DIAMOND online (The Wall Street Journal)
2024年4月11日
Photo:VCG/gettyimages
経済復活を目指す中国は世界中に安価な製品をあふれさせつつあり、20年余り前に世界の製造業を席巻した 「チャイナ・ショック」の続編 を数兆ドル規模で引き起こしている。
だが今回、世界は反撃に出ている。
米国 と欧州連合(EU)は中国製の電気自動車(EV)や再生可能エネルギー関連機器に対し、 貿易障壁を引き上げると警告 している。今回はブラジルやインド、メキシコ、インドネシアなどの新興国もこの輪に加わり、鉄鋼やセラミック、化学製品など、ダンピング(不当廉売)の疑いがある中国製品に狙いを定めている。
「輸出をてこにして急成長を遂げるには中国は大き過ぎる」。 同国を訪れた ジャネット・イエレン米財務長官は5日、最初の訪問地である広州でこう述べた。同長官は中国滞在中、安価な物品の大量生産によって経済活性化を図ることに繰り返し警告を発した。「もし供給を生み出すことだけを重視した政策を進め、同時に需要を喚起しなければ、世界に予期せぬ影響が波及することになる」
各国はすでに 大量に押し寄せる格安の製品 から自国メーカーを守る措置を講じている。インドでは、中国製のボルトやねじ、ガラスの鏡や真空断熱ボトルなどあらゆる製品が反ダンピング調査の対象となっている。アルゼンチンは中国製エレベーターを調査している。英国は掘削機や電動自転車を詳しく調べている。
こうした動きは、新たなチャイナ・ショックがすでにほころびの兆しがある世界貿易システムにおいて緊張をいかに高めているかを物語る。背景には、ロシアによるウクライナ侵攻や、米国主導で西側諸国が国内産業を振興し、経済の一部で脱中国を進めていることがある。この圧力は世界経済の分断を加速させるリスクがある。サプライチェーン(供給網)から中国を排除しようとする国々と中国依存に縛られる国々との溝が深まるためだ。
「米国が国境を閉じれば閉じるほど、中国は世界の他の地域に安価な物品を送り込むだろう。その状況は始まったばかりだ」。カナダの調査会社BCAリサーチの新興国市場・中国担当チーフストラテジスト、アーサー・ブダギャン氏はこう述べた。
深刻な不動産危機を埋め合わせようと中国指導部は国内の広大な製造現場に投資を振り向けている。中国企業は国策に基づく低利融資に支えられ、国内で売れない大量の余剰品の買い手を外国に求めている。この傾向は、2000年代初めに中国の輸出急増で米製造業の雇用が推定約200万人分失われたこと(この現象をエコノミストは「チャイナ・ショック」と名づけた)を思い起こさせる。
中国から押し寄せる輸出品はすでに一部の業種で外国の競合企業を打ち負かしつつある。チリの鉄鋼最大手CAPは3月、ウアチパト製鉄所の操業停止を発表した。これに先立ち、チリ製の鉄鋼よりも40%安い中国からの輸入品にもはや太刀打ちできないと幹部が述べていた。
不当に安いと訴える地元企業の苦情を受け、チリの政府諮問委員会は中国製の鉄鋼に15%の輸入関税を課すことを勧告した。CAPは同委員会に対し、25%の輸入関税を勧告するよう働きかけていた。
世界各国は2023年の年初以降、中国を標的にしたものだけでも70件以上の輸入関連措置を発表している。開かれた貿易を推進する非営利団体(NPO)グローバル・トレード・アラート(本部・スイス)の集計で明らかになった。
標的となる複数の対象国の一つが中国であるものを含めると、23~24年の輸入関連措置の合計は300件以上となる。これには反ダンピング調査や輸入関税、輸入割り当てなどが含まれる。
「標準的な価格をつけた製品では対抗できない」。インドネシアの合成繊維大手アジア・パシフィック・ファイバーズの広報担当者プラマ・ユダ・アムダン氏はこう話す。インドネシア当局は昨年、中国から輸入される合成糸に関して調査を始めた。ジャカルタ市場に上場する同社の昨年の売上高は前年比27%減の2億8850万ドル(約432億円)だった。アムダン氏は減収の要因として競合する中国企業のダンピングとみられる行為を挙げた。
世界中で強まる反発に対し、中国は保護主義の台頭を非難しており、それは 同国がやり方を変えるつもりはないこと の表れだ。国営メディアは、中国の過剰生産能力についての西側諸国の不満は大げさで偽善的だと非難する記事を掲載している。さらに重要なのは、米国のEV補助金が中国製部品を除外しているのは不公平だとして中国が世界貿易機関(WTO)に提訴したことだ。
中国商務省と、指導部に対する報道機関の問い合わせに対応する国務院新聞弁公室は、コメントの求めに応じなかった。
現在調査を受けている製品の広範さからは、中国が経済を改革しWTOに加盟した2000年代初め以降、世界の製造業における同国の地位がいかに高まったかが浮き彫りになる。
「中国の現在の軌道で人々が脅威に感じるのは、製品の質向上に伴い、中所得国とも高所得国とも激しく競争していることだ」。スイスのザンクトガレン大学のサイモン・イバネット教授(国際貿易)はそう指摘する。
先進国は、数十年前に中国の攻勢で家具などの製造業の雇用が失われたように、同国が輸出を拡大させることで自国経済の強みだった産業が空洞化することを懸念している。
一方、発展途上国にとって中国からの輸入急増は、独自の製造業を築き上げることで中国のように経済発展の階段を上ろうとする希望を打ち砕く可能性がある。
ブラジルの化学業界は、昨年の工場稼働率がデータ集計の始まった17年前以降で最低の64%に落ち込んだのは、中国からの輸入増加が原因だとみている。業界団体Abiquim(ブラジル化学工業会)の経済担当ディレクター、ファティマ・コビエロ・フェレイラ氏は、工場閉鎖や大量の雇用喪失を避けるためには一時的な関税が必要になるとの見方を示す。「あれほど激しく流入する輸入品にはかなわない」
(The Wall Street Journal/Jason Douglas and Dave Sebastian)
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