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山岳ガイド赤沼千史のブログ

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13東沢渓谷釜ノ沢東俣遡行6月22,23日

2013年06月25日 | ツアー日記

 そろそろ、沢の水も温む頃となり、沢登りシーズンがスタートする。梅雨ではあるが、積雪の少ない地域の沢ではむしろその適度な増水が沢登りを楽しくさせてくれると言う事もある。もちろん、度を越した増水は僕らを大変困らせて、時には閉じ込められたり、延々と藪漕ぎを強いられたり、命の危険をはらんだ事態に陥れるので充分に注意が必要だ。

 甲府駅にて集合して、取り合えず川を見てからと雁坂道を西沢渓谷まで向かう。途中広瀬湖では湖面が息を呑むほど静かで、対岸の山を映して美しかった。

広瀬湖の朝

 今回も前日まで結構な雨が降ったが、ここ甲武信岳周辺は荘でもなかったようで、増水はあってもわずかで川の濁りもなく入渓を決断する。適度な水量で楽しめそうだ。ひと月前に鶏冠山を登りに来たときに比べて緑が深くなっている。生き物たちの営みは休むことを知らない。お客様は五名様、ガイドは僕と頼れる先輩の下條ガイド。

鶏冠山

 東沢出会で遊歩道から別れ沢に入る。最初は左岸につけられた古い道跡を辿る感じで、朽ち果てた観光看板みたいなものもあって、もしかしたら東沢渓谷も観光資源として人々が巡っていたのかも知れない。迫力ある結構な滝が現れる。

岩魚止めの滝

 いったん道は河原に降りるがそこにはホラ貝というゴルジュが存在する。ゴルジュとは両岸を岸壁に遮られ河原のない場所のことをを言うが、ここは通常数十メートルある川幅が、三メートル程に狭められて深い淵になっている。屈曲したゴルジュの奥は見通せないがおそらく二数百メートルぐらいは在るだろう。突破はもちろん無理なので、高巻き道を迂回する。道ではあるがあくまでも高巻き道だから、木の根に捕まり細心の注意で登らなくては滝壺にドボンだ。

田部重治もびっくり ホラ貝

 山の神を過ぎてししばらくすると道はなくなり河原の石を拾って歩いていく。頻繁に渡渉を繰り返すが、水量は少なくてせいぜい膝下ぐらいで流される不安もないし、スクラムなども必要ない。時々日差しもあるので、パチャパチャ楽しみながら川を渡る。今年初めての沢登りだし、水の冷たさが気持ちが良い。沢登りは基本河原を歩き、その先で行き詰まると対岸に渡渉する。そして、滝が現れれば、正面を突破するか高巻くかして上流を目指す。時にはゴルジュを泳ぎ、側壁をへつったり。でもここにはそんな心配はない。

休憩時にはお互いの装備をチェック

 

美しい淵を見ながら

鹿の頭蓋

東のナメ

うねり吹き出す滝

滑りやすいスラブをフリクションを効かせて

 釜ノ沢出会いは本流の金山沢と比較すると小さめでともすれば見逃しがちだが、何処かの誰かさんによって無粋な赤ペンキマークが着けられていた。あちらこちらに看板やらペンキやら。ルートファインディングが沢登りの楽しみの大きな要素なのにまったく困ったものだ。

 釜ノ沢に入ると直ぐ魚止めの滝で右岸のスラブをお助けヒモでのぼり、ブッシュのなかを登れば、ナメと釜が連続する四段の滝だ。沢靴のフリクションを効かせてスラブを登るのは楽しいが、足を滑らせたら滑り台を一気に滑り落ち、釜に呑み込まれてしまう。ここを登り切るといよいと本日のハイライト千畳のナメだ。緩い傾斜のナメが連続し、水は音もなく流れ、両岸の森がトンネルのように渓を包み込んでいる。どこを歩いてもいいのだ。つま先からしぶきが上がり歓声がわく。夢の様な時間。

 みんなほんとに楽しそうだ。ずっとこの幸せが続けば良いのにと思う・・・・・・・だが、楽しい事はいつか終わる。

 さて、ここを過ぎると両門の滝。西又と東又がここで出会い一つの釜に注いでいる。しかもそれは全てが一枚の岩で出来た大スラブだ。

両門の滝

両門の滝でポーズ!

 ここは右側の東俣をえらび、再び小さく高巻く。迷い沢を右に見て小尾根を登ると広河原に出た。今日の宿はこの辺りに求める。この辺りは広く、左岸の樹林の中や右岸の河原の所々に具合の良いテントサイトがある。僕らは右岸の河原を今日の宿と決めゆっくりと過ごした。通常サイトを決めるとガイドはテント設営やら、薪集めやら、岩魚釣りやらで忙しいものだが、今日は時間が早いのと、なによりここには岩魚が一匹もいないのですることがない。そういう意味では全くつまらない沢だ。

 そうこうしているうちに、雨が降り始めた。梅雨の振り方ではなく、どちらかというと夕立だ。みんなテントに潜り込んで雨音を聞き、少しうとうとする。たっぷりの時間と雨音、雷も鳴っているが気分は・・・・・・悪くない。

 2時間ほどして雨も止んだのでテントから抜けだすと下條ガイドがひとり火をたき始めていた。下さんは火炊きの達人で、どんなに雨が降ろうと火をおこす。大増水の黒部川上廊下で閉じ込められ全てが濡れて絶望的な気分の中、下さんが火をおこし、僕らは暖まり天ぷらを揚げて食べ笑った。火がどんなに力強く僕らを暖めてくれるものなのか、思い知った出来事だ。諦めなければ光は見えるのだ。

達人火をおこす この程度の雨ならチョロいもんだ

毛虫(なんだろ?)

たなびく煙

 夕食は先日のツクモグサのツアーでたまたま出来あがったジンギス鍋。途中摘んできた山椒がアクセント。つゆだくでご飯にぶっかけて頂く。雨は止んだし気分は良いし、飯は美味いしぼくはまた飲み過ぎてしまった。沢は魔物だ。因みに下條ガイドは一滴も飲まない。

肉じゃ!!

炎を司るひとを 「火いじり」転じて「聖」になったという

 翌朝は6時過ぎに出発、曇ってはいるが降ることはなさそうだ。しばらくは沢通しに行っても良いが、ごろごろの河原歩きなので、左岸の苔むした樹林を行く。あちらこちらにテントサイトがある。

 樹林から抜け出て沢は次第に傾斜が増してくる。水師谷手前のスラブ滝をフリクションで越える。ここから右へ入ると上部はずっと岩盤の上を歩く快適な登りだ。所々傾斜の強いスラブが現れるが、小さく高巻いて回避する。

 喘ぎながら登る。左右の岸壁にはイワカガミ、キバナノコマノツメ、そして特産種クモイコザクラ。谷が次第に開け明るくなってくるころ、甲武信小屋の水場が見えた。最後のスラブを味わって、楽しんで登り釜ノ沢東俣は終了した。水場道を10分ほど上れば甲武信小屋だ。

先人達が捨てた草鞋の塔

林床は一面のコイワカガミ、しかも葉がメチャクチャ小さい

 甲武信小屋では 支配人の北爪君やミツ次さん、友人の鈴木さんが待っていてくれた。しばらくはフリータイム。お茶を頂いて話に花が咲いた。着替えたり希望者は甲武信岳まで遊びに行ったりゆっくりと時間を過ごした。

白樺はへの字

モミジカラマツっていう花があったけどこれはモミジとカラマツ

 時間には余裕があるし、ゆっくり行けば良いのだが、強者達はそういうわけには行かない。真っ白なシグマシューズをを履いた怪しい集団は軽快にチャッカチャッカと3時間で徳ちゃん新道を下山。いつもの隼温泉にて入浴、塩山駅解散。

 みんなが少したくましくなった気がするよ。

 

 

 


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