「天狗の中国四方山話」

~中国に関する耳寄りな話~

No.119 ★ 【揺れる中国株式市場】金融当局が国有企業に株の買い支え指示も、国内資本が市場からジワジワ撤退ー東アジア「深層取材ノート」(第224回)

2024年02月26日 | 日記

JBpress  (近藤 大介:ジャーナリスト)

2024年2月23日

2月16日、東京株式市場は史上最高値を更新した(写真:共同通信社)

東京市場が史上最高値!中国市場から日本に資金が流入

「22日の東京株式市場、日経平均株価は大きく値上がりして、バブル期の1989年12月29日につけた取り引き時間中の史上最高値を更新し、3万9000円台をつけました!」

 2月22日昼、NHKのニュースを見ていたら、男性アナウンサーがやや興奮気味に報じていた。

 思えば35年前の1989年春、大学を出てニュース雑誌の編集部に入った私は、「絶頂のバブル経済」の記事を書き続けていた。その年の締めは、3万8915円をつけて終えた東証の「大納会」(12月29日の年間最終日)の取材だった。

 その時、取材した人々は、翌1990年は「日経平均株価が4万円、5万円を超えるに違いない」と予測していた。中には、「7万円まで行く」とウハウハと豪語していた社長さんもいた。

 だが現実は、この日を頂点として、日経平均株価は雪崩を打って下っていった。以後、再びここまで来るのに、35年もかかってしまった。

冒頭のNHKニュースでは、ここまで株価が急上昇している理由を、5点挙げていた。①アメリカの株価上昇、②日本企業の好調な業績、③円安の進行、④日銀の今後の金融政策、⑤中国からの資本シフト。

 んっ? 中国からの資本シフト!? 中国が未曽有の不景気のため、世界の投資家が中国から資金を引き上げ、代わりに日本株に投資を行っているという解説だった。

中国メディアもうらやむ東京市場の活況

 そのうちスマホがピンピン鳴り出した。私のスマホは、主要な中国メディアが速報を流すと、知らせるようにしてある。

 目をやると、どれも「日本株が新記録」というニュースだった。例えば、『東方財富網』は、「35年後、大量の外資が流入し、日本株は再び『バブル時代』の最高値に戻った」という長文の記事を出した。

<(前略)アメリカのリーマンショックが世界的な金融危機に蔓延し、2009年3月に、日経平均は7054.98ポイントまで落ちた。これがバブル経済後の最低となった。

 2010年代、『アベノミクス』の3本の矢(金融緩和、積極財政、構造調整)のもとで、経済のベースが改善され、日本株はゆっくりと回復。2017年末からは、ずっと2万円を超えていた……>

きっかけのひとつはバフェット

 同記事の分析によると、今回の日本株上昇の牽引役になったのは、自動車株と商社株だという。その上で、こう記す。

<最も直接的に背中を押したのは、バフェットだった。昨年5月、(バフェット氏率いる)バークシャ・ハサウェイの年度株主総会で、バフェットは4万人の参加者に向けて言った。

「思うに日本株に資金を置くことは、中国台湾(に置く)よりもよい」

 その前の昨年4月、バークシャ・ハサウェイは、日本の5大総合商社への投資比率を、5%から7.4%に引き上げると宣言したばかりだった。(中略)

日本の5大商社株買い増ししたウォーレン・バフェット氏(ロイター=共同)

 2015年1月、中信(中国の大手国有企業集団)は伊藤忠商事、タイの正大集団(CP)を戦略的投資パートナーとして引き入れ、この2社が50%ずつを占める合営会社「正大光明」が800億香港ドルをはたいて、中信の20%の株を買った。当時の為替レートで約1兆円に上る投資で、日本の対中投資の新記録を作った。その日は伊藤忠がトップニュースとなった。

 中信の昨年の中期報告が示すところでは、正大光明は依然として中信の20%の株式を保有している。そしてその報告の期日までに、伊藤忠商事は売りに出して場を離れるようなことはしていない。外資は依然として入って来ていて、「土着」(中国の国内資金)の方がかえって退場しているのだ。(中略)

 日本の「外国為替及び外国貿易法」などの法律は明確に、外国の投資家を含むいかなる会社もしくは個人も、揃って自由な外為の交易ができると規定している。(以下略)>

以上である。他にも中国の「日本の株価新記録」の記事をいくつも読んだが、事実を淡々と追った上で、サラリと記者の分析などを折り込んでいた。

 そこからは、「日本は自由でいいなあ」「日本こそが本物の『市場経済』というものだ」などという「記者のため息」が、言外に伝わってくる。

株価下支えに必死の金融当局

 その裏にあるのは、中国のこのところの株価暴落である。上海総合指数は過去3年で約21%も落ちている。

不安定な状態が続いていた上海株式市場。中国金融当局はテコ入れに必死だ(写真:Budrul Chukrut/SOPA Images via ZUMA Press Wire/共同通信イメージズ)

 中国メディアの知人の中国人記者はかつて、「上海総合指数が3000ポイントを割った時が、中国経済が崩壊する時」と言っていた。だが、昨年10月24日に、あっさり3000ポイントを割ってしまった。ちなみに2月22日の終値は、2988ポイントである。

 中国政府は、株価を上げるために、いくつも「禁じ手」を行っているとされる。例えば2月21日には、米ブルームバーグが、こんな報道をした。

<中国は主要機関投資家に対し、株式市場の取引開始直後と終了直前に株式を売り越すことがないよう指示した。事情に詳しい関係者が明らかにした。8兆6000億ドル(約1300兆円)規模の中国株式市場を支える強力な政府措置の一部となる。

 公に話す権限がないとして匿名を要請した関係者によると、大手資産運用会社や証券会社の自己勘定取引デスクに中国証券監督管理委員会(証監会)から最近通達があった。(以下略)>

デフレスパイラルの危険も

 ブルームバーグは1月23日にも、こんなスクープ記事を放っている。

<非公開情報を理由に関係者が匿名で語ったところでは、香港取引所のリンク経由でオンショア株式を買い入れる安定基金の一部として、主に国有企業のオフショア勘定から約2兆元(約2780億ドル=約41兆円)を活用することを目指すという>

 これは大ざっぱに言えば、国有企業は海外資産を売り払って中国株を買えということだ。そう言えば、中国で証券業界を統括する中国証券監督管理委員会は、「春節」(2月10日)前の2月7日に突然、トップの易会満主席がクビになり、呉清上海市党委副書記が就任したと発表した。

 前出の中国人記者に改めて聞くと、こう語った。

「要は中国株の問題は、サッカー中国代表チームと同じだ。世界中で(株価やサッカーのレベルが)上がっているのに、中国だけが下がっているのだ。これは外国のせいではなく、中国の内部に問題があることを示している」

 そう言えば、日本を含めて世界中で激しいインフレが進む中、中国だけは1月の住民消費価格(CPI)が、前年同期比で-0.8%と落ち込んだ。いまやデフレスパイラルに陥る懸念が囁かれている。

 ともあれ、日本の株価新記録を、海の向こうの人々は、ため息交じりに見ているようだ。

近藤 大介

ジャーナリスト。東京大学卒、国際情報学修士。中国、朝鮮半島を中心に東アジアでの豊富な取材経験を持つ。近著に『ふしぎな中国』(講談社現代新書)『未来の中国年表ー超高齢大国でこれから起こること』(講談社現代新書)『二〇二五年、日中企業格差ー日本は中国の下請けになるか?』(PHP新書)『習近平と米中衝突―「中華帝国」2021年の野望 』(NHK出版新書)『ファーウェイと米中5G戦争』(講談社+α新書)『中国人は日本の何に魅かれているのか』(秀和システム)『アジア燃ゆ』(MdN新書)など。

 


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