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かりんとう日記

禁煙支援専門医の私的生活

記憶喪失療法

2014年04月28日 | 昼下がりの外来で
「記憶喪失療法っていうのがあればいいのにと思っていました」と彼女は言った。

45歳。

タバコのせいで肌がひどくくすんでしまっている。
唇も血色が悪い。


禁煙治療薬の説明をすると、「1月から抗うつ剤を飲んでいるから」と、チャンピックスではなく、ニコチンパッチでの治療を希望した。


水を向けると、色々と打ち明けてくれた。

離婚をしてまだ間もないこと、保険の外交員をしながら息子を育てていくこと、その高校生の息子に昔からタバコをやめてほしいと言われていて、それができないことが一番自分にとって後ろめたいことであること、離婚がやっと成立して、何もかも新しくサッパリしたくなったこと…


「自分がタバコを吸う人だってことを忘れてしまえば、吸わずにすむのに、なんて思ったりもしたんです」


『あぁ、だから記憶喪失…』


自分の意思ではどうにもならないことができて、しかもそれがどうにもつらい時は、とにかくそのつらさの原因になっていることが、消えて無くなってしまえばいいのに、始めからなかったことにできれば楽になれるだろうに、などと考えたことがアタシにもあるから、よーくわかる、その気持ち。


「息子には禁煙すること言わないでおこうと思うんです。禁煙できるか自信がなくて…できなかったときに恥ずかしいから」


『でも、ずっと禁煙を勧めてくれた息子さんでしょう?きっとお母さんのこと応援してくれますよ。親が頑張って禁煙治療を受ける姿を見せることも、子供を将来喫煙者にさせないための大切な教育になると思いますよ』


「息子のためにも離婚したんです。禁煙も半分は息子のためです。頑張ってみます。連休中はタバコを吸う友達とお酒を飲む予定があるんです。訊かれたら、パッチ貼ってること言います。離婚を止めた友達は誰もいないんですよ(笑)私のためには離婚するのがいいからって…禁煙も邪魔しようとする人はいないと思います。私が一番ヘビースモーカーだから、私がやめたら他の人もやる気になるかも!」



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