静かな人だが、いつも目が穏やかに笑っている、そんな雰囲気をも持つ。

シルエットはうたた寝中ではなく うけつけ中の支配人

 

70年代のヤマハFG160、なんと3,000円なのにめちゃ良い音

 今日は結構早めに小屋に着けたので薪ストーブで体を温めて、ゆっくり目に芋焼酎を飲んだ。とにかく時間があるので、あまりピッチを上げると今日はとんでもない結果になってしまうので、自身をコントロールしつつ、大人な感じでこの何もしない時間を楽しむ。今日は日曜日だから小屋もそんなに忙しくなくて、北爪君とギターセッションを楽しんだり。宿泊客は昨日は100人、今日は15人だそうだ。結局、消灯後にギターを弾きはじめた我々は、もっとさわやかな演奏をすればよかったものを、なぜかオドロオドロしい演奏を繰り広げ、あげくお客さんに怒られて、ちんやり夜は更けていったのだ。いくつになっても馬鹿で申し訳無い。ご迷惑をおかけしましたみなさん。

 

 朝五時に朝食を済ませ、甲武信岳へ向かう。天気はすっかり回復して、朝日が眩しい朝だ。若干霞んでいて北アルプスまでは見通せないが、八ヶ岳や富士山も見えて登ってきた甲斐があるというものだ。

朝の甲武信小屋

 7時に下山を開始。シャクナゲの徳ちゃん新道を西沢へと下った。唐松が芽吹いて美しい。春ゼミが耳が痛いほど鳴いている。何千もの鈴をいっせいに鳴らしたようで、気が遠くなりそうだ。

アズマシャクナゲ

 下山後いつもの隼温泉で入浴、塩山駅解散。