東洋経済オンライン (橋爪 智之 : 欧州鉄道フォトライター)
2024年8月30日
CRRC大同製のベラルーシ鉄道向け電気機関車BKG2型。EUなどの制裁によりフランス製部品の供給が停止されたことから納入延期となった(写真:Belarusian Railways)
世界最大の鉄道メーカーである中国中車(CRRC)の子会社、CRRC大同は2024年7月、ベラルーシ鉄道から受注していた15両の交流電気機関車BKG2型の納入延期を発表した。
この機関車はCRRCとフランスのアルストムによる共同開発で、変圧器や主電動機、コンバーター、制御装置、診断・監視システムなどの電子機器などはフランス製品を採用している。ウクライナ戦争において親ロシアの立場を取るベラルーシは、EUおよびアメリカの経済制裁の対象となっており、同国に対して西側諸国で生産した部品の供給を停止するという決定が下されたことが納入延期の理由だ。
「世界最大」でも欧州進出は難航
BKG2型電気機関車は、2021年12月にベラルーシ鉄道が中国電気輸出入公司およびCRRC大同との間で、総額6430万ユーロ(約103億6000万円)で契約を締結しており、契約を補助するために中国輸出入銀行が融資を行っている。
当初、2023年末までには納入される予定だったが、フランス製部品の使用が不可能となったことで、納入期限を2025~2026年まで延期。CRRCは中国製の代替部品を確保することで、この問題を解決するべく対応に追われている。
過去数年を振り返ると、中国政府およびCRRCは世界最大シェアとなった業績をさらに拡大すべく、世界各国への進出に躍起となっている。実際に、アジアや南米などの新興国では同社製品が徐々に浸透しつつある。
一方で同社がとくに力を入れているヨーロッパ市場においては鳴かず飛ばずという状況であることは、過去の記事で何度もご紹介したとおりだ。
チェコの民間鉄道会社レオ・エクスプレスと契約した都市間急行列車用車両「シリウス」は、営業に必要な認可取得が遅れたことで、同社との契約が破棄されたことに加え、車両の基礎部分における熟成不足などが露呈。営業用として問題なく使えるかどうか未知数で、短期間の試験的な営業運転を行って以降も、再契約の話はない。
チェコのヴェリム試験センターで試運転をしていた当時のシリウス(筆者撮影)
試験運行後にそのまま本契約とはいかなかったシリウス(筆者撮影)
オーストリアの民間鉄道ウェストバーンとの間でリース契約した2階建て車両も、試運転を開始してからすでに数年が経過しているが、こちらは試験営業すら行われておらず、先行きはまったく白紙の状態だ。ヨーロッパ市場に対するCRRCの経験不足が露呈した形だ。
オーストリアで営業されるか先行き不透明な2階建て電車(筆者撮影)
CRRCは契約獲得を有利に進めるため、中国政府から多額の助成金を受け取って入札提示価格を下げるなど、なりふり構わない手段で進出を試みている。実際に、ブルガリアでは車両納入に関する契約を獲得できたものの、これはEU外からの補助金に関する規則(外国補助金規制 The Foreign Subsidies Regulation/FSR)に抵触していることが指摘され、この契約は破棄されることになった。
「親ロシア」への抵抗感
ヨーロッパ市場への進出をなかなか実現できないのは、前述の通り同社の経験不足や違法行為などが主な理由であるのは明らかだが、一方でロシアによるウクライナ侵攻以降、ロシア寄りの中国に対してヨーロッパ各国の抵抗感がより強まったことも、進出を阻む決定的な要素となったことは否定できないだろう。
CRRCの新型電車をテストするにあたり協力を申し出たチェコのレギオジェットに対しても、チェコ国内では中国へ手を貸すことは間違っている、という否定的な意見が多く飛び交っていた。同社は以前、価格が高騰している電気機関車をCRRCと共同開発する可能性についても言及していたが、いつの間にかその話はまったく聞かれなくなった。
短期間だけレギオジェットで試験営業をしたCRRC製連接電車シリウス(筆者撮影)
ウクライナへ積極的な支援を行っているチェコ共和国の立場として、親ロシアの中国および同国企業と関わりを持つことは、国内世論を敵に回すことにもなりかねない自殺行為だ。
だがEU加盟国であっても、完全に足並みが揃っているわけではない。
ハンガリーのIT・物流・エネルギー企業のAcemil社は2024年5月、CRRC子会社のCRRC株洲との間で、鉄道車両の製造、保守、鉄道専門教育、研究開発の4つの分野でハンガリー国内に共同センターを設立することに合意した。また、同じく子会社のCRRC山東との間では、ハンガリーで客車の共同組立・製造に関する契約を結んでいたことも明らかにした。
ハンガリーで量産されるか注目される、CRRCが開発した電気機関車バイソン(筆者撮影)
中国の習近平国家主席は5月にブダペストでハンガリーのオルバン首相と会談し、ハンガリーの鉄道計画を中国の一帯一路構想の対象となるインフラプロジェクトのリストに含めることに合意したが、この発表はそれに続くものだ。オルバン政権が親ロシアであることはよく知られているが、ハンガリーは中国へも接近し、さらに中ロ寄りになったといえる。
「安さ」で中国製に頼る国も
ルーマニアも、CRRC子会社のCRRC四方と新型電車の製造契約を結び、都市間輸送に使用する予定となっている。経済的に余裕があるとはいえない国々では、欧米メーカーと比較して価格の安いCRRC製車両に頼らなければならない国がある、というのが現実でもあるのだ。
ヨーロッパ圏に位置しながらEUに加盟していない国の中には、中ロとヨーロッパ(EU)を綱引きさせて、自分たちの利益をうまく引き出しているところもある。鉄道に関しても同じで、セルビアはCRRC子会社のCRRC長春と、都市間特急用新型電車4両編成5本を導入する契約を交わしている。EUに加盟していないセルビアの場合、中国政府からの補助金は規制の対象とはならないため、より安く鉄道車両を導入できるという点で大きなメリットがある。
オーストリアではなかなか営業許可が下りないCRRC製2階建て電車(筆者撮影)
中ロ関係から欧州での展開については不透明なCRRC製車両(筆者撮影)
中国政府とCRRCが目論む世界進出だが、ことヨーロッパ圏においては、中国・ロシアと距離を置きたいという政府や国民の意識が強い国が多い。その中で経済的に裕福とはいえない国の鉄道会社が、高価な欧州製品を導入しつづけられるのか、それとも安価な中国製品の導入に踏み切るのかが、今後のCRRCの欧州展開では鍵を握ることとなりそうだ。
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