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Retro-gaming and so on

七夕の国

岩明均、と言う作家がいる。
ご存知「寄生獣」の作家なんだけど、今は講談社の方で「ヒストリエ」と言う漫画を描いてるようだ。
非常に面白い作品を描く作家なんだけど、ヒストリエを見れば分かる通り、昨今は歴史ものに偏重してるカンジだ。

「寄生獣」はハッキリ言って、SF作品としてはデビルマンに次ぐ傑作漫画だと思う。
しかし、ホントこの作品が出てきた時にはビックリした事を覚えている。いや、そのストーリーの面白さ、に付いてじゃない。岩明均、と言う作家に付いて、だ。
と言うのも、彼の連載デビュー作を知ってる層だと「こんな漫画が描ける作家」だとは誰も思ってなかっただろう。
実は僕もそのうちの一人だったんだ。

ちょっと寄り道をしてみよう。
いわゆる少年誌を補完するような青年誌立ち上げブームが始まったのは1979年の週刊ヤングジャンプに遡る。この雑誌の発刊に始まってから少年××の××にヤングを付けた雑誌創刊ブームが起きたんだよ。
ちと説明すると、これ以前にも「大人向け漫画雑誌」っつーのはあった。小学館のビッグコミックとかな。
ただ、元々これらの雑誌はマジでおっさん対象だったわけ。青年誌立ち上げブームがターゲットとしたのは、「少年誌を読む程子供じゃない」「大人向け漫画雑誌を読む程おっさんでもない」、ちと中途半端な層だ、って事だ。そして「少年誌卒業」した層をそのまま取り込もう、って言う戦略があったんだな。

余談だけど、このブームに乗り遅れたのが小学館だ。小学館は既に「大人向け漫画雑誌」として年季の入ってたビッグコミックをブランドとして持ってたんで、「少年誌卒業組の受け皿として」自社の少年サンデーの青年雑誌版を作るのに躊躇した模様だ。何故ならそういう雑誌を出せばビッグコミックブランドと食い合うのが予想される。結果、少年誌の青年版を出すのは止めて、ビッグコミックブランドで「対象年齢を若干下げた」雑誌を出す事を選んだんだな。ご存知「ビッグコミックスピリッツ」だ。
実は小学館としては「少年用ビッグコミック」ってぇんで逆にビッグコミックブランドで対象年齢を極端に下げた雑誌をかつて出してたんだよ。覚えてる人がいるかどうか知らんが。あだち充の「みゆき」が載ってたその名もそのまんま「少年ビッグコミック」だ。
つまり当時の小学館の戦略ってのは同業他社と真逆の戦略を取ってたんだ。ただし、「少年ビッグコミック」はすげぇ売れてた雑誌、ってワケでもなかったんで、その後、ビッグコミックブランドから離れて「ヤングサンデー」とサンデーブランドに変更になる。そして最終的には廃刊になってしまった。
いずれにせよ、現時点ではビッグコミックブランドは雑誌として複数展開されてるんで、同業他社のような「サンデーに付属する」青年誌を、結果抱えなくても良い、って判断だったんだろう。

閑話休題。
この青年誌創刊ブーム、ってぇんで、当時、少年漫画に「飽き始めた」尖った漫画ファンは結構そういう雑誌に流れていったんだ。
当時の傾向だと、1に少女漫画雑誌(と言うか「花とゆめ」、だ・笑)、2に青年誌、と言う選択肢になった。
うん、尖った漫画ファンは少年誌をサッサと卒業して、そっちの方に行っちゃったんだよな。
少なくとも、僕はそうだった。

さて、そういう青年誌創刊ブームの流れの中で、ひっそりととある漫画雑誌がデビューする。
それがモーニングだ。
今じゃ講談社を代表する看板雑誌の一つになっちまってるが、創刊当初はマイナーもマイナー、どマイナー雑誌だったんだ。
なんせまずは週刊誌じゃない。当初は隔週雑誌だったんだよな。
しかもなんだろ、看板連載もない(笑)。何故なら「他の雑誌で連載してる知名度のある作家」が一人もいない。
そして、表紙は他のヤング××みたいにグラビアアイドルになってるわけでもねぇし、掲載漫画が表紙を飾る、と言うような少年雑誌的なアプローチになってるんだが、そこに載るどの漫画もどっか地味で華がない。うん、なんだろ筆舌に尽くしがたいどマイナーな雰囲気が漂ってるわけ(笑)。なんつーの、講談社が出してるクセに近代麻雀社とか日本文芸社とか(笑)、そっちの雑誌の匂いがプンプンとするわけだよ(笑)。
いや、この雑誌が後に大化けする、とか誰も想像出来なかったんだよな。ただ、他の雑誌に描けないようなクセとか個性があって、知名度が低い「隠れた実力派作家」を講談社が発掘して描かせてる、ってそういう印象なの。実際、「テイルズオブ」の藤沢康介とか、今や炎上作家になっちまった「まじかるタルるートくん」「東京大学物語」の江川達也とか、この雑誌出身なんだよな、例を挙げると。
実際、モーニングって雑誌は当時の先鋭的な漫画ファンを徐々に惹きつけて行った。他の雑誌じゃ読めないような「コクのある」作品ばっか載ってたんだ。
そしてそんな雑誌の連載陣の中に岩明均が登場する。

さて、その岩明均。モーニングでのデビュー作は「風子のいる店」と言う漫画だ。
逆に寄生獣以降の彼のファンだと、「岩明均は残忍な描写の漫画を描く作家」だと思い込んでいて、「風子のいる店」ってタイトルを聞いて

「ホラーでしょ?風子のいる店、ってのを訪ねて、なんかあって、その風子に残忍に殺されるんだ。」

とか思うかもしれないけど全然違う(笑)。そんなエコエコアザラクみてぇな漫画じゃねぇ(笑)。
ビックリするかもしんないけど、一種の人情ものの話なんだよな。意外だろ(笑)?



まぁ、ストーリー自体はWikipediaに譲るが、悪い話じゃないんだけど、とにかく地味。しかも正直、岩明均って人は画力が、あくまで漫画的な意味で、って事だが高いわけでもない。主人公の風子は美少女設定だが、「萌え」を形成出来る絵柄でもねぇんだよな。もちろん、当時は「萌え」なんて概念はなかったが。
いずれにせよ、「人情もの」をキチンと描ける力量はあるんだけど、なんだか地味な作家、ってのがデビュー当時の岩明均の大方の評価だったんじゃないか。
実はそれは「そこそこの成功」を修めた、って意味でもあるんだよ。もう読者のアタマの中に「岩明均 = 人情もの」ってのを刷り込んじまったんだから。これが第一作目なのに。他に連載モノを抱えてるわけじゃないのに。
「地味」なんだけど、ある種強烈な固定観念を植え付ける、って意味では「風子のいる店」ってのは紛れもなく成功作なんだ。
そして彼の第二作がこの彼への「固定観念」をぶち壊す。「寄生獣」の登場だ。
「え、この人こんな漫画描けたの?」ってのがデビュー当時から彼を知ってる人の感想だったんじゃないか。つまり、それまでの彼の「代表作」と真逆な印象を植え付けたんだ。
そう、寄生獣の衝撃ってのは「こんな漫画を描ける人だったんだ!」って事だったの。少なくとも岩明均のデビュー作を読んでた人にとっては、ね。だから「寄生獣」以降を読んだ人と「それ以前を知ってる」人との間には「寄生獣の驚愕」とは言ってもちと意味合いが違ったりするんだよね。人情モノから残虐モノへの大変換。まさしく「化ける」って言葉に相応しかったんだ。

まぁ、「寄生獣」の話はあまりに有名なんでいいだろ。そして彼は今は「残虐描写アリの」歴史ロマンを描いてる、と。そしてそこでも高い評価を受けてるわけだ。

で、だ。
岩明均はまず「寄生獣」がヒット、そして現在進行系で「ヒストリエ」がある。そしてデビュー作の「風子のいる店」。あとは殆どが短編、と言う作家だ。
しかし、意外と知られてないのが「寄生獣」と「ヒストリエ」の間に、ある連載作品がある、って事実。岩明均って人の発表作の殆どは、講談社の雑誌で発表されたものだが、唯一、ライバル社の小学館、ビッグコミックスピリッツで連載された作品があるんだよ。
寄生獣とヒストリエの陰に隠れた作品なんだけど、周期的にメチャクチャ読みたくなる作品だ。それがここで紹介する「七夕の国」だ。連載期間は1996年〜1999年。
小粒なSF作品、って言ってしまえばそれまで、なんだけど、非常に良くまとまっていて、ぶっちゃけ、個人的な意見では二時間ドラマとか、あるいはそれこそ連続ドラマ向き題材だと思ってるんだけど、誰も手をつけようとしない(笑)。すんげぇ勿体ねぇネタだよな、とか思ってるんで、ここで紹介しようと思った次第だ。
あらすじは例によってWikipediaから持ってくる。

「あらゆるものに小さな穴を開ける」というちょっとした超能力のような特技を持つ大学生・南丸。幼い頃、祖父から教わったこの力のおかげで、漠然と自分を特別な人間と思い込みながら育ったが、穴といってもせいぜいペン先でつついた程度のもの。実際にはこの「不思議だが何の役にも立たない能力」を持てあます怠惰な学生であり、4年生になっても就職活動もろくにせず呑気に毎日を過ごしている。

そんなある時、同じ大学の民俗学教授・丸神正美から突然の呼び出しを受け、研究室を訪ねた。当の丸神は不在であったが、研究室のメンバーと交流を重ねるうち、丸神も自分と似たような能力を持つらしいこと、丸神家と南丸家が東北地方のある豪族を共通の祖先にもつ可能性があること、当地の合戦場跡から穴の開いた甲冑や人骨が多数見つかっていることなどが分かってくる。

同じ頃、かつて「丸神の里」と呼ばれたその土地、現在のA県丸川町において奇妙な殺人事件が発生した。頭部が大きなスプーンで抉り取られたような死体だったことから注目を浴び、ワイドショーでも取り上げられるほどのニュースになっていた。自分の力と何か関係があるのか?気になった南丸は、失踪した丸神の消息をつかむ目的を兼ね、研究室のメンバーと共にその町を訪れる。そこで地元の人々や様々な出来事と関わるうち、徐々に力の正体を知っていくととなる―。
 

繰り返すが、小粒だが非常に良くまとまったSFホラー作品だ。
ニュアンス的には「隠れた名作」だと思うんで、是非この機会に「寄生獣」だけじゃなくって、この漫画も読んでみて欲しい。

 
 
 
 
 
 
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